東京新聞・中日新聞 2012年4月15日付 読書面
「美しく機能的 スーツの起源」
軍服は通常われわれが着ることのできない服装の一つだが、虚心に見れば、スマートというか、掛け値なしで美しい。軍服のもつビジュアルイメージは、他のなにものにも代えがたいのだ。
ギリシア最古の叙事詩であるホメロスの『イーリアス』が「戦争は勇壮な男の仕事である」と謳ったように、戦士たる者は戦闘の只中にあっても、そのダンディズムを捨てなかった。これがミリタリー・ファッションの嚆矢であり、それ以降、意外な展開を繰り広げたことがさまざまな逸話から紹介される。
五千年の昔、メソポタミア文明を基礎づけた古代シュメール人兵士の動物の毛のスカートと水玉模様のマント姿の「軍装」から現代までの多種多様な軍服の歴史的変遷を、ダイナミックな時代背景や戦史とのかかわりの中で本書は詳述している。
古今東西、戦士や軍人の軍服は、男性紳士服や現代につながるファッションの生みの親であった。例えば、十八世紀のドイツ古典派の楽聖たちの燕尾服も当時一世を風靡した軍服を真似たものであり、十九世紀中葉に生まれた背広の襟は立てて前を合わせるとわが国の詰め襟の学生服のようになり、もともとは十八世紀中葉の詰め襟の軍服に行き着くのだ。江戸末期から明治維新にかけて日本人は初めて洋服を体験したが、それも軍服だった。二十世紀になると戦闘の規模は大がかりになり、地味な色彩の機能本位の戦闘服が主流を占め、それが一般市民の間にも普及した。軍服のカジュアル化現象である。
二十世紀以降の女性の服が緩やかになるのと対照的に、体のラインに合うミリタリールックは身体の美を表現するだけでなく、両手を空ける軍人特有の便宜性もあり、スピーディーさを好む現代人の琴線にも触れる。
精密な時代考証に基づく二百点余りの軍服の色鮮やかなイラストは、実に説得力があり、本書の何よりの魅力である。 評者 川成洋(法政大学教授)
週刊ダイヤモンド(ダイヤモンド社)6月9日号 Book Reviews
「男の装いに軸を通すには 戦いの歴史をたどるのも妙手」
われわれが仕事に使うスーツの歴史はたかだか150年余りだが、軍服の歴史はその30倍に及ぶ。男の服装は戦争によって大きく進化してきたが、スーツもそのルーツは軍服にあると『図説 軍服の歴史5000年』の著者、辻元よしふみは説く。さらに、スラックスをはく習慣は西欧から来たものだと考える人は多いが、そのルーツは東洋の騎馬民族にあるという。われわれも洋装につまらぬコンプレックスを抱く必要はないのだ。
この本を単なる軍装好きのマニア本と考えるのは間違い。読み進むうちに、人間の壮大な戦いのドラマとその装いの歴史が把握でき、知らずしらず自分の中に着こなしの軸が形成されていることに気付くはず。男の装いには伝統的かつ論理的な連続性があり、その軸を軍装に据えたのがこの本。画期的な服飾評論となっている。辻元玲子による忠実でわかりやすい絵も見事だ。(選・評)遠山周平 服飾評論家
日刊ゲンダイ 2月25日付 出版トピックス
「古代シュメールの軍服は超SF的!」
洋服の起源であり、5000年の歴史がある軍服の変遷史をイラストと共に解説した本が出た。彩流社刊「【図説】軍服の歴史5000年」(辻元よしふみ著 2500円)がそれで、毛のスカートを腰に巻き、金属のびょうを打ったマント、革製のヘルメットという、どこかSF的な最古の軍服(古代シュメール)から左肩のみをマントで覆うバイキング戦士、1800年代に海軍士官のジャケットとして導入されたフロックコートなど、200点以上のイラストがズラリ。ほかにも、軍服が帽子、靴、ネクタイなどにどのような影響を与えてきたかの考察、日本の軍服の変遷なども紹介する。
巻末には各国軍階級対照表、軍服関係年表つき。
朝雲(朝雲新聞社) 2月2日付 新刊紹介
ギリシャ・ローマ時代から軍服があったことはよく知られているが、本書は古代シュメール、エジプト、アッシリアなど紀元前3000年前から今日まで、5000年にわたる世界の軍服を約200点のイラストと共に紹介した軍服図鑑だ。
軍服も気候、風土、文化などに影響されることから、古代〜近世は主に軍人が身に着けた上着、ズボン、甲冑、履物などに分け解説。世界に版図を広げたローマ、ペルシャ、モンゴル、オスマン・トルコ、ナポレオン軍などの代表的衣装から、非西欧のインカ、アステカ、中国、日本の軍装まで網羅されている。
