”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。


不定期日記 2013年

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2013年12月31日(火)
 さて、今年も大晦日を迎えました。2013年、いろいろありましたが、そして台風被害などの惨禍もありましたが、まずまず穏やかな一年だったような気が致します。
 私個人としましては、2月にテレビ東京の「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」に出演したのがなんといっても大きかったです。ラジオには出たことがありましたし、テレビ番組もコメントだけなら参加したことはありますが、バッチリ顔出しで収録というのは本当に初めての経験でした。番組内容にもかなりかかわりましたので、テレビの製作現場のことがよく分かりました。まことにいい勉強になりました。
 ◆   ◆   ◆
 さて今、私どもは新しい本を製作中です。来年前半にはなんとか形に出来れば、と努力しております。刊行の暁にはぜひご覧いただければと存じます。詳しいことは、もう少しお待ちいただければと存じます。
 ◆   ◆   ◆
 実はちょっと年末になりまして、いろいろとゴタゴタして立て込んでいたりします。そのへんも含め、またいずれご報告できれば、と存じます。しかしまずは、皆さまがよい越年をされますことを祈念致しております。来年もなにとぞ宜しくお願い申し上げます。本年はまことにありがとうございました。


2013年12月26日(木)
 日付が変わりましたが、昨日はたまたま公休日だったので、ご近所のレストラン「トレフレッチェ」http://www.vinicole.jp/tre-frecce/に行ってきました。まあ、スタンドカラーのドレスシャツに蝶タイ、カマーバンドに側線入りパンツ、といった服装をして一年でもっとも違和感がない日でもあり、せっかくなのでそれらしくしてみました。それにしても、ホロホロ鶏のタリアテッレ、子牛肉のブロード煮トリュフ風味・・・など最高でした。お値段も内容からみるととてもリーズナブル。トレフレッチェは東西線浦安駅のすぐ近く、西友の裏手にあります。

2013年12月24日(火)
 銀座松屋百貨店の8階にある「イプリミ ギンザ」に行きましたところ、こんなしゃれたサービスが。デザートのお皿にブオナ・ナターレ!(メリー・クリスマス!)と書かれていました。さあて、いよいよ本当に年の瀬ですね。

2013年12月22日(日)
「日刊ゲンダイ」紙上に連載中の私、辻元よしふみの「鉄板! おしゃれ道」。次回第17回は新年1月4日(土)発売号に掲載の予定となりました。内容は今のところ「高級な靴」がテーマになりそうです。本連載は隔週土曜日掲載で、4日の次は、18日(土)発売の号に掲載予定です。

2013年12月21日(土)
 しばらく更新サボっておりまして申し訳ございません。世間様は、今日から23日まで3連休という方が多いのでしょうね。実質的には天皇誕生日がクリスマス、という感じになりつつあるようで。平日である24、25日はかえってなんでもない、ということも多いようでございますね。
 もちろん私はすべて普通に出勤ですが、今日は出社の途中、銀座界隈の、いきつけのレストランで昼飯でも、と思いましたがあまりの人の多さに諦めまして、・・・さすがに賑わっていますね。で、東銀座の外れにあるファミレスに入りまして。さすがにわざわざファミレスに入ろうという人は少ないようで、こちらは空いておりましたけれど。
 通りすがりに、フランクミュラーの店舗前のツリーがきれいだったので撮影させていただきました。
 

2013年12月14日(土)
きょう12月14日発売「日刊ゲンダイ」のp29に私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第16回が掲載されました。今回は「外資系企業のXマスパーティーに招かれた」としてフォーマルの話題です。本連載は隔週土曜日掲載で、年内はこれが最後。次回は確定してからお知らせします。

2013年12月05日(木)
 公開から1か月以上が経過し、そろそろどこの劇場でも終了が近いのではないかと思いますが、今さらながら「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々/魔の海」Percy Jackson:Sea of Monstersを見てきました。これは3年前のヒット作「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」の続編で、リック・リオーダン原作のファンタジーの映画化ですが、なかなかの上出来な作品ですね。見ないと損するところでした。
 前作は、アメリカの現代の平凡な高校生パーシー・ジャクソン(ローガン・ラーマン)が、自分が海の神ポセイドンの息子である事実を知り、親友でサテュロス(半人半山羊)のグローバー(ブランドン・T・ジャクソン)、半神訓練所で知り合った知恵の神アテナの娘アナベス(アレクサンドラ・ダダリオ)と共に大神ゼウスから奪われた雷を取り返しオリンポスの危機を救う、という話でした。その際、ゼウスから雷を奪った犯人は、半神訓練所にいた旅と泥棒の神ヘルメスの息子ルーク(ジェイク・アベル)で、彼は海に落ちて命を落としたと思われていました。
 それから3年後。半神訓練所ではいまひとつ冴えないパーシーの姿がありました。前の一件が解決してから後、父のポセイドンとは会うことができず、訓練所では何かとパーシーに対抗意識をむき出しにする戦いの神アレスの娘クラリサ(レヴェン・ランビン)にいいところを奪われ通しで、スランプに陥っています。しかし悩む彼の前に新たな問題が発生します。訓練所の門前を敵対するモンスターから守っているタレイアの木が枯れかかっている、というのです。このタレイアの木は、7年前にアナベル、ルーク、グローバーと共に訓練所に向かっていたゼウスの娘タレイアが、敵に襲撃されて瀕死となり、自分の身を犠牲にして木に変身し、訓練所を守護するようになった伝説の存在です。
 木の守護力が衰え、訓練所にはコルキスの牛という化け物が襲いかかってきます。なんとかこれを倒したジャクソンは、宿敵ルークがまだ生きており、再び新しい悪だくみを始めたことを知ります。タレイアの木を復活させるには、かつてはギリシャの海にあり、現代ではアメリカのフロリダ沖にあるバミューダの魔の海に赴いて、伝説の金の羊毛を手に入れなければなりません。訓練所の校長ミスターDこと酒の神ディオニソス(スタンリー・トゥッチ)はこの危険な任務をクラリサに命じますが、パーシー、グローバーとアナベス、それに突然、パーシーの前に現れたポセイドンの息子、つまりパーシーの弟と名乗る一つ目のタイソン(ダグラス・スミス)の4人は独自に、魔の海に乗り出すことにします。ルークもまた金の羊毛を探し求めており、その目的はゼウスやポセイドンの父で悪逆非道で知られる巨神の王クロノスの復活と、オリンポスの滅亡でした・・・。
 というような展開で、前作はペルセウスのメデューサ退治がモチーフでしたが、今回はアルゴー船の金の羊毛探索や、オデッィセウスの航海など、ギリシャ神話の海の冒険を下敷きにしております。この「金の羊毛Golden Fleece」というのは、その後15世紀に金羊毛勲章というものが制定されてハプスブルク家の勲章騎士団となり、またこの勲章のデザインを19世紀に取り入れたアメリカのブルックス・ブラザーズ社のシンボルマークにもなっている、あれですね。
 前作で注目されたローガン・ラーマンはすっかり大人びて、初々しい感じよりも随分とたくましくなりました。それからなんといっても、このシリーズで一番、ブレイクしたのはアレクサンドリア・ダダリオでしょうが、これがまたますます綺麗になりました。目力のある女優さんですね。今後ますます活躍するのではないでしょうか。ほかにも有望な若手が多数出ていて、登竜門的なシリーズになりました。一方、今作は前作のような大物俳優的な人は出ていません。娯楽映画大ヒット請負人のクリス・コロンバス監督が製作に回って、ドイツ出身の新鋭トール・フロイデンタール監督が起用されていますが、まったく心配なし。王道の展開ぶりは見事なもので、久々に「よく出来ているなあ」と感心したほどです。個人的な感想ですが、娯楽映画としては100点満点じゃないでしょうか。
 ギリシャ神話モチーフで、ゼウスの父クロノスの復活がテーマ、という作品はけっこうあります(最近でいえば「タイタンの逆襲」など)ので、すごく目新しいわけではなく、一つの目を3人で使いまわす魔女など、この手の話でおなじみのキャラも登場します。ではありますが、それらの現代的な取り上げ方がひとつひとつ面白く(たとえば旅と商業の神ヘルメスが、現代では宅配便の物流会社を経営しており、おまけにエルメス=Hを抜かすフランス読みなので、つづりはそもそもヘルメス=のネクタイを愛用している、など)原作者のアイデアがいいのでしょうが、感心させられました。いや、面白い映画でした。見ておいてよかったです。

2013年12月02日(月)
 12月に入って寒くなって参りました。皆様どうかご自愛ください。ところで、この12月いっぱいを持ちまして、東銀座6丁目にある読売新聞東京本社は退去し、新年からは千代田区大手町の新社屋に移転致します。それはまあ予定の行動なのでどうでもいいのですが、読売新聞が去った後に残る建物「日産旧銀座本社ビル」はまもなく解体されることになっているようです。
 日産は1968年に銀座木挽町にやって来て、当地が東銀座に改名し、2009年8月まで40年あまりもここに所在していました。今の目で見ると玄関回りに螺旋階段などあってクラシックなビルです。読売は10年9月からここに間借りし、3年3か月ほど仮社屋を置いていましたが、ついに退去。これをもってこのビルも取り壊しとなるそうで、すでに他のテナントもほとんど秋口までに出て行ってしまいました。
 日産の関係者の皆様、思い出のある方々、旧社屋をご覧になるなら、まもなく見納めのようでございます。
 

2013年11月30日(土)
きょう11月30日発売「日刊ゲンダイ」のp29に私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第15回が掲載されました。今回は「冬のウール生地の定番は?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は12月14日発売号の予定)です。


2013年11月21日(木)
 クロエ・グレース・モリッツ主演の「キャリー」Carrieを見てきました。いうまでもなく作家スティーブン・キングの出世作を基にした1976年の同名大ヒット映画のリメイクです。76年版は原作者キングを有名にしただけでなく、ブライアン・デ・パルマ監督と、キャリー役のシシー・スペイセクにもスポットライトを浴びせました。ついでに、不良少年ビリー役で出たジョン・トラボルタも、これを足掛かりにその後、ブレイクしましたね。
 76年版でアカデミー賞候補にまでなったシシーは、数年後に実際に他の作品で受賞していますが、彼女の演じたキャリーはいかにもいじめられっ子で、痩せっぽちで、お世辞にも美人ではなくて、18歳になって初潮がきて慌てふためく、という設定にも違和感がない点が見事だったわけでした。しかも当時、彼女はたしか既に20代も半ば過ぎていたとか。そのへんの演技力も高く評価されたわけです。
 が、2013年版では、なんといっても今やトップアイドルのモレッツがやっているわけです。はっきりいって「なんであんな美人がいじめられっ子なの? ほっといてもモテモテでしょう」と思ってしまいます。おまけに「キックアス」のイメージもあるので、「なんであんな程度のいじめにめげているのかな。超能力なんて発動する前に、得意の武闘でみんな叩きのめしてやればいいのに」とついつい思ってしまう。
 まあ、そのへんのギャップが現代的で面白いのですが。それに、やはり76年版のままの設定では2013年には合わない点も確かにあるんですね。たとえば、いかに母親から抑圧的な育てられ方をしていても、今時の現代っ子ならネットでいろいろ情報を得られる。今作でもキャリーが学校のパソコンで情報収集しているシーンがあり、まあ76年のキャリーのように完全に無知蒙昧な子供というのは、今ではあり得ない。いじめる側の手法もネットに画像を投稿する、などという要素が入ってきます。また学校にねじ込んでくる厄介な親とか、やたら権利を振りかざして教師の言うことを聞かない生徒とか。こういう部分が入ってきて、アップデイトされている。76年版との相違点が興味深いですね。
 いちばんの相違は、キャリーがそれなりに自立した少女で、母親との関係も76年版ほど一方的ではないし、また最後の有名な舞踏会での殺戮シーンでも、前のものは完全に錯乱して手当たり次第に皆殺しにしていたような気がしますが、今作では微妙に違います、ちゃんと相手を見て冷静に攻撃しているようです。こういうところ、21世紀版ともなるとそれなりに変化しているなと感じ、大筋では同じですが、けっこう細かい描写で違いがあります。
 キリスト教原理主義者で狂信的な母親マーガレット(ジュリアン・ムーア)に育てられたキャリー(モレッツ)は孤独な少女で、高校でも浮き上がっていじめの対象になっています。更衣室のシャワーで遅い初潮を経験したキャリーは混乱し、同級生たちにはやしたてられ笑い物に。動画まで撮影されてしまいます。しかしこのことで、いじめの首謀者クリス(ボーシャ・ダブルデイ)はデジャルダン先生(ジュディ・グリア)から処分を受け、学校主催の舞踏会プロムに参加できなくなります。一方、いじめの件で罪悪感を抱いた級友のスー(ガブリエラ・ワイルド)は恋人のトミー(アンセル・エルゴート)に、キャリーを誘ってプロムに出るように頼みます。トミーも元々、キャリーにいくらか興味を持っていて、プロムのパートナーになってくれるようにキャリーに申し出ます。驚いて拒絶したキャリーですが、たまたま自分に超能力の素質があることに気づいていた彼女は、最後には前向きになって参加することに。しかし、キャリーを逆恨みしたクリスは、恋人の不良ビリー(アレックス・ラッセル)をそそのかして陰湿な計画を立てます。そしてプロムの夜、悲劇は起こります・・・。
 ジュリアン・ムーアの鬼気迫る演技も堂に入っています。ガブリエラ・ワイルドは「三銃士」でコンスタンスを演じて注目された人で、さすがにモデル出身、存在感がありますね。クロエ・モレッツの魅力はよく出ています。やっぱりキャリーというか・・・クロエの映画ですね。彼女のファンなら必見です。しかし、救いのない話ですが、76年版と違う現代的な持ち味というものか、どこかあれほどの陰惨さはありません。
 なお、アメリカの映画には良く出てくるのが、卒業の年に行われる舞踏会プロム。必ずパートナーで参加、そして、いろいろの事情で本命の彼女ではなく、違う友達と出ることも珍しくないそうで、そういう意味では、本作のようにトミーがステディのスーではなく、日ごろ付き合いのなかったキャリーを誘って参加する、というのはそんなにおかしな話ではないようです。
 男性はタキシード、女性はドレスを着て、この舞踏会で初めての大人のフォーマルを経験するわけですね。また、高校時代の間に彼氏彼女を作ろうと躍起になるわけです、草食系、とはいっていられないわけです。日本にはなかなかない文化ですが、一つの大事な通過儀礼なんですね。
 

2013年11月17日(日)
 先日のことですが、わたくし、新宿のマルイアネックス館にあるお店エクサントリークhttp://www.excentrique.biz/shop.htmlを訪れました。こちらはヒストリカルなデザインの服を現代的に再解釈していて、もう19世紀そのもの、といったものを売っています。またこの種のブランドは女性もの中心が普通ですが、こちらは正式にメンズも製作しているのが素晴らしいです。ということで、まさに19世紀のフロックコートそのもの、といっていいジャケットを私も手に入れてしまいました。私は自分の持ち物自慢だの衣装自慢だのは基本的にしないことにしていますが、今回は特別に・・・。
 古式なフロックのように腰回り全周を切り替えてはいませんが、後部はきちんと切り替えしています。とにかく19世紀以前の衣服が好きな私には嬉しいお店です。よく紳士服好きな方が「スーツはなんといっても1930年代が」とか「いやいや、50年代こそ」などと仰いますが、私などからすると「20世紀なんて、どれもごく最近の服ですね」という感じがついついしてしまいますが・・・。

2013年11月16日(土)
きょう11月16日発売「日刊ゲンダイ」のp12に私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第14回が掲載されました。今回は「課長に昇進! スーツを仕立てたいが・・・」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は11月30日発売号の予定)です。


2013年11月16日(土)
 私どもが2011年始めに出した『図説軍服の歴史5000年』(彩流社)が、もう2年もたっているのにお陰さまでまだまだ売れてくれており、ふと見ましたらアマゾンの方では16日昼現在、在庫切れとなっております。全体順位も7000番台と、古い本としては大健闘。この本は在庫がちゃんと版元にありますので、しばらくお待ちくださいませ。

2013年11月07日(木)
 11月12日(火)まで、市ヶ谷の山脇美術専門学校「山脇ギャラリー」にて「理科美術展2013」を開催中です。理科美術協会http://www.rikabi.jp/は図鑑などの超精密イラストを描く画家の団体です。
 会場は〒102-0074 千代田区九段南4-8-21 山脇ギャラリー 電話03-3264-4027。JRと地下鉄の市ヶ谷駅から徒歩1分の山脇美術専門学校入口にあります。午前11時〜午後6時。初日は午後2時開場、最終日は午後1時半閉場、10日(日)は休館します。
 我が家の辻元玲子さんも本会の会員ですので、出展しております。今回はスピットファイアを描いた航空画や英国近衛兵などの新作カラー画、白黒のヒトラー総統、ロンメル元帥、ゲーリング国家元帥・・・などの人物画を出品しています。今日は私も玲子の手伝いで受付をやってきました。すでに御観覧いただきました方、ありがとうございます。会期は来週までやっておりますので、ぜひ皆様、ご覧くださいませ。

2013年11月03日(日)
 日本シリーズもクライマックスのようですが、およそスポーツネタの似合わない私としましては、まあ取り上げないこととしまして・・・。
 ちょっと、久々に出版関係のご報告を。まず『図説軍服の歴史5000年』(彩流社)ですが、昨年初めに出してから、もう2年近くが経ったわけで、普通、本の売れ行きなどは2年も経てば完全に忘れ去られるものですが、本作はお陰様でたくさんの皆様のご愛顧をいただきまして、いまだに売れ続けてくれております。本当にありがたいことでございます。
 ところで、本作は私どもとして、通史として勉強する上で絶対に必要なものでしたし、おそらく自分たちにとって基礎の基礎、バックボーンとして一生、大事にしていきたいとおもっている著作です。今後も増刷等のたびに、手を加えて新しい情報をアップデートし育てていきたいと考えています。
 しかし本書の問題として、やはり経費の問題でカラーページが少ない、また図版も後ろ姿や装備のディテールなどがほとんどない・・・これは致し方ありません。あの本だけで200点の図版を描くのに4年以上もかかりましたので、あの時点ではあれが限界でした。またフルカラーとなれば、1冊の単価はどうしても5000円とか6000円とか、あるいはもっと高い1万円前後とか、にするしかなく、それはリーマン・ショック後の厳しい経済状況からみても版元に冒険しろ、というのは酷な話でした。もちろん、私たちが有名タレントで、出せば必ず何万冊も売れる、とわかっていれば出来るのですが、初刷り数千冊、というところからフルカラーで挑むのは無理というものでした。
 しかし、あの本を出してから、私どももあまり予想していなかったことに、漫画やイラストの基礎資料として軍服の本が欲しい、という声が多いことがわかってきたのです。
 そこで。実は現在、カラーイラストを大幅に増量し、後ろ姿や、装備品のディテールなどを描き込んだ、図版中心の「漫画家やイラストレーター、ファッションデザイナーの方のための」書籍、というものを計画中で、鋭意、制作進行中です。古代ローマから、中世の騎士や三銃士のいでたち、ベルばら時代の服やナポレオン戦争のきらびやかな服、英国の近衛兵などを中心に分かっている限り精密に詳細に、イラストで見せる本、というわけですが・・・やはりそういうことになると、時代考証にも制作にも時間がかかります。今、着手してから1年弱になりますが・・・しかし、カラー部分はかなり出来てきました。
 ぜひもうしばらく、お時間を頂戴したいと思います。よろしくお願い申し上げます。

 また、もう一つ。『図説軍服の歴史5000年』の前に、2008年に出しました『スーツ=軍服!? スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった』(彩流社)んつきまして、こちらもありがたいことにロングセラー化しまして、ほとんど在庫がなくなりました。そこで、単なる増刷ではなく、徹底的に書き直した完全改訂版を出そうか、という話になっております。こちらも来年にははっきりしてくると思います。盛り込みたい新しい情報は増えている一方、今までの内容はいろいろ古くなっていますので(たとえば今さら小泉政権のクールビズ批判の内容など、自分から見ても古すぎます)、もうほとんど5割方、原形をとどめないレベルの新しい別の本のように書き直す予定です。

 そのほかにも進行中のお話がいくつかありますが、またそれはおいおい・・・。

 ということで、久しぶりにそれらしいご報告でした。

2013年11月02日(土)
きょう11月2日発売「日刊ゲンダイ」のp12に私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第13回が掲載されました。今回は「コットンは冬に着てもいいの?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は11月16日発売号の予定)です。


2013年11月01日(金)
 11月になりましたね。ということで、「グランドイリュージョン」NOW YOU SEE MEという映画を見ました。邦題は分かりやすく、これがマジックをテーマにしていることが一目瞭然でなかなかいいと思いますが、原題の「ナウ・ユー・シー・ミー」というのは、マジシャンがステージ上で観客にいう「さあ、ご覧ください!」という決まり文句なわけです。
 これは、4人の凄腕マジシャンが「フォー・ホースメンFour Horsemen」なるユニットを組んで、犯罪もしくは犯罪すれすれのあっと驚くようなショーを繰り広げる、というお話。このフォー・ホースメンというのは、聖書のヨハネの黙示録に出てくる、世界の終末に馬に乗って出現するとされる4人の乗り手のことです。フォー・ホースメンの出現はこの世の終わりを示す不吉なものですが、一方で新たな世界の到来を告げる世直しの象徴でもあります。そんな名前を名乗る彼らの意図とはなんなのでしょうか。
 そこそこに売れてはいるが、もう一歩の奇術師アトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)、かつてはテレビ出演までしていたものの、今は落ちぶれて詐欺師まがいの生活に落ちている読心術と催眠術の名人メリット(ウディ・ハレルソン)、実力はあるがまだ駆け出しの新人で、鍵開けの名手ジャック(デイブ・フランコ)、それにかつてはアトラスの助手を務め、今は危険な脱出ショーを得意としているヘンリー(アイラ・フィッシャー)。いずれも能力は高いのに、世間で認められているとは言い難い4人のマジシャンに、タロットカードの招待状が届きます。彼らは謎の人物からの指令にしたがい、新たなユニットを組むことになります。
 それから1年後。保険会社など多くの会社を経営する資産家トレスラー(マイケル・ケイン)の後援を受けて、ラスベガスの大ステージに立った4人はフォー・ホースメンと名乗り、一世一代の大マジックをやってのけます。衆人環視のなか、ラスベガスからパリにある銀行の金庫に観客の一人を瞬間移動させ、その目の前で320万ユーロもの大金を強奪。その紙幣をラスベガスの会場にいる観客の頭上から降り注いで見せたのです。強盗事件として捜査に乗り出したFBI捜査官のディラン(マーク・ラファロ)は4人を逮捕。フランスからやって来たインターポール(国際警察)捜査官アルマ(メラニー・ロラン)と共に取り調べますが、奇術や読心術を駆使する4人に散々に翻弄されたあげく、確たる証拠も得られず釈放することになります。ディランは会場にいたトリックを見破る専門家サディアス(モーガン・フリーマン)に協力を仰ぎますが、サディアスははっきりした態度を示しません。しかしフォー・ホースメンの次の公演はニューオリンズで、と予告されており、ディランとアルマは万全の態勢を調えてショーに向かいます。
 ところが、ニューオリンズのステージでは、フォー・ホースメンはパトロンのはずだったトレスラーの資産1億4000万ドルのすべてを奪い、ハリケーン被害でトレスラーの経営する保険会社から補償金を受け取れなかった人々の口座に全額を移す、という離れわざを決行し、トレスラーを破滅させます。ディランはなすすべもなく失態を犯し、恥をかかされてしまいます。しかしフォー・ホースメンは義賊としてもてはやされることになりました。
 ディランの捜査は行き詰りますが、アルマは4人の背後に、古代エジプト時代から存在する魔術師の秘密結社アイがかかわっているのではないか、と考え始めます。そこに、フォー・ホースメンの次なる標的はニューヨークにある警備会社の金庫、という情報が入ります。かくて捜査官たちと4人のマジシャン、さらにトレスラーから「4人を破滅させてくれ」と依頼されたサディアスがニューヨークに集まり、最後のショーの幕が切って落とされます・・・。
 というような展開で、とにかくマジックの演出が面白い。それはもちろん大がかりなマジックはもともとショーとして確立しているわけなので、それ自体で十分に面白いのですが、何しろそれが犯罪がらみで謎解きが絡んできます。4人のマジシャンはいわゆる義賊で、大金持ちから奪って困っている人たちにばらまくという連中。実際、一連の犯行で彼ら自身は一銭も儲けていません。一体、彼らの意図は何のか、というのは最後まで見ないと分かりませんけれど、ひとつのミステリーものとして見た場合、そこらへんがなかなかに秀逸です。最後の最後までどんでん返しが用意されています。確かにラストあたりまで来て「あ、まさか」と思うこと請け合いです。「この作品の謎は、観客に先が読めたぞ、と思わせてしまうところ。これから先どうなるかわかったぞ、とね。私も脚本を読んだ時、途中で、なんだ、先は読めたぞ、と思ったのだが、全く違っていた。大どんでん返しがあるんだ。でもそれは言いたくないよ、映画を見てほしいからね」というのはパンフレットにあるマイケル・ケインの言葉。全く、彼が言う通りの作品です。
 超大物のマイケル・ケインとモーガン・フリーマンの出演が大いに作品を引き締めています。4人の個性的な魔術師も、一人ひとりの個性がしっかり描けていて面白いです。「ソーシャル・ネットワーク」で名を上げたジャシー・アイゼンバーグと、「ウォーム・ボディーズ」ではチョイ役だったジェームス・フランコの弟デイブ・フランコが大活躍、「華麗なるギャツビー」でなんとも地味な役を演じていたアイラ・フィッシャーもとても魅力的です。それから一見、冴えなくて4人に翻弄され続けている駄目捜査官という役どころのマーク・ラファロが好演。「アベンジャーズ」で演技派ぶりが高く評価されて注目された彼ですが、今回も実はなかなかに難しい役。うまくこなしています。そして、大注目なのが「イングロリアス・バスターズ」で有名になったフランスの女優メラニー・ロラン。彼女が登場するだけで映画が本当にセンスが良くなるというか、おしゃれになるというか、パリの風が吹くと言うか。この人は本当に美しいです。やはりフランス出身のルイ・レテリエ監督の狙い通り、というところでしょう。
 最後まで見ると、かなりファンタジックといってよいような思いもかけない展開になっていきますが、それはもう見てのお楽しみ。くれぐれも途中で「なんだ、先は読めたぞ」と思ってしまわないように。何しろマジック映画なんですから。そして、どこかフランス人監督らしいしゃれた作品だと思います。
 
