”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。

歯を激しく磨きぬけ

歯を激しく磨きぬけ あらあらしく
エナメルをこそぎむき出しの髄をえぐるほどに
研磨剤に頼れ 激しく
歯を磨け 歯を磨け
私たちが
囲繞されている
あれこれを思ってすべてを受け入れよ

私をにらむ巨大な核弾頭の照準は
贖罪のDNAをひたすら奥深にしまいこんで
反芻する 牛のように 女神のように
鈍重に 聖なる俗なる
しばしば
私を裏切る

大衆の匂いが染み込んで行く 小さな箱をにらんでいる
私たちの神経はワンクリックで世界中の
無知蒙昧の手に引き渡されて
誰でも良くなる

未来があるとしたなら 海面上昇がこのへんで止まるなら
多くの人間は 上層階級と 深海魚のように退化して
コンピューターモデムと直に接続された下層民に分化し
ウエルズの予想を少しだけ裏切る

ノマドはいいなあ、とのどかに言っていた
あのころは思うに
若かった

ということで 上に金属を被せる前に
虫歯菌が取りきれていなかったんです
と歯科医が言う 技工士が笑う 歯根まで
炎症を起こしているので
抜かないと

ただし 硬くなるので麻酔はしないで抜きますから

奥歯で苦い味がする 血飛沫が飛ぶ
私たちの文明はこんな些細な流血に耐えられない

私は皆さんに強くお薦めするが
できれば単価三万円以上の高周波電動歯ブラシを
お使いになることだ
また歯間ブラシもいい 百円で十本ぐらいのセットを
近所のいいのドラッグとか薬の福太郎などで売っている
また 本格的にやるならナイロンロープも市販しており
これで歯の隙間を磨くと刺激もあるが
慣れれば快感を覚える

つまりこういうことだ
十分に金をかけて 備えなければならない
一事が万事だ
さあさあ 試写会は終わりだ

文明は脆いものだ
歯も脆いものだ
生命は脆いものだ

一回限り 使い捨てだ

だからこそまたまた私は訴える

歯を激しく磨きぬけ あらあらしく
エナメルをこそぎむき出しの髄をえぐるほどに
研磨剤に頼れ 激しく
歯を磨け 歯を磨け
私たちが
囲繞されている
あれこれを思ってすべてを受け入れよ

「描写」がとまらないとき
詩は終わるらしい

歯が持たないなら
抜くしかない

私たちの乗っかっているものがみんな溶解するなら
あきらめるしかない

しかし手を拱いているな
やるべきことをやれ
対処しろ
たとえ最後は決まっていても
文明人として立ち向かえ
科学的に あらあらしく
激しく歯を磨け
歯を磨け
歯を磨いて磨きぬけ

もっとも

保険外適用の無痛治療も
一回四万円で
承ります。


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