今日のスーツ、ネクタイ、コートなどの原型が生まれた第1次大戦以降は機能的に進化した軍服を特集し、ナチスドイツは権威とダンディズムを、米軍はカジュアルで実用的な軍装を追求したと紹介。対象は歩兵だけでなく、騎兵、水兵、落下傘兵、飛行機乗りなど、時代を彩った数々のミリタリー・ファッションが紹介されている。巻末には用語解説、各国軍階級対照表、関係年表、文献一覧などがあり、理解を助けてくれる。
世界日報 4月29日付 書評
「軍服と紳士服の密接な関係を描く」
トレンチ・コートは、その名称からしても、第1次世界大戦の「塹壕用コート」であることはよく知られているが、カーディガンやラグラン袖もクリミア戦争期に生まれた防寒用軍装だった。 また、ブルゾンやパーカーは米軍の戦闘服が原型である。ダブルのブレザーの語源は英海軍の軍艦「ブレザー」から由来している。背広の後ろのセンターベンツとサイドベンツの違いは、前者は「馬乗り」用、後者は「剣吊り」用のためといわれている。
ことほどさように、ミリタリー・ファッションは紳士服に多大な影響を与えてきたと考えられる。
本書は、5000年の昔、メソポタミア文明を支えた古代シュメール人兵士の「カウナケス」と呼ばれる襞の多いスカートと水玉模様のマント姿の「軍装」から、現代までの多種多様の軍服の歴史的変遷と紳士服との密接不可分の関係を、ダイナミックな時代背景や戦史とのかかわりの中で詳述している。本書によると、19世紀中葉に生まれた背広の襟は、立てて合わせると、我が国の詰襟の学生服のようになり、もともとは18世紀中葉の詰襟の軍服に行き着くのである。
ところで、軍服といえば軍全体が同じ制服だと思うが、指揮官の中には、カリスマ性を強調するためか、それともダンディズムにこだわるためか、独自の「私的な軍服」を身につける将軍もいた。例えば、乃木将軍はドイツ留学するために、自分用の軍服をオーダーしたが、それが、現在の通貨価値に換算すると80万円くらいと言われている。
また、時代が下がって、第2次大戦期の英軍のモンゴメリー元帥が愛用した、ループでとじ合わせるフードつきのコートは「モンティー・コート」の名で有名になるが、戦後ダッフル・コートの名で普及した。
本書のもう一つの特徴である、200点余りの色鮮やかで美しく、そして何よりもリアリスティックなイラストに女性にも興味をもってもらいたい。 評論家・阿久根利具
タミヤニュース 2012年5月号 vol.516
このほど彩流社より『図説 軍服の歴史5000年』(本体価格2500円+税)を刊行致しました。古代シュメールから最新の米軍戦闘服まで軍服の変遷を考察する一冊です。
この間、ローマ帝国の軍団、中世の騎士たち、今のような軍服というものが登場し始めた17世紀のスウェーデン軍、さらにフリードリヒ大王やナポレオンの華麗な軍隊、そして徐々に第一次大戦、第二次大戦を経て実用性の要素が強くなり、今日に至る、その服装の変遷を、歴史的・軍事的背景を基に解説しました。軍服という制度が生まれた西欧を中心に、アステカ王国やインディアンの戦士、オスマン・トルコの精鋭部隊、中国の甲冑やモンゴルの騎馬兵、日本の甲冑の変遷から、幕末・明治・大正・昭和へと移り変わる日本軍の軍服も紹介しています。
このような内容ですので、やはりイラストを大量に使用することになり、イラストレーターの辻元玲子が200点以上に及ぶ精密イラストを仕上げております。
とはいえ、一口に5000年とか200点のイラストと申しましても、具体的に絵に仕上げるのは本当に大変です。「こんな感じ」ではイラストになりません。肩章や徽章、勲章、軍刀の細部、吊り下げ方、ヘルメットにいくつ鋲を打っているのか、甲冑にはどんな装飾が入っているのか、それを一つ一つ調べて図にするのは途方もない作業でした。そのために前著から4年の歳月がかかり、著者の私も玲子も、何度となく病気にもなり、私は入院生活まで送りました。玲子は失明の危機まで迎えました。
特にミリタリーファンや模型ファンの方に人気が高い第二次大戦のドイツ軍やアメリカ軍も、多くのページを割いて解説しています。ナチス時代の軍服の源流となったプロシャ軍から第一次大戦に至るドイツ帝国軍の服装変遷も見所だと思います。たとえば戦車兵や親衛隊の黒服の原点である帝政時代の親衛軽騎兵のイラストなどはぜひ見て頂きたいです。ソ連軍やフィンランド軍、ポーランド軍、イタリア軍、中国軍も登場します。ヒストリカル・フィギュアの資料になるように、古代や中世の戦士や騎士たちの装いも細部が分かるようなイラストを入れました。イラスト製作に当たっては、中西立太先生、上田信先生をはじめボックスアートでおなじみの先生方の御指導も仰いでいます。ぜひモデラーの皆様にも手に取って頂けたらと存じます。(記・辻元よしふみ)