 

2013年10月26日(土)
 台風27号は熱帯低気圧になったようですね。たちまち、ぐっと肌寒い感じになってきました。私は夜に出かけるので、ハリスツィードの上着にベスト、フラットキャップを被るという偽イギリス人の狩猟家のような姿で家を出ました。
 ところで、ひとつお知らせがございます。来る11月6日(水)から12日(火)まで、市ヶ谷の山脇美術専門学校「山脇ギャラリー」にて「理科美術展2013」か開催されます。理科美術協会http://www.rikabi.jp/というのは図鑑などの超精密イラストを描く画家の団体です。前回までは亡くなられた梶田達二先生も出展されていました。
 会場は〒102-0074 千代田区九段南4-8-21 山脇ギャラリー 電話03-3264-4027。JRと地下鉄の市ヶ谷駅から徒歩1分の山脇美術専門学校入口にあります。午前11時〜午後6時。初日は午後2時開場、最終日は午後1時半閉場、10日(日)は休館します。
 なにしろ図鑑や切手のイラストを描く画家たち(それも基本的に手描き)なので、技術的に超絶上手い人しかいません。手描きでここまでやるか、というか、CGでは太刀打ちできないレベルの迫真力をぜひ体験してみて下さいませ。
 一応、我が家の辻元玲子さんも本会の会員ですので、出展しております。今回はスピットファイアを描いた航空画や英国近衛兵などの新作カラー画、白黒のヒトラー総統、ロンメル元帥、ゲーリング国家元帥・・・などの人物画を出品する予定です。

2013年10月24日(木)
 「ゴースト・エージェント/R.I.P.D.」という映画を見ました。R.I.P.というのが「安らかに眠れ」という決まり文句なのはよく知られていますが、そのあとのD.はDepartmentつまり部署の意味。つまるところ「安らかに眠れ署」という架空の警察組織のお話。もちろんこれは普通の警察組織ではありません。勤務する警察官はすべて故人。そして、死んでも地上にとどまって悪霊化しているゴーストたちを退治し、成仏させるのが任務・・・いってみれば、異星人を取り締まる組織を扱ったメン・イン・ブラックMIBのスピリチュアル版が、本作と言えます。
 ボストン市警の敏腕捜査官ニック(ライアン・レイノルズ)は、5年来の相棒ボビー(ケビン・ベーコン)にそそのかされて、証拠品として押収した金の固まりを庭のオレンジの木の下に埋めます。しかしこのことで新妻ジュリア(ステファニー・ショスタク)との幸せな生活が破綻することを恐れたニックは、正直に証拠品として申告する決意をし、ボビーに告げます。ボビーもそれを受け入れたかに見えましたが、凶悪犯の逮捕に向かった現場で、ニックはボビーに射殺されてしまいました。
 思いがけず相棒の裏切りで死んでしまったニック。自分は死んだ、と自覚した瞬間、その魂は地上を離れ、天空に開いた入口に吸い上げられて行き・・・ところが、突然、彼は警察の取り調べ室のような小部屋に強制的に連れ去られてしまいます。そしてそこに向かい合って座っているのは、警察の制服らしきものを着た女性(メアリー・ルイーズ・パーカー)でした。彼女は自らをプロクター(監察官)と名乗り、死んでも地上にとどまっている地縛霊のたぐいを強制的に取り締まる天界の警察組織R.I.P.D.ボストン支署の責任者だと言います。R.I.P.D.に参加できるのは地上で警察組織に所属していた故人。任期は100年で、ここでの活動経歴は「最後の裁きを受ける際に有利な追加ポイントになる」と聞かされます。ジュリアのことが気になっていたニックは参加することを即決。そこで、プロクターから相棒として紹介されたのは、今R.I.P.D.に所属する中でも最古参、19世紀の西部劇時代に保安官だったというロイ(ジェフ・ブリッジス)でした。何かと反りの合わないニックとロイですが、ある線から進んだ捜査の中で、ニックが命を落とす原因となったあの金の固まりが、3000年も前に神の怒りを買って破壊されたジェリコの塔の部品であることを知ります。この部品をすべて集めて組み立てれば、死者はすべて地上に戻ることができるようになります。そして、元相棒のボビーがこの部品集めに一役買っているらしいことや、ゴーストたちと取引しているらしいこと。さらにジュリアに接近して何かを企んでいるらしいことも。徐々に信頼関係を結んでいった2人は、ジェリコの塔の復活を阻止し、ジュリアを守ることができるのでしょうか・・・。
 というようなお話で、娯楽映画の王道ですが、なかなかスピリチュアル的な知識もリサーチしているような描写が興味深いです。何より死者はまだ生きているふりをして地上の社会に溶け込んでいますが、正体を表すとおぞましい姿に変容してしまいます。たとえば情報屋で口数が多かった者は口が大きく、食欲に執着があったものはおそろしい肥満体に、ほかにも腕の数が多い者や指の数が多い者・・・。これは生前の願望や執着で姿がゆがんでしまうわけですね。いわゆる「見える」人たちによれば、こういうことは本当に地縛霊にはある、といいます。たとえば地上に落したものを探し続けて執着している霊は腕が恐ろしく長くなってしまう、という具合です。
 R.I.P.D.の捜査官が、自分自身が地上に執着することを妨げるために、地上の人たちには捜査官は違った姿かたち(アバター)で見える、という設定も秀逸です。ニックは中国系の老人(ジェームズ・ホン)、ロイはスーパーモデルの美女(マリサ・ミラー)というアバターを持ち、地上の人たちにはとてつもなくおかしな二人組に見える、というのが面白いです。
 なんといってもオスカー俳優ジェフ・ブリッジスが作り上げたぶっ飛んだ19世紀のガンマンロイの存在感ある人物像が魅力的です。それから、ロイとはどうもいい仲らしい上司のプロクターが、実はチャーミングな女性なのがいいですね。メアリー・ルイーズ・パーカーがいい味を出しています。ライアン・レイノルズも好演していますし、ジュリア役のステファニー・ショスタクがかわいい。フランスの女優さんは本当に独特のキュートさがあります。そして堂々の悪役ぶりなのがケビン・ベーコン。得体のしれない感じがよく出ていますね。
 アバター役の二人も出番は多くないのですが、もう50年代から500本以上の映画に出ている名優ジェームズ・ホンと、ヴィクトリア・シークレットのエンジェルで知られ、本作が女優としての長編映画デビューとなるスーパーモデル、マリサ・ミラーの取り合わせがいいです。
 天界からの指令が金のバケツに入れられて、はるか「上の方から」投下され、それをプロクターが読み上げる、というコミカルなシーンが印象深いのですが、こういった部分、おそらくキリスト教的な教義からいってギリギリのところで折り合いをつけたような設定なんだと思います。欧米の場合、娯楽作品であってもその辺の配慮が必要で、大変です。しかし、このR.I.P.D.のような地縛霊を解き放って、成仏させるような軍事組織というか、警察組織みたいなものは本当に霊界に実在するのではないか、という報告もしばしばあるようで、そういう視点から真面目に見ても非常に興味深い内容でした。死後の世界が実在するのかしないのか、については、それが絶対に実在しない、というような科学的な根拠や証明もいまだなされていません。つまり、あると言い張るのも、ないと言い張るのも、どちらも科学的な態度ではないのです。「もし死後の世界がないならないで困らない。しかしもし万一あった場合はどうなるか。そう思って、死後の世界があることを前提として生きるのが合理的である」というような言葉を、あの偉大なパスカル(台風の時に出てくる気圧の単位ヘクトパスカルに名を残す偉人です)が言っていました。私も自分自身がそもそも子供のころからそう考えていたので、パスカルのような天才が自分と同じ発想をもっていたことを知って嬉しくなったことがあります。
 まあ哲学的にそんなことを難しく考える必要はない映画です。テンポは軽快で文句なく楽しめます。しかし、そのうえでちょっと哲学的な感慨にも浸れる一本かもしれません。

2013年10月20日(日)
 急激に寒くなってきて、ほんの2週間ほど前には半袖シャツなど着ていたのがウソみたいですね。私もすっかり冬物に入れ替えています。そんな中、またまたやって来るらしい台風27号。アメリカ海軍のハワイJTWC(統合台風警戒センター)の発表によれば、どうも25日あたり、東海から首都圏にかけて接近しそうな感じですが、どうなるでしょうか。26号で大きな被害のあった大島もここでまたも襲来となっては本当に心配です。
 今年はどなたもうんざりしてらっしゃると思いますが、記録上、11月末になっても上陸した台風があったそうで、要は風向き次第。困ったものです。

2013年10月19日(土)
きょう10月19日発売「日刊ゲンダイ」のp12に私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第12回が掲載されました。今回は「ベストを着るのはキザですか?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は11月2日発売号の予定)です。


2013年10月10日(木)
 またまた懲りないことにニコラス・ケイジの新作映画である「フローズン・グラウンド」The Frozen Ground http://www.frozenground.jp/というものを見ました。近隣では新宿と千葉市蘇我、そして有楽町スバル座でしか見られないので、有楽町に行ってまいりました。
 それにしても、言わずと知れたオスカー俳優のニコラス。名門コッポラ家のサラブレッドでまさにハリウッドを代表するスター・・・であることは今でも間違いないのですが、大作の「ナショナル・トレジャー」や「ノウイング」、「魔法使いの弟子」なんかに出ていた2009年ぐらいまではともかく、です。それでも2010年あたりは、新人監督の低予算作品とはいえ「キック・アス」は大ヒットとなったので、むしろ彼の株を上げたのですが、その後がどうも良くありません。
 以下は、それから以後の出演作(日本公開年)と、日本国内の公開映画館数ですが・・・。

 デビル・クエスト    (2011年) 5館
 ドライブ・アングリー3D(11年)  30館
 ハングリー・ラビット  (12年)  45館
 ブレイクアウト     (12年)  22館
 ゲットバック      (12年)  35館

 まあこんな感じで、とにかく低調です。新人や若手の監督のオファーを引き受けている、というにしてもいかにも粒が小さい映画ばかりであることは否めない。個別にみると決して面白くない映画ではなく、むしろ個人的には楽しめる作品、印象深い作品も多かったのですが、しかし仮にもアカデミー俳優がB級作品ばかりに出ることを揶揄されるのは当然で、率直に言って、「デビル・クエスト」以後はラジー賞最低男優賞ノミネートの常連となっています。当然、扱いも上記のように悪いです。見るのに非常に苦労します。しかしまた、この危ない感じのニコラスを「かわいそう、ニコラス」と言ってわざわざ見に行き続けている我が家も、まあなんによらず人気のあるもの、売れっ子、評判のいいものには背を向けて、判官びいきに旗色の悪いものほど応援したくなるのがひねくれた天の邪鬼気質というもんでして。
 今年は、それでもまあまあの大作「ゴーストライダー2」でやや盛り返し、そして今回の「フローズン・グラウンド」です。これも大作とはいえません。今回の全国公開館数は19館にすぎません。「デビル・クエスト」よりはましですが、ここ数年の中でも最少の数です。監督はこれが長編デビューのスコット・ウォーカー。ではありますが、共演するのはジョン・キューザックにラダ・ミッチェルとそれなりの顔ぶれ。作品の出来栄えもなかなかしっかりしていると思います。というのも、本作は1980年代に全米を震撼させた連続殺人事件を扱う実録もの。さすがに実話ならではの緊迫感があり、そして、こういう映画での地味な刑事役などやらせると、破天荒なファンタジー・ヒーローよりもニコラスの演技力が引き出される感があります。
 1983年10月、アラスカ州アンカレッジ市で、まだ17歳の売春婦シンディ(ヴァネッサ・ハジェンズ)がモーテルで警察に保護されます。彼女は客のロバート・ハンセン(キューザック)に殺されかけた、と訴えますが、ハンセンは町では評判の良い模範市民で、売春婦の証言など信用できない、と市警察は却下。しかし、これに納得できないある警官が、密かに州警察に書類を回します。
 同じころ、近隣で女性の射殺死体が発見され、同様の遺体が狭い範囲で発見されていることから、州警察の巡査部長ジャック・ハルコム刑事(ケイジ)は連続猟奇殺人の可能性を疑い始めます。そこにアンカレッジ市警からの書類が届き、ハンセンを本格的に捜査することに。実はハンセンは警察を退職し、引っ越しして石油会社に転職するつもりで、妻のアリー(ミッチェル)も新生活を楽しみにしています。しかし思わぬ難事件を引き受けてしまい、捜査は難航。ジャックは町で売春を続けているシンディに接触しますが、彼女はなかなか心を開いてくれません。一方で知能犯のハンセンは、警察の捜査が及んでいることを察知して証拠隠滅を図り始めます。状況証拠からハンセンが犯人であることは間違いないのですが、確たる物証はなく、担当検事からゴーサインが出ない。焦るジャック。さらに生き証人のシンディを殺そうと動き出すハンセン。捜査が長引くことでアリーも不機嫌になって、家庭内にも不和が。さあ、この厳しい状況でジャックはどうやってハンセンを追い詰めるのでしょうか・・・。
 というような展開でして、犯人が初めから分かっていて、刑事が追い詰める心理戦となる、というのは「刑事コロンボ」のような倒叙式の犯罪ドラマです。もっとも、作り話ではないのでそんなに奇想天外などんでん返しの連発、みたいな派手な話にはなりえません。それで、重要証人であるシンディにかなりスポットが当たった展開なんですが、その分、ニコラスの活躍ぶりが目立たないかも。キューザックは実在の殺人鬼を熱演しています。終盤の警察でのやり取りは、実際の取り調べ時のハンセンの証言を再現しているそうです。また、シンディ役を演じているハジェンズは若手の有望株で、既にテレビやミュージカルの舞台でも大活躍している人だとか。数年後には有名になっている人かもしれませんね。
 ロバート・ハンセンはおそらく20人以上の女性を殺害しており、少なくとも17人の殺害を自供していて、84年には保釈なしの懲役461年を言い渡されています。逮捕から30年がたって、現在は74歳で、もちろん今でも服役しているそうです。アラスカ州には死刑制度がないので、まずもってこれが最高刑だそうですが、やはり実録ですので本作はかなり重苦しいです。でも映画としてはしっかり出来ていますし、脚本もよく練られていると思います。見て損はない一本だと思いました。

2013年10月08日(火)
 服飾史研究家といいながら、実際にはぬいぐるみの話題や映画評ばかりの当ブログですが、今日はまたまた我が家に届いた新しいぬいぐるみを御紹介・・・だけど、今回は少しはファッションブランドの話題でもあります。
 さてこれが、ブービーバード君です。日本語で言うとカツオドリのことですね。ガラパゴスあたりに住んでいて、はるばる日本にも夏場は小笠原あたりに飛来するそうです。「僕はペンギンじゃないよ」というのがキャッチフレーズなんですが、この首の独特の形がかわいいですね。ブービーというのはスペイン語起源の「間抜け」といった意味で、よくゴルフコンペなどでブービー賞というのがありますが、あれと同じ言葉です。人を疑わない鳥だったのでこういうあだ名が付いたようで、日本人がアホウドリという名を鳥につけたのと似たような発想でしょう。
 それで、このブービーバード君は単なるぬいぐるみではなく、アメリカはユタ州のハリケーンという人口1万5000人ほどの町に本拠を置くCHUMS(チャムス)というアウトドア・ブランドhttp://www.chums.jp/のマスコットなのです。チャムス社は今年創業30周年。川下りのガイドをしていたマイク・タゲット氏が、激流でもサングラスが落ちないような固定バンドを考案。これがスウォッチ社の目に留まって思いがけない大量受注。これを機に規模を拡大し、服やバッグなどにも手を広げ、日本でも表参道に直営店をオープン・・・と成長著しいアウトドアブランドです。
 で、このブービーバードも公式通販でちゃんと販売しています。これもタゲット氏がオリジナル・デザインしたそうですが、なんともユーモラスですね。


2013年10月07日(月)
 土曜日の日刊ゲンダイに載せた「鉄板!おしゃれ道」の「プロデューサー巻き」の記事について、以下のような書き込みがありました。

コメント
> プレップスクールの解釈の間違いに付いて。
> プレップとは、私学の事で、予備校ではありません。
> 間違った知識を正し、訂正をした方が宜しいです。
>
> 投稿: TED LEE | 2013年10月 7日 (月) 14時22分


 これに対しまして、私は下のような書き込みを返しました。

> TED LEE殿
>
> プレパラトリースクールが私学のことで、日本で言う、受験で浪人した人が通う予備
> 校でないことぐらいは、さすがに浅学の私でも存じております。本文でも「予備学校」
> と書いてあったはずです(いうまでもなく記事は編集部の手がものすごく入っています
> が、ここはそのままだったのでは)。
> 明治の日本では、大学予備門というのがありましたが、あれも今の日本で言う予備校
> ではありません。大学の前に通う学校の意味です。
> そういうわけで、紙面の都合で説明が不足していたことは認めますが、「間違った知
> 識を正し、訂正をする」つもりは全くありませんのであしからず。
> ついでに老婆心で申しますが、こういうときに書き込む場合は、鬼の首を取ったよう
> に得意になって書くのでなく「きっとご存じかとは思いますが・・・」とか「・・・と
> 書く方がよかったのではないでしょうか」などと書かれては如何でしょうか。私ならそ
> うします。
> なぜなら、断定的な書き込みは、あなたの不遜さや人間的小ささが際立つだけだから
> です。お元気で。
>
> 投稿: 辻元よしふみ | 2013年10月 7日 (月) 17時21分

 しかしながら、紙面の都合もあり、また米国の学校制度のことなど長々と書いても、あくまでもプロデューサー巻きについて興味のある普通の読者からしてみると、どうでもいい話題ですから、ごく単純に「プレップ・スクール(大学予備学校)」と書いたわけですけれど、やはり読解力のたりない人などは、駿台予備校みたいなものを連想するかも知れません。それで、ここで補足をしておきますと、アメリカの中等教育は普通、9年生〜12年生の4年間かと思いますけれど、公立、市立を含めてハイスクール、というのが担っていまして、これが日本語訳で「高校」なわけです。しかし、大学進学を前提とした人は、大学教育を受けるための予備教育を受けるユニバーシティ・プレパラトリー・スクールというのに通うわけです。これを直訳すれば「大学予備学校」で間違いありません。そして、おおむねは私立学校です。また公立高校でも進学クラスを選抜した公立のプレップ・スクールを設けているところもあるそうです。
 オバマ大統領の母校プナホウ・スクールなどは高校レベルまで12年一貫制プレパラトリー・スクールです。こういう事例もあり、日本の進学高校のような「高校」という翻訳は出来ないわけで、日本でいうなら「大学予備学校」というしかないわけです。

2013年10月05日(土)
きょう10月5日発売「日刊ゲンダイ」のp12に私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第11回が掲載されました。今回は「なぜプロデューサー巻きが復活したの?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は10月19日発売号の予定)です。


2013年10月02日(水)
 10月に入りまして、かなり気温は下がりましたが、台風が来ているのでまだ蒸し暑いですね。今日は病院に行った帰り、その近くの公園で虹を見ました。久しぶりに全形がはっきりした虹を目撃しました・・・何かいいことでもあるでしょうか? いよいよ2013年も年末ですね。

2013年9月26日(木)
 話題作の公開が続く初秋。このほどニール・ブロムカンプ監督の新作「エリジウム」Elysiumと、ジョナサン・レヴィン監督の「ウォーム・ボディーズ」Warm bodiesを見ました。いずれも公開後の評価が高く、期待していた作品です。
 ◆   ◆   ◆
 エリジウムは、「第9地区」(2009年)で南アフリカから世界に衝撃を与えた奇才ブロムカンプの新作であり、マット・デイモンやジョディ・フォスターといったハリウッドの大物を起用して、かなり前から期待の高まっていたSF大作です。
 西暦2154年、人口爆発と環境の悪化で地球は生存の危機を迎えています。世界の二極化は極端に進み、富裕層は軌道上の宇宙ステーション「エリジウム」に住んでいます。ここは争いも病気も克服されたまさに人類の理想郷。最新鋭の医療技術で白血病やガンなどの難病も瞬時に完治するほどです。一方、荒廃した地球上に取り残された大多数の人々は貧困にあえいでいます。エリジウムの防衛長官デラコート(ジョディ・フォスター)は地球の貧困層がエリジウムに密航することを断固、阻止する強硬な方針を貫いていますが、そのために政府高官たちとは対立関係にあります。
 地球のロサンゼルスにて、かつては無法者として鳴らしたマックス(マット・デイモン)は、逮捕されて保護観察の身となってからは、おとなしく軍事企業アーマダイン社の仕事をしています。しかし不慮の事故により放射線を被曝、余命5日の運命と告げられます。絶望したマックスですが、友人の元ギャング仲間フリオ(ディエゴ・ルナ)と共に闇の世界の頭目スパイダー(ワグネル・モウラ)を訪ねます。エリジウムに行って先端医療を受ければ、死なないで済むかもしれません。スパイダーは、マックスのエリジウムへの密航を助ける代わりに、富裕層の脳内にあるチップから資産情報を盗み出すという条件を提案。
 マックスは、アーマダイン社の経営者カーライル(ウィリアム・フィクトナー)を襲撃し、フリオを失いながら、その脳内情報を奪取することに成功します。しかしそれは予想を超える内容で、カーライルがデラコート長官と結託して企んでいた巨大な陰謀につながる機密情報を含んでいました。デラコート長官は、残忍さで知られる悪名高い傭兵クルーガー(シャールト・コプリー)にマックスを捕らえることを命じます。傷ついたマックスは、幼馴染で看護師になっているフレイ(アリス・ブラガ)の手当てを受けますが、そこで彼女の幼い娘が白血病で瀕死であり、エリジウムの先端医療を受けなければ助からない、という事実を知ります。クルーガーはマックスの立ち寄り先を調査する中で、フレイと娘を拉致。一方、マックスは自分の脳内情報を渡す代わりに治療を受けることを条件に、クルーガーに投降します。こうしてマックス、フレイとその娘はデラコートが待ち受けるエリジウムに向かうことに。一方、スパイダーたちもマックスの脳内情報が持つ価値の大きさを知り、エリジウムに潜入することになります。かくて、世界の未来をかけた戦いの幕が切って落とされることに・・・。
 ということで、なんといっても興味深いのがエリジウムで富豪たちが各家庭に標準装備している医療ポッドという装置。これで全身をスキャンすればものの数秒で病気を探知、それからまた数秒で「完治しました」というメッセージが出る代物。もはや病気というものは、エリジウムでは恐れるようなものではないのです。だから富裕層は事実上、不老不死に近く、デラコートも若く見えますが、なんと108歳という設定。しかし貧困層は死んでいくしかない、ということに。まあしかし、こういう技術があることがわかっているなら、一部で独占しておく、というのは実際には難しいような気もしますけれどね。
 ほかにも面白い描写は多くて、たとえばエリジウムの上流階級では社交の場の言語はフランス語になっていたりします。一方、ロサンゼルスでは英語とスペイン語が半々になっていて、もはやスペイン語の方が通りがいい。なるほど、ありそうな設定です。
 とにかく人がたくさん死ぬ展開になっていまして、見終わった後はかなり暗いです。アクの強さで知られ、「ローン・レンジャー」では主役を食うほどの存在感を見せたウィリアム・フィクトナーがせっかく出ているのに、あまり活躍しないのがちょっと残念。「第9地区」のちょっと情けない主人公から、今回は常軌を逸した殺人鬼的な性格の傭兵を演じるコプリーの熱演ぶりは見ものです。
 ◆   ◆   ◆
 ウォーム・ボディーズは一転してゾンビ映画ですが、よくあるこの種の作品と一線を画するコメディー作品となっています。原作はアイザック・マリオンの『ゾンビRの物語』という小説で、決して大作というものではなかったのですが、内容のユニークさでヒットし、話題作となっています。
 一言で言えば、ロミオとジュリエットを人間の女性とゾンビの男性の話に置き換えた、ということですが、特に面白い設定なのが、ゾンビというのがよくある、心も知性も人格も失った全くの屍(しかばね)ばかりではない、というところ。感染した被害者は徐々に記憶を喪失して肉体と人格が崩壊し、かなり時間をかけて死体化、最終的には完全な化け物である白骨化したガイコツになる、ということになっています。よって、感染初期のゾンビはまだまだ自立的にものを考えたり、感じたり・・・そして人を愛することすらできる、というわけですね。そんな一人のゾンビとなりつつある若者が起こした奇跡の物語、なわけです。
 世界のゾンビ化が進む終末の世界。初期ゾンビの青年R(ニコラス・ホルト)は、自分の頭文字がRだったこと以外は過去の記憶を失い、何もかも分からなくなり、進行していく自分のソンビ化と戦っています。空港に留まっている旅客機を住みかとし、レコードを聴いたり、いろいろなコレクションを眺めたりしながら、少しでも人間性を失わないように努力しています。
 ある日、人間狩りの最中、人間の少女ジュリー(テリーサ・パーマー)と出会い、彼女を好きになってしまいます。初めは恐れていたジュリーも、Rに人間性が残存している事実を知り、そして愛する心から彼が徐々にゾンビから「人間化」していくことを悟ります。Rとジュリーの関わり合いを見たRのゾンビ仲間M(ロブ・コードリー)も、自分の中で人間性が回復しつつあることに気付きます。
 しかし、ジュリーの父親グリジオ大佐(ジョン・マルコビッチ)はゾンビ狩りの指揮を執る軍の部隊の指揮官。当然ながら娘がゾンビと交際することなど認めるはずもありません。人目を忍び、ロミオとジュリエットのように禁断の愛を実らせていく2人は、彼ら2人の関係のみならず、やがて世界に大きな変化をもたらしていくことになります・・・。
 というわけで、初めはコミュニケートもままならないゾンビRが、だんだん表情も豊かになって人間に戻っていく様が感動的に描かれます。面白い設定なのが、人間の脳みそを食うとその相手の記憶を手に入れることができる、という設定。それでRは、ジュリーの恋人だったペリー(デイヴ・フランコ)の脳を食ってジュリーの生活ぶりやペリーとの関係を知る、というのがユニークかつブラックです・・・が、そこはコメディーなので、あまり深刻な話にはなりません。そして、ゾンビ化そのものは感染症の一種なのですが、ゾンビからガイコツになるのは本人の気の持ちようが大きく、人間性を放棄し、絶望した者がいち早くガイコツに堕落していく、という描き方が興味深いです。
 Rが音楽好きという設定なので、たくさんの挿入曲が効果的に使われています。「プリティ・ウーマン」のような定番曲などいろいろですが、中でも前奏だけですが、スコーピオンズの名曲「ロック・ユー・ライク・ア・ハリケーン」が使われているシーンには個人的ににんまりしてしまいました。
 「ジャックと天空の巨人」で注目されたホルトの、ゾンビになっても爽やかな好青年ぶりが大注目。この人はこれからもっと活躍しそうです。「魔法使いの弟子」などで知られるヒロインのパーマーの生き生きした魅力も印象に残ります。いつもながらどこかつかみどころのない怪優マルコビッチが、やや狂信的な軍人役で映画の格を上げています。そして本作ではチョイ役といえるのですが、ジュリーの彼氏ペリーに扮したデイヴ・フランコ。この人は「スパイーダマン」「オズ」のジェームズ・フランコの実弟で、今後も出演する大作が待機しており有望株です。
 ◆   ◆   ◆
 しかしながら、最近は終末的な近未来をテーマにした映画が多いですね、異常な気象や災害、環境問題や人口爆発、経済の動揺など、世界的に時代の気分なのでしょう。そんな中で見た上記の2本ですが、かなり暗い「エリジウム」と、心温まる「ウォーム・ボディーズ」。対照的な持ち味の両作、もし私のように2本立てで見るなら、やはりこの順番で見るのがよろしいかと思います。まずビターなもの、そのあとは口直しに・・・という具合。しかしどちらも好評な理由がよく分かる、とてもよく出来た映画だったと思います。

