”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。

「全世界を滅ぼして『自分』だけがいればよい」(2001年、三一書房)

朝日新聞ほかいくつかの新聞、雑誌の書評に取り上げられ、一時的にせよ全国の普通の書店さんで平積み(!)された、辻元にとっては本当に冥利に尽きた一冊。見知らぬ読者からの声もかなりありました。ボリューム的には完全にエッセイの比率が高いですが、詩も実は40作も載っております。今でも大きな本屋さんでは残っている棚があります(2003年現在)。また三一書房さんその他から注文すれば入手可能です。

太陽が割れる日

もっと先に いまをけとばしていこう
空に沈没していく鋼鉄船のように
靴下の中の小石が邪魔であるように
漠然とした違和感はみな
未解決なままで 朝は朝だもの
明日は太陽が割れる日だとしても

人類を救済するロケットはちゃんと飛ぶか
おちるか
はたはひらひらはためいて
ふるめかしいうたはかぜぎみでうたえなくて
まあいいわさ いいわさ
とんでもとばなくても
おもくるしく考えるのはいやだ
もっと先に もっと先に持ち越し
今までもそうやってきたんだもの
このまま便所でしゃがんでいれば
すぐに放課後だろうし

飼いならされていこう
もっと先に いまをけとばしていこう
あれも忘れこれも忘れ
きみはだれぼくはだれ?
空に満ちていく水と金魚とあぶくと
放射能測定器のように
靴下の中の針が突き刺さって
歩行困難であるように
漠然としていることはみな
未解決なままで
ま そりゃ好きでいいさ
朝は朝だもの
髪をとかして制服の短いスカートの
皺も伸ばそう
明日は太陽が割れる日
あるいは
なんでもないただの一日
きっと
そのどちらかで当たり

セルフ解説:もうなんか必要以上に軽薄ぽい言葉づかいを入れたくてしょうがない、というのはなにかイライラしてるんだろうなあ、と。これの説明には、本文から「太陽の寿命ってのも決まっていれば、太陽の子分である地球の寿命ってのも決まっているわけで、当然、俺たち人類がその上でいろいろやっているからには、運命を共にするしかない。・・・自分がもし居なくなれば、ほかの世界がその後に続こうがどうなろうが、自分にはもう関係のない話だ。間違っているかねえ」などと書いている。で、太陽が目玉焼きに見えて、それがぱかっと割れると黄身がどろっと出てくる気がしたのが、そもそもの発想だった、と。そんな変なこと書いてます(笑)。


理由

父母が好きなことをやって
勝手に僕を生んだのだ
と思っていたが
父母が好きなことをやって
生んだ子供が
僕である理由は父母にはない
のだから
僕がいまここにいる理由は
父母が好きなことをやったことにはない

僕はごく当たり前の子供として生まれた
ほかの皇帝や戦士の子と同じように
そしていつの日か立ち去っていくことだろう
ほかの皇帝の子や戦士の子供と同じように
たった一人で
行くあてもなく
密かに。

セルフ解説:両親に「なんで俺なんか生んだんだよ」と青いことを言った経験、誰にでもあると思う。・・・でも、今どきはセックス嫌いの人も多いようだねえ。疲れるもんね。そういう人たちにとっては「好きなこと」じゃないわけだ。子孫繁栄のために義務感でやったってことだ。それで子供に逆恨みされたらたまらない。・・・というようなことを本文で述べております、辻元は。


癒してくれるのかい

どこかで蕗を煮込んでいる
その臭いこと臭いこと 朝っぱらから
おもしろくなさが胸に満ちる日
鬼神になるにはちょっとしたことがあればいい
楽しい朝の通勤時に左の靴下がずり下がる
行く手をさえぎる足の遅い群れ
無関係な群れどうでもいい無れ
舞浜あたりで幽鬼のように群れるガキどもの茶髪

癒してくれるのかい 自分さがしマニアどもが
血液型や星の座標 前世を追求し考察し
結論してくれる
俺は十三世紀のイギリスで見せ物小屋のパンダだった

政治を語ろうや 
三蔵法師の錫杖は集団的自衛権の発動にあたるが
孫悟空の如意棒装備は憲法違反にあたる
しかし
三蔵はあきらかにファシストであり帝国主義者である
後は 社会を語ろうや
えと
みんないなくなればすっきりするはずなんだが
どうせみんな字の読めない馬鹿になる

