”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。


不定期日記 2016年

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2016年12月31日(土)
 さて、2016年も最後の1日、大晦日を迎えました。

 今年も熊本の大地震や秋の台風、先頃の糸魚川大火など、いろいろなことがありました。米大統領選や英国のEU離脱、相次ぐテロなど、国際的にも大揺れの一年。また、デビッド・ボウイさん、プリンスさんから、つい先日のジョージ・マイケルさん、キャリー・フィッシャーさん、そして彼女のお母様のデビー・レイノルズさん・・・多くのビッグネームが世を去りました。

 ひるがえって私たち夫婦はどうだったかと申しますと、まず8月に『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)を刊行出来ました。何しろ3年半越しの非常に苦労した出版計画だったので、本当に出せて嬉しかったです。10月には、推薦文をいただいたコシノジュンコ先生が発起人となって、この本の出版記念会をJunko Koshinoブティックで開催していただきました。この際には多数の皆さまにご来場賜り、まことにありがとうございました。さらにこの本は、世界的な高級ブランド、エトロETROのデザイナー、キーン・エトロKean Etroさんのお手元に渡りまして、同氏からは貴重なサインブックを頂戴いたしました。
それから、『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も7月に3刷を出すことが出来ました。読者の皆さま、関係の皆さまに厚く御礼申し上げます。
また、今年は7月に、NHK BSプレミアムの番組「美の壺」の「華やぎのボタン」の回に出演し、英国海軍から徳川幕府海軍、そして日本海軍に至った錨の紋様がある金ボタンの歴史を解説いたしました。同じ月に、名古屋テレビの朝の情報番組「ドデスカ!」にも電話出演。「全力リサーチ」コーナーで、男性の夏の半ズボン姿について、18世紀末のフランス革命までは、男性の正装はむしろ半ズボンだった、といったコメントをしました。
そして今月には、朝日新聞12月2日付けの第3社会面「ニュース Q3」コーナーで、「ナチス風−批判浴びた欅坂46衣装」(秋山惣一郎記者)という記事にコメントを寄せ、さらに玲子のイラストも『軍装・服飾史カラー図鑑』からの引用という形で掲載されました。同様のテーマでは11月にも日刊ゲンダイ紙上でコメントしております。
小学館の「メンズプレシャスMen’s Precious春号」に、私が書いた「男心をくすぐる! ミリタリー・ウエア進化論」を掲載していただいたのも、今年の4月でした。

と、こうしてみると、なかなか盛りだくさんな一年だったような気がします。刺激もありましたが、かなりハードな一年でもあったように感じております。なんとか乗り切れましたのは、ひとえに皆さまの御指導・御鞭撻によるところと存じております。ありがとうございました。

さて、昨年の大晦日は、「リーガル」の年末キャンペーンで贈られるテディベアを紹介しましたので、今年も。2016年のクマさんはポンチョをまとったフォークロア・スタイルという異色のもので、この企画の20周年を記念した特別バージョンでした。今年もよく出来ていますね!

ということで、2016年もいよいよおしまい。来年はどんな年になりますか。皆さま、よい年をお迎えください。本年はまことにありがとうございました。


2016年12月29日(木)
 キャリー・フィッシャーさんが急逝されましたね。享年60歳。昨年、スター・ウォーズのエピソード7でレイア・オーガナ姫として奇跡のカムバックを果たし、今後もエピソード8、9と活躍されるはずでしたが、まだ若いのに・・・。ご冥福をお祈りします。
 そんな訃報が届いた今日ですが、スター・ウォーズのシリーズ最新作「ローグ・ワンROGUE ONE」を見ました。もちろん、初めからこの日に鑑賞するつもりだったので、フィッシャーさんの訃報と重なったのは偶然でしたが、この作品のエンディングには、若き日のレイア姫が登場します。CG処理で若い日の容貌を再現しているようですが、まさに最盛期のレイア姫と再会できて、胸が詰まりました。
 なんで、若き日のレイア姫が登場するのか、といえば、この「ローグ・ワン」という作品は、これまでの正統な「エピソード1」に始まるシリーズの歴史の中で、まだ描かれていない隙間の時代の真相を描き出す新しい試み「スター・ウォーズ・ストーリーA STAR WARS STORY」の一作目だからでして、本作はエピソード4(つまりシリーズの第一作)の直前の時代、帝国と反乱軍の全面戦争が始まる時期を取り上げております。
 第一作の冒頭、レイア姫はダース・ベイダーに追われて逃げており、R2D2に帝国の究極の最終兵器「デス・スター」の設計図を託して、オビワン・ケノービの助力を得ようとします。そこにルーク・スカイウォーカーやハン・ソロが絡んできて、おなじみのシリーズが始まっていきます。第一作というのは、いかに反乱軍が難攻不落の要塞デス・スターを破壊するか、ということで終始した作品でした(もしシリーズ化されずに、あの一本で終わっても違和感がないような起承転結になっていましたね)。
 しかしでは、その設計図というのは、どうして反乱軍側の手に入っていたのでしょうか? ダース・ベイダーが死に物狂いで追いかけるほどの機密情報が、なぜ? その「なぜ」という部分を解き明かすのが、本作なわけです。そうそう。デス・スターの司令官といえば、おなじみターキン総督ですが、こちらも1994年に亡くなっているピーター・カッシングの顔をCGで再現して登場しています。今の技術だと、故人でも映像で「復活」させることが可能なのですね。
メガホンを執ったのはハリウッド版「ゴジラ」(2014)で知られるギャレス・エドワーズ監督。原案ジョージ・ルーカス、脚本は「シンデレラ」のクリス・ワイツ。

 帝国では最終兵器デス・スターの製造が遅々として進みませんでした。建造の責任者である帝国軍先進兵器開発局のクレニック長官(ベン・メンデルスゾーン)は、開発途中で任務を放棄して隠遁してしまった旧友の科学者ゲイレン・アーソ(マッツ・ミケルセン)に、開発計画に復帰することを強要。この際、妻のライラは死に、一人娘のジン・アーソは逃げ延びて、反帝国ゲリラの首領ソウ・ゲレラ(フォレスト・ウィテカー)に救い出されます。
 それから15年後。帝国軍の労働収容所に捕らわれの身となっていたジン(フェリシティ・ジョーンズ)は、反乱軍の部隊に救出されます。というのも、帝国の技術者として兵器開発に当たっている父ゲイレンからメッセージを託された帝国軍の脱走パイロット、ボーディー(リズ・アーメット)が、惑星ジェダのソウ・ゲレラの下に身を寄せたとの情報があったからです。しかし、同じ反帝国の立場でありながら、反乱軍は過激な闘争路線を貫くゲレラとは疎遠でした。そこで、ゲレラが娘同前に育てたジンを彼に接触させ、ゲイレンの情報を聞き出そうと考えた反乱同盟は、情報将校キャシアン(ディエゴ・ルナ)と、ドロイドK-2SO(モーション・キャプチャー:アラン・デュディック)をジェダに送り込みます。
 ジェダで、盲目の戦士チアルート(ドニー・イェン)、その友人のベイズ(チアン・ウェン)を仲間に加え、帝国軍の追及を逃れたジンたちは、ソウ・ゲレラと会うことができ、ジンは父からのメッセージを受け取ります。それは、父ゲイレンが長年にわたって帝国に従うふりをしてデス・スターに重大な弱点を仕込んだ、という極秘情報でした。しかし、その弱点を正確に衝くには、デス・スターの設計図が必要です。
 同じころ、帝国の最高幹部である野心家ターキン総督(CG:ピーター・カッシング)は、クレニックを呼び出し、脱走兵ボーディーによる情報漏洩と、デス・スター開発の遅延についてくどくどと叱責していました。ターキンがこの件の手柄を独り占めしようとしていることを悟ったクレニックは、皇帝に直接、拝謁する機会を得るべく、デス・スターの試験射撃を実施することにします。その標的は、ボーディーが身を潜めた惑星ジェダでした。
 デス・スターの一撃でジェダは壊滅。危うく難を逃れたジンたちは、ゲイレンがいると思われる帝国軍研究所がある惑星イードゥーに向かいます。ジンはここで、懐かしい父と再会しますが・・・。
 これまで得た情報を基に、デス・スターの脅威と、その弱点について惑星同盟の評議会に力説し、ただちに戦闘を開始するよう求めたジンたちですが、この期に及んで帝国軍との全面戦争になることを恐れた評議会は意見が決裂。やむなく、正式な命令を得ないまま、ジンとキャシアンを始め少数の仲間たちは、特攻隊を編成して、デス・スターの設計図がある惑星スカリフの帝国軍要塞に潜入することに。基地を発進する際に、オペレーターから「そちらのコールサインは?」と聞かれたボーディーは、その場の思い付きで「はぐれ者の第1号部隊」つまり「ローグ・ワン」と名乗ります。かくて、生還を期し難い決死の作戦に、ローグ・ワンの面々は挑むことになります。
 そのころ、デス・スターをめぐる一連の動きを苦々しく見ていた一人の人物がいました。帝国の大立者で、皇帝の側近であるかつてのジェダイ、アナキン・スカイウォーカーこと暗黒卿ダース・ベイダー(声:ジェームズ・アール・ジョーンズ)その人です。クレニックの不手際と独断専行を厳しく叱責したベイダー卿は、自らこの件に介入する必要性を感じ始めていました・・・。
 
 ということで、これはもう典型的な、1960年代あたりに盛んに製作された、ドイツ軍の要塞に潜入して、自らの命と引き換えにしても連合軍を勝利に導く・・・というパターンの特攻隊もの、決死隊もの戦争映画そのものです。さらにまた、盲目の武芸の達人や甲冑のような装備を身に付けた荒武者のような登場人物、壮絶な死闘・・・と、日本人の心の琴線に触れる時代劇の王道パターンにもぴったりとはまります。原案のジョージ・ルーカスがあまたの戦争映画や時代劇映画を見て影響を受けていることは有名ですので、もう私のような、そういう作品が大好きな人間としては、まさにツボにはまった一作です。はっきり言って、今までのSWシリーズでいちばん、感動的だったとすら思います。
 そして、大戦争の緒戦であるために、強い帝国軍の描写が生き生きとしております。ターキン総督の元気なお姿を拝することができたのはもちろん、なんといってもダース・ベイダーが元気で強い。後の作品では、だんだん衰えていくベイダーの晩年が描かれていたわけですし、エピソード1〜3では逆に完成前の姿でしたから、暗黒卿としての全盛期の姿を描いたのは本作が初めてかもしれません。いやもう、強い、強い。惚れ惚れします。改めて、やっぱりダース・ベイダーさんがいないとこのシリーズは盛り上がらないな、と思いましたね。声を当てているのも一作目からの名優ジェームズ・アール・ジョーンズ。あのダース・ベイダーが帰ってきた、という感じでした。
 そして、最後に出てくる若き日のレイア・オーガナ姫。フィッシャーさんの悲報に接した直後なので、思いもひとしおでした。
シリーズとしては外伝的な位置づけなのですが、特に第一作(エピソード4)が好きな方は、これを見ない手はありません。お薦めの一作ですね。


2016年12月25日(日)
 今日がクリスマスで、いよいよ年末のラストスパート。いかがお過ごしでしょうか。
 ところで、ダイエーでは、現在「ぬいぐるみを手に入れよう!」キャンペーンを実施しています。今回は人気の高い「ピーターラビットのぬいぐるみ」がテーマ。
 ダイエーで買い物をして、1000円ごとにレジでシールを一枚もらえ、そのシールを集めて台紙に貼り、15枚集まるとメーカー希望小売価格3240円する、座高28センチのぬいぐるみが激安880円で買えます!
 20枚集めると40センチ、5184円の物が1528円に、30枚集めますと、本来なら8100円もする55センチの巨大なぬいぐるみが、2639円でゲットできる、という仕組みです。28センチの物にはピーターラビットのほか、ピーターの従兄ベンジャミン・バニー、ピーターの妹フロプシーのものがあります。40センチの物はピーターとピーターの母親ミセスラビットの2種類、55センチの物はピーターのみです。つまり全部で3サイズ、6種類があるということです。
 私は前に、ベンジャミン、フロプシーと、ミセスラビットを買いました。そしてこのたび、ピーターラビットの55センチサイズを手に入れました。他のものと比べると、でかいですね。
 今回のキャンペーンは2017年1月8日までシール配布、同15日まで商品販売します。いよいよ終盤ですので、興味がある方はお早めに。


2016年12月24日(土)
 メリークリスマス! Merry christmas! Frohe Weihnachten! イラスト:辻元玲子 illustration : Reiko Tsujimoto

2016年12月23日(金)
 皆さま、クリスマスを入れた3連休ですね。いろいろな過ごし方をされる方がいらっしゃると思います。天皇誕生日の今日、銀座から丸の内を歩いてみましたが、さすがにすごい人出です。一方で、地元の駅前などは閑散としているようで。
 私どもは、一足早く、22日に日比谷の帝国ホテルのレストランで、クリスマスディナーを兼ねた夫婦忘年会をやりました。この日は平日だったので、お客さんの入りもちょうどいい感じでしたけれど、連休に入ってからは、きっと怒濤の大混雑なのではないでしょうか・・・。
 今年もなかなか、大変な一年だったような・・・。おっと、まだ1週間以上ありますね、最後まで気を引き締めていかないといけません。

2016年12月16日(金)
 先日ですが、東京・永田町の衆院議員会館地下にある「第二議員会館食堂」というところに行く機会がありました。ご覧のように、玲子は「醤油ラーメン」600円、私は「カツカレー」896円と至って普通のメニューで、普通のお値段。しかし、お味はなかなかのものです。うまいです。どなたでも、しかるべき議員事務所の関係者とアポイントを取って入館すれば、利用出来ます。会館の地下には、お土産屋さんなどもあり、まあ私たちのような「お上りさん」向けにしっかり設備が出来ているのが印象的でした。

2016年12月09日(金)
 「五日物語−3つの王国と3人の女−」Tale of Talesという映画を見ました。イタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督が描く17世紀初頭(日本でいえば江戸時代の初め)を舞台としたダーク・ファンタジーです。原作は、ナポリ王国の傭兵から詩人となったジャンバティスタ・バジーレ(1575〜1632)が書いた世界最初の「おとぎ話集」です。「白雪姫」や「シンデレラ」「眠れる森の美女」「ラプンツェル」「長靴を履いた猫」など、後の時代にグリム兄弟やペローなどがまとめた有名なおとぎ話の原話のほとんどが、この五日物語(ペンタメローレ)に収められているそうです。
 原作本は、ある君主が五日間にわたって、毎日、十話ずつ面白い話を話させる、という形式で五十話の昔話が集められています。その中に、たとえば後のシンデレラにつながる「灰被り姫」(ツェネレントラ)といった物語があったわけです。
 それで、この映画では、あまり一般に知られていない「魔法の牝鹿」「生皮を剥がれた老婆」「ノミ」の三つの物語をベースとし、大胆にアレンジ。隣り合う三つの王国の物語として再構成しています。オムニバス形式ではなく、いずれも同時代の隣国の話で、直接のかかわりはないけれど話が交差し、最後には一つのエンディングに結びつく巧みな脚本になっております。

 不妊に悩むロングトレリス王国の王妃(サルマ・ハエック)と国王(ジョン・C・ライリー)の下に一人の魔術師が現れます。子宝を授かる方法を伝授された夫妻は、その教えに従い、国王は海に潜って海中の化け物を退治しますが、自分も命を落とします。王妃は魔術師に言われた通り、化け物の心臓を貪り食い、ただちに妊娠します。しかしなぜか、心臓を調理した下女も同時に妊娠。こうして、全く同時刻に王妃にはエリアス(クリスチャン・リーズ)という王子が、下女にはジョナ(ジョナ・リーズ)という息子が誕生します。
 それから16年後、エリアスとジョナは兄弟でもないのに、瓜二つの容貌に育ちます。下女の息子と兄弟のように交わるエリアスに対し、王妃の怒りが爆発します。やむなくジョナは城を出て行くことになりますが・・・。

 その頃、隣国であるハイヒルズ王国の国王(トビー・ジョーンズ)は、王妃に先立たれて一人娘のヴァイオレット王女(ベベ・ケイヴ)と暮らしていますが、父王は娘の気持ちに鈍感で、自分の趣味に没頭する子供じみた性格。ある日、一匹のノミに魅了され、それを溺愛して飼育するうちに、ついにはノミであるにもかかわらず、人間を上回るほど巨大に成長してしまいます。そんな変わり者の父親に束縛される生活を窮屈に思ったヴァイオレットは、結婚して城を出て行きたいと懇願します。
 しかし、娘を手放す気などない国王は、思いがけない方法で娘の夫選びをすることを宣言します。この国王の気まぐれのために、王女の夫と定められたのは、なんと山奥に住む恐ろしい人食い鬼でした・・・。