2013年9月22日(日)
 芸術の秋というものか、話題の映画の公開が結構、続きます。ということで今度は「ウルヴァリン:SAMURAI」The Wolverineを見てきました。昨年、レ・ミゼラブルで本格派としての演技力、歌唱力、存在感を見せつけたヒュー・ジャックマン。そちらの撮影を優先して、本作の方は予定より進行が少し遅れたそうですが、しかしなんといっても彼の出世作はこのX-MENシリーズのウルヴァリンことローガン役。それで、本作の位置づけはウルヴァリン単独シリーズの第2作なのですが、「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」(2009年)の続編と言うよりは、むしろ「X-MEN ファイナル・ディシジョン」(2006年)の後を受けた作品といえそうです。舞台となるのは日本。80年代に発表されたウルヴァリンが日本で活躍する原作コミックを下敷きにした映画化です。
 2006年の人類とミュータントとの戦争で、愛する女性ジーン(ファムケ・ヤンセン)を自らの手にかけて殺してしまったローガン。不老不死の身もあって生きる目標を見失い、仲間たちとも分かれ、カナダの山中で世捨て人として孤独に暮らしていますが、夜な夜なジーンの登場する悪夢にうなされています。ある日、山で友だちになったクマが心ないハンターの毒矢を受けて殺されます。久々に怒りに燃えたローガンはハンターを殺してしまおうとしますが、謎の日本人女性ユキオ(福島リラ)に止められます。そして、太平洋戦争の末期に、長崎の捕虜収容所でローガンが原爆の直撃から命を助けてやった日本軍将校・ヤシダ中尉(若年期は山村憲之介、晩年はハル・ヤマノウチ)が、戦後に大財閥の総帥として成功し、東京でローガンを待っていると告げます。
 ユキオに伴われて東京を訪れ、ヤシダの本拠地に赴いたローガン。がんに侵されて余命幾ばくもないヤシダから「来てもらったのはお礼を言いたかっただけではない。死ねないということは不幸なことだ。ローガンさん、私が君に死を与えてやろう」と言われます。その夜、あやしげなヤシダの主治医グリーン(スヴェトラナ・コドチェンコワ)から口づけされたローガンは、自分の身体に異変が起きていることに気付きます。
 直後、ヤシダが急死。ヤシダ財閥の後継者に指名されたのは孫娘のマリコ(TAO)で、その父親でありヤシダの息子であるシンゲン(真田広之)は怒りを爆発させ、マリコの婚約者で現役閣僚のモリ(ブライアン・ティー)も怪しげな動きを見せます。不穏な雰囲気の中、盛大なヤシダの葬儀が催されますが、ここでマリコはヤクザたちに襲撃され拉致されそうになります。長年、ヤシダ家に仕える忍者集団の一員ハラダ(ウィル・ユン・リー)が支援する中、ローガンはマリコを助け出します。しかし自分が不死身でなくなりつつあることを知って彼は愕然とします。2人ははるか西方の地、長崎にあるヤシダの別邸に逃れますが、ここにも追っ手が迫り・・・。
 ということで、不死身のはずのウルヴァリンが傷つき、死の危機を迎えるというストーリー。そして、全く文化の違う異国の日本で、一層の孤独にさいなまれながら、自らを見つめ直す、というのが話の肝。かなり誇張された日本の描写は、我々から見ると変なところも多々ありますが、かつての日本を舞台にしたボンド映画「007は二度死ぬ」(1967年)あたりから比べると、随分、外国の人の日本理解も進んだのかな、とも思えます。見ていまして全体の雰囲気や展開が、あのボンド映画にちょっと似ている気がします。
 よくこの手の映画では日本人の命名が、日本人から見て不自然なことも多いですが、ユキオ(雪緒)がちょっと男性みたいですが漢字にすればありえなくもない、マリコ(真理子)はもちろん合格、ヤシダ(矢志田)という姓は聞き慣れませんが、あっておかしくもないでしょうね。しかし息子の名前がシンゲン(信玄)というのは、あり得るとは思いますけれど、ちょっとなあ・・・。もっとも、こういうキャラクターの名前はすでにウルヴァリンを主人公にした原作コミックで既に何十年も前に確定しているものなので、今回、新たにつけたものではないからどうにもなりませんね。
 また、日本人の出演者はもちろん、他国籍の出演者の日本語もまずます違和感がありません。沖縄出身のブライアン・ティーが上手なのは当然かもしれませんが、韓国系アメリカ人であるウィル・ユン・リーは終盤、かなり長い日本語台詞がありますが、立派にしゃべっています。ところで007といえば、ローガンがある人物を高い窓から突き落とすと、下にプールがあって助かる、それでユキオが「プールがあるって知ってたの?」と聞くと「いいや、知らなかった」と答える・・・このやりとり、「007 ダイヤモンドは永遠に」(1971年)のパロディーじゃないでしょうか。
 TAOさんと福島リラさんという2人の日本人女優が熱演しております。いずれも元々、ランウェイで国際的に活躍するモデルさんですが、新鮮な演技で、日本的な魅力をうまく引き出しています。日本刀を使った派手な立ち回りなど大変だったと思いますが、よくやっています。真田広之さんは・・・二刀流を鮮やかに操るアクションはさすがに見事です。しかし筋立て上は、不死身のウルヴァリン相手ではどうしても引き立て役になって、いかにも不肖の息子という役回り。印象的にはちょっと気の毒かも。いいところありません。ですがパンフレットによれば、やはり殺陣のシーンは真田さんが完全に仕切って、共演者にも指導していたとのこと。刀をすべて寸止めで上半身裸のジャックマン相手に決めるのは、大変な技術が必要だったそうです。ジャックマン本人も鍛え抜かれた肉体を見せつけていますが、18か月もトレーニングしたとか。役者さんは大変です。
 それから前作で死んだはずのジーンを演じるファムケ・ヤンセンの出番がかなり多いですので、もうこのシリーズでは彼女に会えないかも、と思っていたファンは必見。そして・・・この作品はエンドクレジットがしばらく続いた後で追加のシーンがあるタイプの作品なので、慌てて席を立たないことをお薦めします。
 それに関連して申しますが・・・今作には意外にも、前作で退場したかに見えたマグニートー役のイアン・マッケラン、エグゼビア役のパトリック・スチュワートが出演しているのです。これが何を意味するのか? このへんは見てのお楽しみであります・・・。


2013年9月21日(土)
きょう9月21日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第10回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「ワイシャツの胸ポケットって必要?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は10月5日発売号の予定)です。


2013年9月20日(金)
 日中こそまだ油照りですが、なんだかんだと朝晩はかなり涼しく秋めいてきましたね。今回は「キャプテンハーロック」SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCKというのを見ました。はっきりいってかつての人気アニメを下敷きにした実写化作品などはあまり成功例がありません。最近でも「ガッチャマン」が大苦戦、といううわさ。それで、この「ハーロック」は実写化ではなくてフルCGアニメ化なのですが、こちらも結構、苦戦中とは聞いています。
 とはいえ、一体なにゆえ、今になってあの松本零士作品が制作されるのか、モーションキャプチャーまで使用したフルCGはどの程度の出来栄えなのか、というのは大いに興味があり、見に行ってみたものです。
 率直な感想ですが、おそらく全く予備知識のない若い人などが見るなら、ちょっと内容に未消化なものがあるかもしれないが、筋立ての起伏はあって面白い作品だと思います。一方、1970年代、80年代あたりに夢中になった方々が「あのハーロック」を求めて見るなら、やっぱりちょっと違う、と感じるのではないでしょうか。
 もちろんハーロックは黒マントに重力サーベルを下げ、その肩に乗るトリさん、副長にヤッタラン、ブリッジにはケイ、おなじみ異星人のミーメ・・・と基本的には「あのハーロック」そのままでして、まるで実写のような再現でこういうキャラクターがどう動くのか、というのはひとつの見ものです。しかし、古いファンが期待するに違いない・・・たとえば999号とかメ―テルやクイーン・エメラルダスは登場しません。もちろんヤマトや古代守も出てきません。実を言うと私なんかはそういう方まで広げてくれるのかな、と思っていたのですが、まあ今回の作品は松本ワールドの映画化というよりは、むしろ脚本担当の福井晴敏さんの世界のような気がします。要するに「亡国のイージス」とか「終戦のローレライ」の雰囲気の方が見終わった後の感じは近いような。まあ、かなり話が暗いんですね。そしてまあ良くも悪くも真面目。松本零士的な作品というのはどんなに過酷でシリアスな内容でもどこかに余裕があって、ペーソスや詩情、ロマンを感じさせるのが特徴です。本作はそのへん、かなり堅い作風のような気がしました。
 特に設定は全く本作のオリジナルといってよい。中央政府にたてつく一匹狼の宇宙海賊ハーロックが戦艦アルカディア号と40人の仲間とともに宇宙を行く、というところ以外は全然、かつての漫画やアニメとはかかわりがないです。地球侵略を企むマゾーンなんてものも出てきません。ハーロック誕生や、アルカディア号の成り立ちの経緯も全く本作独自の解釈となっています。
 おそらく遥かな未来。星間航行技術を確立した人類は銀河の遠くまで散らばり植民し、ついには5000億人もの人口を抱えるように。しかし異星文明と出会うことはなく、唯一、滅亡寸前だったニーベルング族と接触できただけでした。宇宙の悠久の時間の中では文明の繁栄など一瞬にすぎず、他の星間文明と同時代にピークを迎えて接触することなど出来なかったのです。このため、人類は宇宙開発に失望し、故郷の地球に戻ることを考えるようになります。しかし5000億人がみな帰還すれば地球はもちろんパンクしてしまう。そこで地球の居住権をかけてはてしない大戦争「カム・ホーム」戦争が繰り広げられます。この戦争を調停するべく人類は最高統治機関ガイア・サンクションを設立。地球は神聖不可侵の星として、何人も近寄らないことと決定しました。そして、地球に近づく者たちを倒す切り札として、ニーベルング族が開発した謎のダーク・マター機関を搭載したデス・シャドウ級戦艦4隻を投入。その4番艦アルカディア号を指揮していたのが若きハーロック大佐(小栗旬)でした。
 しかしこの戦争の終盤、突然、ハーロックはガイア・サンクションに反旗を翻し、アルカディア号を奪って宇宙海賊となります。ダーク・マターの力のためか不老不死となったハーロックはそれから実に100年にわたり、地球政府に歯向かい続けることになります。
 そして1世紀の後。乗組員を補充するアルカディア号に、一人の新人が加わりました。彼の名はヤマ(三浦春馬)。実は彼はガイア・サンクション直轄の宇宙艦隊ガイア・フリート司令官イソラ(森川智之)の実弟で、ハーロックを暗殺するために潜入したのです。ヤマはかつて自らの過失で、大事故を引き起こし、兄のイソラを足の不自由な身体にしてしまった過去を引きずっています。また、密かに愛情を向けていた幼馴染のナミ(坂本真綾)も、この事故をきっかけにイソラの妻になってしまいました。
 ハーロックは宇宙の各地の惑星に、中央政府から奪った強力な破壊兵器、次元振動弾を設置し続けていることが判明。ですが、ニーベルング族の生き残りでハーロックの腹心であるミーメ(蒼井優)を除いては、ヤマにはもちろん、ベテランのヤッタラン(古田新太)をはじめクルーたちにも、その本当の目的は分かっていません。ハーロックは99番目の目標として惑星トカーガに次元振動弾を設置することを決め、任務に志願したヤマとケイ(沢城みゆき)を派遣。しかしそこでアクシデントが起こり、ヤマはケイを助けつつ自分は絶体絶命の危機に陥ります。すると、ハーロック自らが単身でその危険な場所に赴きヤマを救出します。「初めから気付いていたはずだ、俺の任務はあんたを暗殺することだ」というヤマに、ハーロックは「自由を求めてアルカディア号に乗った、と言ったな。ならば自分を縛るものと戦え。それで出た答えなら、いつでも俺を撃て」と言い放ちます。
 そしてハーロックは100番目の設置目標として、地球を選びます。これを待ち受けるのはイソラが率いるガイア・フリートの大宇宙艦隊。集中攻撃を受けながら、イソラの作戦を次々に突破してアルカディア号は地球に接近していきます。イソラはヤマが自分を裏切ったことを知り、さらに妻のナミが作戦情報をヤマを通じてハーロックに漏らしていることを悟ります・・・。
 というような展開でして、スケールが大きいし、映像は申し分なし。いまの最先端技術のほどが良く分かります。戦艦や艦載機の戦いは、実は昔のアニメよりもこういうフルCGの方が再現しやすいのではないでしょうか。「ああ、リアルに描くと宇宙戦ってこんな感じなのか」という納得感がありますね。
 原作のイメージに一番、近いのはミーメじゃないでしょうか。これも、リアル化するとこんな感じと言うのが興味深いです。そして、実を言うといちばん驚いたのがトリさんです。これも原作のイメージどおりなのですが、声は合成ではなくて、福田彩乃さんが演技しています。一生懸命、キジやペリカンの鳴き声を研究してトリさんになりきってアフレコに挑んだそうです。
 ということで、見どころはあるしお話も、かなり暗めな展開ですが面白い作品だと思うのですが・・・後は、観賞する方が「あのハーロック」だとは思わずに見られるかどうか、という感じを持ちました。まあ、思い入れが強い人は「違う」というだろうな、とは感じた次第です。
  

2013年9月13日(金)
 一部で話題になっていた映画「マジック・マイク」MAGIC MIKEを見ました。話題作を連発するスティーヴン・ソダーバーグ監督の作品で、アメリカでは大ヒットを記録、日本でもちょっと前から都内などで公開していましたが、今月になって浦安にも回ってきたものです。
 これはアメリカでも決して一般的ではない「男性ストリップ・クラブ」をテーマにしたものでして、製作・主演のチャニング・テイタムが無名時代に実際にやったストリッパーとしての経験を基にしています。マッチョなアクション・スターというイメージの彼が、こんな経験をしていたのは驚きですが、さらにこの世界を映画化することを彼自身が希望し、ソダーバーグ監督に売り込んだそうです。男性ストリップ映画といえば「フルモンティ」という作品が有名ですが、今作はさらに実体験を交えてリアルにこの世界が描写されているのが興味深いです。
 鍛え抜かれた男性たちが、セクシーかつ見事なダンスや寸劇を繰り広げる・・・ということでちょっと日本人が思う隠微なストリップという感じはありません。なにかあっけらかんとしています。出演者はみな、テイタム以外はもちろんストリップ経験などありませんが、おそらくオファーされた時はためらいもあったでしょうけれど、とても楽しそうにストリッパーを演じているのが印象的。
 フロリダ州のタンパで、週末になると人気の男性ストリップ劇場エクスクイジット。30歳になるマイク(テイタム)はここの看板スターで、もう6年間も「マジック・マイク」の名で出演しています。ほかに瓦葺きや洗車などもしていますが、本当は家具職人として起業したいと思ってお金をためています。劇場のオーナー、ダラス(マシュー・マコノヒー)はマイクを右腕として重用していますが、しかしなかなか共同経営者としては認めてくれません。
 瓦葺きの現場で知り合った学生崩れの若者アダム(アレックス・ペティファー)を見込んだマイクは、彼を劇場に連れてきます。突然のアクシデントでショーを埋める必要に迫られたマイクは、アダムをステージに上げてストリップ・デビューさせます。ダラスもアダムを気に入り、制式に雇うことに。マイクは弟分としてアダムの面倒を見ますが、ストリップの世界にのめり込んでいくアダムは、やがて危険な世界にも足を踏み入れて行ってしまいます。一方、アダムの姉のブルック(コディ・ホーン)に一目ぼれしたマイクですが、彼女との距離はなかなか縮まりません。それに銀行はなかなか融資してくれず起業の目途が立たない、おまけに長年のガールフレンドだった医学生ジョアンナ(オリヴィア・マン)にもふられてしまいます。着々とタンパを捨て、マイアミに大劇場を開こうとするダラスとも意見が対立。人生に迷いを覚えたマイクは、ついにある決断をすることに・・・。
 ということで、テイタムのダンスは見事なもので、本当に目を奪われます。それから、オーナー、ダラス役のマシュー・マコノヒー。彼はオーナーですので基本的には経営とMCに徹して舞台からは引退していますが、終盤、タンパでの最後のショーで自らステージに立ち、歌を披露し、さらに69年生まれ(ということは撮影時には42、3歳だったのでしょう)にもかかわらず見事な無駄のない肉体美をさらしてストリップを見せてくれますが、これがすごいインパクト。このワンシーンで、マコノヒーはニューヨーク映画批評家協会賞の助演男優賞ほか、少なくとも五つの章を総なめしたそうです。本作で一番、得をした一人かも知れません。
 アダム役のぺティファーやケン役のマット・ボマーなど伸び盛りの若手が魅力的。それに元プロレスラーのケヴィン・ナッシュもさすがの筋肉美で、いい味を出しています。
 まだまだ無名に近いコディ・ホーンは元ワーナー社長の令嬢という本物のセレブ。彼女もとても魅力的で、裸の男性がメインの本作でいいバランスをとってくれています。エルヴィス・プレスリーの孫娘ライリー・キーオが大事な役どころで出ているのも見逃せません。
 まあ事実そのものではないにせよ、アメリカのある文化の側面を見事に描いている作品でもあります。しかしそういう堅い話はなくて、とにかく面白い映画ですし、また意外にも青春純愛ものでもあります。おそらく今月いっぱいぐらいが最後のチャンかな、と思いますので、興味がある方はぜひ今のうちにお見逃しなく・・・。

2013年9月07日(土)
きょう9月7日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第9回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「紳士は帽子をかぶるべきか?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は9月21日発売号の予定)です。


2013年9月06日(金)
 「マン・オブ・スティール」MAN OF STEELなる映画を見てきました。全く予備知識のない方なら「鋼鉄の男? スターリンの伝記映画か?」と思われるかもしれませんが、これは新しいスーパーマンの映画化です。しかし正式名称にはスーパーマンのスの字もないのが興味深いところ。すでに何度も映画化されており、なんで今さら、と言われかねない題材です。しかし、近年の映像技術の進化からして、やはりこのまま埋もれさせてしまうには勿体ない。何しろ1933年に同人誌に登場したスーパーマンは、すべてのアメコミ・ヒーロー、そしてすべての超人ものの元祖。すでにこびりついていしまった手垢を落とし、全く新しい映像としてスーパーマンを再生させたい、というこの難しい仕事を、「バットマン」シリーズを再生させたクリストファー・ノーランが原案・製作、「300(スリーハンドレッド)」で驚くべき映像美を見せつけてくれたザック・スナイダー監督がメガホンをとって見事に成し遂げた一本となっております。
 物語の大枠としては、むしろ旧来のスーパーマンをかなりきちんと踏襲しています。滅亡したクリプトン星から赤ん坊の状態で逃れて地球に飛来し、カンザス州で農業を営むケント夫妻に育てられ、デイリー・プラネット新聞の女性記者ロイス・レインと出会って恋に落ち、やがて自らも同社の記者という身分になって世界の危機を救う・・・という展開は全く元のままで、リメイクものにありがちな、奇をてらった余計な手を入れていないところが好感を持てます。実は私は個人的には、スーパーマンの職業が変わるのではないか、と予想していました。新聞というメディアがアメリカでは衰退著しく、実際にコミック版のスーパーマンの新作では、IT系の企業に在籍する設定に変わってしまったように聞いており、今回の新シリーズもそういうアップデイトの変化はあるのかな、と思ったのです。しかし今作では「世界中の情報が集まりやすく、危険なところに乗り込んで行っても詮索されない仕事」としてやはりデイリー・プラネット社が健在です。なるほど、情報の部分だけなら、今ではネットでいろいろ手に入るのでしょうが、「危険なところに乗り込んでいく」という要素、事件や事故の現場に、軍人や警察官のような組織に属さずに乗り込んで違和感がない民間の職業と言えば、今でも旧来のメディア関係、新聞とテレビの記者しかない、といえそうです。
 10万年にわたり高度な文明を築いてきたクリプトン星。かつては宇宙のあちこちに偵察隊を派遣し、植民と資源確保を図って宇宙規模の大帝国を展開していました。しかし文明は衰退期に入り、厳格な遺伝子管理で、初めから指導者、科学者、軍人、労働者・・・などと赤ん坊は素質ごとに分類されて「生産」され、退嬰的で変化を嫌う元老院が支配するようになると、各地の植民星は放棄され、資源を掘り尽くし、ついにクリプトン星の最後の時が迫ってきました。無能な元老院に反旗を翻した軍部の高官ゾッド将軍(マイケル・シャノン)と女性副官ファオラ(アンチュ・トラウェ)らはクーデターを起こし元老院を掌握。しかしこれに反発した科学者ジョー・エル(ラッセル・クロウ)は、妻のララ(アイェレット・ゾラー)との間に自然分娩で生まれた赤ん坊カル・エルに、クリプトン星人の全遺伝子データの雛型であるコデックスの情報をすべて注ぎ込んで、脱出ポッドで逃します。怒ったゾッドはジョー・エルを殺害しますが、やがて巻き返しを図った元老院側に逮捕され、反乱は鎮圧されます。しかしもはや時間は残されておらず、クリプトン星は大爆発を起こして消滅しました。
 それから33年後。あちこちで超人的な能力を発揮して、人命救助をしては去っていく謎の青年クラーク・ケント(ヘンリー・カビル)の姿が遠く離れた地球にありました。彼は子供のころから自分の能力を持て余し、地球での父ジョナサン・ケント(ケビン・コスナー)から、自分の正体が異星人であることを教えられると、自分探しの旅に出ていたのでした。そのころ軍部はカナダ北部で、約2万年も昔に謎の異星人が残したらしき宇宙船を発掘。取材に訪れた女性記者ロイス・レイン(エイミー・アダムス)はそこで、宇宙船に乗り込むクラークの姿に気づき、後を追います。宇宙船の防衛機能に攻撃され負傷したロイスを、クラークは助け、宇宙船を操って姿を消します。ロイスはクラークが異星人であることを確信し、取材を重ねて、カンザスに住むクラークの母マーサ・ケント(ダイアン・レイン)の元まで訪れ、ついにクラークと再会します。ロイスはクラークに、正体を明かすべきだと言いますが、クラークは、地球の父ジョナサンから秘密を明かすのは早すぎる、地球人は彼を歓迎せず、恐れるから、と教えられており、その言葉にしたがって今は身を潜めていたい、と告げます。ロイスもその考えに納得し、秘密を守ります。しかしクラーク・ケントがそのままひっそりと生きることはできなくなります。クリプトン星消滅を逃れたゾッド将軍が、ジョー・エルの息子カル・エルが地球にいることを知り、部下を率いて地球にやってきます。そして地球人類に「地球人になり済まして潜伏している同胞を引き渡せ」と脅迫します。クラークがゾッドに投降しなければ、ゾッドは圧倒的な科学力と軍事力で、簡単に地球人類を滅ぼすことでしょう。クラークは行きずりの教会で牧師に尋ねます。「僕はあの話題になっている異星人です。僕が投降してもゾッドは侵略をやめるという保証がない。彼は信用できません。でももっと問題なのは・・・地球人も信頼できない、という点なのです」。牧師は答えます。「まずはあなたが信じてみることです」
 クラークはまず公然と姿を現し、ハーディー大佐(クリストファー・メローニ)に逮捕されます。尋問室に呼び出されたロイスはクラークの胸の「S」の字に似た模様は何かと質問します。これはクリプトン星では希望の意味だ、というクラークにロイスは「それは地球では、スーパー・・・」と言いかけますが、これ以後、誰が言うともなく、クラークはスーパーマンと呼ばれるようになります。クラークはゾッド将軍に投降しますが、実父の仇敵であるゾッドとクラークの間が丸く収まるはずもなく、ゾッドは地球を惑星改造してクリプトン化を図り、地球人類を滅ぼすことを決意。地球の命運をかけた両者の死闘が始まります・・・。
 というような展開で、従来のシリーズと比べてクリプトン星の描写が多くて詳細なのが注目されます。そして、スーパーマンの4人の親が今までなく出番が多く、親子の絆の物語という要素も強くなっています。実父にラッセル・クロウ、養父にケビン・コスナーと大物が配されているのは伊達ではなく、出番も多いし見せ場もたっぷりあるのが興味深い点です。
 自分探し中の放浪するクラークの描き方や、子供時代に周囲から疎外されて苦悩する描写も非常に自然で、今までにないもの。このへんが新感覚ですね。今までの優等生的で大らかな描き方ではないのですね。
 新スーパーマン役者のヘンリー・カビルは非常に魅力的です。今まで「インモータルズ」ぐらいしか大きな役はなかった人ですが、伝統的スーパーマンらしさと新しい若い感覚を併せ持ち、歴代のスーパーマンと比べても遜色はないのではないでしょうか。
 それから個人的に気になったのがゾッド将軍の副官ファオラ役のアンチュ・トラウェという人です。ドイツの女優さんですが、いかにも強い女性という感じで、非常に目立ちました。これでぐっと注目されてくるかもしれません。
 非常に詩的でひとつひとつの映像が美しく、感動的な作品に仕上がっていると思います。なんだスーパーマンものか、今さらだよね、と言って頭から切り捨てる方もいるかもしれませんが、そういう先入観でカットしてしまうのは非常にもったいないと思いました。お薦めです。

