”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。
ハンニバルの橋
毎朝 目が覚めると
僕の家の便所の窓から
東京都葛西の町並みを見る
葛西に向かうこの橋はいつもいつも
大型ダンプカーやトラックがぎしぎし車軸を
軋ませながら走りすぎる
それを黙然と支えて
つまらなそうに立っている
じつにつまらなそうに
橋がある 異世界から
何かがやってくる あるいは
そちらに行ける
カエサルがむかし この橋を渡ったことを人は
知るまい
あるいはスキピオ・アフリカヌスが
軍勢を率いてここを渡っていったのを
そうそう
ハンニバルの軍は象を引き連れ
ヌミディアの騎兵 ガリアの傭兵を従えて
決死の道をたどって行った
かなたのアルプスは
よく見えないが
とぼとぼと歩む現代人の群れ よ
僕ら よ
行くところがないなあ 本当に
行くところがないじゃないか
やることがないなあ
やることがないじゃないか
起こるとしたら悪いことだけ
悪いことだけ
だ
僕は、こうして行を飛ばす
面倒くさいから
熱心に
読んでくれる人を
裏切る
なにもかにもから逃げ出したい
子供のように
こんなものを書いていて何の意味があるのか
何の意味があるのか
意味があるのか
あるのか
のか
か
ないのか
ないよね
ふふん
この橋が
僕の家の前から
直として葛西に向かっているならん
いいや違うとも
カエサルがむかし この橋を渡ったことを人は
知るまい
あるいはスキピオ・アフリカヌスが
軍勢を率いてここを渡っていったのを
そうそう
ハンニバルの軍は象を引き連れ
ヌミディアの騎兵 ガリアの傭兵を従えて
決死の道をたどって行った 本当だとも
この目で見たさ
信じておくれ
かなたのアルプスは
スモッグにかすんで
よく見えない。
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