癒してくれるのかい
こんなにイライラしてたら水がこぼれてしまう
癒してくれないだろうか
こんなに煮立ってくると 全世界を滅ぼして
自分だけがいればよい よいように正しい悟りを開いてしまう
穴が 吸い込まれてしまう
永遠の
ありもしない

虚!
すべての電車の行き先

セルフ解説:これを書いたときにはそんなに重要な作品だとは思わなかった。が、三一書房の編集担当者・中島岳さんがこのなかのフレーズから、書名を決めたことで意味合いがぐっと変わってしまった。これは書いた私より、この一句を選び出した中島さんの力です。発見されたのですね、力ある言葉が。これは素晴らしい体験でした。やはり書き手だけじゃ駄目なのよ、文学は。優れた読み手がいないと。そう思わせてくれた一作です。


地球は平たく罪はなく

自由だ 自由だ と叫んで子供たちは
殺し合いを開始する
某月某日
地球は平たく罪はない

どこにも高みはないのだろうか と聖職者たちは驚く
誰しもが生まれながらに自由なのだから
某月某日
地球は平たく罪はない

ブランコは横取りしなければならない
気に入った少女のパンツを引きずり下ろさなきゃならない
某月某日
地球は平たく罪はない
僕らは一体どこまで行きゃあいいのだろうか
僕らはどうしてこうもさみしいんだろうか
某月某日
地球は平たく罪はない

ママ
どうして僕らはわざわざあなたの股間を押し開いたのか
某月某日
地球は平たく罪はない

眠りを覚ますはずの革命歌の調べの古くささ
僕たちはしょせんこんな生き方しかできない
某月某日
地球は平たく罪はない

緑の丘の歩き方は忘れちまった
飛んでしまった帽子の拾い方を忘れちまった
某月某日
地球は平たく罪はない

平和な花を摘んでは簡単に捨ててしまおう
平和な国会答弁 平和なコンビニエンスストア
某月某日
地球は平たく罪はない

こんなペラペラのノッペラボーなのに
見たこともない癖に しっかりとつかんだこともない癖に
某月某日
地球は平たい

僕はいない

セルフ解説:発表したときに評判良かったです。成り立ちとしては、タニス・リーの小説に「地球平らかなるころ」みたいなフレーズがあって、そこから生まれた詩ですね。なんなのでしょうか。これに限らず、とにかくパロディーは結構、入っておりますが、引用じゃないので注釈もありません。マニア向け。いろいろ謎解きしてみよう!!(無責任)。


リジー・ボーデン

お嬢ちゃんは首をくくった 小さな人形を壊して
しまったから だけどその前にお父さんを殺して
煮込んで食べてしまったことはもうとっくの昔に
忘れている
麗しのリジー・ボーデン 軽はずみな人形の街での破壊
覆いかぶさるものに力いっぱい斧をふるっただけの
可憐な少女
嫉妬の国から未来へと
先に 先に行ってしまうのか
みんなを残して
リジー・ボーデンを
僕は愛している
血まみれの手
切り裂きジャックと同じような

お嬢ちゃん
お嬢ちゃんはもう
コンピューターの中に入ってしまったとか
百年も前にさ
ふん
どうせ現実なんて、ものは

セルフ解説:これはすごく一部で受けました。なんていうか、雰囲気ものですよね。詩誌「馬車」編集長の久宗睦子さんが非常に気に入ってくださいました。ほかにも「リジー・ボーデン事件を調べました。すごい話ですね」とか、感想いろいろ。でも「レディー・ボーデンか。アイスクリーム?」と言った母の一言が一番いいかも。そもそも、へヴィ・メタル系のバンドにリジー・ボーデンというのがあったんですが、名前だけでぜんぜん聴かず。しかし、その名前の響きが好きでしてね(やっぱアイスクリーム?)。だから「リジー・ボーデン」という題名の作品が書きたくて書いたもの。私の場合、こういう「タイトルが先」というもの、多いです。漱石系?

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