2013年9月02日(月)
 9月に入り、徐々に秋めいて・・・来ませんね、ちっとも。今年も秋らしい秋の気候は、ほとんどなさそうな気配ですね。ところで、このほど我が家に来た新しいぬいぐるみをご紹介します。ダチョウのドゥンガ君です。ご覧のように、まつ毛まで丹念に再現されております。素晴らしい出来栄えです。これは千葉県のカドリーhttp://www.shop-cuddly.com/というお店の商品です。ドイツなど欧州の高級ぬいぐるみに負けない高品質の国産品を創りたい、との高い志で活動されている会社と伺っています。しかし、手作りですし、材料も入手困難、とのことで、このドゥンガ君は現在、売られているものが完売したら生産中止の予定だとか。欲しい方は今がラストチャンスかと思いますので、ぜひ。

2013年8月29日(木)
 J・J・エイブラムス監督の新作「スター・トレック イントゥ・ダークネス」Star Trek Into Darknessを見てきました。冒頭で一言、申し上げるなら、本作はお薦め品です。とてもよく出来ています。
 言うまでもなく、スター・トレック・シリーズは1966年に始まったテレビシリーズ以来、劇場版映画も旧シリーズだけで10作も作られた大河SFシリーズです。扱う時代背景も22世紀から24世紀にまで及びます。しかしながら、さすがに近年はやや失速していたのも事実。そういえば近未来を扱ったシュワルツェネッガーの映画「バトルランナー」で、登場人物の一人の老人が「後は頼むぞ、ミスター・スポック」と言っても、聞いた若者が理解できず「それ、誰?」と聞き返して、老人が淋しく苦笑する、というシーンがありました。まあ、アメリカでも懐かしドラマという枠に入りかけていた証だと思います。しかし、2009年になってエイブラムス監督の手により新シリーズがスタート。その1作目の「スター・トレック」では、スポックに憎悪を抱くロミュラン人犯罪者がタイムワープして23世紀初頭に舞い戻り、歴史を変えてしまった顛末が語られました。これにより、お話は振り出しにリセット。旧作の時間軸では今さら取り上げるのは難しかったオリジナルの主人公、キャプテン・カークや若き日のスポックを軸にした新しい作品を作ることができるようになった次第。これ、人気シリーズが長く続くといろいろ苦労する点でして、たとえば宇宙戦艦ヤマト・シリーズでも第1作で死んでしまったはずの沖田艦長を後の作品でどうしても再登場させたくなって、実はあれは本当は死んでいなかった、という禁じ手で復活させる、などということもありました。黄金時代の設定で作り直したいけれど、どうしようか・・・というのはいずこでも悩みどころなのです。ここで無理のある話に説得力を出すため、旧作のスポックであるレナード・ニモイが登場し、旧シリーズとの接点として出演したのでした。
 こういう荒業でのリセットに、当然ながら旧作のファンからは一部で反発もあった模様です。また新作らしく、旧シリーズの世界観や設定は大事にしながら、アップテンポな演出はいかにも現代的となり、旧作のわりとゆっくりした重厚な人間劇に親しんでいた人からは、これは俺の知っているスター・トレックじゃない、という声もあったようです。
 しかし、新装第2作となる本作の出来栄えを見ると、シリーズに新たな息吹を吹き込むことに見事に成功したように思うのです。今作ではおなじみのクリンゴン帝国も登場しますし、例のクリンゴン語も語られ、いよいよスター・トレックらしくなってきます。それに、本作のカギを握る重要人物は旧作にもかかわりがあったりします。まあそのへんは旧作ファンには見てのお楽しみですが、しかし新1作目や、旧シリーズを全く見ていなくても問題なく楽しめるようにもなっていると思います。
 2259年、火山が噴火し大災害が起ころうとしている惑星ニビルを訪れたエンタープライズ号。宇宙艦隊では「ワープ航法を自力で開発していない未熟な文明とは接触、干渉してはならない」という厳しいルールがあります。キャプテン・カーク(クリス・パイン)は独断で災害を阻止して原住民を助けることを決意。しかし、火山に取り残された副長スポック(ザッカリー・クイント)を救助するため、宇宙船を原住民に見られてしまいます。ニビルの人々はそれまでの信仰を捨てて、どうもそれ以後、エンタープライズ号を御神体とする新しい宗教を作り上げて行ったようです・・・。さて、この規則違反をスポックが上層部に報告。生命を救ってやったのに、報告をする石頭なスポックの恩知らずな行動にカークは激怒しますが、もはや後の祭り。カークはキャプテンを解任され、エンタープライズ号の指揮権は前任者のパイク提督(ブルース・グリーンウッド)に戻されます。しかし、もともとカークを艦隊にスカウトした恩人であるパイクは、今回もカークに救いの手を差し伸べ、スポックは他艦に転属、カークを副長に降格して再任用します。
 さてそんな折、ロンドンの宇宙艦隊資料保管庫が、艦隊に属する一人の下士官の自爆テロ攻撃で破壊されます。この犯罪の手引きをしたのは、ジョン・ハリソン中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)。ただちに艦隊司令長官であるマーカス提督(ジョン・ウェラー)は幹部を招集し善後策を練りますが、この会議の席をハリソンが襲撃。パイクは銃撃を受け死んでしまいます。怒りに燃えたカークは、ハリソンがワープして逃げ込んだ惑星クロノスに赴き、ハリソンを追うことを希望。しかしこのクロノスは、艦隊と一色即発の緊張状態にあるクリンゴン帝国の支配下にあり、迂闊に手を出すと大戦争になってしまいます。マーカス提督はカークに、新型の光子魚雷で中立地帯から攻撃し、ハリソンを殺害するように命じ、エンタープライズ号のキャプテンに復帰させ、出動を許可します。
 しかし、この得体のしれない新兵器をエンタープライズ号に搭載することを、技師長のスコット(サイモン・ペッグ)が拒否。やむなくカークはスコットを解任して出発します。また新たに技術士官のキャロル(アリス・イヴ)が乗艦してきますが、スポックは彼女の素性を調べて不審を抱きます・・・。
 小型艇でクロノスに潜入したカークたちですが、クリンゴン軍偵察隊に捕まってしまいます。通信士官のウフーラ(ゾーイ・サルダナ)がクリンゴン語で交渉しますが、話は決裂。戦闘が始まってしまいます。絶体絶命の一行を救ったのは、意外なことにハリソンでした。さらに、カークたちが新型魚雷を持っていることを知ると、なぜかハリソンはあっさりと武器を捨てて投降してしまいます。さて、このハリソンの正体とは何か、そして、エンタープライズ号の前に突如、現れる超巨大戦艦の姿は何を意味するのか・・・。お話はクライマックスに向かいます。
 というような展開ですが、とてもテンポがいい、メリハリが効いている、良く練れていていい映画だと思います。今回はカークの指揮官としての成長ぶり、スポックとウフーラとの恋、それにしばしば人間的な感情を表す意外なスポックの姿・・・見どころはたくさんあります。旧作からの引用らしきシーンも多々、用意されていて、旧作ファンには嬉しいサービスでしょう。
 現代版「シャーロック」で新感覚のホームズを演じて絶大な人気を誇るカンバーバッチの存在感はさすがの一言。それから、「アバター」のゾーイ・サルダナや、「MIB3」のアリス・イヴら伸び盛りの女優陣の魅力も見逃せません。「ロボコップ」のピーター・ウェラーが貫録十分で、最高幹部の提督らしい重厚な演技。
 ちなみに、旧テレビシリーズ以来、カークの肩書キャプテンCaptainは「船長」と翻訳されてきており、ずっと踏襲されていたのですが、本作の日本語字幕ではキャプテンと英語のままでやっているようですね。実際、英語ではCaptainは非戦闘艦の長である「船長」でも軍艦の「艦長」でも同じ表現ですし、この映画の設定を見ていると、明らかに階級としての「大佐」の意味でも使われています。要するに、宇宙艦隊では階級と役職がリンクしている19世紀までの各国海軍のようなシステムになっていて、大型艦の長はキャプテン(大佐)、副長(First Officer)はコマンダー(中佐)、各科の先任士官リューテナント(大尉)と自動的になる模様。だからカークもキャプテンを解任されると無位無官になってしまい、副長として復帰すると中佐に、またキャプテンに戻れば大佐で船長に、となるようです。このへん、英語ではいずれの意味でもキャプテンの一語で済んでしまうので、日本語でもキャプテンとしているようです。
 そういえば、今作でも後半の重要な局面で、レナード・ニモイが出演します。旧作ファンはお見逃しなく。
 私は、この新感覚と旧作への敬意を併せ持つエイブラムス監督版スター・トレック、とてもいいと思っております。また同監督は今後、スター・ウォーズの新作も手掛けると聞いていますが、この力量ならきっとうまくやってのけるのではないか、と今から期待できそうですね。

2013年8月24日(土)
きょう8月24日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第8回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「大人の男が”ショーパン”ってアリ?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は9月7日発売号の予定)です。


2013年8月19日(月)
 通りすがりの銀座ソニービル前で、恒例のアクアリウムを見ました。小さなサメが泳いでいました。どうも今月いっぱい、こんな感じで全然、秋の気配にならない予感がしますが、実際にはまもなく9月に入ると、新年に向けた干支の置物づくりが始まるとか、クリスマスケーキの予約が始まるとか急に年末年始モードの業界が動き出します。来年向けの暦のたぐいも売り出され始めましたね。
 それにしても、秋という季節がなくなってきましたね、最近の日本は。10月になるまで30度超えのギラギラのまま、急転直下、ほんの1、2か月で氷点下近くまで、というものすごく厳しい変化が普通になってきました。で、冬は今度はけっこう長引き、5月に入る頃までコートが必要だったりする。ところがここからまた1、2か月で7月に入るや35度超え。世界的にもかなり変化の厳しい国なのじゃないでしょうか。
 そんなわけで、私も最近は四季ではなくて事実上、二季しかないという感じで、真冬ものと真夏もの以外の服は基本的にあまり買わなくなりました。中間物は着るとしてもまあ、5、6月の2か月しか使えない感じでしょうか。

2013年8月17日(土)
 近頃、マースカレーのオリエンタル商品づいている我が家。ここのラインナップは昭和レトロな魅力にあふれているのですが、今度は同社の通販サイトでいろいろ買い込んでみました。驚いたことに、昭和37年バージョンのおなじみマースカレー以前、昭和20年バージョンのおそろしくレトロなマースカレーも、いまだに商品として売られており、パッケージも70年前のまま。
 また、同社がレトルトカレーを売り出した当時、まだ日本では家庭で洋食を食べる文化がなく、フォークやスプーンといった西洋食器すら一般家庭にはなかった時代。それでカレーと一緒にオリエンタル坊やのロゴが付いたフォークやスプーンも作って売っていたのですが、これがいまだに現役の人気商品なんですね。
 それから、ハワイアングッズ店でよく見かけたるので、てっきり輸入品だと思っていたグァバジュースも、オリエンタルの商品だったことを今回、知りました。
 

2013年8月15日(木)
 ギレルモ・デル・トロ監督の話題作「パシフィック・リム」Pacific Rimというものを見ました。「パンズ・ラビリンス」や「ヘルボーイ」など、独特の詩的な美学あふれる丁寧な作りのファンタジーを得意とする同監督が、日本の映画界やアニメ界が得意とする「巨大怪獣VS巨大人型兵器」の死闘を最新技術でリアルに描いた異色作。アメリカでは事前の予想を超えて好調な初動といい、日本でも私が見た浦安・舞浜の映画館ではパンフレットが売り切れとなるなど、かなり好評のようです。実のところ、必ずしも人型兵器というものに思い入れがない私なのですが、これはさすがに、非常によく出来ています。この種の作品を相当にリサーチして作り込んでいるのではないでしょうか。ストーリー展開もこの手の、日本でよくみられるロボット系のアニメなどで王道のパターンの踏襲があちこちに見られます。その一方で、なぜ人類と怪獣たちとの戦いが起こっているのか、日本の怪獣ものではいまひとつ不明瞭なものが多いのですが、本作はそのへんもきっちり作られています。
 2020年、突如、太平洋の海溝深い裂け目から出現した巨大生物。これはサンフランシスコを襲い、街に壊滅的な被害を与えます。米軍は総力を挙げてこれを倒しますが、その後もこの巨大なモンスターは次々に現れ、環太平洋地域(パシフィック・リム)諸国の都市を襲います。この生物は、日本の特撮やアニメに登場する化け物にちなんでカイジュウ(怪獣)と呼ばれるようになります。そして、巨大な生物を倒すには、通常の軍備で対抗するより、人が操る巨人のようなパワースーツを用いた方が効果的だと悟った太平洋諸国は、共同でイェーガー計画を発動。人型の巨人ロボット「イェーガー」(ドイツ語で狩人)の開発に成功します。人の動きをダイレクトにイェーガーに伝えるため、脳の神経から意識を「ドリフト」して制御しますが、一人の人間の脳でこれを制御するのは負担が大きすぎるため、2人のパイロットが右脳、左脳で半身ずつ制御することになり、少なくとも2人以上で操るのがイェーガーの特徴。当然、ドリフト時に2人の意識が同調するほど制御もうまくいくため、パイロットは兄弟や親子、夫婦といった組み合わせが多くなります。
 イェーガーの活躍により怪獣は次々と倒され、パイロットたちはヒーローに。そんな中、戦争が始まって7年目、既に4体のカイジュウを倒して名を上げていたのがヤンシー(ディエゴ・クラテンホフ)とローリー(チャーリー・ハナム)のベケット兄弟。しかし、その日、出現したカイジュウは勝手が違いました。格段に強くなった敵に撃破され、ヤンシーは戦死。生き残ったローリーは軍を去りました。強力になったカイジュウに次々とイェーガーは倒され、ついに見切りをつけた各国政府により、環太平洋防衛軍も解散に。イェーガーに代わって、環太平洋の各都市に巨大な防壁を築くことが決まり、ローリーもその防壁を造る作業員となって過ごします。
 それから5年余。オーストラリアのシドニーの防壁を、さらに巨大化した「カテゴリー4」のカイジュウが突破。もはや防壁も役に立たないことが判明します。そんな中、元防衛軍の上官だったベントコスト司令官(イドリス・エルバ)が、ローリーを呼び戻します。最後に生き残っているイェーガーはたった4体。この少ない数で、カイジュウが出現する海溝に爆弾を仕掛けて塞ぐ最後の決戦を彼は目論んでおり、優秀なパイロットを探していたのでした。
 正規の軍ではなくなり、民間のレジスタンス組織となっていた防衛軍に復帰したローリーですが、メンバーはひと癖ある連中ばかり。パイロットの一人チャック(ロバート・カジンスキー)はシドニーを守り抜いたことで天狗になっており、5年も実戦経験のないローリーを見下した態度をとります。また、ベントコストの副官を務める日本人女性マコ(菊地凛子)もなかなかローリーに心を開きません。しかし、マコの類まれな資質を見抜いたローリーは、彼女とペアを組むことを希望。ところがなぜかベントコストはそれを許しません。だが、パイロット不足に苦しむ中で、結局、ローリーとマコはイェーガー「ジプシー」に搭乗することに。その試運転で、兄の死を思い出したローリーがまず混乱し、それに触発されてマコは子供時代、カイジュウに襲われた恐怖の体験を思い出してしまいます。子供時代のマコ(芦田愛菜)を落ち着かせようとするローリーですが、実験は失敗、コンビは解散と決められてしまいます。
 ところがそこで、2体のカイジュウが香港を襲撃。イェーガーが次々と撃破され、ついにローリーとマコの乗るジプシーも不安を抱えたまま実戦に参加することになります。また同じころ、防衛軍の研究班に属するガイズラー博士(チャーリー・デイ)は、カイジュウの脳細胞と自分の意識をドリフトさせることで、カイジュウたちの秘密を探ることに成功。さらなる詳細を知るために、香港にいる謎のカイジュウ・ブローカー、ハンニバル(ロン・パールマン)と接触するのですが・・・。
 といった展開です。どこか影のあるカッコいい司令官、心に傷を負った主人公、主人公を挑発する嫌味なライバル、やはり心にトラウマを抱える謎めいたヒロイン・・・と、まあ言ってみればこういうお話にありがちな要素が目いっぱい、盛り込まれている感じですが、それが本当によく出来ているのです。よくよく研究して練った構成なんですね。また、人型兵器を動かすには天性の素質が必要、というのは「エヴァンゲリオン」とか「サクラ大戦」などで、これもおなじみの設定なのですが、2人組でないと操作できない、というのがミソでして、お話の展開に最後まで重要なファクターになってきます。
 なんといっても近年、大活躍のイドリス・エルバが生粋の軍人らしく見えてはまり役です。主演のハナムもこれまでそんなに大きな役はない人ですが、非常に丁寧に自分の役を演じていると思い好感が持てます。日本人としては気になるのが菊地凛子さんですが、これも非常に存在感があっていいと思います・・・が、英語のセリフの中で、ときどき日本語を混ぜるのはかえって難しいように見えました。それから子供時代のマコを演じた芦田愛菜さんの熱演ぶりはお見事。鮮烈な国際デビューといえるのじゃないでしょうか。
 脇を固めるロン・パールマンなどもいい仕事をしております。総じて、特撮てんこ盛りだからこそ、出演者の生身の演技が大事になりますが、丁寧に皆さん、熱演しており、監督も演出しているように見受けました。
 一方、肝心のイェーガーやカイジュウの描写はすさまじいものがありますね。今の技術ではここまで出来るのか、と思うこと請け合い。特に最初にベケット兄弟がイェーガーを起動させるシーンはわくわくさせるものがあります。
 本作はエンディングに、「レイ・ハリーハウゼンと本田猪四郎に捧ぐ」とありました。ハリーハウゼンは特撮モンスター映画の草分け、そして本田はあの巨大怪獣ものの開祖である「ゴジラ」の監督です。先行するこのジャンルの作品への敬意を大いに感じる、しかし新しい感覚もある作品で、デル・トロ作品らしく脚本もシーンも無駄のない、非常に完成度の高い映画だと感じました。

2013年8月10日(土)
きょう8月10日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第7回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「浴衣に帽子や腕時計ってアリ?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は8月24日発売号の予定)です。


2013年8月08日(木)
 ジョニー・デップ主演の新作「ローン・レンジャー」を見てきました。デップ主演でディズニー映画で製作がジェリー・ブラッカイマー、ゴア・ヴァービンスキー監督がメガホンをとり、テッド・エリオットとテリー・ロッシオが脚本を担当、音楽はハンス・ジマー、衣装がペニ・ローズ、メーキャップはジョエル・ハーロウ・・・と、調べてみると、関係者はまるっきり「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズそのままの布陣。ヴァ―ビンスキー監督によれば、「パイレーツ・シリーズの時も、なんで今さら海賊映画?といわれたものだ。今度も、なんでいまどき西部劇でローン・レンジャー?といわれるのは覚悟の上だった」とのこと。
 しかし確かになんで、という感じはあるんですね。年配の方ならご存知でしょうが、もともと「ローン・レンジャー」というのは1933年に放送されたアメリカのラジオ・ドラマでした。覆面を被った正義のガンマン、ローン・レンジャーと、インディアンのトントのコンビが人気を呼んで、戦後の1954年まで、なんと3000回近く続いた長寿番組に。49年からはテレビドラマ版が制作されて、57年まで221回も続く人気番組になりました。そして日本でも58年から59年まで放送されて、当時は「ローハイド」と並ぶ人気西部劇だったわけです。まあこのへんは私もリアルタイムでは知りません、おそらく現在、60歳代半ば以上の方でないと分からないことかと思います。しかし、「インディアン嘘つかない」とか「キモサベ(友よ)」といった言葉は意外にかなり若い世代でも知っていたりします。これらは元々、トントの決めゼリフです。また、白馬にまたがって「ハイヨー! シルバー」と叫ぶのはローン・レンジャーの得意の決めポーズです。別の人気シリーズ「特攻野郎Aチーム」でもしばしば登場人物が、この「ハイヨー! シルバー」を連発していましたが、後の時代の他の作品に引用されるぐらい人気があったわけです。
 物語の発端は1933年(ということは、ラジオ番組が始まった年です)、サンフランシスコのサーカスに、西部開拓時代を扱うワイルド・ウエストという展示があります。ここを訪れた一人の少年が展示品を見て行くうちに、妙に生々しいNOBLE SAVAGE(高貴な野蛮人)と書かれた、頭にカラスを載せたインディアンの人形を見つけます。じっと見つめていると、人形が動き出し、少年は仰天します。それは人形ではなくて、若かりし日に西武で大活躍したトント(デップ)本人の老いた姿でした。トントは少年に、相棒のローン・レンジャーが誕生した秘話を語り始めます・・・。
 1869年、テキサス州の田舎町コルビー。ここはコマンチ族の居留地と接しており、町の治安を守るテキサス・レンジャーのダン・リード(ジェームズ・バッジ・デール)は彼らと平和条約を結んでいます。しかし大陸横断鉄道の早期開通を目指す鉄道会社の幹部で、町の名士でもあるコール(トム・ウィルキンソン)は、内心、居留地を侵して鉄路を敷設したいと思っています。おまけにコールは、ダンの妻レベッカ(ルース・ウィルソン)にかなり興味がある様子。コールは、ダンが逮捕した無法者キャヴェンディッシュ(ウィリアム・フィクトナー)を町の広場で公開処刑して自分の人気を上げようとします。キャヴェンディッシュを護送する列車には、トントと、東部から帰ってきた弁護士でダンの弟ジョン・リード(アーミー・ハマー)が乗っています。トントは長年追ってきた宿敵であるキャヴェンディッシュを殺そうとしますが、石頭のジョンに邪魔をされます。その隙に、キャヴェンディッシュは仲間の手引きで列車から逃走してしまいます。
 久しぶりに帰ってきたジョンに複雑な感情を見せるレベッカ。実はかつてレベッカと交際していたのは弟のジョンで、長年、音信不通になったために、兄のダンと結婚していたのです。一方、コールはキャヴェンディッシュを捕えるようにダンたちレンジャーに依頼。ジョンも捜索隊に加わることとなり、キャヴェンディッシュを追うのですが、途中で待ち伏せされて一行は全滅。ダンは惨殺され、ジョンも瀕死の重傷を負います。トントはジョンを救いだし、「お前は死んだと思われているから、それを利用しろ」といって、黒い覆面を着けさせます。こうして謎の覆面レンジャー、「ローン・レンジャー」が誕生します。トントとジョンはキャヴェンディッシュ一味の後を追いますが、彼らは銀の鉱脈を掘り当てて、何やら企んでいる様子。またダンが死んだことで、コマンチ族との平和協定も破棄され、コールは軍に部隊の派遣を要請し、一触即発の状態に。きな臭いにおいが立ち込める中、トントとジョンはどう動くのでしょうか・・・。
 というような展開ですが、まあこうざっと冒頭部を見ただけでもかなり要素が多くて話がてんこ盛りです。この「てんこ盛り」な感じで話がシンプルでない、あえていえば整理が悪いというのが、実は「パイレーツ」シリーズの持ち味だったのですが、同じチームなので本作もその傾向があります。そういう意味でテンポも割と今時の映画としては遅いです。2時間半を超える長尺になったのもそのせいでしょうが、ここを持ち味と見るか、冗長と見るかで評価が分かれそう。またパイレーツ・シリーズではデップのジャック・スパローの存在感が際立ってましたが、今作ではもちろん、彼のトントは非常に魅力的なんですけれど、それを上回るものすごい存在感を示しているのがキャヴェンディッシュ役のフィクトナー。「ドライブ・アングリー3D]でも主演のニコラス・ケイジを食ってしまうほどの強烈さを見せつけていましたが、今回もデップ以上のものすごいオーラ。これはすごい役者さんですね。
 冷戦時代に有名なソ連邦専門家で、石油王でもあったドクター・ハマーのひ孫にあたるのがアーミー・ハマー。「ソーシャル・ネットワーク」や「J・エドガー」の助演で有名になりましたが、大きな役の主演はこれが初めて。身長197センチと際立って大きい彼ですが、これからどんなキャリアを築くか楽しみな俳優さんです。
 アクションも映像も申し分なく、見どころは満載ですが、パイレーツ・シリーズのメンバーがそろっているから楽しくストレスのない痛快娯楽大作なのか、というとちょっと違うかも。意外に、けっこう暗いのです。だからパイレーツ・シリーズ初期のネアカなノリを求めて見ると、ちょっと裏切られるかもしれません。インディアンと騎兵隊の対決など、問題となりそうなシーンも多く、人も多数、死にます。死人の多さは、ディズニー映画としては異例なぐらいかもしれません。というわけで、見ての後味はけっこう重いです。娯楽作品のはずが、意外に重厚な作品なのかもしれません。

