”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。

「僕が港に残ったわけ」(1994年、潮流出版社)

この本に関するセルフ解説:27歳のときに、懲りずに出した第三詩集だが、このへんから作風の変化を感じる、自分でも。かなり最近の作品に似てくるのですよ。表紙カバーで港に向かって跳躍しているのは劇団黒テントの俳優さんでした。これが辻元本人だと思った人も多かったらしい、が本物はもっと嫌な感じの若年寄りで、こんなさわやか系の若者ではなかったのであります。この本は入手困難です。


ギンザ

奇妙な写真 レゴのお城
物乞い ぬいぐるみの自動販売機
カラオケバー
制服の女に着飾った女
歩道の敷石の隙間にまで染み込んだ
考えられる限りの かっこよさが
もっともふさわしい姿かたちで
立ち入り禁止の札を下げて
颯爽と歩く

誰も見ていないと知ったとき
スカートを捲り上げ
太股をさするギンザ

ビルとビルの谷間に
手を突っ込んで そこに
なにがあるか確かめるてみるがいい

しっかりと握り締め
その感触を確かめるがいい

死神か
砂糖菓子か
古い包装紙か
おとぎ話の金貨の山か

それとも
よく切れるナイフか

セルフ解説:まだ景気のいい銀座界隈の風景に触れて書いた作品ですね。でも、ひしひしと「このままでいいのか、本当に」という感もあって、いろいろそういう心情を表現していますね。こういう「街もの」はその後、増えてきますが、走りかもしれません、この作品が。


わけのわからぬかなしいあな

いきものとは
あな だ
みんな
あな が
あいている

おおわしも
いっかくじゅうも
しだれやなぎも
ほっきょくぐまも
みじんこも
じんべいざめも
おとうさんも
むすめさんも
あかちゃんも

みんなみんな
なにかをすいこんで
はきだすあいだに
おこったり
なにかを だれかを
すきになったり
そんなことをやっている

どうしてだか わからない
なんでそんなことをしているのか
だれもしらない

それでも
すいこんだり
はきだしたり
すきになったり

わけもわからず
やっている
いつまでも
あきもせずにやっている
なんじゅうおくねんもやっている
そんな あな

かなしい
あな ばかり

セルフ解説:なにをいいたかったんだかじぶんでもわかりません。ああ、ひらがなばかりで疲れますね。でも谷川さんなどを真似たわけではありません。生物とは要するに口から肛門へと続く穴である、生命活動とはそこから取り入れたり出したりすることの繰り返しである、という認識そのものが言いたかったんだと思いますが、今見るとちょっと冗長か?


ペパー軍曹の寂しい心クラブで僕のギターが
優しく泣く間にどうかどうかヘルプ!

ベイサイドのちょっと構えたホテルで、昼飯を頼んだ。蝶ネクタイのボーイが電子レンジで解凍したばかりで、湯気の立つ業務用パスタをきれいな皿に盛ってきた。グリーンサラダとティーがついて二千円。三十年もたってこれを読む人のために書いておくが、昼飯一回に二千円、それもこんな内容で、というのは九四年現在、かなり馬鹿馬鹿しいように思える。

さてそれで、BGMにビートルズがかかっている。初期のころの不良の音楽だった。三十年前には。アンプで増幅したギターの音はうるさかった。女の子たちはワアキャアとわめいて失神し、とろんとした目をしてぶっ倒れた。あのころはよかった、という人もいるが僕は知らない。どこまで戻れば人は幸せになれるだろう。

とにかく今では白いクロス、テーブル作法、シャンデリア、接客マナー。そういったものと違和感がないということだ。それは落ち着いた上品な食事にはぴったりの選曲、ということだ。静かな懐メロの一種。

ふと僕は午後になったら床屋に行こう、と思った。というのも、伸ばしっぱなしの僕の髪は、マッシュルームカット時代のリバプールの悪餓鬼どもより、よほど長くなっていたのだ。

セルフ解説:珍しく散文系。このころ、散文詩がはやったんですね。意外に意識していた私。この題名はビートルズを知らないと分かんないです。にしてもビートルズはあまり、個人的にはファンではありません。僕にとってはジミ・ヘンドリクス以後がなじみのあるロックです。そして、どこがといえば、特に彼らのヴォーカルにはあまり魅力を感じない。もちろんリアルタイムで聞いた人の受けた衝撃は理解できますが。この詩から10年たって、今やビートルズは完全に正典というか、文部省唱歌の側に入れられたように思います。


叩き割られた達磨ども

叩き割られた達磨ども達磨ども
ご期待に添えなくてごめんなさいと
ごろりごろりと逃げ惑う

あわれ 片目がふさがったまま
叩き割られた達磨ども達磨ども

それでもおしまいまで
地面に尻をおちつけて
転んだりしないのが
憎らしい

火をかけてやったら
ぼうぼう燃える達磨ども達磨ども

今度は誰のせいにしてやろうか

セルフ解説:なんかこのへんからかなり、詩人の直感というヤツ?(笑) 世の中が悪くなる予感があるんですよ、私には確かに。達磨に八つ当たりして火つけて燃やすんですね、これ。うまくいかない、と言って。怖いかも。次はなにに当たろうか、とか。そうそう、不健全さがどっと出てきた感じですか。当時、名前も知らなかったが金子みすずチック?


道化師の涙

みんなに愛される人
にはなれない
と思った

それで私は
みんなに笑われる人に
なったのです

さあ
私を愛してくれなかった
あなた あなた
それから あなたも

この私を
どうぞ笑ってやってください
ああどうか
後生ですから!

セルフ解説:一部でかなり評判が良かった小品。これも今では絶対に書けないですなあ。まったく意識していないのですがちょっと中原中也チックですって? そういえばこんな感じの、ありますね、あの人(ダチかい)。こういうちょいとおセンチなのも、いいじゃないですか、たまには。独身時代の記念碑というか。個人的に大事に保存したい作品。

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