軍事研究(ジャパン・ミリタリー・レビュー)2012年3月号 書評
人類の歴史は戦いの歴史であり、よって服飾の歴史は軍服の歴史と捉えることもできよう。前著『スーツ=軍服!?』において西欧の紳士ファッション成立にいかに軍事的要請が絡んでいるかを説き明かした筆者が、接ぎ木的に洋装を導入した日本人に正統とはなにかを伝えようと試みた労作。と書くと堅苦しいようだが、古代シュメールから現代までの軍服変遷の歴史五〇〇〇年を一〇〇点以上のイラストと共に解説した、どの頁からでも楽しめかつ知的好奇心を刺激される図説書籍となっている。
歴史群像(学研パブリッシング)2012年4月号No.112 新刊紹介
なるカタログ的な軍装解説ではなく、軍服というアイテムを通して読み解く世界史というコンセプトで、その誕生と変遷の歴史を200点以上の精密考証イラストで図説。古代から現代まで様々な地域の甲冑や軍服が取り上げられ、細かい解説が加えられている。もちろん第二次大戦時の各国軍の軍服のイラストも充実。ポーランド軍やフィンランド軍、さらにはコンドル軍団や国民革命軍(中華民国)といった「珍品」も掲載されている。
コンバットマガジン(ワールドフォトプレス)2012年4月号 New BOOK
われわれが日常身につけている洋服の起源でもある軍服の誕生と変遷の歴史5000年を、200点以上の豊富なイラストで図説する。軍服が現在のジャケット、ズボン、帽子、履き物、そしてネクタイなどにどのような影響を与えてきたのか、その歴史を探りつつ、古代シュメールから現代まで5000年にわたる軍服の歴史を解説。
ミリタリー・クラシックス(イカロス出版)2012 SPRING VOL.37 MC放送局
紀元前から現代に至るまで、様々な時代や地域の「戦うユニフォーム」に焦点を絞り、その歴史と変遷を読み解く異色の服飾史解説書。
取り扱う時代は古代エジプトから現代まで、対象も古代の戦士から甲冑、フォーマルウエア、最新の軍用迷彩服に至るまでと非常に幅広いのが特徴だ。歴史の中で軍服がどのような背景で変遷を遂げてきたのか、またそれが現代の軍装や我々の日常生活にどのような影響を与えているのか、200点以上のイラスト付きで解説されているぞ。そういった意味では、単なる軍服の歴史を超えた「服飾を通して読み解く世界史」と呼ぶべき大著となっている。
世界の艦船(海人社)2012年6月号 No.761 BOOK GUIDE
古代シュメールから現代までの約5000年におよぶ軍服の歴史を、著者の夫人である玲子女史の筆になる200点以上の考証イラストを添えて記述した労作である。
内容は「クラシックとは『立派な海軍のオーナー』だった」と題した序文に続いて、西欧文明圏を中心に時代や武器などの進歩によって軍装が変化していく有様を、「ジャケットとズボン」「帽子、被り物、履き物それにネクタイ」のパートに分けて解説し、アステカやインカなどの非西欧文明の軍装についても一章を設けて記述している。続く19世紀後半から現代に至る推移を取り上げた二つのパートでは、各国軍装の近代化と、その過程で派生したスーツ、トレンチ・コートなど今日的ファッションとの関わりなどについて述べており、古今東西の軍装に関するエンサイクロペディアというべき構成になっている。
それぞれの考証イラストの解説では、デザインの明細や特徴はもちろん、時代背景、文化、地域の習慣などについても記述しており、軍服にあまり興味のない向きにも十分楽しめる内容となっている。本誌の読者の関心が高いと思われる海軍関係のユニフォームについても、ナポレオン戦争時から今日にいたる英海軍の服装の変遷、日本海軍やナチス・ドイツ海軍の代表的な軍服などが紹介されている。
巻頭の口絵には、ジャガーや鷲を模した軍装を纏ったアステカ王国の戦士、第2次大戦時の米陸軍獣医軍団所属の婦人将校、わが国の甲冑など、多彩なカラー・イラスト12点が掲載されており、巻末には用語解説、各国軍階級対照表、関係年表などが収められている。(I)
MEN'S CLUB(ハースト婦人画報社)2012 April No.614 NEWS FLASH
「読んだあとは無性にアツく語りたくなります」
普段何気なく身につけるネクタイ、ジャケット、帽子など、実は起源はすべて軍服だってご存じでしたか? この本では、どのような歴史が現在の私たちの洋服にいかにして影響を与えたのかを、5000年もの歴史をたどってイラストとともに解説。話のネタとしてももちろんですが、ファッションを語るならば知っておきたい知識が詰まっている一冊です。