”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。

試みに征夷大将軍になってみた夢

本丸御殿黒書院にて
私は人が来るのを待っている
舶来の時計が床の間でちんかた動いており
役立たずの小姓は遠ざけており
太刀は手元にない

しかし誰を待っているというのか 
実は当てなどないし
誰がこの難局を何とかしてくれるものか

そもそも私は
いつ征夷大将軍兼正二位内大臣の宣旨を
いただいたものだろう

いやそんなことより。
いつになったら、いつになったら終わるんだ
こういう時代が
と私は思う

人生の隅々まで不平不満ではちきれそうな民衆を
煽りに煽って
必要なのは改革なんだと人は言う
そうであろうか
必要なのは

やるべきなのはこの国がいったんちゃらになることである
おしまいにすることである
閉店セールである 店じまいである
みっともない売れ残りを一掃して
亜米利加人どもに国を譲り渡すことである

要するに私は時間稼ぎをしているだけのことだ が

ふうむ しかし待っていて人は来ない なんでこう
人というものは待ち焦がれていると来なくて
来て欲しくもないときに間抜け面して現れるものだろうか
手元に携帯でもあればメールで呼び出すところだが

ここの本丸御殿というのは 大火で三度焼けている
上段から二段三段と広間があって四位以上の諸卿は
そこまで格別
諸太夫、布衣以下お目見えを許される者
四の間から五の間へと連なって
私が声をかけるのをじっと待つ
そんなのが表の晴れの間である大広間で
そこから松の廊下というのがあって
私が今いる黒書院までつないでいる

ちなみに松の廊下といっても大きな松の絵など描いていない
松に千鳥の海景がおとなしく描いてあるだけだ
こんなところで斬られる吉良というのも迂闊なものである

ふと
気がついてみると 
ずりずり長袴の幕閣ではなく
私は押し入ってきたどやどやと人のお祭り気分の 群れ
に取り囲まれている
どうしたんだ なんだってんだ 馬鹿野郎
黒い群集は忽然 御殿に放火してめったやたらに打ち壊し
ええじゃないか と唱えつつ
私のちょんまげを引っ張って庭に蹴り落とす
今や世の中は変わり百姓町人も生意気に一票とかいうものを持つそうである

痛え ちくしょう よさないか

みんなでわあわあと 改革だ 改革だ 財政再建だ
世直しだ と騒いでいる
誰かいないのか 誰もいはしない
征夷大将軍であるぞ
そんなことは誰も知ったことじゃない
人気者だったじゃないか
それは過去のことだ

時計がばかんといって壊された
私は こんな時代はリセットだ やめだ と叫んだ
私はこんな時代には生まれたくなかったのだ
私はつまらない小市民だ
私は 私は
私はだから誰であるのか

お城は丸焼けになってしまった
私は裸になり 下帯一つで城下を逃げ惑う 私の尻は
民衆に足蹴にされて赤い
これでいいのかい これでいいんだろう
これが民意なんだから ああそうなんだろう

新しい時代なんぞ来はしないし いいことなんぞ起こりはしないし
くだらない夢は夢 うつつといって何がある 
私になんぞ なにもできはしなかった
いつの時代に生まれ変わっても 私はデクノボー
役立たずの 意気地なし
そう
ほかのみんなとおんなじような
あなたとか そこの君とか。

いつだって私の敵は
群れである。

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