2013年8月06日(火)
今日は都内も急なゲリラ的豪雨がしばしば襲い、傘が手放せない一日でした。銀座界隈も蒸し暑いこと、蒸し暑いこと。どのぐらいの湿度なんでしょうか。気持ち悪くなるような熱帯の気候です。
 昼食をとろうと某お店に入りますと、大声でまくし立てている男性がいる。この暑いのに上着を着込んでいます。向かい合っているのは2人の女性で、話を聞きながら質問したり、メモをとったりしている。「ははあ」と思いましたね。男性は近所の百貨店のバイヤーで、女性たちはおそらく、ファッション系ではない普通のメディア、つまり普通の新聞か普通の雑誌の記者さんだろうと思われました。
 というのも、これがファッション系の取材なら、バイヤー氏のいうことに間髪入れず、「あ、そうですね、そうですね」と膝を打つような返事が来るはず。ところが相手は、本来はそんなにファッションに興味のなさそうな、しかも女性です。だから、そのやりとりが実はとても聞いていて面白かった。
 どうも、ボタンダウンシャツをテーマにした取材らしいのです。で、バイヤー氏は自分のところの商品を示しながら、いろいろ蘊蓄を語ります。
◆    ◆    ◆
「ボタンダウンは基本的にスポーツシャツなんです。アメリカのブルックス・ブラザーズが流行らせて、アイビー大学の学生達に好まれまして」といったありがちな話を披露しているのですが、話が脱線して「華麗なるギャツビーでは、衣装提供はブルックスなのに、英国製のターンブル&アッサーのシャツを投げ捨てるシーンがあるんですが・・・、だから金持ちの本来的なドレスシャツは、ブルックスの既製のボタンダウンじゃなくて、ああいう英国製の何万円もするものでして・・・」
「はあ、はあ(???)」
「まあつまり、本来のドレスシャツは、ボタンダウンじゃないんです。これはあくまでアメリカ流の外しのシャツで。イタリアのオシャレな人はあまり着ません」
「ああ、そうなんですか(???)」
「しかしその、たとえばフェラーリのオーナーのモンテゼーモロ氏なんかは、あえてボタンダウンを着るんです。イタリアの人でBDを愛用するのは、アメリカのアイビー大学を出ている、ということを示すためのあえての着崩しでして」
「じゃあ、アイビー大学を出ていない人は、本来、着てはいけないのでしょうか」
「いやまあ・・・まあ、日本人は、そんなに気にしなくてもいいのでは」
「では、スーツにボタンダウンというのは、外しであって、本当は合わないわけですね」
「ええまあ・・・しかし、私などはあえて着る方ですが。スリーピースでも着ますけれど」
「はあ(????)」
「それから、僕は啓蒙の意味で、うちのボタンダウンシャツの半数には胸ポケットを付けないんですよ。まあ、欧米のスタンダードではドレスシャツに胸ポケは付けませんから。日本では当たり前でも、世界標準じゃないんですよ」
「では、日本の男性はどうしたらいいんですか。胸ポケに携帯とかタバコとか入れている方が多いですよね」
「だから・・・基本的には上着を脱がないで欲しいんです。日本人はジャケットを簡単に脱ぎすぎですよ。上着の内ポケットに入れて欲しいんですよ」
「でも、クールビズとかありますよね、今は」
「あれが、日本人のドレスコードを崩しているんですよ。まあ会社の方針的にはクールビズ商戦もやっているんで、本当は逆らっているわけですが、私は夏でもオフィスでは上着を着ていて欲しいです」
「しかしですね、でも、暑いですよね、日本は。ヨーロッパとは気候が違いますよね。それに環境省から通達が出て、国を挙げてやっていることで、それに震災の後は世の中の雰囲気も変わりましたよね」
「ええまあ・・・そうですが、しかし私は、安易に便利だから、楽だからと流れて欲しくないんです。たとえ震災があっても、クールビズだとか言っても、欧米人ときちんと商談するなら、夏でもスーツじゃないと。GDP上位何位という先進国ではそれは常識ですから。半袖なんて言うのもやめて欲しいですね。どうしてもアームホールが大きくなって、隣の半袖のオヤジの袖が、電車なんかに乗っていると当たって来るじゃないですか、あれ、いやですよね」
「・・・まあ、今回は話をボタンダウン・シャツに戻したいんですが。すると、ボタンダウンは本来のドレスシャツではないわけですね? あえて外しで着るようなもので、アメリカのアイビー大学の象徴だ、と。じゃあスポーツ用のカジュアルなシャツですよね。ということは、胸ポケがあってもいいのじゃないでしょうか」
「ああ、まあそういうことになりますね・・・いや、まあしかし、イタリアではボタンダウンでも胸ポケットは付けない人が多いですけどね」
「ああ、はあ(??????)」
◆    ◆    ◆
 明らかにバイヤー氏はいろいろ話しているうちに、なんだか矛盾してきており、女性記者さんの方はあまり納得していない感じなのですよ。
 私ははっきり言って、だから「服オタ」は駄目だなあ、と思いましたね。あくまで日本で着るのだから、何でもいいじゃないかと思いますが。海外に行くときは行くときの話であって。アイビー、アイビーなんていうのも、本当にハーバード大でも出ている人じゃなきゃ、むやみに強調する話じゃないですよ。シャツの胸ポケだってね、そもそもそんなことを言ってしまえば、16世紀頃まで西洋の衣服にはポケットなんてないのですよ。その意味ではずべてのポケットはすべてが、それ以前の時代から見て邪道。スーツの胸ポケだって、当時のズボンがとても窮屈でポケットなどなかったので、ハンカチを収める場所がないので仕方なく左胸に付けた。これがだんだん、オシャレなポケットチーフを入れるようになるわけで、もともとは実用そのものです。まあ時代の変遷でいろいろ出てくるのはどうしようもないわけですよ。
 何よりも、7、8月の日本は亜熱帯です。欧米人だって日本に来るときは、みんな半袖のシャツに半ズボンで来ますが、特に欧州あたりの人にとって日本というのは「南国の島国」であって、グアムやハワイなんかとあまり変わらない。だからリゾート用の服装でくるのが当然。もちろん公用で来る人はもう少し違うでしょうが、欧米的に言えば、そもそもバカンスするべき7、8月に重要なビジネスなどするべきではない、だからクールビズなんて言い方もないのですね。なぜなら真夏用のビジネス衣装、なんて初めから考えなくていいのだから。
 私も、もう7、8月はロンドンみたいな服装はしなくていいのじゃないか、と思いますけどねえ。まして出てもいない「アイビー大学」を意識する必要なんかないような。クールビズというより、もうリゾート、でいいと思う。
 そしてそんなことより、できればこの時期は、日本人もできるだけビジネスしないようにする方がいいのではないか、と思いますが、はい。


2013年8月01日(木)
 8月となりました。ところで昨日、所用があってJR新浦安駅前のショッピングモール「ショッパーズプラザ」に行きましたところ、はて、不思議な名前が・・・。「下妻ファーム」という看板を掲げたお店ができていたのです。「しもつま・ふぁーむ?」見ると、下妻産の野菜などを販売しており、横のラックには確かに茨城県下妻市の観光案内があります。「しもつま、というのは茨城県の下妻ですか?」と質問しているお客さんもいました。
 なんでも7月29日に、このアンテナショップは開業しているようです。何を隠そう、私は茨城県立下妻第一高校、という学校を卒業しております。しかし、ここ浦安で下妻のお店に出会うことなど予想もしておりませんでした。
 聞けば、昨年の春に浦安市と下妻市は災害時相互支援協定を結んでいたそうです。じつは私、知りませんでした。多くの市民も知らないのではないでしょうか。一般的には、今から10年ほど前に嶽本野ばらさんの小説「下妻物語」と、同名映画(土屋アンナさん、深田恭子さんら出演)がヒットしたこと、それから茨城県代表で下妻第二高校が甲子園に出場したこと、で少しは知られるようになった市名かと思いますが、とはいえ茨城県外の人にとっては、あまり用事のある町とも思えず、私自身も、教育実習で行ってから後、一度だけ通りがかっただけで、それからでもかれこれ20年は訪れていないと思います。
 これも御縁というものですかね。いつか、もう一度、行ってみるかな、などと思いました。

2013年7月29日(月)
 読売新聞の朝刊4コマ漫画「コボちゃん」の通算ナンバーが7月29日付で「11111」回であることに気がつきました。珍しいことですね。1982年に連載開始して、1万1000回を超える長寿連載。最近は主人公のコボも、長らく5歳の幼稚園児だったものが、3年前に妹が生まれてから加齢して、現在は小学3年の8歳になっています。
 ところで、こうなってくると問題かな、と思われてきたのがおじいちゃんの岩男氏。最初の設定では60歳だったので、現在は63歳。今のところは年金暮らしの無職、という設定でいいわけですが、定年と年金支給が65に延びる今日、数年後には働いていないとおかしなことになるのでは?
 しかし逆に、もし連載開始時点で60歳で、その後実際に加齢していたら、としてみると。本当は2013年時点でもはや91歳です。大正生まれなんですね。82年当時なら、定年も55歳が普通だったはず。だからああいう設定でよかったのですが、時代の変化ですね、このへんは。
 まあ、それをいえばコボだって、そのまま加齢していれば現在は36歳。パパより年上になっていたりします。彼はこの厳しいご時勢に、ちゃんと結婚や就職はできたんでしょうか。


2013年7月27日(土)
きょう7月27日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第6回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「カラーパンツをはきこなすコツは?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は8月10日発売号の予定)です。


2013年7月25日(木)
 いま、池袋東武百貨店6階の美術画廊で「梶田達二 遺作展」が開催されております。梶田先生が亡くなって2年ほどが経ちましたが、帆船や飛行機、蒸気機関車・・・精細かつ生き生きとした躍動感、そして風景画としても高い完成度。先生の右に出るような方は、今後もおいそれと登場するとは思われません。なお、同百貨店では、別のフロアーでタミヤ模型のジオラマ展示会も開催されています。
 7月31日(水)まで、午前10時〜午後8時まで。最終日は午後4時半まで。

2013年7月24日(水)
 このところ、オリエンタル・マースカレーを3袋、食べるたびに、「オリエンタル坊や」のマークを三つ、応募はがきに貼って、懸賞に応募していました。するとこのほど、愛知県稲沢市のオリエンタル社から、景品として「名古屋発あんかけスパゲッティ」と「なにわの牛すじ黒カレー」のセットが送られてきました! 同封されていた書面で知ったのですが、このオリエンタル坊やというキャラは、初代社長の星野益一郎氏が、当時、2、3歳だった息子さんの寝顔をモチーフに考案したのだとか。その息子さんというのが、後に同社の二代目社長になったのだそうです。あんかけスパゲッティというのも、名古屋では非常にポピュラーな食べ方だと言いますが、よその地方では非常に珍しいものです。どんな味なのか楽しみです。
 

2013年7月20日(土)
 「オートモービル・アート展 乗り物をアートする26人の世界」を見てきました。7月23日火曜日まで、21日は休館日、11:00〜18:00、東京市ヶ谷の山脇ギャラリーで開催中です。入場無料。【参加アーティスト】安藤俊彦 大内誠  太田隆司 大西将美 岡本三紀夫  小川和巳 鬼武龍一 柏崎義明 加藤浩哉 川上恭弘  黒田文隆 佐竹政夫 佐藤ヒロシ 佐原輝夫 篠崎均 空山基 高梨廣孝 田川博之 田邉光則 寺田敬 細川武志 正蔵・MASAKURA 溝川秀男 溝呂木陽 安田雅章 渡邊アキラ(敬称略)・・・錚々たる面々です。 とにかく上手すぎる画家がせいぞろい。ものすごいハイレベルな会で圧倒されてしまいます。
 この日は大西將美先生がいらっしゃいました。 御作品の前で記念撮影させていただきました。




2013年7月13日(土)
きょう7月13日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第5回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「中高年におすすめのサングラスは?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回は7月27日発売号の予定)です。


2013年7月01日(月)
 7月に突入しましたね。すなわち今年も前半戦が終わりました。ところで昨日は、1924年以来、88年も銀座にあった松坂屋銀座店が閉店しました。私も近くを通ったついでの見納めに、閉店1時間前の午後7時ごろ、最後の姿を見てきました。売り場はともかく、レジが長蛇の列になっていましたね。よく行ったお好み食道ともお別れ。さみしいものです。聞いたところでは、跡地を再開発して2016年には13階建て複合ビルになる、というのですが、そこに松坂屋がどういう形で復帰するのか、それともしないのか、未定なのだとか。
 ここに入っていたブランドの店員さんたちも、この閉店のために散り散りに。私の知っている人たちも、千葉や横浜に転勤した人、広島に異動となった人もいました。
 いや本当に、寂しいものですね。

2013年6月30日(日)
 東京・葛西のイトーヨーカドーさんに「御当地カレー」コーナーというのがあり、愛知県稲沢市に本拠を置くオリエンタルの「マースカレー」が売られています。私、いちおう岐阜市生まれですのでルーツは東海地方。なので懐かしい感覚があります。しかも本製品は昭和37年発売のオリジナルの再現版のようです。この手作り感というか、昭和な感じが今となると嬉しいです。ちなみにマースカレーのマースとは、マンゴー、アップル、レーズン、スパイスの頭文字MARSなのだそうです。このたび初めて知りました。

2013年6月29日(土)
きょう6月29日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第4回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「雨の日の男の足元は?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回7月13日発売号の予定)です。


2013年6月28日(金)
 唐突ですが、マムートMammutというスイスのアウトドアブランドを御存知でしょうか。上質なバックパックなどで知られていますが、ひそかにこのブランドのキャラ・マムートくん(つまり黒いマンモス)のぬいぐるみが人気があります。
 先日、某店舗でその実物を見かけて、店員さんに聞いたところ、スイス本国では販売しているが、日本国内ではあくまで商品の販促用で非売品とのこと。それで調べると、並行輸入している業者さんが見つかり、手に入れました。
 これがなかなか、かわいいんですね。それにアウトドアブランドらしく、素材や縫製もよく出来ているようです。4本の足の裏にブランドロゴがあったりします。我が家に前からいる「ゾウのぬいぐるみ」を並べて見ました。奥の黒いのがマムート、手前の茶色いのが、15ほど前に今はなき新潟ロシア村で売っていたもの、小さい灰色のものはミッフィーの友達のゾウさん(調べたところ正式名称はなく、ただのゾウさんだそうです)です。

2013年6月26日(水)
 ウィル・スミスとジェイデン・スミスが7年ぶりに共演する新作映画「アフター・アース」AFTER EARTHを見ました。メガホンを執ったのはM・ナイト・シャマラン監督です。
 ところで私、この親子の初の共演作「幸せのちから」や、ウィルがプロデュースしジェイデンが初主演した「ベスト・キッド」は見ておりません。初めてジェイデン・スミスなる息子が子役となっていることを知ったのは、2008年の「地球が静止する日」でした。あのときは7、8歳だったと思うので、13歳になり大人びてきたジェイデンの久々の姿を見ました。この映画は、基本的にジェイデンの一人芝居のシーンが多く、父親のウィルも引き立て役に徹している感があります。さらに、その他の目立った出演者と言えば、母親役と姉役の女性2人だけ、というわけで、良くも悪くも彼の出来次第が映画を左右している、という作品になっております。
 西暦2025年、というとわずか十数年先ですが、地球環境の悪化により人類は地球を捨て、新天地を目指す計画が決定されます。そして2071年には、6隻の大型宇宙船アークにわずか75万人の人々が乗り込んで地球を脱出、母なる地球は永遠に放棄されました。100年後、惑星ノヴァ・プライムに移住した人類ですが、この星にはすでに異星人が居住しており抗争が勃発、そして異星人は地球人を抹殺するための生体兵器アーサを投入してきます。これは人類特有の恐怖する本能で発せられるフェロモンを感知して攻撃してくる化け物です。しかしここに、一人の英雄が登場します。レンジャー軍の軍人サイファ(ウィル・スミス)はふとしたきっかけに、「危険は実在する、しかし恐怖は心の中にあるだけである」という境地に到達、恐怖心を克服してアーサから感知されない「ゴースト」と呼ばれる立場になります。レンジャー軍総司令官となった彼の活躍で人類は攻勢に転じました。
 西暦3071年、サイファはいよいよ軍からの引退を決意します。そのころ、彼の息子キタイ(ジェイデン・スミス)はレンジャー軍の士官候補生でしたが、最終試験で落第、意気消沈していました。親子の間にはある確執もありました。キタイの姉セイシ(ゾーイ・クラヴィッツ)がかつてアーサに殺されており、その場にいて姉を助けられなかったキタイ、また助けに駆け付けることができなかったサイファとも、わだかまりを持っているのでした。サイファの妻ファイア(ソフィー・オコネドー)は夫に、「今、あの子に必要なのは上官じゃない、父親よ」と諭します。そこでサイファは最後のパトロール任務に息子キタイを伴うことにします。
 ところが、親子の乗った宇宙船は小惑星の激突で故障、緊急ワープの結果、見知らぬ惑星に不時着しました。衝撃でほとんどの乗員は死亡し、生き残ったのはサイファとキタイだけ。しかもサイファは脚を負傷し身動きができません。救難信号の発信器も破損し、予備の発信器は100キロも離れた地点に落下した宇宙船の後部にしかありません。サイファはキタイに、ジャングルの中を100キロ、走破し、予備発信器を操作することを託します。しかし、問題がありました。まず宇宙船の後部貨物室には、演習用に捕獲していたアーサが一匹、積んでありました。これが襲ってくる可能性があります。さらに・・・。サイファはキタイに言います。「この星がどこか分かるか?」「No,sir.(いいえ、分かりません)」「地球だ。1000年の間、人類を抹消するために生態系が進化した星だ」。かくて、キタイは悪意に満ちたかつての地球の変わり果てた世界の中に一人、足を踏み入れて行くのですが・・・。
 というような展開で、最近、なにか目に付く地球文明滅亡後を描いたような作品の一つでもあります。1000年というのは、長いようで生態系の進化にとってはちょっと中途半端な時間でもあるような気がします。だって今から1000年前の1013年ごろ、といえば平安時代の末期ですが、当時から今日までで、そこまで大きな変化をしているとは思えないわけです。
 よって、本作に登場する1000年後の地球には、そんなに奇天烈な化け物が生息しているわけではない模様。だから設定上、アーサという異星人の作った化け物が必要だったのでしょうが。
 とにかく上記のような設定ですので、ほとんど親子2人だけの演技が支えている作品です。よってかなり壮大な設定・背景の割に意外にこじんまりした作品ではあります。しかし、冒険ものとか、少年の成長ものとしては王道の演出で、最後まできちんとメリハリをつけて見せてくれます。地球の生物との意外な交流とか、面白いシーンもあります。なにせ1000年も経過しているので、人造物はほぼ何も残っておらず自然に還っている中、洞窟の中に石器時代の人類が残した壁画があり、唯一、ここが地球であることを暗示するなど、興味深い演出もあります。
 ナイト・シャマラン監督は前作「エアベンダー」(2010年)が興行的には悪くなかったものの批評的には厳しく、キャリアの中でちょっと苦戦中だったかと思いますが、本作の作りはまず手堅い演出、といっていいのじゃないでしょうか。
 原案・制作に出演を兼ねるウィルの「親バカ企画」といえばその通りなのでしょうが、ジェイデンは父親の期待にこたえて、難しい一人芝居や厳しいアクション・シーンをこなしていると思いました。まさに英雄の父と、それを見上げる息子、という図式が現実そのままで、興味深い作品だと思います。そういえばシャマラン監督によれば、ジェイデンの役名「キタイ」は日本語の「期待」なのだそうです。まさにそのままズバリ、という気がしますね。劇中、登場人物が三本で1セットの「未来箸」みたいなもので食事をしていたりして、よくよく見ると面白い発見もいろいろあります。
 それにしても人類文明の滅亡とか、ホワイトハウスが襲われるとか(同じ年に2作もそういう設定の作品が続くのは不思議ですね)、ハリウッド、ひいてはアメリカ人の潜在意識が何かしら未来への危機感を抱いているのでしょうか。なんとはなしに、今の文明の行き詰まりを感じている人が多いのかもしれませんね・・・。

2013年6月21日(金)
華麗なるギャツビー

 バズ・ラーマン監督の「華麗なるギャツビー」The Great Gatsbyを見てきました。同監督の大ヒット作「ロミオ&ジュリエット」で主演したレオナルド・ディカプリオが、新たなギャツビー像を描いています。
 「華麗なるギャツビー」といえばF・スコット・フィッツジェラルドが1925年に発表した小説で、同時代のヘミングウェイ作品と並んでアメリカ20世紀文学の代表作。アメリカでは教科書に載っているような作品で、誰でも知っているものです。舞台は第1次大戦で疲弊した欧州に代わりアメリカが大繁栄した時代、そしてこの束の間の栄華の後にバブルがはじけ、大恐慌から第2次大戦へと向かっていく時代でもあります。先鋭的なヒット音楽としてジャズが流行し、チャールストンが流行り、また禁酒法が施行されて酒類の販売が禁止された時代でもありました。
 この小説は今までに少なくとも5回は映画化されており、最初のものはすでに小説発表の直後だったようです。しかし、今でもよく知られているのは1974年のジャック・クレイトン監督による同名映画でしょう。ロバート・レッドフォードのあくまでも2枚目で魅力的なジェイ・ギャツビー像は決定版となり、衣装を提供したラルフ・ローレンも大いに名声を高めました。脚本を担当したのはあのフランシス・フォード・コッポラでした。しかしこの74年版、今の目で見ると、コッポラ作品にありがちな、格調高い映像の積み重ねで見せる手法から、どうも説明不足で分かりにくい感じは否めませんでした。淡々と描かれていく幕切れ辺りは、はっきり言って拍子抜けの感がありました。それにレッドフォードのギャツビーはあまりにハンサムな好青年であり、どう見ても簡単に三角関係で勝利者になれそうな人に見えてしまい、彼の影の部分、屈折した過去、というものが連想できないところもありました。
 そこへ行くと、今回のディカプリオ・ギャツビーは非常にいいと思います。この主人公の華麗な表面と、その裏側の面を見事に演じていると思いました。
 時は1922年の夏、ニューヨークの新興住宅地ウエスト・エッグに、イェール大学を出て証券会社に勤めることになったニック・キャラウェイ(トビー・マクガイア)が引っ越してきます。彼の従姉妹であるデイジー・ブキャナン(キャリー・マリガン)は、家柄の良い億万長者トム・ブキャナン(ジョエル・エドガートン)と数年前に結婚し、海を挟んだ対岸の古くからの高級住宅地イースト・エッグの豪邸に住んでいます。しかし実のところ夫のトムは、ほかに愛人を作っており、夫婦は倦怠期を迎えています。ニックはブキャナン邸で、デイジーの友人で美しい女性ゴルファーのジョーダン・ベイカー(エリザベス・デビッキ)と知り合います。
 ニックの小さな家の隣には城のような超豪邸が建っており、そこでは夜な夜な狂ったような超盛大なパーティーが開かれており、たくさんのセレブが集まってきます。ある日、突然ニックの手元にその正体不明の謎の隣人ジェイ・ギャツビー氏(ディカプリオ)から、パーティーへの招待状が届きます。あまりに桁外れに派手な宴会にあっけにとられるニックですが、そこに姿を現したギャツビーは、爽やかな魅力にあふれた好青年でした。こうして知り合いになったニックと、ジョーダンに対して、ギャツビーは意外な頼みごとを依頼してきました。ニックの家にデイジーを招待して茶会を開いてほしい、そして、そこで偶然に出会った体にして、自分を引き合わせてほしい、というのです。法外な金持ちであること以外、まったく経歴不明で、自称によれば富裕な家に生まれて英国オックスフォード大を出、第1次大戦では従軍して少佐にまで進級、大手柄を立てたくさんの勲章をもらった英雄である、という・・・しかし、本当のところはよく分からず、そんなあやしげな人物を人妻であるデイジーに会わせていいものか、ニックは瞬間、悩みますが、この依頼を引き受けることにします。そして当日、やって来たデイジーとギャツビーは・・・。
 ディカプリオの奮戦ぶりと共に、トビー・マクガイアの視点で語られるので、彼の「語り」や演技も非常に重要なのですが、大変にはまっています。私生活でもこの二人は友人だそうで、息もぴったりと云うところです。ジョーダン役のデビッキはほとんど無名の新人ですが、素晴らしい美貌と存在感で、これからぐっと伸びてくるかもしれませんよ。それで、2人の富豪を夢中にさせるデイジーのマリガンですが、こちらはコケットかつ、本人のセリフにあるように「女の子は美人で馬鹿がいい」という女性像を表現しているわけですけれど、ちょっとオーラが弱い感じもしますね。
 音楽がふんだんに使われていますが、原設定のままジャズを使ってしまうと時代劇になってしまう、当時の人々にとってのジャズは、今のヒップホップのような斬新な音楽だったのだ、という解釈でブラック・アイド・ピーズやU2、ライオネル・リッチーの曲などが流れます。またコッポラ脚本の74年版にあった訳のわからなさとは対照的に、今作ではきっちりと、何がなんでこうなった、というのが分かるような描き方で、腑に落ちるという点では非常に分かりやすい映画になっています。たとえば幕切れ辺り、74年版ではすっかり姿を消してしまうデイジーですが(原作でもそうのようです)、今作ではちゃんとシーンとして描いていたりします。
 このきちんと分かりやすく、明快で派手な演出が気に入るか、それともいかにも文芸調だった74年版の方がよかった、と感じるかは好みの分かれるところかもしれません。私は21世紀版ギャツビーとしてよくできた映画だと思いましたが、どうでしょうか。
 プラダやティファニーの提供した女優陣の衣装、それからブルックス・ブラザーズが担当した非常に魅力的な紳士たちのスーツやジャケットは見所です。じつは私、先日、ブルックス・ブラザーズで「ギャツビー・モデル」のブレザーとボーター(カンカン帽)を買いまして、エセ・ギャツビー姿で映画館に行きました。私が着ているブレザーは、劇中ではパーティー会場のスタッフが着ていたように見えました。


2013年6月15日(土)
きょう6月15日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第3回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「スーツにショートソックスってアリ?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回6月29日発売号の予定)です。


2013年6月07日(金)
 ブルックスブラザース丸の内店の「華麗なるギャツビー」展を観てきました。映画で実際に使用されたタキシードや燕尾服などが圧巻です。ついでに、今回のギャツビー特別モデルのボーター帽とブレザーを着させてもらいました。この赤地にストライプのスポーツブレザーは、38サイズで7日現在、青山と丸の内の2店に在庫2点のみ、だそうです。その他、映画限定モデルは、すべて国内でほんの数点しか出回らない稀少品となっております。欲しい方はお急ぎを。

