”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。

「ふぇみにすむ」(1993年、潮流出版社)

この本に関するセルフ解説:なにしろ前の詩集から半年後に出してしまったというセカンド詩集。若さに任せてというパワーは感じます、我ながら。「そんなに出版しないで作品をためておきなさい」と忠告するベテランも多かった。私は完全にそういう声を無視して、翌年には第三詩集を出すことになります(やっぱかなり反抗的なヤツだったかも)。前の詩集で懲りたので戦争ネタがなくなり、かわって男女関係ネタが前面に。なんかあったんだろうか、このころ(秘密です、うふふふ)。出しておいてよかったと思います、これ。今では決して書けない作品が多いですから。あと、一部で某大学の本物のフェミニスト学者が苦言を呈したらしい、本作に対して。なんか問題ばかり起こしていたような・・・。この本は入手困難です。


オーガスト

カチンカチンと音を立てて
跳ね返る日射し 工事現場で
空中に 宙づりになった
鋼鉄の いかがわしい身振り
その上に覆いかぶさる
まともじゃない八月の大気の構造
建物の 直線が 自己主張する
溶けたアスファルトの真ん中で
じゅうじゅう みんな
炭化して 煙 あがる
大声!

どかーんと 夏色の黒焦げ
夏色のむきだし 夏色の恥知らず
夏色のじっ・とり

空から落っこちてくるオーガスト
べらぼうにもオーガスト
ヒューズが飛ぶオーガスト
波が寄せては返すオーガスト
ディスコのフロアに体液のしずくが光るオーガスト
褐色の暴君オーガスト
高慢な女を生むオーガスト
夜になると浴衣なんか着て
なまめいてもみせるオーガスト
息苦しくて枕が歪むオーガスト
ニホンの負けたオーガスト

要するに
僕には無縁なものばかり
オーガスト

セルフ解説:ああ、なんかバブリーなのりがありますね。歌謡曲調というかコピー調という感じもありますか。1993年、まだまだ世の中、景気は良かったんだなあ、というか。詩としてどうというより、これも一種の記録文学かも。ディスコという言葉もハウスに置き換わってどのぐらいたちますか。九〇年代後半にどっと世の中の雰囲気が変わるんですね。


ふぇみにすむ

僕は女の子にしがみついて
バイクの後ろに乗せてもらって
あちこち 連れていってもらいたい

僕は 女の子たちに頑張ってもらって
僕の分も 働いてもらって
それで 同じ給料をもらいたい
僕は 奥さんの背中のファスナーを閉めて
送り出し
奥さんの下着を洗ってから
奥さんの帰りを 夜遅くまで待っていたい

僕は 離婚したら
奥さんから慰謝料と生活費を出してもらって
あとはなにもせず ぼんやり年を取り
彼女よりも長生きしたい

セルフ解説:これやばいじゃん(笑)。いえ、考え方としてどうこう、じゃなくて。なにせ独身時代にいい加減に書いたものだから、今げんざい奥さんになってる人に見せたら笑われるかもしれません。ちなみに全然、ここで描かれているようなキャリアな女性ではありません、実物は(笑)。このころはフェミニストが最後の輝きを持ってたんじゃないかな。そして女性が強くなった、とやたらに強調された時期だったかも。景気の良さというか、女性も高収入を確保できる基盤があった時期、ということもあったと思う。今は女性であることをことさら強調すると違和感があるのじゃないでしょうか。自然になった、といいますかね。


進化論

あとどれだけ待てば
チンパンジーは文明を築き
シーラカンスは陸に上がるのか

いつでも代わってやるぞ
俺たちは少々疲れた
降りてやってもいいんだよ

そういったら 言うんだよ

ヒトになんか なりたかないって

セルフ解説:どうしたもんか、この時期の私は後ろ向きな感じで書いてますよね。これもとぼけた小品ですけど、結構反響がありました、その当時。なにか疲労感が自分個人にも世の中にもあって・・・直後に銀行破綻、大震災、オウムと続くんですね。


記憶

私の背中の薄い二枚の羽根
いささか華奢なつくりで
十億年も前に生えていたものだ
いまより明るい太陽を仰いだ
木々と大河と岩肌と
遅々として進まない楽園の時間の
頼りない記憶と
それでも血は流れはじめ
怯えた鳥たちは空中で燃え上がった
落日の始まり
私の転落の始まり
無慈悲なほど大きな月がのぼったとき
引力は私を猿の群れの中に突き落としたのだ

セルフ解説:この作品は、自分的にはきわめて重要だと思うんです。恐らく、その後の作風に直接つながっているのはこの作品です。神話的な失楽をテーマに、それまでついぞやらなかった象徴的な言い回しを試みたりしております。あと、このころのマイブームにボルヘスというのがあって、その影響もちょっと感じます。


冥王星につもる雪

いまでも時々
だれかを愛することが
できるような気がする
ほんの時々

かつて君を愛したように

君はどのみち 別の天体に住む異星人
君が見るのは
僕の肩につもる この雪ではなく

冥王星につもる雪

この世の終わりまで 溶けることのない
哀しい雪

セルフ解説:現在の目で見ると物足りないものも多い初期作品ですが、しかしこういうのは、書いておいてよかったですよ。この手のテーマは、二十代前半ぐらいまでじゃないと書けない。もうかわいいこと書いてますけど、好いた惚れたが人生の主要な大問題である世代の人には、分かっていただける表現かもしれません。でも「冥王星の雪」という発想は今から見ても、いいかも(あのぐらい寒い天体だと雪なんて降らないだろうけど、本当は)。

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