 さらに別の国、ストロングクリフ王国の国王(ヴァンサン・カッセル)は好色のために、王宮はハーレム状態。ある日、城下から美しい女性の歌声が聞こえてきます。その美声に聞きほれた国王は、声の主が住むあばら家に出かけ、想いを遂げようとします。
 実は、その美声の主は醜い老婆であるドーラ(ヘイリー・カーミッシェル)で、妹のインマ(シャーリー・ヘンダーソン)と2人でつましく暮らしていたのでした。しかし、インマの心配をよそに、国王の誤解に基づく申し出を一世一代のチャンスと考えたドーラは、暗闇の中で、という条件付きで王と一夜を共にします。ところが王は、ドーラが実は老婆であることに気付くと激高し、城の高窓からドーラを突き落とします。裸で傷を負い、泣いているドーラを見て、通りすがりの魔女が魔術をかけてくれます。こうしてドーラは若さを取り戻し、絶世の美女(ステイシー・マーティン)に生まれ変わります。たちまち国王の寵愛を得て、正式に王妃に迎えられることとなりますが、婚礼の場に招かれたインマは、美しく若返り権力を手にした姉に激しく嫉妬します・・・。

 というようなことで、三つのお話が進行していくわけですが、主に三つの王国の3人の女性の欲望や無知、執着心といったものから、人間の醜さ、弱さがあぶり出されていく展開で、お話としては極めて陰惨・残酷で救いがありません。カラッとして分かりやすく、爽快なハリウッド映画に慣れた人にはとっつきにくいでしょうが、そこはイタリア人監督による、美意識に満ちた作品です。いわゆる合理的な分かりやすさを求めてはいけないのだと感じます。別に難解な、哲学的な話はないのですが、すっきりと腑に落ちる謎解き、といったサービス精神は全くないと言ってよく、見る人の解釈や感性に多くを委ねる作風です。
 特に、中世のヨーロッパのおとぎ話などは、そもそもダークで不条理で、意味不明な展開になる場合もしばしばあるもので、本作はそういう中世的な要素から免れる考えなど、初めからないのだと思います。
 とにかく、この作品で最も見るべきは「美意識」そのものなのではないか、と思います。合理性という病に侵される前の時代の過剰な美。それ自体がテーマなのではないかとも思えます。13世紀の神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世(後の時代のプロイセン国王、フリードリヒ大王と同名ですが別人です)が築いた世界遺産、デルモンテ城や、断崖にそびえるロッカスカレーニャ城など、イタリアが誇る国宝級の城塞の数々でロケが敢行されております。
さらに登場する人々が身にまとうのは、まさに17世紀初頭のダブレットや半ズボンにタイツ、襟飾りといった歴史上でも最も華麗に男女が着飾った時代の装束。衣装デザインを担当したマッシモ・カンティーニ・パッリーニは、「ヴァン・ヘルシング」や「ブラザーズ・グリム」といった史劇でアシスタントとして修業を積み、本作では素晴らしいコスチューム・デザインが評価され、4つの衣装デザイン最優秀賞を受賞して注目を集めているそうです。やはりこの作品でとにかくすごいのは豪華絢爛たる衣装でして、これだけで一見の価値があると思います。
監督自身、「僕のアプローチはアメリカ的な映画とは対極にある」とパンフレットで述べています。英語を使っており、英語圏の出演者が多いのですが、絶対にハリウッドからは生まれない作風で、とにかくヨーロッパ、イタリアの美を感じさせる映画です。そういうものが好きな方には必見の一作と思います。


2016年12月02日(金)
 きょう2016年12月2日付けの「朝日新聞」朝刊の37ページに「ナチス風・・・批判浴びた欅坂46衣装」という記事が掲載されました。私、辻元よしふみがコメントを寄せ、さらに辻元玲子のイラストが『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)からの転載の形で掲載されました。
 朝日新聞デジタルの記事は下記。
 http://www.asahi.com/articles/DA3S12686244.html?iref=comtop_list_ren_n07

2016年11月25日(金)
 「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」FANTASTIC BEASTS AND WHERE TO FIND THEMを見ました。ハリー・ポッター・シリーズの正統な続編、というか前日譚にあたる物語で、脚本はJ・K・ローリング本人が担当。監督はハリ・ポタ後期作品を手がけたデイビッド・イェーツです。ハリーたちが学んだホグワーツ魔法学院の必読教科書である『幻の動物とその生息地』の著者、魔法動物学者ニュート・スキャマンダーの活躍を描く新シリーズ、ということです。原題は、この教科書のタイトルそのものになっております。一応、児童向けという前提だった(とはいえ、終盤になるとかなりダークなファンタジーになりましたが)ハリー・ポッターと異なって、まず20世紀初めを背景とする時代劇であり、またかなりダークな描写や、処刑シーン、一般人の死傷者も出るような凄惨な展開、それに恋愛模様も描かれて、かなり大人向けの内容になっています。

 時は第一次大戦の惨禍から10年ほどが経った1926年。禁酒法時代のアメリカ、ニューヨークが舞台です。アメリカでは英国と異なる独特の魔法文化が栄えておりますが、欧州よりも法的締め付けが厳しく、ピッカリー議長(カーメン・イジョゴ)が率いるアメリカ魔法議会MACUSAが厳しく一般人(米国ではマグルではなく、ノー・マジと呼びます)と魔法使いとのかかわりを規制。また「新セーレム救世軍」と名乗る、現代の魔女狩りを主張する過激な圧力団体も存在し、風土的に魔法に理解のない社会です。また、数年前から闇の魔法使いグリンデルバルドが姿を消しており、世界中の魔法界の警戒が高まっていました。
 ここに英国からやって来たスキャマンダー(エディ・レッドメイン)は、ふとしたことから偶然、銀行で知り合ったパン屋志望の復員兵士、コワルスキー(ダン・フォグラー)とトランクケースを取り違えてしまいます。スキャマンダーのトランクには、彼が長年、探索して蒐集した世界中の珍しい魔法動物が収められていましたが、コワルスキーはそれと知らずトランクを開けてしまい、動物たちが街に逃げ出して大騒動に。
 スキャマンダーとコワルスキーは、MACUSAの元捜査官ティナ(キャサリン・ウォーターストン)と、その妹クイニー(アリソン・スドル)の協力を得て、動物たちの回収作戦を始めますが、その頃、ニューヨークでは魔法がらみと思われる怪事件が続発していました。そしてついに、ショー上院議員が演説会の最中に明らかに魔法を使った方法で惨殺される悲劇が発生。ショーの父親の新聞王ヘンリー・ショー・シニア(ジョン・ボイト)は激怒し真相究明を誓います。スキャマンダーとコワルスキー、ティナの3人は、MACUSA調査部長官グレイブス(コリン・ファレル)に逮捕され、上院議員の死因や街で続く破壊事件の原因はすべてスキャマンダーの逃がした魔法動物のせいだと断定し、スキャマンダーとティナを処刑するよう命じます。この取り調べ中に、スキャマンダーはグレイブスが、自分とホグワーツ学院の恩師ダンブルドアの関係など、妙に英国の事情に詳しいことに不審を抱きます。
 クイニーの機転で脱出に成功した3人ですが、グレイブスに追われる身に。さらにそのグレイブスは、新セーレム救世軍の創設者ベアボーン(サマンサ・モートン)の養子で屈折した青年クリーデンス(エズラ・ミラー)と密かに接触し、何かを企んでいる模様です。
 スキャマンダーは自らにかかった濡れ衣を晴らし、動物たちを救い出すことが出来るのでしょうか。そして、一連の怪事件とグレイブスの関わりは・・・。

 ということで、さすがに横綱相撲というのか、最初から最後まで見事に見せてくれます。まさに王道の娯楽作品です。ローリング本人が脚本を担当しており、いわばこれ以上に作者自身の世界観に則った正確な映画化はないわけで、それはもう見ていて安心です。映像的にも、今の技術でなければ描けない魔法動物の数々には脱帽です。その中には伝説のアメリカの怪鳥サンダーバードのような有名なものも含まれます。
 1920年代を再現する映像や衣装に手抜かりはなく、「華麗なるギャツビー」に負けていません。出てくる人は皆、その人物の立場として考え抜かれた、しかも時代考証的にも妥当なものを身に付けており、さすがは衣装デザインにアカデミー受賞者のコリーン・アトウッドを起用しているだけのことはあります。
 なんといってもレッドメインははまり役。文句なしですね。それとチームを組む女性2人と一般人のバランスもとてもいい。最後まで見れば、この4人の人間模様が本当にいいんです。このへんが、子役を中心とした学園ものだったハリー・ポッターと異なる大人向け、という要素ですね。
コリン・ファレルは今回、基本的に憎まれ役、悪役と言っていいのですが、なかなかいいじゃありませんか。陰のある悪い二枚目、という感じで芸風が広がったかも。
 クリーデンス役のエズラ・ミラーは「バットマンVSスーパーマン」や「スーサイド・スクワット」で、アメコミ・ヒーローのフラッシュ役に抜擢され、知名度を上げてきた若手。今回の作品でもキーマンであり、これからますます活躍が期待されそうです。
 それから、ロン・パールマンが出てくるのですが、これまでもモンスター役をやってきた彼のこと、一体、どんな怪物役なのかと思うと・・・本当に意外な役柄です。声ですぐにわかりますが。
 注目なのが、カメオ出演であの人が出ています! 「パイレーツ・オブ・カリビアン」のあの人、といえば誰でもわかりますね。しかし、いわゆる顔出しだけのチョイ役ではありません。実は最重要な役柄です。

 ところで、この映画の背景には、あのヴォルデモートが登場するまでは最強最悪の魔法使いとされていたグリンデルバルトの存在がちらついています。この人物は後の時代にヴォルデモートとハリー・ポッターの戦いのカギを握った最強の魔法の杖「ニワトコの杖」を世に出した人物で、かつてダンブルドアとの戦いに敗れ、杖を奪われた人物、ということだそうですね。
 それに、設定としてダンブルドアは若いころ、グリンデルバルトと同志であり、それどころか同性愛関係にあった、という設定まであるとか。この世界も奥が深いですね・・・。当然ながら、今回もシリーズとして続いていくのでしょうが、若き日のダンブルドア先生、なんてものも出てくるかもしれませんし、その後のハリー・ポッターの世界につながっていく話も出てくるかもしれません。今後の展開が楽しみです。


2016年11月18日(金)
 ダイエーでは、現在「ぬいぐるみを手に入れよう!」キャンペーンを実施しています。今回は人気の高い「ピーターラビットのぬいぐるみ」がテーマ。
 ダイエーで買い物をして、1000円ごとにレジでシールを一枚もらえ、そのシールを集めて専用台紙に貼り、15枚集まるとメーカー希望小売価格3240円する、座高28センチのぬいぐるみが激安880円で買えます! なお、レジで「シールを集めています」と自分で申告しないとくれない場合が多いので、必ず申し出ないといけません。
さらに20枚集めると40センチ、5184円の物が1528円に、30枚集めますと、本来なら8100円もする55センチの巨大なぬいぐるみが、2639円でゲットできる、という仕組みです。そもそもダイエーで日用雑貨を購入している方ならすぐに集まるでしょう。
28センチの物にはピーターラビットのほか、ピーターの従兄ベンジャミン・バニー、ピーターの妹フロプシーのものがあります。40センチの物はピーターとピーターの母親ミセスラビットの2種類、55センチの物はピーターのみです。つまり全部で3サイズ、6種類があるということです。
 私は前に、ベンジャミンとフロピシーを買いましたが、今回はお母さんのミセスラビットをゲットしました。一回り大きいのでいかにもお母さんな感じ!
 今回のキャンペーンは2017年1月8日までシール配布、同15日まで商品販売します。興味がある方はお早めにどうぞ。


2016年11月11日(金)
服飾評論家の遠山信男先生からご連絡がありまして、
「M-43フィールドジャケットの話しをウェッブマガジンのBYRONにアップしました。辻元さんの本のことも軽く触れておきました。モード逍遥#20というコラムです」とのことで、さっそく見てみました。

https://byronjapan.com/


ポーランドの名匠で10月に90歳で亡くなったアンジェイ・ワイダ監督の名作映画「灰とダイヤモンド」を取り上げ、第二次大戦下のポーランドでレジスタンス活動をする主人公が着ていたM−41フィールドジャケットについて書いておられます。ぜひ皆様も、遠山先生の達意の名文をご一読ください。

該当の部分をちょっと紹介させていただきますと・・・。

「最近は若い男女の間でMA-1ブルゾンなどのミリタリーアイテムが流行しているけれど、『灰とダイヤモンド』のなかでマチェックが着たM-43のコーディネートは、現代でもまったく色褪せていない。

ジャストタイミングで『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)の出版記念パーティが南青山のジュンコ・コシノ・ブティックで催されたので、著者の辻元よしふみさんにお聞きすると「アメリカの戦争映画を観ますとね。ベテランの俳優は古参兵としてM-41を着ているのですが、新兵役の若い俳優はM-43なのですよ」という、例の特殊な映画通の答えが返ってきた。

M-43が米軍に採用されたのは1943年。それまで使われていたM-41はブルゾンタイプだったが、これは着丈の長いジャケット式。たいへんに機能性に富んだジャケットだった。しかも衿が、その後に登場したM-65のスタンドカラータイプと異なり、カラーとラペルで形成される背広型だったから、シャツとの相性が抜群なのである」

 私も、米陸軍のフィールドジャケットを一つ挙げるとするなら、実はM-41が好きですね。戦争の終盤、ノルマンディー上陸後にドイツ軍と死闘を繰り広げた時期の米軍の主力被服で、私の中でGIといえば、くすんだオリーヴドラヴ色のM-41がイメージです。


2016年11月07日(月)
 ダイエーでは、現在「ぬいぐるみを手に入れよう!」キャンペーンを実施しています(ダイエーは現在、イオン・グループの傘下ですが、この作戦はダイエー店舗独自のもの)。数年前に「テディベアを手に入れよう!」キャンペーンを実施して、大きな評判を呼びましたが、今回は人気の高い「ピーターラビットのぬいぐるみ」がテーマ。
 ダイエーで買い物をして、1000円ごとにレジでシールを一枚もらえ、そのシールを集めて台紙に貼り、15枚集まるとメーカー希望小売価格3240円する、座高28センチのぬいぐるみが激安880円で買えます!
 20枚集めると40センチ、5184円の物が1528円に、30枚集めますと、本来なら8100円もする55センチの巨大なぬいぐるみが、2639円でゲットできる、という仕組みです。そもそもダイエーで日用雑貨を購入している方で、時節柄、クリスマス・プレゼントを何にしようか思案中の人には、なかなか朗報かも。
 28センチの物にはピーターラビットのほか、ピーターの従兄ベンジャミン・バニー、ピーターの妹フロプシーのものがあります。40センチの物はピーターとピーターの母親ミセスラビットの2種類、55センチの物はピーターのみです。つまり全部で3サイズ、6種類があるということです。
 私は前に、ベンジャミンのぬいぐるみを手に入れました。そして今回は、フロプシーを買いました。こちらも細部までよく出来ています。ベンジャミンと並べてみても、表情の違いなどもよく出ていますね。このベンジャミンとフロプシーは、大人になって結婚することになっています。
 今回のキャンペーンは2017年1月8日までシール配布、同15日まで商品販売します。興味がある方はお早めに。


2016年11月05日(土)
 本日、発売の「日刊ゲンダイ」11月7日号(週末特別版)、4ページ下の「街中の疑問」コーナーにて、私、辻元よしふみが「欅坂46の衣装 どこがアウトなのか?」という記事でコメントしておりますので、ご覧いただけましたら幸いです。
 記事の一部を紹介しますと・・・。
「『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)の著者で服飾史評論家の辻元よしふみ氏はこう分析する。・・・ワンピースやマントは確かに黒色で、ナチスの親衛隊をイメージさせなくもありませんが、デザイン的にはごく平凡。帽子もどこにでもある19世紀以来の官帽子で、これがダメなら世界中のお巡りさんや警備員が訴えられます。ただ一点、帽子に付いていた“銀色のワシ”が決定的にアウトです」
「ワシのマークは・・・辻元氏によれば、そもそも古代ローマ帝国の国家章で、その後、ロシア帝国やナポレオン帝国、ドイツ帝国などが採用。米国がワシを用いているのもその影響だ。ナチス帝国もこれを流用。ワシが鉤十字をつかんだマークを親衛隊や国防軍の制服に採用したといういきさつがある」
「・・・ナチスのワシは足で輪の中の鉤十字をつかんでいますが、欅坂46のものは鉤十字を他のマークに差し替えています。デザイナーは“鉤十字を使っていないから大丈夫”と判断したのでしょうが、軽率でしたね」
「もし意図的な差し替えなら、それがナチスのマークで、“そのまま使ったらやばい”ということを把握していた証拠だ。過去には沢田研二も“そのまんま”な衣装を着てトラブルになった。写真や映像があっという間に世界中に拡散される今、・・・これからの忘年会シーズン、そのコスプレがアウトかセーフか、着る前に冷静に考えた方がよさそうだ」

