”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。

東京丸ビル前地下道それから逃れるのか鳩よ

地下道で羽ばたく鳩を見た 
ばたばたばたと人の頭をかすめ飛ぶ
ひらり 翻り
いつになく俊敏で 猛禽のように逞しくさえあったがあわれ
そいつは じたりばたり 
とらわれの罠の中でもがく生き物に過ぎない
二度と太陽の光を 見られるのか見られないのか 長い長い通路を
そいつはさまよい 羽ばたく
羽は散らばり あせりもがくうちに
あちこちにぶつかり 血を流し
傷ついていくだろう
東京駅・丸ビル前からえんえんと日比谷へと続く
長い長い地下道は 
さながら練兵場のごとく 靴音だけが高く響く

弛緩しきっていた丸い腹の鳥は 野生の目の輝きをつかの間
取り戻して
人の掘ったコンクリートの地下世界から逃れでようとする
のだが 
無駄であろう 飛べば飛ぶほどに
構造ははてしもなく続く

それをまた 僕たちは無表情に 見やりながらどんどん前進する
最寄りの改札口に オフィスに
時間がないのだ 誰にも
僕にも
逃れるべき出口は狭い
鳩ごとき
勝手に道を探るがいいや 

構造は はてしもない 僕たちが終わるところ
次の戦争が始まる前の日々 の
うかつなたとえ話
一日は多く 想像の境界で交代して名前を変える
とか

たわごとだ

やがてそいつは 落っこちて よちよちと通路を歩く
そこまでは見た よけいな空想もおしまいだ
そして夕刻 僕はもう一度 その地下道を通りがかり
鳩の姿を少しの間 探す
もちろん 見あたらない 当然だが 出来の悪い文学者が
思い描くようなストーリーなど世界にはありはしない
そういうものはテレビ局のディレクターがひねり出す

やつは 群衆に踏み殺されただろう やつは あるいは狂死したかもしれぬ
やつは 絶望したがためにどこかの商店のウインドーに激突して自死したか

違う 断じてこいつはなにかの寓話ではない
鳩は何でもありはしない

もんだいは 僕は立ち止まることが出来ないということ
歩けなくなるとき
僕が居なくなるとき
ここは巨大な商業ビルのそびえる街 
お話は要らない
こどもにかえろうか な

いったん入ったなら出口は
ない

おろかだな
生き物は
おろかだ。  

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