2013年6月06日(木)
 映画「オブリビオンOblivion」を見てきました。トム・クルーズの新作ですが、実のところ彼のSF作品というのは珍しいですね。またモーガン・フリーマンとの共演も、これが初めてだとか。Oblivionというのは「記憶をなくす」という意味ですね。
 2077年、地球は荒廃していました。2017年に異星人スカヴが地球侵略開始、月を破壊し、重力バランスが崩れて地震や津波が発生、多くの人類が死に絶えました。人類側も反撃して最終的に勝利しましたが、もはや地球は完全に荒れ果て、人の住めない星となりました。生き残った多くの人類は軌道上の大型宇宙ステーション「テット」に移住し、土星の惑星タイタンへの本格植民を準備しています。地球には、海水をくみ上げてエネルギーに転換するプラントが置かれ、それを管理するための要員2人だけが残留しています。女性通信士のヴィクトリアと、プラントを警備してスカヴの残党を掃討している戦闘ロボット「ドローン」の管理要員ジャックです。ジャックとヴィクトリアは5年前、この地上の任務のために、不必要なそれ以前の記憶を抹消されており、あと2週間でテットに帰還し、タイタンに移住することになっていました。二人は任務外では恋人同士でもあります。
 しかしジャックは最近、おかしな夢に悩まされています。60年以上も昔、戦争前のニューヨーク、エンパイアステートビルの展望台で一人の女性(もちろんヴィクトリアではありません)と出会う、という記憶。まだ自分が生まれる前の話のはずなのに、なぜ? それに「戦前」の記憶が次々と蘇ってきて、彼を不思議な気分にします。消されたはずの記憶、しかし本当のところ自分は一体・・・。
 そんなある日、突然、正体不明の宇宙船が墜落してきます。それは旧式のNASAの宇宙船であり、たった一人の生存者ジュリアを見てジャックは、それが夢の中に出てくる女性であることに気付きます。ジュリアも、意識を取り戻すとなぜかジャックやヴィクトリアのことを知っているようです。宇宙船の墜落現場に戻ってフライトレコーダーを回収しようとしたジャックとジュリアは、罠にかかってスカヴに捕まってしまいます。
 縛られているジャックを尋問するのは・・・案に相違して、異星人などではなく、謎の黒人男性ビーチでした。自分たち以外に地球に人類がいることに驚愕するジャック。しかし事の真相はまだまだこんなものではなく、彼はいかに自分が誤った洗脳を受けていたか思い知ることになります・・・。
 というようなわけで、けっこう、どこかで見聞きしたようなSFものの要素がちりばめられている感じです。まあ、「惑星ソラリス」と「2001年宇宙の旅」と「スターウォーズ」と「インデペンデンスデイ」と「猿の惑星」を混ぜたような、というところでしょうか。偽りの記憶の背後で驚くべき真相が、というパターンもけっこう、珍しくありません。が、見て見れば分かりますが、その後半のどんでん返し、明らかになる真実は、なかなかスリリングで面白いです。
 しかし、もう一歩踏み込んでの真相、というか、そもそも異星人が侵略してきた理由といったあたりは最後まで不明瞭で、もうちょっと知りたい、という後味がありまして。それから、ジュリアが救出されたあたりからはいい展開なんですが、前半の、ジャックとヴィクトリアだけの生活ぶりというのが長いというか、冗長に感じたのは私だけでしょうか。
 2時間以上の映画で、主要なキャストはほとんど4、5人だけ、ということで、出演者はかなりしんどい映画だったのじゃないでしょうか。ジャック役のクルーズとビーチ役のフリーマンはもちろん、ジュリア役のオルガ・キュリレンコ、ヴィクトリア役のアンドレア・ライズボローも熱演しています。
 それにしても、文明滅亡、荒廃した地球というテーマの映画が増えている気がするのですが、なにかそういう雰囲気なのでしょうか、世の中。

2013年6月02日(日)
彩流社の春日さんから、南行徳の山下書店さんで「彩流社・軍事書フェア」をやっていると聞きまして、私どもも隣町に住んでいるので、さっそく観て参りました。東京メトロ東西線の南行徳駅南口を出てすぐに、山下書店南行徳店さんはあります。そして、ありました、ありました、壁の大きなスペースをとって、彩流社の軍事関連書籍が販売されています。私たちの「図説 軍服の歴史5000年」と「スーツ=軍服!? スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった」も目立つ形でフィーチャーされていまして、感激いたしました。
 山下書店・南行徳店様に厚く御礼申し上げます。

2013年6月01日(土)
きょう6月1日発売の日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの連載「鉄板! おしゃれ道」第2回が掲載されました。寄せられる質問に答える形式の本連載、今回は「ワイシャツの下には何を着るといい?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回6月15日発売号の予定)です。


2013年5月24日(金)
 ちょっと更新をさぼっておりました。そろそろ「また病気じゃないか」と思われる方もいらっしゃるかも・・・大丈夫です、ちゃんと元気にやっております! ところで、ブルックスブラザーズ丸の内店さんから、GREAT GATSBY FAIRの案内が届きました。6月14日公開の「華麗なるギャッツビー」のメンズ衣装を同社が提供しているのにちなんで、6月23日までギャッツビー・フェアをやっているそうです。映画に提供した衣装の展示や、映画で登場したモデルの販売もあるようですね。
 レオナルド・ディカプリオという俳優は、私は別にファンではないのですが、しかし非常に実力ある人だと前から思っておりまして、特に先日の「ジャンゴ」ははまり役でした。時代物、コスチュームものが似合う人なのだな、と認識した次第です。第一次大戦後の1920年代アメリカを舞台とするギャッツビーも、今となっては時代物、コスチュームものでありまして、70年代にヒットした同名映画では、ロバート・レッドフォードのけれん味ある演技とともに、衣装担当したラルフ・ローレンの名を大いに上げたものでした。今回は、アメリカのトラディショナル・ファッションの権化といえるブルックス社が担当しており、まさにそのへんの時代の雰囲気がどれだけ出ているか、楽しみなのであります。
 ということで、私も公開したら、ちょっと本作も観てみようかと思っております・・・。

2013年5月18日(土)
 日刊ゲンダイに私、辻元よしふみの新連載「鉄板! おしゃれ道」の第1回が掲載されました。きょう18日発売号です。寄せられる質問に答える形式の新連載、今回は「新人が初給料で買うスーツの選び方は?」です。本連載は隔週土曜日掲載(次回6月1日発売号の予定)です。


2013年5月16日(木)
 18日土曜日発売の日刊ゲンダイに、辻元よしふみの新連載の第1回が掲載される予定です。タイトルは今のところ「鉄板おしゃれ道」というものになりそうです。寄せられる疑問にお答えするような形式になっております。よろしくお願い申し上げます。

2013年5月10日(金)
 あす11日発売の日刊ゲンダイに掲載予定だった、辻元よしふみの連載が都合により、1週間延びて、5月18日(土)掲載となりました。なお次回からは「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」からタイトルも改名し、内容も少し変わる予定です。皆様、なにとぞ宜しくお願い申し上げます。


2013年5月01日(水)
 5月ですね。ゴールデンウイークの真っただ中ですが、カレンダー的に見ても今年は間に3日も平日が挟まって、いまひとつですね。私の会社は祝日とはあまり関係ないので、普通に毎日、仕事をしておりますが。
 3月の異様な暖かさが嘘のようで、4月からここにきて、かえって肌寒いですね。私は夜に出かけることも多いので、まだ薄手のコートを片付けていません。
 今年も5月なので、我が家の甲冑を出してみました。せっかくなので6月ぐらいまで飾ってあげようかと思っています。

2013年4月25日(木)
 ということで、今日で新浦安のハーゲンダッツが閉店し、これをもって1994年から日本に展開していた同ブランドの店舗がすべて姿を消します。昨日、新浦安周辺に用があったついでに立ち寄ってみましたが、とんでもない長蛇の列・・・。屋外まで人が行列していました。おそらく遠くからわざわざ来た人もいたのでしょうね。

2013年4月20日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」の通算第51回が、きょう20日発売号に掲載されました。今回は「リクルートスーツの黒一色はなぜ異様なのか?」として、古代ローマから中世、19世紀末とたびたび起こった黒色ブームの歴史を紹介。本連載は隔週土曜日掲載(次回はGW明けの5月11日発売号の予定。なお、連載開始2周年を期に改題やリニューアルの可能性もあり)です。


2013年4月19日(金)
 新浦安駅前のショッピング街「ショッパーズプラザ」にある「ハーゲンダッツ」アイスクリームが今月25日で閉店するそうですが、なんと、あるサイトの記事を読んで、この店舗がハーゲンダッツの日本最後の店だと知りました。つまりこれをもって、日本からハーゲンダッツのお店はなくなるのだそうです。なにか御近所にあるから、どこにでもあるのかと思っていたのですが、そうですか、もう浦安以外ではハーゲンダッツはすでに存在していなかったんですね。

2013年4月16日(火)
 いよいよ、一過性の暖気でなく、本当に春めいてきましたね。私が近頃、週に1度くらいは顔を出している松屋銀座8Fの「イプリミ銀座」店で愛飲しているのが、このイタリアのビール「モレッティBIRRA MORETTI」です。本当に飲み口爽やかで、日本のビールとも、英国やドイツのビールともひと味違います。しかし、爽やかで飲みやすいとはいえ、度数はけっこう高いので飲み過ぎにはご注意を。この小瓶を2本も飲むと結構、効いてきます・・・。

2013年4月13日(土)
 銀座松坂屋の閉店セールがいよいよ本格的に始まりました。6月末で閉店となるまで、全館で開催するようです。掘り出し物もあるかもしれませんので、お近くを通った方はちょっと覗いてみてはいかがでしょうか。私は靴コーナーでサフィールの靴クリームが売れ残っていたので買いました。いろいろ試してみましたが、靴クリームとしてはサフィールがいちばん自分に相性がいいみたいです。洒落者の方々からは怒られると思いますが、私は何しろ靴の手入れなど、半年に1回しかしない面倒くさがりな人間です。しかし、ここのクリームはその一手間で本当にきれいに爪先が輝いてくれるような気がいたします。

2013年4月09日(火)
 今年の桜はほぼ、入学式を待たずに散ってしまった感じですが、我が家のベランダにあるミニ桜は今が満開。まさに平年並み、です。それにしても、きちんと毎年、小さいながら花を見せてくれるのが健気ですね。

2013年4月06日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」の通算第50回が、きょう6日発売号に掲載されました。今回は「スーツのジャケットは乗馬服がルーツ」として、乗馬用のディテールにあふれたスーツの上着を解説。本連載は隔週土曜日掲載(次回は4月20日発売号の予定)です。


2013年4月04日(木)
 4月に入りましたが、かえってうすら寒いですね。皆様、ご自愛のほどを。さて、このほど映画「アンナ・カレーニナ」Anna Kareninaというのを見てきました。いうまでもなくロシアの文豪トルストイの小説の映画化で、ヒロインのアンナを演じるのはキーラ・ナイトレイです。本作は先のアカデミー賞で見事に衣装デザイン賞を獲得しました。衣装担当のジャクリーン・デュランは、1870年代に流行したスタイルを綿密にリサーチしたうえで、そのままではあまりに時代がかってしまうため、ジョー・ライト監督と協議の上、1950年代のドレスを参考に女性たちのスタイルを作り上げたそうです。確かに、装飾過剰すぎないデザインながら、スカートの裾のラインは明らかに19世紀後半、というとても魅力的なドレススタイルで、あれなら現代の女性も披露宴やパーティーで着てみたくなるのではないでしょうか。また男性たちの服装の方は、最も紳士服がダンディーだった時代のもので、軍服や制服はとにかくスタイリッシュ、基本的に当時のロシアのものをイメージを損なうことなく再現していると思われます。大きめの将校帽をちょっと斜めに傾けて被る軍人たちが実にかっこいいです。政府高官たちは制服に勲章の太いサッシュ(大綬=タスキ)をかけて、非常に権威的。また一般の紳士用フロックコートや燕尾服なども少しモダンなラインを考慮しながら、じつに魅力的。こういう時代物はなんといっても、時代考証と現代的解釈のさじ加減が最も重要ですが、さすがに本作は見事です。まず歴史好き、服飾好きの人は必見、ですね。
 とまあ、なにしろ衣装デザイン賞作品ですから、その面の魅力を真っ先に書きました。しかし作品全般についても、正統的な時代物の側面と、新しい解釈とのバランスがとてもよく取れている映画だ、と言えると思いました。なにせ、トルストイのアンナ・カレーニナといったら、よくある世界文学全集に入っているレベルの作品で、読んでいない人でもあらすじは知っているような極端に有名すぎる作品です。そのままストレートにリアリズムで映画化しても、はっきりいって新味はありません。そもそも映画化自体、もう何度もされています。だから、本作ではかなり斬新な手法を使っているのが目を引きます。つまり、劇場の芝居のような、また音楽とも合体させて、ミュージカルのような手法をかなり駆使している。もちろん「レ・ミゼラブル」のような完全な音楽映画じゃありませんし、セリフも普通にしゃべりますが、全編を通じてミュージカル的なのです。中でも圧巻は、作品の中でも重要な舞踏会のシーン。たくさんの踊る人々が徐々に動きがストップし、さらには消えてしまい、人妻アンナと、彼女を誘惑するヴロンスキーの2人だけになる、といった映画ならではの撮り方は本当に見事な演出です。
 また配役もこういう題材として新鮮です。今や英国の実力派女優最右翼といえるキーラ・ナイトレーは、不倫に走って破滅する人妻の役どころ・・・これは難しいわけですね、やりすぎると汚くなりすぎるし、かといって褒められた人物でもないので美化してもいけない。あくまでも魅力的なままに破滅していかないといけない。そして胆なのが夫のアレクセイ・カレーニン。今までの映画や演劇では、年をとって尊大で堅物な、まあはっきり言って若い奥さんをほかの男にとられても仕方ないような人物として描かれがちでした。が、ライト監督によると「それではいけない」のだそうです。そもそもは魅力的な男だからアンナも結婚したのだ、と。しかしどこか冷たい人間である。非の打ちどころのない立派な人物なのだが、人間味がちょっと冷たい。そういう人物として描いています。だから、ここでジュード・ロウなんですね。この人の演じるカレーニンは、後半に行くと本当に劇中のセリフで言う「聖人」そのもののようです。エンディングまで行けば、彼が本映画版の中心人物だったことが分かるんです。そして、もう一人大事なのがアンナの不倫相手ヴロンスキー伯爵。これも大胆にと言いますか、あの「キックアス」で有名になったアーロン・テイラー・ジョンソンを起用。とにかく美々しくて情熱的で、しかしまた傲慢でキザ、しかしまだまだ男としては未成熟で頼りなく、危うい部分もある・・・そんな若い騎兵将校の役を本当に魅力的に演じています。またもう一人、注目されたのが、後半になってヴロンスキーの本命婚約者として登場し、アンナの精神を崩壊させるライバルといえるソロキナ公女。これも出番は多くないけれど、アンナが脅威を感じるような魅力的な女性でないといけません。それで起用されたのが、バーバリーなどの広告で知られるトップ・ファッションモデルのカーラ・デルヴィーニュ。昨年の英国モデル・オブ・ザ・イヤーに選ばれたほどの存在感ある人で、これが映画デビューとか。これから、活躍する人なんじゃないでしょうか。
 時は1874年。ロシア帝国の閣僚にまで上り詰めた大物官僚カレーニンの妻、アンナは首都ペテルスブルク社交界の華。彼女は、モスクワにいる兄オヴロンスキーが不倫を働き、妻ドリーと不仲になっているのを仲介するためにモスクワに行きます。しかし皮肉なことに、兄の不倫をたしなめに行ったはずが、モスクワで開かれた舞踏会で騎兵将校ヴロンスキーと出会い、人生で初めて「ときめき」を感じてしまいます。ヴロンスキーはアンナを追ってペテルスブルクに現れ、彼女に付きまとい、そしてついに許されぬ道へ・・・。それを知った夫カレーニンは体面を重んじて、スキャンダルが表沙汰にならないことばかり強調します。やがてアンナはヴロンスキーとの間に子供を身ごもり、事態はどんどん破滅的な方向に・・・。一方、モスクワの舞踏会で、ドリーの妹キティは、結婚相手に望んでいたヴロンスキーをアンナに奪われた形になり、絶望してしまいました。ヴロンスキーに憧れるあまり、旧知の仲で彼女に思いを寄せていたオヴロンスキーの友人、田舎地主リョービンの求婚も断ってしまっていました。こちらのカップルは、アンナとヴロンスキーが泥沼に落ち込んでいくのと対照的に新しい生活を見つけて行きます。さて、アンナ、カレーニン、ヴロンスキーの三角関係の不倫は、そして田舎でスタートする新しいカップルの生活はどうなっていくのでしょうか・・・。
 やはり、見終わった後に重い余韻が残ります。さすがはトルストイ、ですかね。

2013年3月28日(木)
 「ジャックと天空の巨人」JACK THE GIANT SLAYERという映画を見ました。いわゆる「ジャックと豆の木」のおとぎ話を映画化したものですが、原題が「巨人殺しのジャック」であることでも分かるように、春休み向け子供向けの軽いお話かと侮るなかれ、ブライアン・シンガー監督の手による派手な戦闘シーン盛りだくさんの正統派ファンタジーになっております。出演も「スターウォーズ」シリーズのユアン・マクレガーや「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのビル・ナイ、「アリス・イン・ワンダーランド」のエレノア・トムリンソンと実は豪華配役。これは拾いものですよ。
 時は12世紀ごろ、欧州のクロイスター王国にて。この国には、1000年の昔、エリック大王が巨人を退治したという伝説がありました。エリックは魔導士に造らせた巨人の王の心臓を溶かして作った王冠を被ることで、巨人たちに対しても王権を発揮し、遠く天界の国ガンチュアに彼らを追放したというのです。
 その伝説はおとぎ話となっていましたが、農夫の息子ジャックは、それが真実であり、巨人はいつか攻めてくるのでは、と思っていました。同じころ、王宮でもイザベル王女が同じお話を聞いて育ち、天界の巨人の国を思い浮かべて、冒険に憧れていました。
 その後、ジャックは父親が死に、折り合いの悪い叔父の元で働いていましたが、ある日、馬を市場で売ってわらと交換するように頼まれます。寄り道をして町の芝居小屋に入ったジャックは、酔っ払いにからまれて困っているイザベラを助けます。小屋を出たところ、イザベルの許嫁で王の信任厚いロデリック卿が、修道士を捕まえようとしているところに出くわします。修道士はジャックに豆の入った袋を手渡し、代わりに馬に乗って逃げようとしますが、逮捕されてしまいます。一方、豆だけ持って帰ったジャックは叔父に罵倒され、怒った叔父は豆を床にぶちまけてしまいます。その夜、激しく降る雨の中、ロデリック卿との愛のない結婚話に嫌気がさしたイザベルがたまたま雨宿りにジャックの家にやってきます。
 芝居小屋の件もあってすぐに親密になる二人ですが、突如、叔父が床に捨てた豆の一粒がぐんぐん発芽し、イザベルを家ごと、はるか上空まで運んで行ってしまいます。
 王女が失踪したことを嘆く国王は、騎士エルモントに、豆の木に登って王女を捜索するよう命じます。それに、ロデリックとジャックも同行を志願。幾多の苦難の末、一行はついに天空の世界ガンチュアに到達します。そこには本当に伝説の巨人たちがおり、1000年前にエリック王に与えられた屈辱を晴らし、人間たちに復讐しようと待ち構えていました。イザベルはエリックの子孫として捕えられ、エルモントとジャックは王女の救出に向かいますが、ロデリックは本性を表して、彼の本当の野心をあらわにします。彼はエリックの王冠を使い、巨人たちを使役して、地上を支配しようと目論んでいたのでした・・・。
 ということで、「アバター」で革新的に進んだ技術はここにきて完成の域、といってよく、この映画はおそらく2013年時点でもっともハイテクで撮影された映像の映画だと言っていいでしょう。一昔前なら絶対におもちゃじみた絵にしかならなかった巨人の軍勢と騎士団の死闘、といったシーンがこれでもか、という具合に自然に描かれます。もはやどんな絵でも撮ろうと思えば撮れるのだな、と思わせます。
 スリルありロマンスあり冒険あり、戦闘シーンあり、身分の卑しいものが成り上がるどんでん返しあり、もうこういうジャンルの王道要素がきっちり盛り込まれており、中世ファンタジーの理想形と言っていいかと思います。この手のジャンルの作品が好きな人は見て損はありません。服装、甲冑や武器のたぐいは12世紀というより、もう少し後の時代っぽいのですが、「リンカーン」や「ワルキューレ」など時代物で手腕を発揮してきたジョアンナ・ジョンストンの制作する衣装も見事なもので一見の価値があります。これは春休み映画と見逃すのはもったいないのじゃないでしょうか。

2013年3月28日(木)
 映画「コドモ警察」というものを見ました。TBS系の深夜ドラマで人気が出たものの初映画化ということですが、私は実のところテレビ版は存在自体、知りませんでした。「マルモのおきて」で一躍、人気者となった鈴木福君を主演に据えた刑事ドラマ、というのがユニークな作品です。
 横浜を拠点に悪事を企む謎の組織レッド・ヴィーナス。これに対抗するべくエリート刑事を集めて横浜大黒署に編成されたのが精鋭部隊「特殊捜査課」。本庁のキャリアエリートたちも、一目も二目も置く大沼デカ長(50歳)、定年まじかで落としの名人ナベさん(59歳)、大食漢の豪快なイノさん(49歳)、プレイボーイ風のチャラいノリだが実は頼れるエナメル(29歳)と、熱血漢で武闘派のブル(28歳)、頭脳派で上品なスマート(39歳)、紅一点のクールな美女マイコ(30歳)、それに新人刑事の国光(23歳)という陣容です。ところが彼らはレッドヴィーナスの罠にかかり、「子供になってしまうガス」を吸うことに。そのために彼らはみな、中身は大人・・・最年長のナベさんなどは60に近いというのに、身体は小学生になってしまうことに。その場にいなかった新人だけが大人で、先輩たちはみな、一見すると子供、というギャップがとても珍妙なことになってしまいます。
 ところが最近、レッドヴィーナスがらみの犯罪があまりにも粗雑すぎることに、一同は不審を覚えます。適当なサラリーマンや女子高生、肉屋の親父などに犯罪をそそのかすだけの手口はあまりにもお粗末で、とても以前のレッドヴィーナスの計画的な犯罪とはほど遠い。あるいはレッドヴィーナスは壊滅寸前で、その名をかたる模倣犯が現れているのではないか、と彼らは疑い始めます。
 そこに、本庁の間警視(38歳、しかしやはりガスを吸って12、3歳になっています)から連絡が入り、レッドヴィーナス名義で、来日するカゾキスタンのハザフバエフ大統領を暗殺する予告があったとのこと。特殊捜査課の面々は本庁のSPと合同で警備に当たることにしますが、SPの指揮官・吉住の態度は冷たく、かつての上官だったナベさんにも子供扱いして無礼な態度をとります。特殊捜査課だけで独自の捜査を、と主張するメンバーに対し、なぜかデカ長は「本庁の指示に従って、この件からは手を引け」と命じます。らしくないデカ長の態度にバラバラになってしまう特殊捜査課。しかしデカ長には何か考えがあるらしく、以前からの愛人でもある鑑識課の美人課員・凛子に「レッドヴィーナスがらみのチャカの種類を改めて調べてくれ」と依頼します。そのころ、エナメルは街で偶然、かつての彼女、絵里子と再会します。また、マイコは小学校の同級生・翔太からデートに誘われてときめいてしまいます。さて、こんなバラバラな状態で、大沼デカ長はレッドヴィーナスの手から大統領を守ることができるのでしょうか・・・。
 ということで、刑事たちのキャラ設定やあだ名でもわかるように、要するに70年代から80年代の刑事ドラマ「太陽にほえろ」とか「西部警察」の刑事たちが、子供だったらどうなるだろうか、という内容です。まだ8歳の鈴木福君がスリーピースの背広を着込んで、ショットガンを構えてヘリコプターから登場する様は、どう見ても渡哲也の大門団長ですし、捜査課のデスクで電話を取ると「なに?」と咆哮する姿は、石原裕次郎のボスそのものです。ほかの子役たちのキャラもどこかで見たような・・・これは松田優作かな、とかこれは殿下の小野寺昭かな、とかいう感じ。そうそう、こういうドラマでは必ず本庁の嫌われ役で、感じの悪い幹部が出てきますが、今作ではそれが小野寺昭さんなんですね。古い刑事ドラマへのオマージュなんでしょう。
 その他、なつかしのドラマを彷彿とさせる展開が随所にあって、わかっているのですが笑わせてくれます。
 なんの小難しい理屈もなく、とても楽しいバラエティー度満点の作品です。上映時間は101分とコンパクトで、肩のこらない作品をお求めの方にはお薦めかも。それにしても、刑事ドラマのパロディーだから、けっこう死人は出ます。映画館では子供向け映画の予告枠になっていましたが、これは本当は子供向け映画じゃないと思います、昔の刑事ドラマを見ていた世代向けの気アックだと思うのですが、どうでしょう。
 

2013年3月23日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」第49回が、きょう23日発売号に掲載されました。今回は「流行色の歴史は軍服が作ってきた」として、軍服の色がトレンドカラーを左右した17〜19世紀の逸話を紹介。本連載は隔週土曜日掲載(次回は4月6日発売号の予定)です。