 ということで、あくまでも「あの衣装」のどこがアウトなのか、について語っております。私はあくまで服飾史と軍装史の研究家ですから、欅坂46のその他の要素、歌詞とかパフォーマンス、全体のイメージなどについては承知しておりません。なんでもナチス式敬礼のような右腕を高く上げるポーズも披露していたように聞きますが、しかしおそらく、アメリカのユダヤ系団体サイモン・ヴィーゼンタール・センターも、日本のアイドルグループについて詳しく知っているわけはなく、最初はツイッターやブログに載った写真だけを見て「アウト」と判断したはずです。そして、彼らだって無闇に文句を付けて、逆に難癖だ、と反論されてしまっては元も子もないので、決定的にアウトだから自信を持って批判を始めたはずです。その決定的な部分は、どう見ても「ワシ」である、と申している次第です。仮にあの部分に、たとえばオレンジ色のカボチャとか、お化けとか、または漢字で「欅坂46」などと書いてあったとしたらどうでしょう? 少なくともアウト、というには根拠が薄弱で、また欅坂サイドもそれなりの反論が出来たに違いない。

 なお、ローマ帝国以来の歴代のワシの国家章・・・ナチス型のものは、非常にデザイン的に現代的な、直線的なデザインとなっております。アメリカをはじめ、ほかの国家のワシ(場合によっては双頭のワシ)は、もうちょっと翼や形状が丸いというか、柔らかい。よって、ワシのマークそのものも別にアウトではないのですが、直線的なデザインで、下部に丸いマーク(本来ならそこに鉤十字が付く)のワシは「ナチスのワシ」と見なされてしまうのは致し方ない感じがします。
 いずれにしても、ワシは「帝国」の意味合いが強いので、そのへんの普通のファッションに、安易にかっこいいという理由だけで取り入れるのはお薦めしません。当然ながら、欧米人はこのへん、日本人よりずっと知識があります。


2016年11月02日(水)
 アイドルグループ「欅坂46」がハロウィーンで使用した衣装が、ナチス親衛隊を思わせるとして問題になりましたね。ナチス親衛隊というのは、ドイツ国家の正規軍ではなくて、ヒトラーの個人的な私兵部隊です。
 それで、私も軍装史と服飾史の研究家として、「どれだけ似ているのだろう」と思ってみてみたのですが、正直のところ、黒いワンピースとマントは平凡なもので、あれだけなら全く問題にならなかったでしょう。確かにナチス親衛隊と言えば黒地に銀の装飾ですが、それがダメだと言ってしまったらリクルートスーツだってダメということになりかねません。
 完全にアウトだったのは制帽型の帽子ですね。これも、ああいう型の帽子そのものは、19世紀以来、世界中で使用されている帽子なので、特に問題ではない。あれがダメなら警察も消防も鉄道員もダメということになります。
 決定的にアウト、なのは帽子の正面に付いていた「銀色のワシ」、ですね。あれは確かにどうしようもない。いわゆるナチス型のワシです(ただ厳密に言えば、親衛隊型ではなくて、国防軍型のワシ)。デザイナーさんは不用意だったですね。もちろんナチスのワシは、脚で例のハーケンクロイツ(鉤十字)をつかんでいます。欅坂の物はよく見ると、あの部分をほかのマーク、欅坂を意味するKでしょうか、に差し替えている。鉤十字を使っていないから大丈夫だろう、と判断したのでしょうが、いかになんでもあのタイプのワシで、黒地に銀色、というのは、確かに似過ぎていると思われてしまいそうです。

 さて、あのワシは何の意味かと申しますと。
 「軍装・服飾史カラー図鑑」の188ページ上、185ページ下、183ページ解説、189ページなどに書きましたが、あのワシは「帝国」の象徴です。単なる世襲の王政ではなくて、基本的には共和制を前提として、選挙で選出された皇帝をいただく国家が、あれを継承するのです。
 そもそもは古代ローマ帝国の国家章でしたが、その後、その流れをくむ、あるいはその精神を汲むとする国家がワシを国家章にしてきました。ロシア帝国、ナポレオン帝国、歴代のドイツ帝国などです。アメリカがワシを用いているのも、インディアンがもともとハクトウワシを崇めていたことも理由の一つとしていますが、古代ローマ帝国の影響下にあるのは明白です。
 そして、ナチス帝国もこれを流用し、ワシがハーケンクロイツ(鉤十字)をつかんだマークを
採用しました。少なくとも1923年にはナチ党として使用し始め、問題になっている黒い親衛隊制服としては1932年、そしてナチス政権樹立後の1934年になると、本来、ナチ党と関係のなかった国家の正規軍(国防軍)の制服にも付けるようになります。
 今回の欅坂の制服の帽子についているワシは、どう見てもナチス型のワシなので、言い逃れできないのは無理もありません。
 日頃から日本のデザイナーも、もっと研究して、どこを参考にしたらOKで、どこをやったらアウトなのか、ひとつひとつのマークの意味はなんなのか、といったことをちゃんと理解していないから、こういうことが起こる。
 ぜひ、「軍装・服飾史カラー図鑑」を読んでいただきたいですね(笑)。




2016年10月30日(日)
 ハッピー・ハロウィーン! 辻元玲子の手描き水彩画で、ハロウィーンのご挨拶を申し上げます。

2016年10月29日(土)
 「スター・トレック BEYOND」STAR TREK BEYONDを見ました。2009年に再始動した「スター・トレック」シリーズの3作目、そして1979年の劇場版第1作「スター・トレック」から数えると、映画としては13作目になります。さらに言えば、最初のテレビシリーズ「スター・トレック/宇宙大作戦」の放送開始が1966年であるため、本作品はシリーズ50周年記念作品でもあります。
 2009年のリブートで、ロミュラン人ネロ(エリック・バナ)の策略によりバルカン星が滅亡し、スポック大使(レナード・ニモイ)が未来から戻ってきて時間軸が変化、従来のシリーズとは同じ世界ながら、歴史が変わってしまったことは、シリーズをご覧になった方には周知のとおり。その際に宇宙船USSケルビンが犠牲となり、船長代理のジョージ・カーク(クリス・ヘムズワース)が殉職。このために、本来の歴史なら父の背中を見て順当に宇宙艦隊に入隊するはずだったジョージの息子ジェームズ・T・カーク(クリス・パイン)や、若きスポック(ザカリー・クイント)の人生も狂ってしまう・・・そんな話でした。
 それで、09年の新シリーズ1作目では、とにかく「あのカーク船長」と「スポック副長」がエンタープライズ号に乗り組むようになるまで歴史が軌道修正される様が描かれ、13年の2作目「イントゥ・ダークネス」では、旧シリーズの2作目で登場した悪役カーンにベネディクト・カンバーバッチを起用、超強敵の出現により、カークとスポックの絆がようやく深まり、本来のエンタープライズ号の陣容が固まるところまでが描かれました。
 こうして、エンタープライズ号はついに、ジェームズ・T・カークの指揮の下、5年間の深宇宙探査の航海に出る・・・いってみれば、ここまでの2作で、ねじれた歴史が修正され、やっと最初の「スター・トレック」の航海の段階に戻った、というわけでしたので、実は本番と言えるのは今回から、なのですね。

 前作の後、5年間の深宇宙探査に出たエンタープライズ号。通常の攻撃的軍隊ではなく、あくまでも平和維持部隊としての重責を帯びる宇宙艦隊の任務には気苦労が多く、また無限に続く宇宙空間は果てしなく、船長カーク大佐は自分たちのあり方に疑問を抱くようになっていました。それを察した医療部長マッコイ少佐(カール・アーバン)はカークを気遣います。一方、副長スポック中佐も通信士・ウフーラ大尉(ゾーイ・サルダナ)との恋が行き詰まり、ひそかに悩んでいます。
 補給と休養のために立ち寄った惑星連邦の宇宙基地ヨークタウンで、スポックはもう一人の自分であるスポック大使(ニモイ)が亡くなったことを知り、ショックを受けます。彼はバルカン星の復興に尽くすために宇宙艦隊を辞職する考えを抱きます。同じころ、カークもヨークタウン基地の司令官パリス准将(シューレ・アグダシュルー)に異動願を提出。船長の任を離れてヨークタウン基地の副司令官にしてもらえるよう依頼します。こうして、カークもスポックもそれぞれ、エンタープライズ号を降りる決意を固めているさなか、それまで連邦が接触したことのない文明の異星人女性が救助を求めてヨークタウン基地に飛来します。
 未知の惑星アルタミッドで宇宙船が遭難した、という女性の訴えを聞き、エンタープライズ号は救助活動のために出動します。しかしその星でエンタープライズ号は正体不明の敵に奇襲されてコントロールを失い、あえなく地上に墜落。この星を支配するのはクラール(イドリス・エルバ)という狂信的な異星人で、なぜかエンタープライズ号、カーク船長のことまでよく知っており、惑星連邦と宇宙艦隊に対する憎悪をみなぎらせています。そして、エンタープライズ号が保管していた古代の恐ろしい兵器アブロナスを手に入れようと躍起になっています。
 クラールの捕虜となったウフーラ、操縦士のスールー大尉(ジョン・チョー)は敵の目を盗んでヨークタウン基地に救援信号を放ちましたが、それもまたクラールの罠で、宇宙艦隊が出動した隙を突き、ヨークタウン基地を襲撃するのが真の狙いでした。
 離れ離れに地上に降りたスポックは瀕死の重傷を負いますが、行動を共にしているマッコイの手当てを受けて、どうにかしてウフーラたちを救い出そうとします。
 一人で地上に降りた機関長スコット少佐(サイモン・ペッグ)は、この星で暮らす異星人ジェイラ(ソフィア・ブテラ)に助けられます。カークと航海士チェコフ少尉(アントン・イェルチン)も合流します。彼らが驚いたことに、ジェイラが住まいとしていたのは、100年も前に消息不明となった連邦の初期の宇宙船USSフランクリン号でした。彼らはこの旧式宇宙船を再起動し、クラールの手からウフーラやスールーらエンタープライズ号のクルーを取り戻そうとします。彼らの目論見はうまくいくのか、そして、ヨークタウン基地を守り抜くことができるのか・・・。

 というようなことですが、今回、注目なのが、脚本を書いたのはスコット役のサイモン・ペッグだということ。もともとスター・トレックの熱狂的なファンであるペッグの脚本は、現代的なスピード感にあふれつつ、セリフの端々に60年代、70年代のシリーズ初期にあったユーモア感覚や温かみを強く感じさせます。本作の持ち味に大きく貢献していると思います。
 実際、50周年記念作品ということもあり、昨年2月に亡くなったレナード・ニモイへのトリビュートとして、写真だけですがニモイのスポックと、おまけに旧シリーズのウィリアム・シャトナーらオリジナル・クルーの写真まで登場します。旧作との強いつながりを意識した配慮は見事なものです。
 今回、大いにフィーチャーされているのがマッコイ役のカール・アーバン。どちらかといえば脇に回りがちな船医という役どころですが、今回はクルーの中の兄貴分として、大きな存在であることをアピールしており、戦闘にも駆り出されて出番もたっぷりあります。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでローハン王国の騎士エオメル役に抜擢され、一躍有名になったアーバンですが、このシリーズのマッコイ役は、彼の新たな代表作となったようです。
 お子さんを生んだばかりだったというウフーラ役のゾーイ・サルダナは、アクションは控え目ですが、今作では新たな魅力を発揮しています。やはりお母さんとなったからなのか、優しさとか、情愛といった感情表現の深化を感じました。相変わらず美しい人ですが、内面的な美しさも感じさせるような役作りでした。聞けば彼女は今後、出世作「アバター」の続編に出演するようですね。
 新顔ジェイラ役のソフィア・ブテラは、大ヒット作「キングスマン」で義足の女殺し屋を演じて大ブレイクしたアルジェリア出身の新星ですが、もともとダンサーであり、切れのある動きは今回も見事なものです。この人は今後、このシリーズのレギュラーに入ってくるのでしょうか、楽しみです。ただ、何しろ4時間もかけた特殊メークのために顔は全然、分からないのが残念ですが・・・。
 悪役クラールを演じたイドリス・エルバは、今や引く手あまたの売れっ子俳優。この人物の正体が誰なのか、が本作の最大の見どころです。なんでも007ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグ降板後の有力候補の一人だとも噂されているエルバですが、本作品でも確かな演技力とスケールの大きさを見せつけており、そういう声が出るのも当然と思われます。
 それから忘れてならないのが、本作はアントン・イェルチンの遺作であること。今年の6月に27歳の若さで、不慮の事故で亡くなり、この作品でのチェコフ役が最後のスクリーン上での活躍になってしまいました。本作でも彼の存在感は非常に大きく、ロシア訛りの強い早口でまくし立てる生き生きとした演技に接すると、彼が実際にはもう鬼籍に入っていることが信じられません。あまりにもはまり役だったので、今後、このシリーズでのチェコフはどうなるのだろうと心配になってきます。
 作品の最後に、レナード・ニモイとアントン・イェルチンに対する献辞が置かれています。「IN LOVING MEMORY OF LEONARD NIMOY FOR ANTON」ジーンときますね・・・。


2016年10月20日(木)
 昨日の「辻元よしふみ、玲子『軍装・服飾史カラー図鑑』出版記念会」(発起人:コシノジュンコ先生)の模様の写真がさらに手に入りましたので掲載します。撮影されたのは川田工業代表取締役の川田忠裕様です。川田様、ありがとうございます。ステージ写真では、左からコシノ先生、辻元夫婦、そして乾杯の音頭を取られる防衛省陸上幕僚監部の濱崎1等陸佐です。

2016年10月20日(木)
 昨日、東京・表参道のJUNKO KOSHINOブティックにて、辻元よしふみ、辻元玲子の出版記念会が開催されました。発起人はコシノジュンコ先生です。各界から80人のお客様がおいでになりました。ご来臨頂きました皆様には厚く御礼申し上げます。取り急ぎ速報まででございます。

2016年10月16日(日)
 このほど、エトロ銀座本店にて、恒例のトランクショー、つまりミニ・ファッションショーが開催されましたので、見に行きました。玲子が着ている黒と赤のタキシード風のジャケット、それから私が着ている軍服風のジャケットなどは今季の作品です。私の着ているものは、一見すると地味のようで、接近すると往年のロックスター、ジミ・ヘンドリクスが着ていたようなハデ派手な装飾刺繍が入っています。19世紀ぐらいの軽騎兵用のドルマンDolmanと呼ばれた軍服に似ています。

2016年10月15日(土)
 さて、ここはどこでしょう? 古風なお城の天守閣が後方に見えますね・・・、まあ、お城に詳しい方ならすぐにお分かりでしょうが、愛知県犬山市にある国宝・犬山城の天守です。
 実はこのほど、親戚筋の要件があって電撃的に岐阜県可児市を訪れまして、そのついでに犬山市に行き、犬山城を訪問した次第です。私は若いころにここに来たことがあるのですが、かれこれ30年ぶりに、戻ってきました。
 しかし相変わらず、階段の急なこと。筋肉痛になりますね。昔のお侍さんは、甲冑を着こんで刀や槍まで持って、こんな急階段を上り下りしたのか、と思うと感慨深いです。

2016年10月06日(木)
Great designer Mr. Kean ETRO read
our book,”Military uniforms & Historical Costumes”. He signed historical book. Now I get the book!


