金魚の大王アドルフに捧げるオード(頌歌)
金魚のアドルフ大きくなった 水槽の中に一匹だけ
そいつだけ 自分だけ 誰も彼も
要らない 自分 だけ
金魚のアドルフ長いクソをする ミミズのように
長くて太くて
にょろにょろ クソ 自分だけの
まじりっけなしの クソ
縁日の金魚すくいの屋台で やぶにらみの婆さんが
オマケと言ってよこした赤い金魚が二匹
何度やってもすくえないといって、そのたびに
オマケで貰ったほかの色の金魚が四匹
名前をつけてやったのだ
アドルフ ヘルマン ヘス ロンメル ラインハルト
それからゲッベルス どこかで聞いたような面々
ヘルマンはでぶで ゲッベルスは歪んでいた
ラインハルトは浮き袋が壊れているらしく始めから
傾いていて 翌朝には死んだ
アドルフは弱っているラインハルトを つつき殺し
食いすぎてよろよろのヘルマンを どつき殺し
白くて目立つロンメルを たたき殺し
身体の弱そうなゲッベルスを いびり殺し
一週間で残るは二匹 たった二匹を除いて死んだ
最後に残ったヘスとしばらく並んで泳いでいたけれど
ある朝 こいつもひっくり返って浮かんでいた
ああ大アドルフ 名前にたがわぬ
邪魔者をすべて消し去って水槽の王者となる
仲間がいない 仲間がいない
なんと孤独の快いこと
誰もいない なんにもいない
ああ独り身のなんと気持ちよいこと
混泳は望ましくないですねえ と養魚場の兄貴が言った
以来 ぬくぬくとでぶでぶと育つアドルフ
四ヶ月で6倍には肥大したか
三センチもなかったものが今じゃ十五センチに近い
人はひとりでは生きていけないものだから
とかなんとかラブソングは言い募る
愛こそすべてだ 愛が勝つのだ
みんながいて 僕がいて 小さな幸せ
あははあ
仲間を殺しちまえ 金魚藻も食ってしまえ
何もいらぬ 水槽世界の大王
独裁者アドルフは
ばくばくと酸素を食らいながら
己の覇権を確認し
クソを垂れる
なんのメタファーが必要なんかね
こんな詩に? こんな時代に?
コラージュすら無用である
いま要りようなのは辛い警句のたぐいが二、三
警句しか吐けなくなり 読めなくなったとき
ものかきは疲労を覚えて筆を捨ててしまう
要らぬ
理解者さえ 要らないとアドルフはいうのである
彼の知る全天地は三十センチ四方の水槽であり
ときどきどこかから 配合飼料が投げ落とされるのを
傲然と齧っておれば身は太る
ああ 大アドルフの栄光
独り身の独裁者
誰もいない 神など知らぬ 恐れを知らぬ
生きているから生きているのだ
死ぬべきものは先に死ぬのだ
ぶくぶくと 泡を吐いて ぬめぬめと 光る漁鱗
水が 静止する 時刻
独裁者も眠る
いつの日か こやつを
どぶ川に流してやるべきか
水槽を叩き割って
届く限り遠くの川面に放り投げて この生き物め!
かか 生きるやつは生きるであろう
死ぬものなら死ぬであろう
それで私はなにを言いたいのだろうか
もちろんなにも言いたくないのだ。
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