2013年3月22日(金)
 「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟、いやお兄さんが性転換したため、今ではウォシャウスキー姉弟が監督する話題作「クラウド アトラス」CLOUD ATLASを見ました。クラウド・アトラスとは直訳すれば「雲の地図」ですが、実はこの映画の原作小説を書いたデイヴィッド・ミッチェルによれば、この題名は日本人作曲家・一柳慧(いちやなぎ・とし)さんの楽曲「雲の表情」の英語題CLOUD ATLASから取ったものだそうです。一柳さんといえばあのオノ・ヨーコさんの最初のご主人。そして、ミッチェルは、前にもオノ・ヨーコさんのもう一人の夫、ジョン・レノンの楽曲「夢の夢」ドリーム・ナンバー9からタイトルを拝借した作品を書いているとか。
 まあ、このへんは余談なのですが、実はミッチェルは日本の広島で8年間も英語教師をし、その後も沖縄などに住んだことがあり、奥さんも日本人。というわけで、日本とアジア文化に非常に理解のある人で、オノ・ヨーコさんがらみのタイトルを使うのも決して偶然じゃないようですね。それに、本作の基本的な構想の軸となるのが「輪廻転生(りんね・てんせい)」なわけですから、この同じ魂が何度もよみがえって人生を繰り返す、という発想はじつはキリスト教圏ではタブーなわけでして、仏教圏のアジア地域ではさして珍しいテーマでもないのですが、人生は一回限りで、死者は最後の審判の日までじっと墓場で待っている、というようなキリスト教の教義からすると非常に異教的というか、スピリチュアル的なテーマなわけであります。原作者がそういう人なのだな、と知ると、なるほど理解できる気がしてくるわけです。
 さて、本作はその輪廻転生テーマで、しかも六つの時代の物語が、順序良く並ぶのではなくてばらばらの断片でつながれる、という・・・つまり、たとえば2012年の登場人物が「扉を開いて外へ出るぞ!」と叫ぶと、次には2144年の人物たちが、扉を開いて外に飛び出していくシーンにつながる、といった具合です。この、個々の物語は必ずしもつながりがない(一部でつながってはいるのですが)にもかかわらず、しかし通底するセリフやシーンが重なって、人というものは、人生というものは「何度も何度も同じような間違いを繰り返す」(1973年のハル・ベリーのセリフ)のです。そして、六つの物語がトータルで訴えているのは、弱肉強食で、強いもの、権力の有るものが弱いものを虐げ、搾取することで序列を作っている人間の社会、その中で欲望のままに他人を押しのけ、支配する層と、その束縛から逃れ自由になろうとする魂の戦い・・・結局、人類の歴史とはそういう繰り返しであり、そしてそこから徐々に昇華していくべきものなのだというメッセージです。
 六つの時代の六つのストーリーが交互にバラバラに出てくる展開なので、そのまま粗筋を記すことはできません。ざっと便宜的に、六つの話を概略、紹介しますと・・・。
 @1849年。南太平洋を航行する帆船にて。義父の代理として奴隷貿易の書類にサインした弁護士のアダムは、病にかかりグース医師の治療を受けることとなる。船室に忍びこんでいた奴隷のオトゥアの命を救ったアダムだが、病状はどんどん悪化。そして治療に当たるグース医師もなにか魂胆があるようだが・・・。
 A1936年。@のアダムの航海日誌を愛読する青年ロバート・フロビッシャーが主人公。同性の愛人シックススミスに別れを告げ、老作曲家エアズの元で採譜の仕事を始める。しかしフロビッシャーの傑作「クラウドアトラス六重奏曲」を、エアズは自分の曲として横取りしようとする。フロビッシャーはエアズに銃を向けて逃走し、シックススミスに最後の手紙を書く・・・。
 B1973年。Aに登場したシックススミスはその後、科学者として原子力発電所の開発に携わっていた。原発開発にかかわる黒い陰謀があることに気付いた彼は、偶然、出会ったジャーナリストのルイサ・レイに秘密を暴露しようとするが、その直前に射殺されてしまう。ルイサは原発に乗り込んで真相を解明しようとし、そこで出会った科学者アイザックは、彼女に協力しようとするのだが、彼らにも殺し屋の手が伸びてきて・・・。
 C2012年。無頼作家ダーモットはパーティー会場で辛口批評家を殺害してしまう。ダーモットはこれで刑務所送りになるが、それまで鳴かず飛ばずだった彼の著書は大ヒット。思いがけず、その担当編集者であるカベンディッシュも大儲けする。ところが、ダーモットの弟たちが現れてカベンディッシュを脅迫、助けを求めてすがりついた兄にも騙され、まるで監獄のような老人ホームに送りこまれてしまう・・・。
 D2144年。全体主義国家ネオ・ソウルで。クローン人間であるソンミ451は、同じレストランで労働させられているユナ939から、クローンが見ることは禁じられている映画を見せられる。それはCのカベンディッシュが老人ホームから脱走する顛末を描いた小説が映画化されたものだった。その後、ユナは客を殴って殺され、ソンミの元には謎の男ヘジュが現れて、囚われの身から解放する。ソンミは徐々にこの社会の恐るべきシステムの実態を知っていく・・・。
 E2321年。文明社会が崩壊して106年が経過した。人々はDのソンミを、神の化身で救世主「ソンミ様」として崇拝している。かつてハワイと呼ばれた島の男ザッカリーは、目の前で妹の夫アダムが、人食い人種コナ族に襲われて殺されるのを見殺しにしてしまう。強いもの、恐ろしいものに抵抗する勇気が彼にはないのだった。ある日、この島に旧文明の技術を継承しているプレシエント族の女性メロニムがやってくる。ザッカリーは彼女を警戒するが、病気になった姪を進んだ技術で治してもらう代わりに、メロニムが望む「悪魔の山」への道案内を引き受ける。メロニムの狙いとは一体、なんなのか・・・。
 同じ役者さんが、各時代で違う役を次々に演じるわけです。トム・ハンクスは@ではグース医師を、Aではフロビッシャーの弱みにつけこむ安宿の支配人を、Bでは科学者アイザック、Cでは無頼作家ダーモット、Dでは映画の中でカベンディッシュに扮する俳優、そしてEでザッカリーを演じます。しかし、彼の場合はいずれも白人の男性役なので、まあ無難な「転生」ぶりですが、たとえばハル・ベリーはAではユダヤ系白人女性のエアズ夫人、Bでは黒人女性のジャーナリスト・ルイサ、Dではアジア人の男性医師、Eで黒人女性のメロニムです。韓国人女優のペ・ドゥナの場合、@ではアダムの妻である白人女性ティルダを、Bではメキシコ人の不法移民女性を、Dではアジア系女性のソンミを演じています。@でアダムを演じたジム・スタージェスはDではアジア系のヘジュに成り切りますし、Dでユナに扮する中国人女優ジョウ・シュンは、Bでホテルの白人男性従業員、Eではザッカリーの妹の白人女性になります。極めつけはヒューゴ・ウィーヴィングで、@での白人優越主義者の義父とか、Bの殺し屋、Dの軍人役などはまあいいとして、Cでは老人ホームの凶暴極まりない看護婦をやる・・・つまり女装しているのが非常に怖いです。
 まあ輪廻転生ですから、人種も国籍も、性別も変わって当然なわけです。しかし徐々に悪から善に近づいていく魂もあれば、おそらく昇華して「解脱」したらしい魂、いつまでも悪人から抜け出せない人物、そして・・・最後にはもはや人間として転生することも許されず、悪霊というか、悪魔になり果ててしまう魂まで描かれます。
 まあ、けっこう哲学的に考えてしまう作品ですし、六つの物語が交互に出てくるので初めの30
分ぐらいは本当に分かりにくいのですが、最後まで見るとすっかりよく理解できて、とても面白いエンターテイメント作品として成立しています。オムニバスとしてみれば、時代劇あり、スリラーあり、SFあり、という具合で、これも面白い。特にCはこの話だけ明らかにコメディータッチです。
 難しいのではないか、ということで敬遠する必要はない作品です。時間も本編172分とかなり長いのですが、見ていて全く長いとは思いませんでした。それだけ構成が巧みに出来ている、ということです。本当によくまあ、映画化できたものです。また性別も人種も超えて見せる最新のメーキャップ技術も凄いもの、と感心させられます。充実した一本だと思います。お薦めです。

2013年3月14日(木)
 「オズ はじまりの戦い」OZ THE GREAT AND POWERFULを見ました。ディズニー作品で、1939年のジュディ・ガーランド主演で有名な名作「オズの魔法使」の前日譚に当たる作品。メガホンを取るのはサム・ライミ監督です。
 オズの魔法使といえば、アメリカの児童作家ライマン・フランク・ボームが1900年に発表した小説で、これが大ヒットしてから、全部で14冊もシリーズが書き継がれました。そして、39年といえば第二次大戦が始まった年ですが、この年に制作された映画が決定版となり、ガーランドが歌った「オーバー・ザ・レインボウ」はスタンダードナンバーとなりました。アメリカのカンザス州の田舎娘ドロシーが、愛犬トトと共に竜巻に飛ばされて、オズの国に飛ばされてしまいます。北の魔女に教えられて、黄色いレンガの道をたどり、途中で出会った勇気のないライオン、脳のないカカシ、心のないブリキ人形といった珍妙な連中と、エメラルドシティを目指します。そこの宮殿にいる大魔法使オズならば、カンザスへの帰り方を教えてくれるだろう、というのです。そしてたどり着いた都で、ドロシーたちは魔法使オズなる人物が、実際はなんの力もないただの老人にすぎないことを知り落胆するのですが、良き魔女グリンダの助言を得て、それぞれの望みをかなえることになる・・・そんなストーリーでした。
 さてそれで。物語の題名であり、不思議の国の国名でもあるオズOZというのは何者なのか? ボームの残した14冊の原作にはある程度、記されているわけですが、今回はそれを基に大胆に想像を加えて、パンフレットの中の監督の言葉によれば、「原作から40%、脚本家ミッチェル・カプナーのイマジネーションが60%」で、そのオズが不思議の国を治める大魔法使と呼ばれるようになるまでの物語を作り上げた、というのが本作であるわけです。
 時は1905年、サーカス団の三流奇術師であるオスカー・ゾロアスター・ディグス、通称オズ(ジェームズ・フランコ)は、人をだますことをなんとも思わない悪党でペテン師、女たらしの小悪党として登場します。今日も行きがかりでたくさんの女性に声をかけ、挙句に本命の幼馴染であるアニー(ミシェル・ウィリアムズ)からは別れ話を切り出されます。サーカス団の怪力男の彼女をたぶらかしたことで、怪力男を激怒させ、大乱闘に。命からがらサーカス団を逃げ出し、気球に乗って逃げだします。ところが突然、竜巻が襲ってきて、オズは気球ごとどこかに飛ばされてしまいます。気がつくと気球は見たこともない美しい国に到着していました。
 森で出会った美しい魔女セオドラ(ミラ・クニス)から、この地が自分の通称と同じ名のオズの国であり、そして、空からやってきた魔法使がこの国の新たな王となり、平和と秩序をもたらす、という伝説があることを知ります。セオドラはオズのちょっとした奇術を見て、彼を本物の魔法使と誤解します。オズはいつもの悪い癖でセオドラを誘惑、彼女もその気になってしまい、オズが国王、自分が妃となってオズの国を支配しよう、と言いだします。
 途中、ライオンに襲われていた翼のある猿フィンリー(声ザック・ブラフ)を助け、エメラルドシティに乗り込んだオズは、セオドラの姉で現在、都を事実上、管理している美貌の魔女エヴァノラ(レイチェル・ワイズ)から、莫大な財宝を見せられます。そして、実の父親である前国王を暗殺して悪の限りを尽くす悪い魔女を倒してくれれば、正式に新国王に迎え、財宝はすべてあなたのものになる、と焚きつけられます。オズはフィンリーを連れて、悪の魔女退治に出かけるのですが、途中、陶器の町で、魔女の手下に襲われた陶器の少女(声ジョーイ・キング)を救出し、いよいよ悪の魔女の本拠地に乗り込みます。ところが、その悪の魔女は、あのアニーそっくりの魔女グリンダ(ウィリアムズの二役)であることを知りオズは驚愕します。
 一方、城ではセオドラが、オズが自分のほかに姉のエヴァノラも誘惑したことを知り、嫉妬に怒り狂います。さて、三人の美しい魔女に囲まれて、オズはいったいこれからどうするのでしょうか。そして、前国王の死の真相とは・・・。
 ということですが、女たらしのペテン師、オズが徐々に使命感に目覚めて成長していく様が一つの柱となっています。一見、甘い風貌で、しかし実はいい加減な男である、しかしながら芯の部分では正義感があるという複雑な人間像を、ジェームズ・フランコが好演。そして、三人の魔女の魅力、というのが重要なポイントですが、「ブラク・スワン」で有名になったミラ・ニクス、「ハムナプトラ」「ナイロビの蜂」のオスカー女優レイチェル・ワイズに、「マリリン 7日間の恋」のミシェル・ウィリアムズと、ルックスも演技力も一流の3人がいい仕事をしています。
 現実のカンザスのシーンは白黒で、オズの国に来るとフルカラーになる、という演出は1939年の映画を踏襲しています。オズの国の描写はことのほか美しく、さすがに70年前の作品とは比較にならない最新技術の成果、といえます。
 とはいえ、ちょっとかわいそうな描き方なのが、妹の魔女セオドラです。すっかり姉の言いなりになって生きてきて、女たらしのオズに出会って一目ぼれ、そして騙されたと知って傷つき、そのまま最後まであまりいいことがないのですけれど、これでいいんでしょうか? まあ、この人が39年の映画で登場する北の魔女になるのでしょうけれど。
 そういえば、猿のフィンリーを助けるときに、オズに撃退されるライオンが登場しますが、特に説明はないですが、ここでおびえてしまって以来、この国のライオンは勇気がなくなったのでしょうか。おそらくそういう設定なのでしょうが・・・。
 全体に、美しくて楽しいディズニー映画という線を外れていませんが、やはり癖のある作風のサム・ライミ監督ですので、オズの人間像と言い、魔女たちの描き方と言い、けっこうダークなものがありまして、意外に子供向けとは言い難い、かなり大人向けファンタジーじゃないでしょうか? なかなかビターな一本だと感じましたけれど、どうでしょうか。

2013年3月09日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」第48回が、きょう9日発売号に掲載されました。今回は「欧州でノーパン当たり前の時代があった」として、古代から現代までの男性下着の歴史をご紹介。本連載は隔週土曜日掲載(次回は3月23日発売号の予定)です。


2013年3月08日(金)
 クエンティン・タランティーノ監督の話題作「ジャンゴ 繋がれざる者」DJANGO UNCHAINEDを見ました。同監督の前作「イングロリアス・バスターズ」に続き、クリストフ・ヴァルツがアカデミー助演男優賞を獲得、また監督自身も脚本賞を受賞、と高い評価を得た作品です。
 一言で感想を言えば、前作よりずっと面白い、と思いました。「イングロリアス・・・」は60〜70年代痛快B級戦争映画、というノリのはずが、最後は史実から完全に外れた訳の分からないファンタジーになってしまうのがどうしても納得いきませんでした。参戦国でもある日本人として、まだあの戦争を決着部分までネタにしてしまうようなことは、ちょっといただけない感じがしたものです。しかし、本作はああいう大風呂敷に歴史が変わってしまうような話ではない。やはり60〜70年代のマカロニ・ウエスタンをいま、やったらどうなるか、というのを真面目に実践した作品です。そして、そのマカロニ西部劇という枠組みで、南部の黒人奴隷問題を扱って見せたわけです。当然ながら、前作以上に批判的な声もあったようですが、結果として監督の狙いは大当たりとなり、これは非常に娯楽作品としても社会派の作品としても両立する異色作として成功しているんじゃないでしょうか。
 時は1858年、南北戦争勃発の2年前のテキサス。カルーカン農園から売られた数人の黒人奴隷が、奴隷商人に歩かされています。そこに現れたのが、奇妙なドイツ人の歯科医、キング・シュルツ(ヴァルツ)。シュルツは同農園にいたお尋ね物のブリトル3兄弟を追っており、彼らの顔を知っている人物を探していました。奴隷の中の一人、ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)はこの兄弟の仕打ちにより農園を追われて売り飛ばされ、妻のブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)とも離れ離れになっていました。当然、兄弟に激しい憎悪を抱いています。シュルツは絡んできた奴隷商人を無造作に射殺し、ジャンゴを助け出します。彼は表向きは歯科医師だが、実は賞金稼ぎで、ブリトル兄弟を見つけ出して殺す手伝いをするよう依頼します。
 シュルツは次に入った街でわざとトラブルを起こし、現れた保安官をあっけなく射殺。そのあとに駆け付けた連邦保安官に対し、自分が殺した相手は元々は凶状持ちのお尋ね者だった、と説明。賞金をせしめます。その手際の鮮やかさにジャンゴもほれ込み、シュルツを手伝って賞金稼ぎの仕事を始めます。
 ブリトル兄弟が現在、雇われているガトリンバーグの農園で、ジャンゴは恨み重なる兄弟を殺し復讐を遂げます。しかし農園主のスペンサー(ドン・ジョンソン)は黒人の賞金稼ぎなる存在が気に入らず、白覆面を被った後の時代のKKKのような集団を率いて、野営しているシュルツとジャンゴを襲撃します。しかし、その動きを察知していた二人は逆に一味を撃退。スペンサーもあえなくジャンゴに返り討ちにされてしまいます。
 シュルツの元で腕を磨いたジャンゴは、ブルームヒルダを取り返すべく、彼女が売られた先であるミシシッピのカルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)の大農園に乗り込みます。農園には、表向きは従順な執事、しかし裏では主人のキャンディや白人の用心棒たちにまで命令を下す腹黒い奴隷頭のスティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)が待ち構えていました。さて、ジャンゴはこの冷酷な農場主と、悪辣非道な奴隷頭から、最愛の妻を取り戻すことができるでしょうか・・・。
 というような展開で、とにかくタランティーノ作品ですから、たくさん人が死にます。しかし基本的にマカロニ・ウエスタンという設定なので、そこはそんなに気になりません。黒人のガンマンで賞金稼ぎという変わった役どころを、ジェイミー・フォックスが好演。しかしなんといってもクリストフ・ヴァルツの怪演ぶりは見事で、今回は初めからヴァルツの出演を前提として脚本を書いた「あて書き」だったというのもうなずけます。もう彼なしでは、タランティーノ監督は映画が作れないのではないでしょうか。それから、ディカプリオの悪役ぶりがまた、いいんです。これも本当にいい演技していますね。彼はこういう時代劇、向いていると思います。19世紀のコスチュームや髪形、非常によく似合っていますし。それに、「マイアミ・バイス」のドン・ジョンソンも重要な役で存在感を示していますし、フォックスがオスカーを受賞した「レイ」で、フォックス扮するレイ・チャールスの奥さん役を演じていたケリー・ワシントンもいいです。知的で芯が強く美しい黒人奴隷、という役どころにぴったりはまっています。
 この映画が本歌取りしているのが、1966年のマカロニ・ウエスタンの名作「続・荒野の用心棒」(セルジオ・コルブッチ監督)です。この映画、こんな邦題をつけられていますが、原題はジャンゴDJANGOなんですね。この映画で謎めいたガンマン・ジャンゴを演じて一躍スターとなったのがフランコ・ネロですが、今回の映画でも特別に出演しております。フランコ・ネロが酒場で隣にいるジャンゴに話しかけます。「名前は?」「ジャンゴだ」「つづりは?」「D-J-A-N-G-Oだ。Dは読まない」するとネロは「知っているよ」と答えます。そりゃそうです、もともと自分の名前なんだから。それから、カメオ出演と言えば、タランティーノ本人も後半で出演しています。けっこう、ちゃんと出ていますし、セリフもあるのでお楽しみに。
 とにかく、黒人奴隷問題というのは今に至ってもタブーで、なかなかアメリカ国内では正面から取り上げにくいそうです。そこを、マカロニ・ウエスタンというフィルターをかけて作品化したタランティーノの技あり、という一本だと思います。
 それにしても、この時代の服装はなんといってもフロックコート全盛の時代。特にディカプリオのような上流階級の衣装はカッコいいです。ああいう服なら、欲しくなりますね。

2013年3月04日(月)
昨日の記事であまりに暗い写真を載せましたので、今日はその歌舞伎座地下のお弁当売り場で「歌舞伎座幕の内弁当」を買ってみました。これで1000円です。とても上品な薄味でした。

2013年3月03日(日)
 すみません、このところ結構、立て込んでいて更新をさぼっておりました。さて、ひな祭りの3月3日。まあ我が家はあまり関係ないですが、一般の人たちが平安時代の衣装を知っているのはこの行事のお陰かもしれません。そういう意味で、大事にしていってほしいと思います。歴史的なものはいったん途切れると、復活は難しいものですから。
 ところで、先日、竣工成った東銀座・歌舞伎座の前を通り過ぎました。4月2日から公演ということで、地下の売店や弁当売り場などはもう営業を開始しています。ゆっくり見たい方は今の内に見ておくといいかも。
 この近くにあった「銀座シネ・パトス」という名画座は今月末に閉館します。また、銀座松坂屋デパートもまもなく、いったん閉店して大規模な建て替えをします。
 ということで、銀座もけっこう変化しております。生きている街なんですね。

2013年2月23日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」第47回が、きょう23日発売号に掲載されました。今回は「ビートルズが履いて人気を博したのは何ブーツ?」として、冬の風物詩ブーツのいろいろを紹介。本連載は隔週土曜日掲載(次回は3月8日発売号の予定)です。


2013年2月19日(火)
このほど、わたくし辻元よしふみ、46歳の誕生日を迎えました。松屋銀座8階の「イプリミ銀座」様http://iprimi.jp/ginza/で、お祝いのデザートをいただきました。イプリミ銀座様、ありがとうございました。

2013年2月14日(木)
 公開中のニコラス・ケイジの新作「ゴーストライダー2 Ghost Rider Spirit Of Vengeance」を見てきました。ここ数年、地味な作品への出演が続くアカデミー俳優ニコラス。でも、日本ではやはり私たちのような根強いファンもいるためか、全国で30館とか、40館とかしか公開しないような状態でも、きちんと劇場で見ることはできました。そして、ひさびさにメジャー作品しかやらない舞浜のイクスピアリ・シネマでも本作が公開! おお、今度こそは、と見に行ったのですが・・・同館ではいちばん小さい部屋なんですね。試写会か、という感じの狭い部屋で。かわいそうニコラス。でも今回は、パンフレットも立派なものが用意されているし・・・。
 とはいえ、そこはさすがにオスカー俳優です。今作では本当に見事な演技をしていますよ。
 前作の「ゴーストライダー」はコミック原作の映画で、2007年に公開されましたが、なかなかセールス的にもいい結果になりました。悪魔メフィスト役にピーター・フォンダ、ヒロイン役にエヴァ・メンデスと、脇役陣もかなり豪華でした。それに引き比べると、正直に言って、今回は地味ですかねえ。ニコラス以外では、近年、評価が高まっているイドリス・エルバが熱演していました。それから御久し振りのクリストファー・ランバートも重要な役どころ。がまあ、そのほかには、あまり有名な人も出ておりません。
 前作で、地獄の業火に包まれた悪魔のライダーを体内に宿すことになったジョニー(ニコラス)は、悪魔を閉じ込めておくことに疲れ果て、人目を避けて遠く東欧(明示されていませんがルーマニアあたりらしい)に潜伏していました。そのころ、近くの修道院では、一人の少年ダニーが悪魔ロアークに雇われて行動する悪党キャリガンの手により、誘拐されていました。ダニーの母親ナディアはかつて、ロアークと契約して、死にかけていた自分の命と引き換えに、ロアークの子供を胎内に宿すことを承諾。そうして生まれたダニーは悪魔ロアークの子供であり、ロアークは衰えた自分の地上での肉体を捨てて、ダニーの若い肉体に乗り移り、世界を掌握しようと目論んでいたのです。
 修道院を逃れた僧侶モロー(エルバ)は、ジョニーの元を訪れ、かつてロアークと契約を結んだ君なら、少年の行方を探し出せる、彼を救出してくれたら、自分の教団の力で、君にかかっている呪いを解いてやるから協力してほしい、と依頼します。体内の悪魔との戦いにうんざりしていたジョニーはこれを承諾、ロアークの魔力を感知してライダーに変身し、ダニーを拉致しているキャリガンを襲います。結局、二転三転の後、ナディアと共にダニーを助け出すことに成功したジョニーは、モローが所属するメソディウス(ランバート)の秘密教団の元に身を寄せます。ジョニーはここで、呪いを解き放たれ、ついにライダーから解放されます。しかし、秘密の僧院はまたもキャリガンに襲撃されてダニーが奪い去られてしまいます。ロアークがダニーを使ってパワーを取り戻す儀式は間近に迫っています。力を失ったジョニーは、いったいどうするのでしょうか・・・?
 といった展開です。まあ、全体にこじんまりした作品で、正味の上映時間も95分ほど、と大作とはいえません。が、ニコラスの熱演ぶりは、いいです。今回は、前作と違い、ライダーに変身した状態の演技もニコラス本人がちゃんとやっており、オートバイを乗り回すシーンもスタントを使わず自分でやっている、ということからも力の入れようが分かります。体内のライダーが出てきそうなのを必死に抑えるジョニーの狂気の演技ぶり。ここは見ものです。
 イドリス・アルバの破戒僧ぶりもいいです。この人の存在感が映画の格を上げていると思います。
 どーんと豪華な超話題作、とは言い難いわけですが、要所はしっかり締まっていて、楽しめる娯楽作品だと思いました。そろそろ、もう少し大きな作品に出てほしいんですけどね、ニコラス。

2013年2月09日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」第46回が、きょう9日発売号に掲載されました。今回は「ダッフルコートの起源は北海漁師の冬の労働着」として、漁業現場や戦場で着られたダッフルコートなどの歴史を紹介。本連載は隔週土曜日掲載(次回は2月23日発売号の予定)です。


2013年2月07日(木)
先日、2月1日放送の「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」で取り上げました、中央アジア・ウズベキスタンの民族帽「チョギルマ」が、私の手元に届きました。番組スタッフの皆さんのご好意で、私にも御土産として買ってきてくださいました。番組で所さんが言っていたように、少し「獣臭い」のですが、思ったほどきつい匂いでもありません。また意外に軽いです。確かに、この種の帽子が、英国近衛兵の帽子にまで行き着いたのだろう、と思わせる帽子です。ちょっと日本で被って歩くには勇気が要りますが・・・。