2016年10月06日(木)
 イオングループの傘下に入り、徐々に姿を消しつつある「ダイエー」の店舗。千葉県浦安市でも、JR新浦安駅前の旗艦店と見なされてきたダイエーが、少し前にイオンに転換したばかりです。
 しかし、同じ浦安市では東西線浦安駅近くに数年前に新店舗が出来たばかり。おそらく、近く予想されるダイエー全店舗のイオン転換まで、ダイエーの名を残すのじゃないかと思います。
 さてそんなダイエーでは、ひさびさに先月から「ぬいぐるみを手に入れよう!」キャンペーンを実施しています。やはり数年前に「テディベアを手に入れよう!」キャンペーンを実施して、大きな評判を呼びました。このいかにもダイエーらしい戦術、恐らくイオンになったら踏襲されないと思われますね。
 それで今回は「ピーターラビットのぬいぐるみ」がテーマです。ダイエーで買い物をして、1000円ごとにレジでシールを一枚もらえます。そのシールを集めて台紙に貼り、15枚集まるとメーカー希望小売価格3240円する、座高28センチのぬいぐるみが880円で買えます! 20枚集めると40センチ、5184円の物が1528円に、30枚集めますと、本来なら8100円もする55センチの巨大なぬいぐるみが、2639円でゲットできる、という仕組みです。
 28センチの物にはピーターラビットのほか、ピーターの従兄ベンジャミン・バニー、ピーターの妹フロプシーのものがあります。40センチの物はピーターとピーターの母親ミセスラビットの2種類、55センチの物はピーターのみです。つまり全部で3サイズ、6種類があるということです。
 私も今回、帽子をかぶったベンジャミンのぬいぐるみを手に入れました。細部までよく出来ています。30センチ近い大きさで、このクオリティーで、880円は安いですね。
 このキャンペーンは2017年1月8日までシール配布、同15日まで商品販売します。前のテディベア・キャンペーンでも後になって欲しい、という方が多かったようです。興味がある方はお早めに。
 

2016年10月01日(土)
 いよいよ10月でございますが、少しは気温も下がってきました・・・けれど、蒸し暑いですねえ。私はまだまだ、夏物のコットンのスーツを着ています(とはいえ、アロハやポロシャツからスーツにしただけ秋モードには移行しております)。
 さて、10月1日の午後6時〜7時ごろ、アマゾンの「モード」分野にて、私どもの『軍装・服飾史カラー図鑑』が約1か月ぶりに、ベストセラー1位を獲得。8月上旬に出てまもなく2か月たちますが、各媒体様にて書評を賜り、新たな読者様との出会いも増えているのではないかと期待しております。次作があったら、こういうものを取り上げてくれ、といったお声も届くようになって参りました。ますますよろしくお願い申し上げます。


2016年9月30日(金)
 このほど発売の「モデルアートModel Art」2016年11月号(Nr.952)の書評欄に、辻元よしふみと辻元玲子の新刊『軍装・服飾史カラー図鑑』が紹介されました!
 紹介記事では「服飾史・軍装史研究家と、歴史考証復元画家のご夫婦コンビによる軍装史タイトルの3作目。古代ローマから現代までの服装から40種を選び、正確な色調から材質の感触までを正確に再現した労作。さらに資料の入手に一層の困難を伴ったという背部の描写まで含まれている。特徴的な古代の衣装について、構造や着用法も描かれており、一層興味を引く内容になっている」とございました。モデルアート様、まことにありがとうございました。

2016年9月29日(木)
 2016年9月26日付の「繊研新聞」の「新刊」欄に、辻元よしふみ、辻元玲子の『軍装・服飾史カラー図鑑』が紹介されました。アパレル界の専門紙に取り上げていただき光栄です。
 書評では「40テーマで古代から現代までの歴史を解説する――本書冒頭に年表「紳士服と軍服の変遷」を掲載しているので全体を把握しやすい。ローマ軍団百人隊長(1世紀ごろ)から始まり、現代スーツ姿の紳士までを掲載。巻末の軍人の階級入門一覧では日本陸軍、自衛隊、イギリス陸軍、ドイツ国防軍陸軍、企業をまとめ、軍隊の編成の目安も一覧にしている。また主要参考文献も掲載。オールカラー大判手描きイラストで後ろ姿やディテールも徹底再現されている」とありました。繊研新聞様、誠にありがとうございました。

2016年9月25日(日)
 「月刊モデルグラフィックス」2016年11月号(Number 384)の「MGスープレックスホールド」58ページにて、私どもの『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ著、辻元玲子;イラスト。イカロス出版刊)を紹介していただきました。
「古代から現代まで、軍服や紳士服の歴史を紐解くオールカラー豪華版服飾史図鑑。服飾の解説とともに、軍服や軍装が紳士服の歴史のなかでどういう位置づけになるのか、軍装と一般の服のあいだの影響を明らかにしていく。イラストは全点手描きオールカラー。後ろ姿や着用方法、装飾品などのディテールも抜かりなく詳細まで紹介している」とございました。厚く御礼申し上げます。

2016年9月21日(水)
 発売されたばかりの「MC★あくしす」誌2016秋号(vol.42)の112ページ、および135ページに、『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、税込3500円、辻元よしふみ/著、辻元玲子/イラスト)の宣伝が掲載されております。
 改めて内容をご紹介しますと、ドイツの武装親衛隊や昭5式軍衣の日本軍将校、現代の自衛隊儀仗隊などから、古い時代では古代ローマ軍団の百人隊長や十字軍の騎士、オスマン帝国のイェニチェリ、ポーランドの有翼騎兵、ナポレオン軍の華麗な軍装、フリードリヒ大王から第二次大戦期までの歴代のプロイセン〜ドイツ帝国〜第三帝国の軍服など・・・また、ボー・ブランメルをはじめスーツやフォーマル・ファッションなど一般紳士服の歴史も紹介し、紳士服の歴史の中で、騎士や軍人の服装がどんな位置づけになるかを詳細に解説しております。
 ご要望の多い「後ろ姿」や「剣や刀の帯び方」、「勲章や徽章、階級章」のシステムや由来なども可能な限り図解化。オールカラー手描きイラストで精細に表現しております。
 軍装に興味のある方、歴史的なコスチュームに興味のある方、一般の紳士服とファッションが好きな方、またファッション・デザイナー、漫画家、アニメーター、ゲームクリエイター、歴史的な設定の作品を書かれる作家の方・・・などにもぜひお読みただければ、と思っております。
 宜しくお願い申し上げます。

2016年9月18日(日)
 映画「スーサイド・スクワッドSUICIDE SQUAD」を見ました。原題は意味としては「自殺部隊」です。マーベルと並び立つアメリカン・コミック界の雄、DCコミックスが生んだヴィラン(悪役)を集めた悪人版アベンジャーズ、といったところ。スーパーマンやバットマンといったスーパーヒーローとは対極の存在。重罪人である彼ら彼女らに、死ぬのが必至のまさに「自殺的な」危険な作戦を遂行させる、死んでもどうせ元から死刑か無期懲役の連中だから問題はならず、万が一、作戦に成功して生き延びたら減刑してやる、といった条件で戦わせるという発想です。
が、こう聞くと思い出されるのが、かつての名作映画、1967年の「特攻大作戦」(ロバート・アルドリッチ監督)です。ノルマンディー上陸作戦の直前、警備厳重なドイツ軍の将校クラブを襲撃するべく、米軍刑務所に収監されている凶悪犯罪者の兵士が集められ、決死隊が編成されます。演じたのはチャールズ・ブロンソン、アーネスト・ボーグナイン、テリー・サバラスといった一癖ある俳優ばかり。リー・マービン演じる型破りの少佐がこれを統率していく過程が非常に面白く、映画はヒットしました。私はこの映画を小学生のころに初めて見て、「デス・バイ・ハンギング(絞首刑)」という英語を覚えました。というのも、兵士たちのプロフィールが冒頭に紹介されるのですが、どいつもこいつも「軍法会議の結果、絞首刑」ということで、デス・バイ・ハンギングという言葉を何度も聞くことになったからです。
それで、映画のパンフレットによれば、本作のヴィッド・エアー監督は「特攻大作戦を参考にした」と明言しております。もともと軍歴があり、脚本家として「U−571」、監督して「フューリー」といった純然たる戦争映画も手掛けている同監督は、アメコミの映画化というよりも、一種の戦争映画としてこの作品を作った、といいます。実際、本作のテイストには、ひとつひとつの戦場の状況把握、敵味方の心理を追う手法やら、非常時において、必死に戦う前線の兵士と裏腹に、ひたすら保身に走る上層部の姿、といった描き方に、戦争映画的なリアリティーを感じます。いかにもコミック的な非現実的ファンタジー、という作品ではありません。あえていえば、怪獣映画なのだけど、実際には戦争映画であり政治映画である「シン・ゴジラ」と、どこか似ているのではないでしょうか。

スーパーヒーロー、スーパーマンが死に、国葬が行われます。アメリカ国民は悲嘆に暮れていました(コミックの設定的には、レックス・ルーサーが送り出したドゥームズデイとの戦いで、スーパーマンが命を落とした時期、ということだそうです・・・結局その後、復活したようですが)。
そして、スーパーマン亡き今、また別の危険な化け物、通常の警察や軍隊では手に負えない未知の危険が出現したらどうするのか、が安全保障上の大問題になりました。
そこで、政府諜報部門の高官アマンダ・ウォラー(ヴィオラ・デイヴィス)は一計を案じ、かつて存在した秘密の犯罪者による特殊部隊「タスク・フォースX」を再編成することを軍高官に認めさせます。どうせ犯罪者集団なので、作戦上で問題が起きても政府は責任を問われることもなく、隊員が死傷しても知ったことではない。このアイデアの下、スーパーマンやバットマンに捕らえられ、連邦刑務所に収容されている悪人たち、特に釈放される可能性のない重犯罪者たちが集められます。
無数の生命を奪った暗殺犯で、狙撃の名人デッドショット(ウィル・スミス)、元は精神科医だったが、犯罪都市ゴッサムシティの闇社会の帝王ジョーカー(ジャレッド・レト)の愛人になることで悪に落ちたハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)、殺人ブーメランが武器のその名もブーメラン(ジェイ・コートニー)、ナパーム弾のように何者も焼き尽くしてしまう人間火炎放射器ディアブロ(ジェイ・ヘルナンデス)、ロープ使いの名人スリップノット(アダム・ビーチ)、爬虫類のような無敵のワニ男キラークロック(アドウェール・アキノエ=アクバエ)。
これを率いる部隊長は、リック・フラッグ陸軍大佐(ジョエル・キナマン)ですが、当然、普通のやり方でこの連中が言うことを聞くはずはありません。そこで、隊員たちには全員、首筋にナノ爆弾を埋め込み、責任者のアマンダか隊長のフラッグが端末を操作すれば、瞬時に爆発して頭部が吹き飛ぶ、という仕掛けにしました。さらにお目付け役として、フラッグの用心棒である日本人の女性剣士カタナ(カレン・フクハラ)が従い、命令に服さない隊員は容赦なく必殺の日本刀で斬り捨てる構えです。デッドショットが自嘲して言います。「つまり俺たちは、自殺部隊というわけだな?」
しかし実は、もう一人、本来は部隊の最強メンバーとなるべき候補者がいました。彼女の名は考古学者ジューン・ムーン博士(カーラ・デルヴィーニュ)。ただ一人、犯罪歴などない全くの善良な民間人です。しかし不幸なことに、ジューンはかつて密林の奥の遺跡で古代の危険な呪術の遺物にふれ、実に6000年以上も前から女神、魔女として君臨する悪霊エンチャントレス(デルヴィーニュの一人二役)に取り憑かれてしまったのです。ジューンはエンチャントレスをいつでも呼び出すことが出来ますが、呼び出したが最後、ジューンの意思は失われ、制御は出来なくなります。そこで、ジューンを保護したアマンダは魔女の弱点である心臓を手に入れ、魔女が従うしかない状況にして、無理やり言うことを聞かせることにします。さらにフラッグにジューンを警護させることで、アマンダのねらい通りに二人は恋に落ち、フラッグもこの危険な任務から逃れられない状況を作って、すべてを統制した、はずでした。
しかしエンチャントレスはそんな甘い相手ではなく、弟の魔神も現世に呼び出して力を増強させると、アマンダの支配から逃れて世界征服に乗り出します。
この状況で、タスク・フォースXに出動命令が下りますが、単なるテロリスト掃討が目的と告げられて、相手が何者なのかは知らされていません。施設に取り残された要人を救出しろ、という命令に従い彼らは出撃しますが、襲ってきたのはエンチャントレスによって醜い化け物に変身させられた無数の人々のなれの果て。話が違う・・・と混乱するメンバー。脱走を企てる者、疑問を持つ者、もともと強制的な命令に従っているだけの部隊の弱さというもので、メンバー間では不信感が募り、結束がバラバラになりそうな中、はたして彼らはエンチャントレスの完全復活を阻止できるのでしょうか・・・。

ということで、とにかくハードでダークなアクション映画ですが、単なるけれん味で見せるコミックものではなく、先にも書いたように、戦場ものとしてのリアリティーがある作風です。歴代の名優が引き継いできたジョーカー役を引き受けたジャレッド・レトは、本人も非常に重圧だったと言いますが、クレイジーかつ繊細な、新しいジョーカー像を生み出していると思います。
マーゴット・ロビーは「ターザン/REBORN」でターザン夫人ジェーンを演じていました。芯が強いとは言えヴィクトリア朝の貴婦人役だったターザンと違い、今回は作品中でも最も常軌を逸したキャラクターですが、設定的に単なる下品な悪役ではダメで、非常に高い知性とその裏返しの狂気を表現しなければならない難しい役所ですが、魅力的に演じきっています。ウィル・スミスの加入は、監督がキャスティングで最初に望んだことだったそうですが、根からの悪党でない、実は心優しい面や正義感も隠し持っている孤独な狙撃手、そして全体のリーダー的存在というポジションをしっかり固めています。
注目されたのが、今作が映画でニューという新人のカレン・フクハラ(福原かれん)。この人は日系アメリカ人で、どうもまだ大学生らしいですが、日本語もしっかり出来るようで、劇中の彼女の日本語セリフは安心して聞いていられます。今まで剣術の経験はないとのことですが、武術は習っていたそうで、見事な女サムライぶりです。日本人としては応援したくなりますね。
スーパーモデルのカーラ・デルヴィーニュは、映画デビューの「アンナ・カレーニナ」などではセリフもほとんどない役でしたが、いよいよ本格的な女優業に乗り出してきました。この人はやはり存在感がありますし、当たり前ですが奇麗ですね。もうちょっと魔女ではなくて、ジューンの状態の姿を見たかったと個人的には思いました。
またベン・アフレックが、ブルース・ウェイン(バットマン)として出演しています。
そもそも、私は「ターザン」のマーゴット・ロビーが出ていると聞いて、どのぐらい違うキャラになっているのか見てみたくて観賞した作品でしたが、これは一見の価値がありました。手応えのあるコミックもの、を見てみたい方はぜひ劇場の大画面でご覧を。


2016年9月17日(土)
 「キング・オブ・エジプトGODS OF EGYPT」という映画を見ました。「エジプトの王様」というタイトルなわけですが、原題をよく見ると「エジプトの神々」。実際、この話の設定ではエジプトを最初に統治したファラオたちは、本当に神々であって、肉体的にも巨人だった、ということになっております。だから時代考証的な古代エジプトではなく、ファンタジー的な古代エジプトということです。かつてレイ・ハリーハウゼンが作ったギリシャ神話やアラビア神話ベースの娯楽映画の現代版、という感じですね。「アイ,ロボット」「ノウイング」などで知られるアレックス・プロヤス監督の7年ぶりの作品です。
 古代神話ではあちこちに見られる兄弟神の相克の物語。エジプト神話においては、太陽神ラーの息子であるオシリスと、その弟のセトが対立します。オシリスがセトに殺されてしまうと、オシリスの妻イシスと、その子ホルスがセトを打倒し、オシリスは冥界の王に、ホルスがエジプトの統治者になる・・・そんな話です。この映画は、そのあたりのお話を大胆にファンタジー化したものです。これまでギリシャ神話や北欧神話はかなり題材として取り上げられてきました。エジプト神話というのは、エジプト生まれのプロヤス監督らしい着眼だと思われます。

 古代エジプト文明の黎明期。1000年にわたり善政を布いて民から慕われてきた全エジプトの王、オシリス(ブライアン・ブラウン)が退位し、息子のホルス(ニコライ・コスター=ワルドー)が王位に就くことになります。しかし実際には、ホルスには国王になるだけの器量がなく、愛人のハトホル(エロディ・ユン)は密かに危惧しています。
 即位式典の当日、荒涼たる砂漠の統治者でオシリス王の弟セト(ジェラルド・バトラー)が遅れて会場にやってきます。甥であるホルスの即位を祝いに来た・・・と見せかけて、その実は兄に対する反逆を企てていたのでした。砂漠の軍勢が会場に押し寄せる中、セトは兄オシリス王を殺害し、ホルスを叩きのめして、その両目を抉り取ってしまいます。失明したホルスは逃げ去り、王妃イシス(レイチェル・ブレイク)は自害。ハトホルはセトの愛人となります。クーデターを成功させたセトは人間たちを奴隷として使役し、権力欲を丸出しにして強権政治に走って行きます。
 セトの悪政を倒すには、ホルスの目を奪い返すしかない。セト専属の冷酷な主任建築士ウルシュ(ルーファス・シーウェル)に仕える女奴隷のザヤ(コートニー・イートン)は、ホルスの目を保管しているピラミッドの設計図を盗み出し、恋人である盗賊ベック(ブレントン・スウェイツ)に渡します。ベックはホルスの右目だけをなんとか盗み出し、ウルシュの追撃から逃れることに成功しますが、その途中でザヤはウルシュの放った矢を受け、死んでしまいます。
 悲嘆にくれたベックは、ホルスの神殿を訪れ、ホルスに右目を渡す条件として、ザヤを蘇らせるよう取引を試みます。ホルスは、8日以内ならば死者を現世に呼び戻すことができる、それまでに左目も手に入れるべく、協力するようにベックに要求します。
 2人は、ホルスの祖父である世界の創始者、太陽神ラー(ジェフリー・ラッシュ)の元を訪れ、セトのパワーの根源、砂漠のピラミッドの炎を消すことができる「創造の水」を入手します。
 その間、セトの暴政はエスカレートし、反逆する神々が続出。ついにセトの元妻であるネフティス(エマ・ブース)まで反逆に加担し、怒ったセトはネフティスの翼を切断します。
 さらにセトは、現在の愛人であるハトホルも、実際はホルスに今でも通じているのではないかと疑念を抱き始めます。ハトホルは殺される寸前、元々は冥府の入り口である西方の女王であった経験を生かし、冥界を潜り抜けてセトの元から脱出。そして、ホルスとベックに合流し、セトを倒すべく砂漠のピラミッドを目指します。しかしそこには恐ろしい怪物、スフィンクスが待ち構えており、謎かけに正解しなければ何人であっても生きて帰ることはできません。一行は、知恵の神であるトト(チャドウィック・ボーズマン)を味方に付けようとしますが・・・。

 というようなことで、とにかく派手な映像がこれでもか、と続きます。エンターテイメントとしてはこれ以上のものはないでしょう。まあ、変身した神々の姿がトランスフォーマーのロボットみたい、とか、エジプト神話の原話からかけ離れすぎている、といった批評もあるでしょうが・・・実際、原話ではオシリスの復活とセトの打倒、そしてホルスの即位に大きな貢献をした女神イシスが、この映画では、登場はするもののすぐに舞台から姿を消してしまう点などは、人によっては納得しないかもしれません。とはいえ、今作は神々と、とるに足りない人間の盗賊の間に生まれた信頼と友情、というところが焦点なので、神話の本筋としてはかなり異なった展開をあえて選んでいるのでしょう。
 物語の大詰め、分かっていても、ありがちな展開と言えば言えるシーンでも、感動的に描けているのはプロヤス監督の手腕なのではないでしょうか。うまいものだと感心させられました。
 配役ではやはり、太陽神ラーのジェフリー・ラッシュです。今回も一癖ある、本当は何を考えているか底知れない、誰の味方なのかわからない絶対神、という感じで、単純に善玉でも悪玉でもない、という超越的なキャラクターはこのアカデミー俳優にぴったりです。
 「マレフィセント」では冴えない王子様だったブレントン・スウェイツは、今回は体を張ったアクションで主演の一人として大活躍。そして「オペラ座の怪人」や「300」のジェラルド・バトラーは、今作では悪人そのもの、いいところは一つもない役柄ですが、こういう役をやってもカッコいい。もう一人の主演といえるニコライ・コスター=ワルドーは日本ではあまりなじみがないですが、人気テレビ・シリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で活躍している人。映画では「ブラックホーク・ダウン」「キングダム・オブ・ヘヴン」「オブリビオン」などで脇役を演じています。ハトホル役のエロディ・ユンはフランスの女優さんで、本当にきれいな人です。これで国際的な知名度も一気に上がりそう。ザヤ役のコートニー・イートンは「マッドマックス」最新作で注目された新星ですが、モデル出身でまだ20歳。10年後が楽しみな人かも。
 私は本作を見て、悪人だが才気あふれる建築士ウルシュを演じているルーファス・シーウェルの、ちょっとしゃがれていて、しかしトーンの高い声とか、独特の嫌味な語り口とか、どこかで聞いたな、とずっと思っていました。経歴を調べて、「レジェンド・オブ・ゾロ」とか「リンカーン/秘密の書」の悪役を演じていたことを知り、ああ、この声と口調に聞き覚えがあるんだな、と思い至りました。ルックスではなく、声で思い出した俳優というのは、私の中では珍しい存在です。
 とにかく、大画面で楽しむべき大娯楽作品です。しかしそれでいて、神も人も人生において試練を乗り越え、最後にどう生きたかの裁定を受けなければならない、という世界観からは、人がこの人生で生きるというのはどういう意味があることなのか、といった問いかけも感じられる一作です。私はこういう作品は大好きですね。


2016年9月09日(金)
 「グランド・イリュージョン 見破られたトリック(原題:Now You See Me 2)」を見ました。ちょうど3年前、2013年秋のヒット作「グランド・イリュージョン(原題:Now You See Me)の続編です。原題は「さあ、よくご覧ください」というマジシャンの決まり文句ですね。フランス人監督の手になる洒落た感じの作風だった前作から、ジョン・M・チュウ監督に代わったことで、国際的スケール感の大きな、アクションも多い作風となりましたが、おなじみの出演陣がほぼ再集結し、何よりも最後まで目の離せないどんでん返しに次ぐどんでん返し、という意表を突く展開は今作にも踏襲。華麗なマジックの実演シーンも一層リアルになり、見応えある作品となっています。ことにマジックの監修には、当代一の人気マジシャン、デビッド・カッパーフィールドがあたっており、映画内でのマジックはすべて舞台で再現可能、という折り紙つきです。

 前作では、現役FBI捜査官にして、実は秘密結社アイのメンバーであり、世直し奇術師の集団「フォー・ホースメン」の黒幕でもあるディラン(マーク・ラファロ)が、偉大なマジシャンだった亡き父親の敵を討つべく、30年かけて練りに練った復讐劇だった、というのが落ちでした。そして、父を死に追いやった「マジック見破り人」ことサディアス(モーガン・フリーマン)はディランとフォー・ホースメンの罠にかかり、刑務所に収監されてしまいました。

 それから1年。じっとアイからの次の指令を待っていたメンバーたちですが、あまりに音沙汰がないために、ヘンリー(前作ではアイラ・フィッシャー)が待ちくたびれてフォー・ホースメンを脱退。アトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)、メリット(ウディ・ハレルソン)、ジャック(デイヴ・フランコ)の3人もしびれを切らしていました。そこへディランから次の目標が示されます。IT企業オクタ社が発売する新型スマートフォンが、世界中の情報を違法に収集する計画の道具であることを暴くため、マジックを使ってオクタ社のイベントを乗っ取り、陰謀を暴け、というものです。
 ヘンリーに代わる紅一点として新顔のルーラ(リジー・キャプラン)を加え、フォー・ホースメンの4人はまんまとニューヨークで開催されたオクタ社のイベントをかき乱して乗っ取りに成功しますが、その途中で思わぬ妨害が入ります。そして、オクタ社の秘密を暴露するどころか、逆に世間では死んだと思われていたジャックが健在なこと、さらにFBI捜査官であるディランが実は「5人目のフォー・ホースメン」であることが暴露されてしまいます。ディランの上司であるFBI副長官ナタリー(サナ・レイサン)はディランを逮捕しようとしますが、ディランはすんでのところで会場を脱出。
 一方、屋上からの脱出ルートを使って逃げ出した4人は、逃走用のトラックに到着するはずが、なぜか見覚えのない中華料理店の厨房に着いてしまいます。そして、その地が近所の中華料理店などではなく、本当にマカオであることを知り愕然とします。待ち受けていたのはメリットの弟で、兄に遺恨があるらしい悪党チェイス(ハレルソンの一人二役)でした。さらにそのボスとして現れたのは、昨年、オクタ社の経営幹部から解任され、その後、死んだとされていたITの天才ウォルター(ダニエル・ラドクリフ)でした。
 ウォルターはフォー・ホースメンの4人に対し、マカオにあるオクタ社の施設から、世界中のコンピューターやネットの情報を違法収集するチップを盗み出すことを強要します。
 同じころ、ディランは仇敵であるサディアスを刑務所から脱走させます。サディアスはフォー・ホースメンの4人がマカオに拉致されたことを知っており、彼らの救出に手を貸すと申し出たのです。
 フォー・ホースメンの4人は、チップの売買に興味を持った南アフリカのギャングの関係者を装ってオクタ社の施設に潜入し、チップを手に入れることに成功します。しかし彼らはそれをウォルターに渡すことを拒みます。そこに現れたディランが盾になることで、4人は逃げおおせることに成功しますが、ディランはウォルターに捕まってしまいます。捕らわれの身のディランの前にウォルターと共に姿を現したのは、意外にも1年前にフォー・ホースメンの活躍で資産をすべて奪われ破産した悪徳保険王・トレスラー(マイケル・ケイン)でした・・・。

 ということで、この後、舞台はロンドンに移り、さらに大きな規模のマジック合戦が繰り広げられることになります。前作から続投の面々は息もぴったりで、新顔のキャプランも違和感なく溶け込んでいます。そしてマイケル・ケインとモーガン・フリーマンの大物2人は相変わらず余裕綽々の名演ぶりです。
 今作ではFBIを追われ、危機に陥るディランが中心人物と言え、まさに実力派マーク・ラファロの独壇場です。彼の芸達者ぶりが遺憾なく発揮されています。
 さらに何よりも注目なのが、ハリー・ポッターで知られるラドクリフの悪役ぶり。頭はいいが良心のかけらもない役柄で、科学はマジックに勝つ、と豪語するわけですが、少し前まで魔法使いの中の魔法使いを演じていた彼が、こういう役をやるのも興味深いですね。
 何かこう、あまりに簡単に誰にでも催眠術が利きすぎるのが「ほんまかいな」という感じもあるのですが、それにしても説得力のあるマジック描写は、伊達にカッパーフィールド監修とうたっていません。
 シリーズ化という考えが元々、あったものなのかどうか知りませんが、前作からの展開は見事といってよい脚本です(前作を見ていないと、ちょっと人物関係が理解しにくいかもしれません)。この調子で、ぜひ3作目も見てみたい、と私は思いましたが、どんなものでしょうか。東京五輪を前に、日本を舞台にして、なんて一作を見てみたいですね。


2016年9月08日(木)
 このほど発売の「歴史群像10月号」(学研プラス)のBook Review【新刊紹介】コーナーの123ページに、辻元よしふみ、辻元玲子の『軍装・服飾史カラー図鑑(イカロス出版)』が紹介されました。同誌では3名様にこの本をプレゼントします。
 書評では「軍服や紳士服を服飾史の視点からひも解く豪華オールカラー図鑑。古代ローマの百人隊長から極楽鳥のような色彩のランツクネヒト、ポーランドの有翼騎兵フサリア、陸上自衛隊第302保安警務中隊の儀仗服に至るまで40のテーマを収録、欧米で発展した軍装と紳士服の関係性を系統的に理解できる構成だ。立ち絵姿の大判イラストを中心に、後姿やベルト・刀剣類など、史料的制約から考証の難しい部分も徹底再現。着用の手順解説があるのもうれしい。」ということで、丁寧な紹介をいただき、厚く御礼申し上げます!


2016年9月01日(木)
 このところ諸事いろいろあり、映画を見られなかったのですが、ようやく2本立てで見てきました。公開からしばらく時間がたっていますので、間に合ってよかったです。

 まず「X-MEN : アポカリプス(原題 X-MEN : APOCALYPSE)」。2000年に始動した現在のX-MENシリーズも、ウルヴァリンの単独作品を加えると、通算9作目。一応、これでシリーズは完結した、ということになります。
 そもそもこのマーベル・コミックの映画化が商業的に成功し、ヒュー・ジャックマンやハル・ベリー、それに「ロード・オブ・ザ・リング」にも出ていたイアン・マッケランが世界的な映画スターとしてブレイクするきっかけにもなることで、「コミックの映画化は成功する」という機運を作りだし、その後のコミック系映画の隆盛を築いた歴史的シリーズだったと言えます。特にジェームズ・マカヴォイやマイケル・ファスベンダーを据えて1960年代の前史から再始動した新3部作は、前作で新旧メンバーが共演する夢の顔合わせを実現した上に、歴史が変わって旧シリーズの設定がいったん白紙になることで、今回の作品が成立しています。このため、旧3部作では主要メンバーだったキャラクターが敵にまわったり、逆に敵として登場した人物が味方となったり、ということが可能になって、作品の幅が大きく広がりました。
 
 古代エジプトで全能のファラオとして君臨したエン・サバ・ヌール(=アポカリプス。オスカー・アイザック)は、人類初のミュータントであり、何度となく他の肉体に転生を繰り返し現人神として生きてきましたが、思いがけず部下の反乱に遭い、永い眠りに就くことに。
 そして1983年。エジプトで蘇ったアポカリプスは、ストーム(アレクサンドラ・シップ)、サイロック(オリヴィア・マン)、エンジェル(ベン・ハーディー)の3人のミュータントを従者とし、現代の社会を征服しようと動き出します。彼が4人目の従者として白羽の矢を立てたのは、ポーランドで労働者としてつましく生きていたものの、ミュータントであることを周囲に知られた途端、家族を殺され、社会から追放されて人間に対する激しい憎悪を復活させたマグニートー(ファスベンダー)でした。
 エジプトで異変が起きたことを察知したプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビア(マカヴォイ)は、その動きを探っていたCIAエージェントでかつての恋人モイラ(ローズ・バーン)と再会しますが、彼女の記憶はチャールズ自身が封印したままになっています。
 そんな中、マグニートーが動き出したことを知り、レイブン(ジェニファー・ローレンス)はナイトクローラー(コディ・スミット・マクフィー)を伴い、チャールズが主催する「恵まれし子らの学園」に向かいます。学園ではビースト(ニコラス・ホルト)、ジーン(ソフィー・ターナー)、それにアレックス(ルーカス・ティル)とスコット(タイ・シェリダン)のサマーズ兄弟がおり、チャールズの能力を駆使してマグニートーを探すことにします。しかし、この行いのために、アポカリプスはチャールズの精神の中に侵入し、その能力を利用して世界中の核兵器を無力化。さらにマグニートーの力を用いて地球上のあらゆるものを破壊し、世界を支配することを宣言します。
 学園は爆発し、アレックスは死亡。クイックシルバー(エヴァン・ピーターズ)の活躍によりその他の者は命拾いしますが、チャールズはアポカリプスたちに拉致されてしまいます。さらにそこに現れたのは、ミュータントたちの宿敵であるストライカー大佐(ジョシュ・ヘルマン)率いる特殊部隊でした。レイブン、ビースト、モイラが捕らわれの身となる中、ジーン、ナイトクローラー、スコットの3人はストライカーの基地内に潜入。そこで彼らが出会ったのは、記憶を失い生態兵器となっているウェポンXことウルヴァリン(ジャックマン)でした・・・。

 というわけで、人類が神だと思って崇拝してきたのは、一人のミュータントだったというのがこの設定。実際、アポカリプスの力は神のごとき全能なもので、これに対するミュータントたちは、まだX-MENとして正式に始動する前の未熟な若者たち。チャールズの強大な精神力がアポカリプスの手に入れば、もはや何者も抗しがたくなる・・・ということになります。かつてはマグニートーの手下として敵キャラで活躍したレイブンやナイトクローラーが今回は正義の側に、逆に一貫してX-MENチームの中核だったストームが敵側で登場するのが興味深いところです。前作で歴史が変わっているので、似たような話が微妙に違う結果になっていく妙味は、やはりこれまでのシリーズをずっと見ていた人ほど楽しめるもののように思います。

 次に見たのが「ジャングル・ブックTHE JUNGLE BOOK」。ウォルト・ディズニーの没後50年企画映画で、ディズニー本人が最後に手がけ、没後に公開されたアニメ「ジャングル・ブック」(1967年)の実写映画化です。原作は19世紀末にインド生まれの英国の文豪キプリングが書いた短編小説です。後に本作の影響を受けて、舞台をアフリカに替えてバロウズが書いたのが「ターザン」だと言われており、本作の方が野生児ものの元祖と言えるようです。