2013年2月02日(土)
 昨日、2013年2月1日夜、無事に「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」がテレビ東京系で放映されました。「大調査!アジア大横断ロンドン近衛兵の帽子なぜ巨大?ついに発見秘密は最強騎馬帝国」をご覧になった皆様、いかがだったでしょうか。とにかく台本通りにきちんと「黒くてデカイ帽子」というキーワードを言わないといけない、という役回りで、収録は本当に緊張しました。私の言葉で「現地に行く」という展開でしたので。
 さて、あの種の毛皮の帽子は、欧州では一般総称的にカルパックKalpak帽と呼んでいます。これはトルコ語が由来の言葉で、オスマン帝国から欧州にああいう帽子が入ってきたことを示唆しています。それで、今回はロケ隊がこの種の帽子の起源だろうと思われる中央アジア、ウズベキスタンまで行ってくれました。現地では今日、この帽子はチョギルマと呼んでいることが分かった次第です。このチョギルマというのは、おそらくモンゴル語の語彙ではないでしょうか。そして、当地にあったヒヴァ・ハン国でこれが被られていたということです。この国の一部地域が現在ではカラ・カルパクスタン(黒い帽子の人々)と名乗っているのも、関連があるでしょう。
 で、番組では欧州に伝播した後のことは、ざっくりと紹介しました。あまり細かい話をテレビ番組でしても、盛り上がりませんので。要するに、オスマン帝国と14世紀に戦ったセルビア騎兵が、ハンガリーに逃れ、ここでハンガリー軽騎兵が成立。彼らがこの毛皮の帽子を欧州で被り始めたようです。そして、ハンガリー騎兵はフランス軍に編入されました。以来、フランスの軽騎兵連隊の精鋭中隊がこのカルパック帽を被るようになり、エリートの帽子、ということになりました。そこで、当時、フランス軍の中でやはり精鋭とみなされていた擲弾兵(てきだんへい)連隊もこの種の毛皮の帽子を採用。
 1815年のワーテルローの戦いで、ナポレオン率いるフランス軍の最精鋭部隊、皇帝親衛擲弾兵連隊を、英国の近衛擲弾兵連隊が撃破。英国側の勝利に大きく貢献しました。かくて、英国近衛擲弾兵連隊は、勝利を記念してフランス式の毛皮帽を被るようになります。1831年には、同連隊以外の近衛コールドストリーム、近衛スコッツ連隊もこれを被ることになり、さらに1900年代に近衛師団に加わった近衛アイリッシュ、近衛ウェルシュ連隊もこの帽子を踏襲、近衛兵と言えばベアスキン帽、というのが定着したわけです。
 軽騎兵の被るカルパック帽(英国ではバズビー帽とも呼びます)と、擲弾兵の被るベアスキン帽は、ナポレオン軍の時点ですでに、かなりデザインも異なり、今では基本的に別物として考えられています。とはいえ、起源が中央アジアの遊牧民の帽子で、オスマン帝国から入ってきた、というところまでは同じ帽子であったと考えられます。
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 ところで、私の部屋にナポレオンの軍服を着たテディべアがあったのを気付かれたでしょうか。これはドイツのハーマン社のベアで、世界限定500体の中の1体。我が家のものはシリアル番号20と足の裏に入っています。もう10年ぐらい前に輸入業者から買ったので、現在では手に入らないと思います・・・。
 また、私はかなり鮮やかな服を着ていたと思いますが、あれはタキザワシゲルのオーダー・スーツで、シャツはやはりタキザワシゲルの中でも、柳下望都さん渾身の完全ハンドメイド、手縫いのシャツです。締めていたネクタイは、エトロ(ETRO)のオーダー・タイでした。ご参考までに書いておきます。



2013年2月01日(金)
本日、2月1日午後9時より、テレビ東京系「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」に、わたくし、辻元よしふみが出演いたします。内容は「英国近衛兵の帽子の謎」について。出演そのものは1分ほどですが、その後の内容も監修させて頂いております。ぜひ、お時間が有ればご覧いただければ、と存じます。なお、大橋未歩アナウンサーが御病気のため、この回から秋元玲奈アナウンサーが出演されるそうです。
 今回の出演にちなみまして、今週は英国近衛兵に関する話題を書いております。今日は、英国近衛師団の五つ目の連隊、近衛ウェルシュ連隊の制服を紹介します。
 近衛ウェルシュ連隊は、ウェールズを基幹とする部隊で、近衛師団の五つの連隊の中では最も若く1915年、第一次大戦中に編成されました。時の国王、ジョージ5世(現在のエリザベス2世陛下の御祖父さん)が同年2月、ウェールズだけ近衛連隊がないことを気にし、戦時下ということで、国民統合を強調するためにもウェールズの部隊を加えるよう、陸軍大臣キッチナー元帥に命じたそうです。その命令の翌月にはさっそく部隊が創設され、今日に至っています。
 なぜウェールズだけ近衛連隊がなかった、といえば、スコットランドやアイルランドよりも早く13世紀には、イングランドに統合された国だったためです。そのころから、イングランドの王太子はプリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ大公)と名乗るようになりました。そして今の連合王国のチャールズ皇太子も、この称号を名乗っています。
 そういうわけで、この連隊の名誉連隊長はチャールズ皇太子が務めています。
 近衛ウェルシュ連隊の制服は、「5」を基調として、5個の金ボタンが2組で10個、並んでいます。袖口にも5個のボタンが付き、1個ずつ区切り線があります。
 ◆  ◆  ◆
 そして、近衛連隊共通で被っているのがベアスキン(熊毛)帽。詳しい来歴は「所さん」の番組に譲りますが、1815年に近衛擲弾兵連隊で採用され、35年にコールドストリーム、スコッツの両連隊にも使われるようになってから、近衛連隊の象徴となりました。高さは約46センチ、重量は680グラムほどだといいます。英連邦であるカナダのヒグマの毛皮を用いますが、近年は動物愛護団体などからの苦情もあり、また同様の帽子を被る他の部隊や、外国の部隊では人造毛皮に切り替えていることもあり、素材の見直しが検討されているようです。なお、この帽子には連隊ごとに異なるプラム(羽飾り)を付けます。近衛擲弾兵連隊は帽子の左側に白いプラムを、コールドストリーム連隊は右側に赤いものを、スコッツ連隊は何もつけません、アイリッシュ連隊は右側に青いプラムを、そしてウエルシュ連隊は左側に白・緑・白という配色のプラムを付けます。
 それにしても、17世紀以来の伝統を今日に伝える英国近衛兵。いかにも英国を思わせる存在といえますね。



2013年1月31日(木)
あすの金曜日、2月1日午後9時より、テレビ東京系「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」に、わたくし、辻元よしふみが出演いたします。内容は「英国近衛兵の帽子の謎」について。出演そのものは1分ほどですが、その後の内容も監修させて頂いております。ぜひ、お時間が有ればご覧いただければ、と存じます。なお、大橋未歩アナウンサーが御病気のため、この回から秋元玲子奈アナウンサーが出演されるそうです。
 今回の出演にちなみまして、今週は英国近衛兵に関する話題を書いております。今日は、昨日取り上げた近衛スコッツ連隊に続き、英国近衛師団の四つ目の連隊、近衛アイリッシュ連隊の制服を紹介します。
 これまで取り上げた近衛擲弾兵連隊、近衛コールドストリーム連隊、近衛スコッツ連隊が17世紀の清教徒革命から王政復古の時期にルーツを持つ古い部隊であるのに対し、アイリッシュ連隊は1900年創設の比較的新しい部隊です(とはいっても、日本でいえば明治時代ですが)。アイルランドは長らくイングランドから圧迫を受けて屈服した国であり、近年のアイルランド紛争などを見ても、ちょっと複雑な地域です。16世紀にヘンリー8世が英国国教会を創設してイングランドがカトリック教会から離脱した後も、アイルランドではカトリックが主流を占め、宗教的にも対立してきました。結局、第一次大戦後はアイルランドは英国から独立、北アイルランドだけが英領にとどまりますが、今に至るも緊張関係が続いております。
 そういう政治的な難しさがあるわけですが、19世紀末のボーア戦争ではアイルランドの部隊が英国の名のもとに奮戦しました。これを喜んだヴィクトリア女王が、アイルランドの近衛連隊創設を勅命してできたのが、このアイリッシュ連隊です。
 この部隊は、その後のニ度の世界大戦や各地の戦争で奮戦し、第二次大戦中は、ナチスから逃れて亡命中だったルクセンブルク大公子ジャンが所属して戦いました。その縁で、戦後には長くジャン大公が「名誉連隊長」を務めています。
 ちなみに、こういう欧州の歴史ある陸軍連隊には、「名誉連隊長」というものがあります。実際に指揮を執る連隊長(通常、階級は陸軍大佐colonel)は当然、常にいるわけですが、それとは別に皇族や王侯貴族など、それに特に功績のあった将軍などがこの名誉職に就きます。英国の場合、名誉連隊長の上にはさらに「総連隊長」colonel in chiefというものがあって、女王陛下がその職におられます。君主が近衛連隊の連隊長を兼ねると言うのは普通のことで、たとえばナポレオンも、親衛連隊の総連隊長でもあり、前線では常に親衛連隊の連隊長の軍服を着ていました。
 上記のように複雑な問題があるため、アイルランド出身者に限定した新兵募集は難しく、現在ではこの連隊の場合、連合王国、英連邦全体から兵士が志願しているといいます。
 さて、この連隊の制服は、金ボタンの数は「4」が基調です。4個のボタンが2セットで8個、並んでいます。その下に赤い隠しボタンが1個あるのは他の部隊と同じです。袖口のボタンも4個ですが区切り線がなく、4個で1組であることを強調しています。
 明日は最後に、近衛ウェルシュ連隊を取り上げましょう。

2013年1月30日(水)
今週の金曜日、2月1日午後9時より、テレビ東京系「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」に、わたくし、辻元よしふみが出演することになりました。内容は「英国近衛兵の帽子の謎」について。出演そのものは1分ほどですが、その後の内容も監修させて頂いております。ぜひ、お時間が有ればご覧いただければ、と存じます。なお、大橋未歩アナウンサーが御病気のため、この回から秋元玲子奈アナウンサーが出演されるそうです。
 私の出演にちなみまして、今週は英国近衛兵に関する話題を・・・。今日は、昨日取り上げた近衛コールドストリーム連隊に続き、近衛スコッツ連隊の制服を紹介します。
 ところで、英国近衛兵の制服はなぜ赤いかといえば、そもそも、英国陸軍の制服は17世紀以来、赤が基本であって、それが第一次世界大戦でいったん廃止となり、戦後、近衛連隊の礼服でのみ復活したため、今では近衛連隊だけが赤い制服を着ているということを、1回目に書きました。では、そもそもなんで英国陸軍の統一カラーは赤が採用されたのかといえば、この国は赤い染料の原料となるカイガラムシ(エンジムシ)の産地だったからです。赤い色、というのは、じつはアブラムシの仲間であるカイガラムシからとれる染料で出すもので、古代には非常に貴重な色でした。それで、古代ローマ時代のブリタニア属州(今の英国です)は、ローマ皇帝にこのエンジムシ染料を献納していたほどです。名産品だったわけですね。
 しかし、第一次大戦が起こった20世紀初頭となると、もはや英国も海外からの輸入に頼るようになっており、この非常時にわざわざ赤い染料を輸入して、不要不急の赤いパレード服など作っている余裕がなくなった、というわけです。
 さて、近衛スコッツ連隊は、近衛師団の五つの連隊の中の一つで、その名の通りスコットランドの部隊です。英国は連合王国でして、イングランドの王様が、同時にスコットランド、ウェールズ、アイルランドの王様を兼任する、同君国(同じ君主を戴く国)という形で統合しています。かつてのオーストリア=ハンガリー帝国などというのも、オーストリア皇帝がハンガリー国王を兼任する、という同君国として成立していましたが、英国もそういう形なので、それぞれの国の連隊をいわば代表として王室警護の近衛師団に入れているわけです。
 スコッツ連隊も17世紀の清教徒革命のころに成立した歴史ある部隊です。チャールズ1世の警護に当たるアーガイル侯王立連隊Marquis of Argyll's Royal Regimentというのが前身でしたが、チャールズ1世が革命で処刑された際にいったん廃絶。皇太子のチャールズ2世が王政復古した時に、この部隊を再編成しました。
 スコッツ連隊の制服は、「3」を基調としています。金ボタンが3個、3個と並んだ下に、2個ついていますので、合計で8個です。いちばん下は赤色の小さな隠しボタンが1個あり、ここは白い礼装ベルトを締めると隠れてしまいます。袖口のボタンも3個です。
 明日は、近衛アイリッシュ連隊を御紹介しましょう。

2013年1月29日(火)
今週の金曜日、2月1日午後9時より、テレビ東京系「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」に、わたくし、辻元よしふみが出演することになりました。内容は「英国近衛兵の帽子の謎」について。出演そのものは1分ほどですが、その後の内容も監修させて頂いております。ぜひ、お時間が有ればご覧いただければ、と存じます。
 これにちなみ、今週はちょっと英国近衛兵に関する話題を・・・。今日は、昨日取り上げた近衛擲弾兵連隊に続き、近衛コールドストリーム連隊の制服を紹介します。
 ところで、近衛擲弾兵(このえ・てきだんへい)のうち、近衛というのは、王室を警護する親衛隊の意味ですね。で、擲弾兵というのは、手榴弾(グレネード)を投擲して戦う兵隊、の意味です。敵の間近に接近して、手榴弾を投げつける、というのはとても勇気がいります。なので、擲弾兵というのはエリート部隊とされていました。よって、近衛5個連隊の中でも、この連隊が最も古いと言うだけでなく、いちばん格上なのですね。第二次大戦中のドイツ軍で、総統ヒトラーが歩兵のことを、戦争の後半にパンツァー・グレナディアー(戦車擲弾兵)と改称させたのも、精鋭らしい響きで士気を上げようとしたからでした。
 で、これに次ぐとされるのが、近衛コールドストリーム連隊。この「コールドストリーム」というのは地名です。もともと、清教徒革命の立役者、オリヴァー・クロムウェルが自分の率いるニューモデル軍から、モンク大佐の部隊を分割してスコットランドに派遣したのが始まりです。その後、国王チャールズ1世を処刑して、クロムウェルは事実上の独裁者となりますが、その死後、英国を統治できるほどのカリスマ性がある指導者は見あたらず、ロンドンは混乱します。そこで、モンク大佐は、スコットランドとイングランド国境のツィード川を、コールドストリーム村付近で渡河、ロンドンに赴いて混乱を鎮定し、亡命中のチャールズ皇太子(後のチャールズ2世)が帰国できるように下準備します。この功績により、この連隊はチャールズ2世の近衛連隊に加えられる名誉を得て、彼らにとってのルビコン川を越えた歴史的地名であるコールドストリームを、部隊名に冠したわけです。
 この連隊の制服は、二つずつペアの金ボタンを4組で8個、さらにその下に金ボタンが1個で、合計9個付いているのが特徴です。袖には、4個の金ボタンがありますが、二つずつのペアで区切り線が入っています。
 明日は近衛スコッツ連隊をご紹介しましょう。

2013年1月28日(月)
前に書きましたように、今週の金曜日、2月1日午後9時より、テレビ東京系「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」に、わたくし、辻元よしふみが出演することになりました。内容は「英国近衛兵の帽子の謎」について。出演そのものは1分ほどですが、その後の内容も監修させて頂いております。ぜひ、お時間が有ればご覧いただければ、と存じます。
 これを記念しまして、今週はちょっと英国近衛兵に関する話題を・・・。女王陛下が住むバッキンガム宮殿の前に立っている、あの「黒くてデカイ帽子」を被り、真っ赤な制服を着た兵隊さんたち。あれが近衛兵(このえへい)です。Royal Foot Guardsというのが原表記ですので、直訳すれば「王室警護歩兵」というような感じになりましょう。この部隊は、いちばん古い近衛擲弾兵連隊(このえ・てきだんへい・れんたい)The Grenadier Guardsが、17世紀当時、清教徒革命で王政が一度、倒れた後、王政復古によって戻ってきたチャールズ2世の警護隊として誕生、さらに王政復古で活躍したモンク連隊が、近衛コールドストリーム連隊The Coldstream Guardsとして近衛連隊に参加して以来の伝統があります。そして19
世紀前半、ヴィクトリア女王の時代から、宮殿前の警護任務、衛兵交代式が確立したようです。現在の規定では、女王が宮殿にいらっしゃる際は4人の近衛兵が、不在の場合は2人の近衛兵が立っているので、一目で分かると言います。
 この後、いろいろ変遷がありますが、現在は上記の二つの連隊と、スコットランドのスコッツ連隊The Scots Guards、アイルランドのアイリッシュ連隊The Irish Guards、ウェールズのウェルシュ連隊The Welsh Guardsの五つの連隊が存在します。
 あの大きな帽子については、「所さん」の番組本編に譲りますが、赤い制服(レッドコート)はなんなのでしょうか? あれはそもそもは、別に近衛兵の専売特許ではありません。19世紀いっぱいまでは、英国陸軍はすべて、赤色の制服を着ていたんんですね。記録によれば、1645年にオリバー・クロムウェルのニューモデル軍が、初めて赤い統一色の軍服をそろえたとか。日本ではいえば江戸時代の初めごろからの伝統があるわけです。
 19世紀半ば頃から、ライフル銃の性能が上がってきたため、赤い制服は目立ちすぎる、といわれるようになり、インドに駐留していた英軍部隊で初めて、泥色の制服、カーキ色を採用しました。カーキ、というのはヒンズー語で泥の意味です。以後、ズールー戦争やボーア戦争を経て、20世紀初めには英軍は、基本的にはカーキ色の制服を着るようになり、赤い服はパレードや儀式用の礼服扱いとなりました。
 1914年に第一次大戦が始まると、非常時につき、儀礼用の赤い服はいったん、全部廃止となりました。そして、戦争の終わった1918年に、儀式での登場が多い近衛兵だけが、赤の制服を復活したわけです。これ以後、赤い服は近衛兵、というイメージが出来たんですね。
 さて、上に書いたように、現在の近衛連隊は、イングランドの二つの部隊と、スコットランド、アイルランド、ウェールズの部隊があります。19世紀半ばに大体、この体制が固まった際に、部隊ごとにボタンの数を変えて、一目で区別が付くようにしました。
 最古参の近衛擲弾兵連隊は、ストレートに八つの金ボタンが並んでいます。また、袖口はボタンが四つで、一つずつが線で囲われています。
 明日は、近衛コールドストリーム連隊についてご紹介しましょう。
 



2013年1月26日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」第45回が、きょう26日発売号に掲載されました。今回は「スーツのダブルは権力の象徴」として、もともと乗馬用の仕様から権威を感じさせる服となったダブルの歴史を紹介。本連載は隔週土曜日掲載(次回は2月9日発売号の予定)です。


2013年1月25日(金)
ご関係各位 様

 来る2013年2月1日午後9時より、テレビ東京系「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」にて、辻元よしふみが、戦史・服飾史研究家として出演することになりました。内容は「英国近衛兵の帽子の謎」について。出演そのものは1分ほどですが、その後の内容も監修させて頂いております。ぜひ、お時間が有ればご覧いただければ、と存じます。

 なお、関東首都圏と、テレビ北海道、テレビ愛知、岐阜放送、テレビ大阪、テレビせとうち、TVQ九州放送では同時ネットで2月1日午後9時に放映予定です。その他では、福島テレビが約2か月後の日曜午後1時、琉球朝日放送が約1か月後の土曜午後10時、など、全国各県で少し遅れて放映されます。

 なにとぞ宜しくお願い申し上げます。         辻元よしふみ



2013年1月21日(月)
 このところ、映画「レ・ミゼラブル」のネタが多い、というかジャベール警部ブログのようになってますが(?)、まあそれは仕方ありません、私のような時代考証好きからすると、あの映画で唯一、制服キャラなのがジャベールなんだから。
 で、映画版で、劇場版と違っていた部分で、とても評価が高かったのが、ジャベールが死んでいる少年ガブローシュの胸に、自分の勲章を外して「授与」するシーンです。あれは感動的な演出でした。なんでも、ラッセル・クロウの提案でああいうシーンが出来たとか。
 あの勲章ですが、やはり時代からいっても、レジオン・ドヌール勲章の最下位等級シュヴァリエ(騎士章)のようですね。写真で見ても分かりますが、五角形の独特の形状です。

2013年1月20日(日)
 先日の「英国近衛兵」と「レ・ミゼラブルのジャベール警部」で、古い時代の帽子の話題が続きました。私も、一応「戦史・服飾史研究家」として、もうひとつ気になった話題を追加しておきます。
 というのも、映画レ・ミゼラブルのジャベールですが、注意深く見た人しか気づかなかったと思いますが、後半はあの大きなナポレオン型の「二角帽」で登場しますけれど、冒頭のジャン・バルジャンが船を曳いているシーン、刑務所の看守時代のジャベールは、頭に船のような形の帽子を被っていました。
 ああいうのを、フォラージュ帽とかギャリソン帽、ドイツ語ではシュイフェン、などと呼びます。要するに「要塞帽」とか「舟形帽」というもので、第二次大戦では、アメリカ、ソ連、ドイツなどの軍隊がよく被っていました。日本軍などではあれは採用しませんでした。
 しかし、実はああいう帽子のルーツは古いのですね。おおむね18世紀の後半、フランスの警察の作業帽、略式の帽子として登場した「警察帽」bonnet de police というのが、あのジャベールの帽子です。
 この「警察帽」は、ナポレオン戦争途中の1812年までフランス軍で広く、作業用、日常用として使用しました。正式な帽子ではないので、あまり絵画などでは描かれていませんけれど。そして、12年以後はポーランドの防寒帽を手本にしたポカレムpokalemという帽子に切り替わります。フランス軍が徐々に東欧、北欧、ロシアなど寒冷地での戦争を志向し始めたからです。
 しかし、ナポレオンの失脚後、このポカレムは徐々に消滅。というのも、戦争の勝者であるプロイセン式の帽子、ミュッツェが流行し始めたからです。このプロイセンの帽子が、その後の世界の制帽のスタンダードとなって、今の警察官や鉄道員の帽子の先祖になります。一方、警察帽のほうはなぜか、100年以上もたって、1940年代の第二次大戦で復活を遂げたのですね。なお、現代の軍隊ではこの船型帽は再びすたれて、ベレー帽が多くなっていますが。
 ・・・ということで、1815年のフランスの警察官に、ああいう略帽をかぶせたレ・ミゼラブルの衣装担当の人の時代考証は正しいのであります。
 

2013年1月18日(金)
 今日はちょっと、我が家的には大ニュース、でございました。実は、あるテレビ局のロケ隊がやって来たのです。ある局の、ある教養番組にて、「英国近衛兵の帽子」について取り上げることになり、軍装史の研究家として出演し、また内容もちょっと監修させていただくことになりまして。
 まだまだ、はっきりした予定は立っていませんので、詳細についてはまた後日、ご報告できれば、と存じます。しかし・・・緊張しました! 中学の文化祭の演劇以来の緊張感でした。

2013年1月14日(月)
 雪になるかも、という予報でしたが・・・これはすごいです。首都圏だと、5センチぐらいの雪でも大雪扱いで、豪雪地帯の方からみれば笑止千万、ということが多く、新潟や福井に住んだこともある私も、ちょっとぐらいの降雪ではなんとも思いませんが、今日の降り方はホンモノですね。
 都心よりやや温暖な浦安でも、昼には一面、銀世界。午後3時すぎの銀座も、歩くのが困難な状態でした。
 電車はちゃんと動いていたので助かりましたが・・・はい、私は祝日でも、もちろん出社でございます。

2013年1月12日(土)
 日刊ゲンダイ連載「辻元よしふみ おしゃれウンチク堂」第44回が、きょう12日発売号に掲載されました。今回は「振り袖はもともと少年が着る物だった」として、振り袖と羽織袴という晴れ着を紹介。本連載は隔週土曜日掲載(次回は1月26日発売号予定)です。


2013年1月11日(金)
 映画「レ・ミゼラブル」で、ヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイがアカデミー賞でノミネートされた、と聞きました。ジャベール警部役のラッセル・クロウはお呼びがかからなかったようですが、彼はもう貰っていますからね・・・。
 ところで、ある方から、ジャベールの被っているあのでかい「ナポレオンみたいな帽子」について聞かれました。私がこの手の、古い衣装を研究していることを知っている方ですけれど、「あれは19世紀には普通の帽子だったんですか」と。
 「そうです、だいたい18世紀の後半から19世紀の半ばまで、軍の将校や、ジャベールみたいな警察の士官なんかが主に被っていました。普通の人もフランス革命期には被ってましたね」
 「しかし、映画でジャベールがあの帽子を被って、馬で疾走するシーンがありましたけど、風で飛びませんか、ああいう面積が広い帽子は」
 「はい。危ないです。あれは二角帽といって、もともと普通のハットのツバを、銃を撃ちやすいように前後、折り重ねた物です。しかし実用として、風で飛びやすい。だから、ナポレオン戦争のときには、すでに角を前後にして被るのが普通になっていて、英国軍などはその『縦被り』を正式とするよう、規則を改めたほどです。が、ナポレオン本人は頑として、あの横被りを好んだので、フランスではかなり後まで横被りが多かったですね」
 「で、ああいう帽子はいつ頃まであったんです?」
 「19世紀の後半には、日常用の帽子としては廃れてしまうけれど、礼装用では残っていて、日本なども、戦前の大礼服では、ああいう二角帽を被っていましたよ。日本の場合は英国式に縦被りで、ナポレオンやジャベールみたいな横被りじゃなかったんですが」
 「なーるほど」
 ・・・というような会話を致しました。私はどうも、こういう話になると嬉しくなってしまうのですよね。

2013年1月05日(土)
 さて、昨年の1月末に刊行した私どもの『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)について、ちょっと不思議なことがあります・・・。何しろ、すでに発売からまもなく1年がたつわけで、普通なら売れ行きも一巡して大きな動きもなく・・・というものなのですが、なぜかここに来て、昨年末の最終週あたりから今週にかけて、なぜかアマゾンで好調に売れています。なぜなのでしょう? 少し前までかなり在庫もあったのですが、今日5日午前6時現在、アマゾンでの在庫はたった2冊、軍事入門書部門で14位、書籍総合でも6144位に返り咲いています。何やら発刊直後のような勢いなのですが、なにかあったのでしょうか? どなたかブログか何かで紹介してくださった方でもいらっしゃるのでしょうか。
 売れてくれるのは嬉しいですが、不思議ではあります。

2013年1月01日(火)
 あけましておめでとうございます。2013年も宜しくお願い申し上げます。
 近所の神社でおみくじをいただきましたら、大吉でした。なかなか幸先よい感じです。
 今年、我が家のおせち料理は「オリジン弁当」に注文しました。手作り感があって美味しいです。
 という具合で、平穏な元日となりました。巳年がいい一年になれば、と念じております。




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