 インドのジャングルで暮らす野生児モーグリ(ニール・セディ)。彼は幼いころに黒ヒョウのバギーラ(ベン・キングズレー)に拾われ、アキーラ(ジャンカルロ・エスポジト)が率いるオオカミの群れで育ちます。母親となったのは優しい雌オオカミのラクシャ(ルピタ・ニョンゴ)。しかし人間の子であるモーグリを蛇蝎のように嫌悪するベンガルトラのシア・カーン(イドリス・エルバ)は、モーグリを殺すことを宣言。オオカミの群れに緊張が走ります。
 悩んだ末に、モーグリは群れを離れることを決意。バギーラはモーグリの命を守るには、モーグリを人間の世界に帰すしかないと決断します。しかし、バギーラはシア・カーンに襲われて負傷。たった一人で森をさまようモーグリは、大蛇のカー(スカーレット・ヨハンソン)から、シア・カーンがかつてモーグリの父親を殺したこと、そのときに父親がシア・カーンの顔に傷を負わせたために、カーンが人間を憎悪していることを聞きます。
 カーはそのままモーグリを食べようとしましたが、クマのバルー(ビル・マーレイ)に救われます。気ままに自由に生きるバルーと共に暮らすうちに、モーグリはジャングルの掟に縛られるだけの生き方に疑問を抱いていきます。
 そのころ、シア・カーンはオオカミの群れを訪れ、不意を衝いてアキーラを殺害。群れを乗っ取り、モーグリが復讐するために戻ってくるのを待ちます。
 同じころ、古い人間の寺院に住んでサルたちを支配している類人猿の王キング・ルーイ(クリストファー・ウォーケン)もまた、自分の野望のためにモーグリを利用しようと画策していました・・・。

 というようなことで、大筋ではオリジナル版と大きな相違はないのですが、何しろモーグリ以外のすべての背景、すべての動物や植物はフルCGである、というが驚きです。とうとう技術的な進歩もここまで来たか、という感を強くします。このリアルな森も川も、全くインドで野外ロケすることなしに(ただし当然ながら、現地取材は綿密にしたそうです)撮影されているというのは驚くべきことです。豪華絢爛たる声優陣は、さすがにディズニー映画というか、ちょっと考えられないほどの布陣ですが、これほど作り込んだ世界を生き生きと見せてくれるのは、これら名優たちの演技力のたまものでしょう。
 そして何よりも、モーグリ役のセディの熱演ぶり。よく演じきったものです。67年版の陽気な作風からはかなりシリアスになっていますが、しかし「あのテイスト」もバランスよく残している感じがします。まことに驚嘆すべき作品です。


2016年8月29日(月)
 台風10号がやってきますが、皆様、ご用心ください。
 ところで、「コンバット・マガジン」10月号のNew Bookコーナーにて、私どもの『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が紹介されました。厚く御礼申し上げます、ありがとうございます。

2016年8月25日(木)
 私どもの新刊『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が発刊して2週間。すでにご高覧いただけましたでしょうか。
 ところで本書は帯に世界的デザイナー、コシノジュンコ先生の推薦文をいただいております。
「軍服を男の美学とすれば、それは今の紳士服の基本でもある。こんな服装史料がほしかった!」
 このように、力強く本書のコンセプトをお示しいただいております。
 今回は、コシノ先生にお目にかかった際に、直筆サインをいただきました。「私の本じゃなくて、あなたたちの本なのに変じゃない?」と仰るところ、無理をお願いして書いていただきました。ご多忙の中、ありがとうございました。

2016年8月20日(土)
 このほどお土産品として何かないか、と百貨店で物色していて見つけたのが、東京・世田谷の「ラ・テール洋菓子店」が作っているという「ハニー・ベア」という焼き菓子。かわいいですね見るからに。食べても、名の通りに蜂蜜の甘みが濃厚でおいしいです。
 さてところで、今月9日に刊行した私どもの『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)ですが、けっこう一部のネット書店などで「欠品」の表示を見かけるようになりました。海外向けの楽天グローバルでも在庫切れの表示が出ているようです。ひょっとして、本書は海外のお客さんもいるのでしょうか?

2016年8月16日(火)
 皆様、お盆明けでお疲れ様でございます。コミケにご出展された皆様もお疲れ様でした。私たち夫婦も30歳代まではコミケにずっと出ておりました。
 ところで、8月9日に私どもの新刊『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ/著、辻元玲子/イラスト)が刊行されてちょうど1週間。アマゾンでは昨日も「モード」分野で1位認定をいただいております。まことにありがたく、厚く厚く御礼申し上げる次第です。
 ドイツの国防軍陸軍や武装親衛隊、昭五式軍衣の日本軍将校、現代の自衛隊儀仗隊などから、古い時代では古代ローマ軍団の百人隊長や十字軍の騎士、オスマン帝国のイェニチェリ、ポーランドの有翼騎兵、ナポレオン軍の華麗な軍装、フリードリヒ大王から第二次大戦期までの歴代のプロイセン〜ドイツ帝国〜第三帝国の軍服など・・・また、ボー・ブランメルをはじめスーツやフォーマル・ファッションなど一般紳士服の歴史も紹介し、紳士服の歴史の中で、騎士や軍人の服装がどんな位置づけになるかを詳細に解説しております。お堅い説明ばかりでなく、漫画調のキャラクターで解説しているページや、豆知識コラムも随所に盛り込んで、気の向くままにページをめくっていただき、読み物としても面白く読めるように工夫してございます。
 ご要望の多い「後ろ姿」や「剣や刀の帯び方」、「勲章や徽章、階級章」のシステムや由来なども可能な限り図解化。オールカラー手描きイラストで精細に表現しております。
 軍装に興味のある方、歴史的なコスチュームに興味のある方、一般の紳士服とファッションが好きな方、またファッション・デザイナー、漫画家、アニメーター、ゲームクリエイター、歴史的な設定の作品を書かれる作家の方・・・などにもぜひお読みただければ、と思っております。
 引き続き、宜しくお願い申し上げます。台風7号が首都圏に接近しているとのこと、皆様、ご自愛、ご注意くださいませ。

2016年8月13日(土)
 宣伝です!『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ、辻元玲子著。イカロス出版、税込3500円)が発売となりまして、今回はアパレル、ファッション関係の皆様からもご支持を戴いているようです。現代のフォーマル衣装や、スーツの原型には19世紀ぐらいの軍服がルーツになっている物が多いので、今回はそのへんも手厚く紹介しています。実際、19世紀になるまでは、礼服と言えば宮廷用の貴族の服か軍服が着用されたのですが、市民革命と産業革命をへた19世紀半ばの時代ともなると、一般の市民のためのフォーマル服やビジネス服が必要となり、現在の燕尾服やタキシード、スーツなどに変化していくわけです・・・詳しいことはこの本をご覧くださいませ!

2016年8月12日(金)
 昨日、江東区のショッピングモール「スナモ」にて、久しぶりにゼニス・インターナショナルさんのお店を発見。大人気の動物パンの新作「ふぐ」や「ライオン」「たぬき」などを買いました。カスタードクリームかチョコクリーム入りで、見た目が面白いだけでなく、味も非常によいです。

2016年8月11日(木)
 「山の日」ですね。このへんからお盆休み、という人も多いでしょうね。コミケもいよいよでしょうか。リオ五輪も佳境! そんな中で恐縮ですが、『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、税込3500円)の宣伝をさせていただきます。
 本書には、メインの図解のほかに、「カッコいい軍服の描き方 将校と下士官兵の違い」とか「敬礼の仕方と歴史」といったコーナーも設けてあります。漫画やイラストを描く皆様の参考になれば幸甚でございます。

2016年8月10日(水)
 宣伝です!『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ、辻元玲子著。イカロス出版、税込3500円)が発売となりました。アマゾンでは昨日、モード分野で1位となって「ベストセラー」認定をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 本書は最初に「年表」も設けております。本文で取り上げているものはリアル画で、それ以外のものはちびキャラで描き分けていますが、参考として掲げたちびキャラも、たとえばこの日本の大鎧の武士などのように、考証面では決して手抜きしないで描いております。

2016年8月09日(火)
 『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ、辻元玲子著。イカロス出版、税込3500円)は本日、2016年8月9日、発売となりました。アマゾンでは午前11時51分現在、モード分野で1位となって「ベストセラー」認定をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 今回はプロイセン〜ドイツ軍とフランス軍(ルイ王朝とナポレオン時代)を多く扱っていますが、ナポレオンの宿敵、英国軍も紹介しています。伝統の真っ赤なジャケットが目を引きますね。

2016年8月09日(火)
 『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、税込3500円、フルカラー230頁)がいよいよ発売されました! 日付が変わったとたんに、アマゾンでも売り出したようで、登場と同時に軍事分野で5位、書籍全体でも2万位ほどと健闘している模様です。
 本日は「ナポレオン軍(大陸軍)竜騎兵少佐」「ロシア陸軍元帥」「ルイ14世時代の三銃士」のページをちょっと紹介。いずれも、後ろ姿を苦労して描いております。とにかく昔の服装はバックスタイルの資料がなく、非常に苦労します。

2016年8月04日(木)
 今日も懲りずに宣伝です。イカロス出版様よりまもなく『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ/著、辻元玲子/イラスト)が刊行されます。来週には配本を開始します。B5判オールカラー、230ページで3500円(税込)です。
 ドイツの武装親衛隊やアルゲマイネSS、戦車兵などおなじみの軍装は、十字軍の時代のドイツ騎士団の騎士に始まり、フリードリヒ大王時代の軍服からナポレオン戦争時代のプロイセン王国、ドイツ帝国を経て、どういう経過をへてこういう服に進化したのかを詳細にたどれます。昭5式軍衣の日本軍将校、明治6年の西郷隆盛の軍装、現代の自衛隊儀仗隊、英国近衛兵の連隊ごとに違う服装などから、古い時代では古代ローマ軍団の百人隊長やロビン・フッド時代の服装、オスマン帝国のイェニチェリ、ポーランドの有翼騎兵、ナポレオン軍の華麗な軍装、三銃士時代の服装、ベルサイユのばらで登場するフランス王室衛兵隊の軍装・・また、ボー・ブランメルをはじめ、今のスーツに至る紳士服の進化史やフォーマル・ファッションなど一般紳士服の歴史も手厚く紹介し、燕尾服やタキシード、フロックコートなどの歴史も紹介。そういう大きな紳士服の歴史の中で、騎士や軍人の服装がどんな位置づけになるかを詳細に解説しております。
 ご要望の多い「後ろ姿」や「剣や刀の帯び方」、「勲章や徽章、階級章」のシステムや由来なども可能な限り図解化。オールカラー手描きイラストで精細に表現しております。
 軍装に興味のある方、歴史的なコスチュームに興味のある方、一般の紳士服とファッションが好きな方、またファッション・デザイナー、漫画家、アニメーター、ゲームクリエイター、歴史的な設定の作品を書かれる作家の方・・・などにもぜひお読みただければ、と思っております。
 宜しくお願い申し上げます。

2016年8月04日(木)
 映画「ターザン REBORN」(原題:THE LEGEND OF TARZAN)を見ました。「ハリー・ポッター」シリーズで知られるデイビッド・イェーツ監督の新作です。
 ターザンと言えば、ジョン・カーターを主人公とするSFシリーズでも有名なエドガー・ライズ・バロウズが生み出した森の王者。誰でも知る物語で、何度も映像化されているわけですが、意外にも今世紀に入ってから本格的な実写映画化はこれが初めて。モーション・キャプチャー技術の進化によって、ターザンと動物たちとのふれあいなども、ごく自然に描けるようになるなど、今の時代にこの題材が取り上げられた必然性が分かる仕上がりになっております。
 
 1885年。ドイツ帝国の成立とフランスの没落など、勢力関係の変化が著しかった時代が本作の背景です。ベルリン協定により欧州列強国のアフリカ支配の図式が定まり、ダイヤモンドやオパールの眠るコンゴ盆地の広大な領地は、ベルギー国王レオポルド2世の私領として認められます。
 しかしベルギー王室は莫大な資産をつぎ込んだものの開発に失敗。負債をなんとしても取り返すべく、有能な外交官レオン・ロム(クリストフ・ヴァルツ)を現地に送り込みます。しかしこのロムは、単に国王のために働く忠臣ではなく、総督となることを夢見る野心家です。ロムは現地の有力な部族長であるムボンガ(ジャイモン・フンスー)と協定を結び、ムボンガが恨みを抱く一人の男を連れてこれば、ベルギー人に協力する、と約束します。その男とは・・・?
 同じころ、英国政府でもセシル首相(ジム・ブロードベント)がコンゴ問題に介入する糸口を見つけようと思案していました。その思惑に乗じて、現地で奴隷使役や人身売買などの不正が行われていないか査察に入りたいアメリカの外交官ジョージ・W・ウィリアムズ(サミュエル・L・ジャクソン)。首相とウィリアムズが、ベルギー国王の招待に基づくコンゴ査察官になるよう説得している一人の男・・・それは英国貴族院議員ジョン・クレイトン伯爵。しかしまたの名を、かつてコンゴの森林でジャングルの王者として君臨した「ターザン」(アレクサンダー・スカルスガルド)その人でした。
 初めは渋るジョンでしたが、ジョージの話を聞いて、現地の人の奴隷化を危惧し、アフリカへ戻ることを決意。やはりコンゴで育った妻のジェーン(マーゴット・ロビー)も、ジョンの反対を押し切って同行することになります。
 しかしこの「ベルギー国王からの招待」というのはロムの陰謀で、狙いはターザンその人でした。奇襲を受けて連れ去られる寸前、ジョージのおかげでジョンは命拾いしますが、ロムの軍隊はジェーンをさらって行ってしまいます。
 ジョンはジョージと共に、ジャングルに分け入り、ロムの後を追います。それはジョンの野生の目覚め、ターザンの復活を意味していました・・・。

 というようなことで、今作の特徴は、すでに文明社会に戻って英国の大貴族としての生活になじんでいたターザンが、再びジャングルに戻っていく、という点。だからこの作品のターザンは知性も教養も一流の人物で、単純明快な野生児などではありません。二つの世界に引き裂かれた矛盾ある存在、という原作で提示された通りのイメージで描かれます。いろいろな映画で大活躍する名優ステラン・ステルスガルドの息子アレクサンダーが、高貴さと野性を併せ持つこの人物の魅力を余すところなく好演しています。
 そして、なんといってもクリストフ・ヴァルツです。アカデミー賞を2度もとっているこの人、やればなんでも出来るでしょうが、やはり本作のような「一見、インテリ層で上品な紳士なのだけど、実はとんでもない怪物的な悪党」という役柄が一番、光ります。本作のロムという人物はまさにそのような造形で、ヴァルツが演じなければ成り立たなかったかもしれません。
 サミュエル・L・ジャクソン演じるジョージ・ウィリアムズも興味深い人物像です。博士号を持つアメリカの外交官で黒人、という設定です。しかしそれだけではなくて、映画の時代から20年ほど前には、南北戦争やメキシコ出兵、インディアンとの戦争で、悲惨な戦いを見てきた歴戦の勇士で、射撃の名手でもあります。「散々、インディアンを殺してきた俺は、今のベルギー人と全く同じだ」という彼は、黒人として迫害された立場と、メキシコ人やインディアンを殺害した立場を両方とも経験しており、そしてアフリカでの彼は、先祖がアフリカをルーツにしていながら文明社会の代表者であり、現地の人たちと交わる白人のターザンに比べれば、全くのよそ者です。こういう複雑な人物を配置したことで、作品に厚みが出ました。
 妻ジェーンを演じたのは、近年、注目されるオーストラリア出身のマーゴット・ロビー。生き生きとした演技が本作の魅力を大きく高めています。彼女は間もなく公開の「スーサイド・スクワット」でもヒロイン格で出演しているようです。
 首相役のジム・ブロードベンドは「ムーラン・ルージュ」「クラウド・アトラス」などで知られるアカデミー俳優。脇をしっかり固めて映画の格上げに貢献しています。
 今作は19世紀後半、ヴィクトリア時代を背景としており、ロンドンで主人公たちがまとう衣装は、素晴らしいの一言。ボタン配置がV字に配置される燕尾服など、私は欲しくなってしまいますね。また、冒頭ではベルギー正規軍の兵士たちが登場しますが、よく描けています。あのワンシーンにあれだけの軍服や小銃を用意するのは大変でしょう。
 また、当時の最新兵器としてマキシムが発明したばかりの機関銃が随所に登場します。まさに大量殺戮兵器の元祖である現代型の機関銃が出現したのが1880年代。世相も、戦争の形態も徐々に殺伐として、人間性を失っていく時代を象徴しているようです。
 あの時代の後、英国はアフリカでの勢力範囲を拡大していき、ズールー戦争やボーア戦争へと突入していきます。英国貴族であるターザンも、だんだん難しい立場になっていったのかもしれません。だから、ベルギー人を悪役とした今回の設定はなかなか巧妙だったといえます。実際にいわゆる「コンゴ自由国」ではあらゆる非人道的な政策がとられた、という話がありまして、史実をうまくとらえた脚本には賛辞を贈りたいと思いました。


2016年8月03日(水)
 イカロス出版様よりまもなく『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ/著、辻元玲子/イラスト)が刊行されます。すでに早刷りが手元に届きました。来週には配本を開始すると思います。B5判オールカラー、230ページで3500円(税込)です。
 ドイツの武装親衛隊や昭5式軍衣の日本軍将校、現代の自衛隊儀仗隊などから、古い時代では古代ローマ軍団の百人隊長や十字軍の騎士、オスマン帝国のイェニチェリ、ポーランドの有翼騎兵、ナポレオン軍の華麗な軍装、フリードリヒ大王から第二次大戦期までの歴代のプロイセン〜ドイツ帝国〜第三帝国の軍服など・・・また、ボー・ブランメルをはじめスーツやフォーマル・ファッションなど一般紳士服の歴史も紹介し、紳士服の歴史の中で、騎士や軍人の服装がどんな位置づけになるかを詳細に解説しております。
 ご要望の多い「後ろ姿」や「剣や刀の帯び方」、「勲章や徽章、階級章」のシステムや由来なども可能な限り図解化。オールカラー手描きイラストで精細に表現しております。
 軍装に興味のある方、歴史的なコスチュームに興味のある方、一般の紳士服とファッションが好きな方、またファッション・デザイナー、漫画家、アニメーター、ゲームクリエイター、歴史的な設定の作品を書かれる作家の方・・・などにもぜひお読みただければ、と思っております。
 宜しくお願い申し上げます。

2016年8月02日(火)
 速報! 私どもの手元に『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)の早刷りが届きました! この作品のために、ほぼ4年の歳月を費やしました。実はここまで来るのに色々と紆余曲折があり、いま、完成品を見る思いは感無量でございます。
 230頁フルカラー、と頭で理解していましたが、できあがるとずっしりと重く、迫力がありますね。印刷も、手描きの原画を再現するのは非常に難しいです。軍服の生地の色は、非常に微妙なものが多く、また毛皮や羽毛などの装飾は、毛を一本一本、辻元玲子が筆で手描きしており、その繊細な部分の再現も難しいのですが、非常にクオリティーの高い技術で印刷していただきました。
 判型は、イカロス出版の雑誌などとほぼ同サイズです。各国の軍装に加えて、今回は一般の紳士服の歴史も抑えておりまして、フロックコート姿の伸子や、男性ファッションの世界で絶大な影響を及ぼしたボー・ブランメルの服装なども図解しております。同時代の一般人のファッションと軍服が密接なかかわりがあることをご理解いただけると思います。ブランメル自身、もともと騎兵将校であり、彼の好みが紳士服全般は言うに及ばず、後の時代の軍服の色調もシックな方向に導いたといえると思います。
 軍装の世界で絶大な影響をもたらしてきた、フランスとドイツ、英国の軍服の歴史も今回は手厚く紹介しております。フランス軍は、三銃士の頃のきらびやかな服装、現代的な軍服の走りとなったルイ14世の時代から、ベルサイユのばらの時代の軍装、そしてナポレオン戦争の華麗な軍服。ドイツについては、そもそもの「鉄十字マーク」の発端である十字軍時代の「ドイツ騎士団」の騎士に始まり、フリードリヒ大王の時代から、ナポレオン戦争で鉄十字勲章や現代的な軍帽が登場する時代、さらに日本ではあまりなじみのない普仏戦争からドイツ帝国時代の軍装を経て、第1次大戦、第2次大戦のおなじみナチス時代のものを紹介。英国ではナポレオン戦争時代の真っ赤な軍服と、ネルソン提督が着用した青い海軍軍服、さらに現代の近衛兵連隊の服制を、部隊ごとのボタン配置や徽章の違いまで、詳細に取り上げています。
 まもなく一般配本されると思われます。しばしお待ちくださいませ。

2016年8月02日(火)
辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、フルカラー230ページ、予価税込3500円)の印刷中です。本書は8月第2週を目途に配本の予定です。
 本日は、第二次大戦時のドイツ軍戦車兵のページをご紹介します。
 そして、今日は本書の「著者紹介」テキストを掲載します。
 以下のような感じになっております。ご参考になさってくださいませ。

 辻元よしふみ
服飾史・軍装史研究家、ファッション・アドバイザー。1967 年岐阜市生まれ。早大卒。日本での軍装史研究の第一人者として、防衛省など中央省庁や企業のアドバイザーを務め、テレビ番組への情報提供などもしている。著書に『図説 軍服の歴史5000 年』『スーツ=軍服!? スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった!!』(いずれも彩流社)など。監修・翻訳書に『華麗なるナポレオン軍の軍服』(リュシアン・ルスロ原著、マール社)など多数。また、日刊ゲンダイ(土日版)に「鉄板!おしゃれ道」を連載し、テレビ番組「美の壺」(NHKBSプレミアム)や「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」(テレビ東京系)などに出演した。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、国際服飾学会、服飾文化学会、軍事史学会に所属。

 辻元玲子
歴史考証復元画家(ヒストリカル・イラストレーター)。1972 年横浜市生まれ。桐朋学園大学音楽学部演奏学科声楽専攻卒。日本で数少ないユニフォーモロジー(制服学)と歴史復元画の専門画家で、画家・中西立太の指導を受けた。防衛省はじめ省庁や民間企業のアドバイザーを務め、イラストを提供している。著書に『まんがで楽典』(全音楽譜出版社)。夫よしふみとの共著で『図説 軍服の歴史5000 年』『スーツ=軍服!? スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった!!』(いずれも彩流社)、監修・翻訳書に『華麗なるナポレオン
軍の軍服』(リュシアン・ルスロ原著、マール社)がある。日本理科美術協会会員。

2016年8月01日(月)
辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、フルカラー230ページ、予価税込3500円)の印刷中です。アマゾンなどではすでに予約を開始しております。すでにご注文いただきました皆様に、厚く御礼申し上げます。本書は8月第2週を目途に配本の予定です。そろそろ見本誌が出来てきそうな感じまで来ております。
 本日は、プロイセン〜ドイツ帝国で精強をうたわれた「第1親衛軽騎兵連隊」の軍装解説からサーベルや付属品、帽子などのディテール部の一部をご紹介します。この黒い制服が、後にナチス時代の親衛隊や戦車兵の「黒服」に多大な影響を与えます(本書では、人気の高いナチス親衛隊や戦車兵も後のページで登場します)。
 そして、今日は本書の「目次」テキストをご紹介します。
 以下のような感じになっております。ご参考になさってくださいませ。

読者の皆様へ 5
年表 紳士服と軍服の変遷 8
001 ローマ軍団百人隊長
Centurio 56
002 ドイツ騎士団総長
Deutscher Orden, Hochmeister 58
003 14世紀後半の市民
Medieval man, 14th century 62
004 ランツクネヒト
Landsknecht 66
005 16世紀 エリザベス1世時代の英国貴族
16th century, English nobleman, Reign of Elizabeth I 70
006 ポーランド有翼騎兵「フサリア」
Polish Winged husser “Husaria” 74
007 ポーランド・リトアニア共和国軍 ヘトマン(司令官) 
Polish-Lithuanian Commonwealth Army “Hetman” 78
008 オスマン帝国軍 皇帝親衛隊イェニチェリ
軍犬兵「サムスンジュ」
Ottoman Army Janissary Dog handler“Samsuncu” 82
009 ルイ13世時代の紳士(フランス)
French Gentleman, Reign of Louis XIII 84
010 ルイ14世時代初期の貴族(フランス)
French Nobleman, Early reign of Louis XIV 86
011 ルイ14世時代初期の王室銃士(フランス)
Mousquetaire du Roi 90
012 ルイ14世時代のフランス軍人
French Soldiers, Rein of Louis XIV 94
013 フランス衛兵連隊 将校 略装
Régiment des Gardes Françaises Officier petit tenue 100
014 プロイセン陸軍 第15親衛近衛連隊第1大隊
将校礼装 連隊長 将官
Preußische Armee 1.bataillons Leibgarde Nr.15
Galauniform der Offiziere Regimentschef General 104
015 プロイセン陸軍 第1近衛歩兵連隊
常装 連隊長 将官
Preußische Armee 1.Garde-Regiment zu Fuß
Dienstuniform Regimentschef General 108
016 プロイセン陸軍 総司令官 野戦装 元帥
Preußische Armee Oberbefehlshaber
Felduniform Generalfeldmarschall 112
017 ロシア陸軍(ルースカヤ・アーミア) 元帥
Русская армия Маршал 116
018 ラ・グランド・アルメ(大陸軍)
第1皇帝親衛擲弾歩兵連隊 大佐
La Grande Armée 1er régiment de grenadiers à pied de
la Garde impériale Colonel 120
019 大陸軍 帝国元帥 正装
La Grande Armée Maréchal de l’Empire, grand tenue 126
020 大陸軍 第19竜騎兵連隊少佐
La Grande Armée 19e Régiment de Dragons Chef d’escadron 132
021 大陸軍 第7ユサール連隊 少佐
La Grande Armée 7e Régiment de Hussards Chef d’escadron 136
022 英国海軍中将
Royal-Navy Vice-Admiral 142
023 英国陸軍少将
British Army Major General 146
024 ドイツ帝国陸軍 プロイセン陸軍 参謀本部 常装 大将
Deutsches Heer Preußische Armee
Generalstab Dienstuniform General 150
025 ドイツ帝国陸軍 プロイセン陸軍 礼装 元帥位の上級大将
Deutsches Heer Preußische Armee Galauniform
Generaloberst mit dem Rang als Generalfeldmarschall 154
026 ボー・ブランメル リージェンシー時代のダンディー
Beau Brummell Regency era, Dandy 158
027 ヴィクトリア時代の紳士
The Victorian Gentleman 164
028 ヴィクトリア朝後期〜エドワード朝 ディトー・スーツの紳士
Late Victorian era- Edwardian era Gentleman in Ditto suit 166
029 ドイツ帝国陸軍 プロイセン陸軍
第1親衛軽騎兵連隊 元帥
Deutsches Heer Preußische Armee
1.Leib-Husaren Regiment nr.1 Generalfeldmarschall 174
030 ドイツ帝国陸軍航空隊 騎兵大尉
Deutsche Luftstreitkräfte Rittmeister 178
031 ドイツ国防軍陸軍 参謀少佐、中将
Wehrmacht Heer Major in Generalstab, Generalleutnant 182
032 ナチス親衛隊員 保安部SS中佐 1939〜45年/
アドルフ・ヒトラー親衛連隊SS大尉 1936〜45年
Schutzstaffel Sicherheitsdienst SS-Obersturmbannführer
Leibstandarte Adolf Hitler SS-Hauptsturmführer 186
033 ドイツ武装親衛隊SS中尉
Waffen-SS SS-Obersturmführer 190
034 ドイツ国防軍 グロースドイッチュラント師団 戦車兵大尉
Wehrmacht Division Großdeutschland
Hauptmann der Panzertruppe 192
035 アメリカ陸軍航空軍 第8空軍 中尉
USAAF 8th Air Force Lieutenant 194
036 大日本帝国陸軍 陸軍大将
Imperial Japanese Army General 198
037 大日本帝国陸軍 歩兵第三聯隊 少尉
Imperial Japanese Army 3rd Infantry Regiment
Second Lieutenant 200
038 陸上自衛隊 第302保安警務中隊 3等陸尉、1等陸曹
JGSDF 302 Military Police Company
Second Lieutenant, Master Sergeant 202
039 英国近衛兵 近衛擲弾兵連隊 兵士  
Royal Footguards Grenadier Guards Guardsman 208
040 スーツ姿の紳士
Gentleman in Suit Present day 220
軍の階級入門 228
主要参考文献 229

2016年8月01日(月)
 8月に入りました。夏本番ですが、案外、このへんからあっという間に年末まで行ってしまう感じもあります。ところで、土用の丑にはウナギを食した方も多いでしょうが、近年では何しろ高い! わざわざウナギ味のナマズを開発しているという話もありました。
 我が家では、「豆腐ちゃん蒲焼」なるものを食しました。要するに豆腐で作った代用品の蒲焼です。ところがこれ、見た目は完全に本物そっくり。タレと山椒をかければ風味も十分。皮の部分は海苔で出来ていて、これもぬめり感があってリアルです。食感ははっきりいって、まだ歯ごたえのある豆腐というもの。ウナギと間違える、というレベルではないのですが、もうちょっとコラーゲン感が出ればさらに実感がでそうです。これで400円台ですので、雰囲気ものとしては大合格なのではないでしょうか。この商品は、ダイエー浦安駅前店で見つけました。

2016年7月31日(日)
辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、フルカラー230ページ、予価税込3500円)の印刷中です。アマゾンなどではすでに予約を開始しております。すでにご注文いただきました皆様に、厚く御礼申し上げます。本書は8月第2週を目途に配本の予定です。
 本日は、本書の一部から「英国海軍中将」の刀剣やベルト、18世紀後半から19世紀半ばまでの英国海軍の階級章(正肩章=エポレット)の一覧図のところをご紹介します。このような階級章の紹介は、ナポレオン軍、王政時代のフランス軍、ロシア軍、プロイセン軍、ドイツ帝国軍などそれぞれの項目で掲載しております。
 また、昨日に引き続き、この本の「前書き」から、イラストを描いた辻元玲子の文章をご紹介します。本作はすべて手描き水彩画で、フルカラーです。当初は一部を白黒で刷り分ける計画だったので、イラストの一部は白黒画として製作しました。その後、全ページをフルカラーとすることにし、白黒画だったものもすべて着色しました。よって、白黒画の画材についても説明しておりますが、本書は結果的にはすべてがカラー画です。
◆  ◆  ◆
 イラストの作画を担当しました辻元玲子です。
 今回の本は、自分自身がイラストレーター、画家として、「こういう本があったらいいな」「誰かが時代考証を調べてくれたら楽なのにな」という部分を具体化したものです。従来のこの
種の本でいちばん不満なのが、肝心な部分の描き飛ばしや省略です。歴史的な人物となると、剣や衣装にこってりと刺繍や装飾が入っていますが、多くの画家が面倒くさがって省略してしまいます。しかし資料本としては、徹底的にディテールを描いてくれないと困るわけで、初めから省略されていたり、デフォルメされていたりしては、漫画やイラスト、アニメを描く人からすると参考にならないわけです。
 ですので、今回はとにかく目に見えるものは出来る限り省略しない、徹底的に描く、ということにこだわっています。たとえば軍人の制服のボタンには、大抵、紋章とか部隊番号が入っていますが、こういうところも省くことなく、極力、再現しております。勲章、金モール、服の縫
い目……可能な限り、この絵を元に映画や舞台の衣装が制作できるレベルで絵にする、というのが今回のテーマの一つになっております。
 そして、各項目でぜひ知って頂きたい知識については、硬派な文章を避け、漫画テイストで楽しくご理解頂けるよう、工夫して描いてあります。
 この本が、少しでも読者の皆様のお役にたちましたら幸甚です。また、皆様に喜んでいただき好評を博したなら、今回ご紹介した40種以外の軍人や戦士、かっこいい紳士、さらには貴婦人なども取り上げてみたいと思っております。日本の武士やお姫さまもいいですね。
 なお、辻元玲子はイラスト製作にコンピューター、CGは使いません。カラー画も白黒画もすべて手描きです。今回の使用画材は以下の通りで、カラー画はすべて水彩です。画用紙のサイズはすべてA4 判です。
[白黒画] ケント紙、日光丸ペン、Holbein スペシャルブラック(インク)
[カラー画] ぺんてる水彩絵の具、Holbein 透明水彩絵の具、筆(メーカーはいろいろ)、水
彩画用紙(BBケント、ヴィファール、コットマン、セヌリエ 等)
2016 年7月 辻元玲子

2016年7月30日(土)
 第24回日本テディベアwith Friendsコンベンションが有楽町の国際フォーラムで開催されております。G34出展の「おかべきよみ」様のご招待を受けて、今回も夫婦でみてきました。いってみればテディベア作家の皆様によるコミックマーケットのような催しですが、今回もすごい熱気でした。

2016年7月30日(土)
辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、フルカラー230ページ、予価税込3500円)は、アマゾンなどで予約を開始しております。7月30日午前7時24分現在、書籍全体順位1854位、「軍事」分野で10位、そして「モード」分野で刊行前に1位を記録しておりました。もちろん、アマゾン順位はひとつの指標なのですが、多くの方からご支持と応援をいただいている証しでありまして、厚く御礼申し上げます。ありがとうございます。3年半をかけて取り組んだ甲斐があったと思える瞬間でございます。
 この本は現在、印刷中でして、8月第2週を目途に配本の予定です。もうしばらくお待ちくださいませ。


2016年7月30日(土)
辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、フルカラー230ページ、予価税込3500円)の印刷作業中です。アマゾンなどではすでに予約を開始しており、昨日午後7時過ぎには発売前にして「モード」分野で1位、「軍事」分野で20位となりました。厚く御礼申し上げる次第です。本書は8月第2週を目途に配本の予定です。
 本日は、昨日に引き続き、この本の「前書き」から続きの部分を一部、ご紹介します。
◆  ◆  ◆
(前略)「この本1冊で全てが分かる本が欲しい」という読者の声をよくいただくのですが、申し訳ありません、そんな楽な近道はないのです。今回の本だってこの1冊に2人がかりで3年半もかかって、40項目しか取り上げていないのです。本当はもっともっと、いろいろなものをご紹介したいのですが・・・・・・。内容的にも、もっと深追いしたい点も多々あったのですが、ページ数が増えすぎてしまうこともあり、時間的にもこれ以上一冊にかけているわけにもいかず、本当はあれも取り上げたい、これも紹介したいと思いながら、泣く泣く40項目に絞ること自体に苦労しました。
 そこで、今作では出来るだけ原語の表記をご紹介することにしています。たとえば、「剣」というもの一つをとっても、ドイツ語ではシュヴェアトSchwert、英語ではソードSword、フランス語ではエペÉpée、などと表現も違います。元のつづりがわからなければ、調べることも出来ないのですが、今回は、こういう原語の読みやスペルを出来るだけたくさん、紹介しています。これは何も、外国語かぶれでもなければ、語学の素養があることをひけらかしたいのでもなく、今の読者の皆様なら、もっとつっこんで理解したい、となれば必ずインターネットで検索されると思うのです。だから、ぜひ本書の内容で満足しきるのでなく、読者の皆様も本書を手がかりに、それぞれの興味を持たれた分野、時代の単語を原語でネット検索して、研究を深めていただきたいのです。なぜならこういう専門用語では、日本語で検索しても手掛かりはほとんど得られません。その国の言葉で調べないと、有益な情報も画像も入手できないのです。ドイツの剣について調べたければ、「剣」というキーワードで検索してもダメで、Schwertという原語で検索する必要があるわけです。
 なお、本書では「刀」と「剣」という日本語をかなり漠然と使用しています。というのも、たとえばまっすぐな刀剣はなんとなく「直剣」ではなく、日本語としてこなれた「直刀」と表現したいし、軍用の刀剣も「軍剣」「制式剣」などというのは変で、日本人になじみのある「軍刀」「制式刀」としたいし、というわけです。そもそも、欧米語では日本語のように、片刃だから刀で、両刃だから剣、といった区別がありません。おおむねまっすぐなソードSwordか、湾曲のあるサーベルSabreか、しか問題にしていないのです。日本刀は反りがあるから、この分類でいえばサーベルなのですが、欧米では「サムライ・ソード」で通っております。要するに感覚的なものにすぎないようです。だから、本書でも日本軍のものだけは、軍が規定していた通りの用語をできるだけ用い、片刃=刀、両刃=剣を区別していますが、他国のものについてはあまり気にせず、刀帯、剣帯とか、刀緒、剣緒などと、なんとなく使用していることをお断りしておきます。

 最後になりますが、改めまして「制服学・軍装史学Uniformology」の開祖の一人、リュシアン・ルスロ氏の業績と、日本における歴史復元画の草分け、中西立太先生の御研究に感謝の念を表させていただきます。
 また、帯文に推薦の辞をお寄せいただき、格別の応援を賜りましたファッション・デザイナーのコシノジュンコ様に、厚く御礼申し上げます。
 さらに、日本でただ一人の西洋甲冑師、三浦權利先生からは、特にローマ軍の兜や脛当ての形状について直接、懇切な指導をいただいたほか、中世の甲冑についても実物を見せていただき、ご教示いただきました。心より御礼申し上げる次第です。
 また、私どもの取材にご協力いただいた防衛省陸上幕僚監部の皆様、いつも応援していただいている株式会社タキザワシゲル代表の滝沢滋様、靴に関する資料をご提供いただきましたヒロ・ヤナギマチ・ワークショップの柳町弘之様に別して御礼申し上げます。

2016年7月   辻元よしふみ



2016年7月29日(金)
辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、フルカラー230ページ、予価税込3500円)の印刷が進んでおります。アマゾンなどではすでに予約を開始しておりますが、7月29日午後7時20分現在、書籍全体順位5822位、「軍事」分野で20位、そして「モード」分野においては刊行前に早くも1位を獲得しました! ひとえに応援していただいた皆様のおかげでございます。私どもも、新刊の発売前に1位をいただいたのは初めての経験です。この本は、8月第2週を目途に配本の予定です。


2016年7月29日(金)
辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版より刊行、フルカラー230ページ、予価税込3500円)の印刷会社への入稿が無事に済みました。アマゾンなどではすでに予約を開始しております。8月第2週を目途に配本の予定です。
 本日は、この本の「前書き」から一部をご紹介します。
 ◆  ◆  ◆
 ようやく『軍装・服飾史カラー図鑑』を皆様にご覧いただくことが出来ます。企画から丸3年半かかりました。それでも前の著作『図説 軍服の歴史5000年』(2012年、彩流社)は完成まで4年半もかかったので、少しはスピードアップしたといえるのかもしれません。
 今回は、これまで予算の関係で実現できなかったフルカラー出版、ということにしたので、それだけで大変なことになりました。昔の服の色調や素材の質感を再現するのだから、ひとつひとつ、リサーチが必要になります。「青」とか「赤」とか単純に言っては駄目で、たとえばプロイセン陸軍の軍服の「青色」と、英国海軍の軍服の「青色」は異なりますので、そこを理解して描く必要があるわけです。
 本書は料理でいえば「下ごしらえ」のようなもので、史実に基づいた漫画やイラスト、あるいはファッション・デザインをする方たちのために、時間と手間がかかる下調べをしてさしあげる、というコンセプトで製作しております。よって、今回は特に服や装備品のディテール、とりわけ「後ろ姿」を可能な限り紹介することにしました。これは口で言うほど簡単なことではありません。
 いま、昔の服の遺物がいい状態で現存しているのは、最も古くて18世紀後半のものです。日本で言えば江戸時代の後期あたりですね。それ以前のものは、たとえ存在していても、生地は色あせてボロボロ、刺繍も変色して、元が、金色なのか銀色なのかさえ分からなくなっている、というわけです。もちろんそれより以前の、16世紀だの13世紀だのとなると、昔の肖像画に頼るしかなく、ローマ時代ともなれば、レリーフしかないのです。
ところが、どこの世界に、高いお金を払って画家を雇い、わざわざ自分の背中やお尻を描かせる王様や貴族がいたでしょうか? だから歴史コスチュームの後ろ姿というのは、非常に再現が難しいのです。
 また、おおむね19世紀半ばより前の時代の人物は、腰に剣や刀を帯びています。これも時代により国により様々な様式があり、でたらめなものを描くわけに行かないのですが、おまけに、実は剣そのものより難しいのが、剣を下げるためのベルトや帯のたぐいです。こういうものも意外に記録が残っておらず、当時の絵でも、おそらく画家が面倒くさがったのでしょうね、わざと後ろに隠したり、手で見えなくしたりして、誤魔化していることが多いものです。今回はそのへんも、可能な限り「逃げることなく」徹底再現に挑戦しています。だからこんなに時間がかかるのです。
 そんなわけですから、図解を製作する画家・辻元玲子の負担は非常に大きいものです。絵に起こすための実物調査や細部のリサーチは、玲子自身が行っていることを特筆しておきたいと思います。今作はよしふみがプランを立て、基礎研究をして流れやシナリオを決めた後、ディテール調査と図解製作は玲子が中心に行い、その後、よしふみが解説文を付ける、という順序で作業を進めました。(以下略)



2016年7月28日(木)
 先週ですが、辻元よしふみ、辻元玲子の共著『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版より刊行、フルカラー230ページ、予価税込3500円)の印刷会社への入稿が無事に済みました。アマゾンなどではすでに予約をしているようですね。8月第2週を目途に配本の予定です。
 この本には緑色の帯が付きます。デザイナー、コシノジュンコ先生からいただいた帯文と、内容の説明を掲載しております。こんな感じになります。

2016年7月22日(金)
 「ミリタリー・クラシックス」誌2016夏号(vol.54)の67ページに紹介されましたように、イカロス出版様より8月上旬、『軍装・服飾史カラー図鑑』(辻元よしふみ/著、辻元玲子/イラスト)が刊行される予定で、まもなく入稿作業が完了するところまで来ております。B5判オールカラー、230ページで予価3500円(税込)の予定です。
 ドイツの武装親衛隊や昭5式軍衣の日本軍将校、現代の自衛隊儀仗隊などから、古い時代では古代ローマ軍団の百人隊長や十字軍の騎士、オスマン帝国のイェニチェリ、ポーランドの有翼騎兵、ナポレオン軍の華麗な軍装、フリードリヒ大王から第二次大戦期までの歴代のプロイセン〜ドイツ帝国〜第三帝国の軍服など・・・また、ボー・ブランメルをはじめスーツやフォーマル・ファッションなど一般紳士服の歴史も紹介し、紳士服の歴史の中で、騎士や軍人の服装がどんな位置づけになるかを詳細に解説しております。
 ご要望の多い「後ろ姿」や「剣や刀の帯び方」、「勲章や徽章、階級章」のシステムや由来なども可能な限り図解化。オールカラー手描きイラストで精細に表現しております。
 軍装に興味のある方、歴史的なコスチュームに興味のある方、一般の紳士服とファッションが好きな方、またファッション・デザイナー、漫画家、アニメーター、ゲームクリエイター、歴史的な設定の作品を書かれる作家の方・・・などにもぜひお読みただければ、と思っております。
 さらに詳細が分かりましたら、ご報告します。宜しくお願い申し上げます。

2016年7月16日(土)
 7月8日および12日、そして14日朝のNHK BSプレミアム「美の壺」の「華やぎのボタン」をご覧いただきました皆様、まことにありがとうございました!! 
 今後も、少なくとも3年以内に6回は再放送される予定です。NHK海外放送でも流されるそうです。
 番組中、私こと軍装史・服飾史研究家・辻元よしふみの登場したコーナー以外で、紹介されたお店ですが、最初に出てきたのが銀座のボタン専門店ミタケボタンさん。
http://mitakebuttons.com/cms/
 二件目に登場したボタン専門店は、目黒区にあるアンド・ストライプというお店のようですね。http://and-stripe-online.com/
 また、初めの方に登場した紳士服店は、表参道のボットーネさんというオーダーサロンのようです。http://bottone.jp/

ところで私の登場したパートの撮影は、私の家で行われました。6人のスタッフの方がおいでになり、我が家も室内の大片づけから、期せずして時期外れの大掃除となり、なかなか大変なことになりました。しかし、暗幕や照明の効果で、拙宅のなんでもない室内が、素敵な応接間のように見えたのは不思議です。

 ところで、アマゾンなどで品切れが続いていた前著『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)ですが、すでに3刷が売り出されております。今回は一部のイラストを差し替え、本文も手を加えて、新しい情報も盛り込んでおります。今のところ、長くお待たせしていた読者の方がいらしたのかと存じますが、アマゾンでは在庫に出ても、すぐに売れてしまう状態のようです。しばらくご迷惑をおかけするかもしれませんが、宜しくお願い申し上げます。

 また、刊行準備中の『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)はゲラ校正がほぼ完了し、いよいよ最終的な作業段階に入りました。8月上旬に出せると思っております。古代ローマ軍団から中世の十字軍騎士、オスマン帝国イェニチェリやポーランドの騎士、ルイ14世の時代の三銃士や貴族、ナポレオン戦争のフランス軍や英国軍、さらにフリードリヒ大王からナチス時代までの歴代プロイセン〜ドイツ軍の軍服、明治6年の西郷隆盛の軍装、昭5式の日本軍将校から現代の自衛隊儀仗隊、さらには民間人のスーツや燕尾服、タキシードなどのフォーマルウェアの歴史と軍装のかかわり、今日の紳士服まで盛りだくさん。勲章や装飾、階級章のシステムなどの詳細、さらに後ろ姿まで精密極まりない手描きの水彩画で図解します。乞うご期待!


2016年7月16日(土)
「ウォークラフト」WARCRAFという映画を見ました。日本では公開館が少なく、私も豊洲のユナイテッドシネマまでわざわざ出向きましたが、世界16か国でランキングの首位を奪い、400億円を超える興行収入を得た、ということで海外では大ヒット作品となっています。
 それというのも、この映画の元ネタは、全世界で1億人以上がプレイした、とされるゲーム「ウォークラフト」で、初めから話題性満点なのですが、どうしたわけかこのゲームは日本では全く盛り上がらず、知名度も低いので、温度差も無理もないところです。まあ、日本は世界でも有数のコンテンツ大国で、国産メガヒット・ゲームもいくらでもあり、あえてこの、ロード・オブ・ザ・リングLOTR(指輪物語)に強い影響を受けた世界観の作品に飛びつくような需要もなかったのだと思われます。
 しかしこのウォークラフトの人気が高い理由は、基本的に正義と悪の戦いを描いたLOTRとは異なり(原作は第二次大戦中に書かれているので、やはりナチスとの戦いを主眼に置いていたのだといわれます)、登場するどの勢力も必ずしも善でも悪でもなく、その者たちなりの戦う理由も大義もあるように描かれており、プレイヤーは人間のほか、オークにもエルフにも、ドワーフにもなれる、つまりどの種族でもプレイできるそうで、そういう相対的な世界観が現代的なのだといわれているようです。
 特にこの映画化にあたっては、2006年に最初の構想が持ち上がって以来、何度も練り直され、最終的に、先ごろ亡くなったロックスター、デヴィッド・ボウイの子息であるダンカン・ジョーンズ監督がメガホンをとるまでに、紆余曲折があったこともあり、LOTRの焼き直し的な初期の構想から、むしろ移民問題で悩む現代のテーマに差し替わっているのが大きな特徴ではないでしょうか。
 というのも、本作は荒廃した世界を捨てて、オークたちが人間たちの住む世界に押し寄せてくる、ということから戦争に発展する、という設定になっており、異民族との遭遇と、あくまでも戦うのか、共生の道を探るのか、といった問題が根底にあって、娯楽作品ながら考えさせられる要素が多い作風となっているのです。

 平和の地アゼロスには、勇敢な人間や俗世に交わらないエルフ、技術力に優れたドワーフたちが平和に共存する世界が広がっています。ダラランの天空城塞にあるキリン・トアの高等な魔法使いたちが世界を見守り、地上はストームウィンドの王都にある思慮深きレイン王(ドミニク・クーパー)が、王妃タリア(ルース・ネッガ)と、王妃の兄で騎士団司令官のローサー(トラヴィス・フィメル)、王国を守護するカラザンの塔の魔法使いメディヴ(ベン・フォスター)らに支えられて、長く繁栄を誇ってきました。
 しかしここに、異世界ドラエナーから、アゼロスには本来、存在しないオークの軍団が突然、出現します。オークは本来、武術と名誉を重んじる種族ですが、敵の生命を奪い取って恐ろしい死の魔力を発動する魔法使いのオーク、グルダン(ダニエル・ウー)が権力を握るようになると、ドラエナーは崩壊し死に満ちた世界に堕落してしまいました。グルダンは新たな力を得るためにアゼロスに侵攻しますが、オークの族長の一人デュロタン(トビー・ケベル)はグルダンの方針に疑問を抱いています。
 キリン・トアの落第生という駆け出しの魔法使いカドガー(ベン・シュネッツァー)は、オークが死の魔法を扱うことを知り、ローサーとレイン王に急報。守護者メディヴが召集されます。ローサー率いる偵察隊はオークの先鋒部隊と遭遇。デュロタンらと相まみえ、苦戦しますが、メディヴの魔法によりなんとかオーク軍を撃退します。この戦いで捕虜となったオークの一人、ガローナ(ポーラ・パットン)はなぜかオークと人間のハーフで、通訳として人間に協力するようになります。徐々にガローナとローサーは惹かれあうようになります。
 一方、自らも死の魔法を操るようになったメディヴの言動に不信感を抱いたカドガーは、キリン・トアの城塞に赴き、ことの真相を探り出そうとします。また、グルダンの侵略的な方向性に決定的な違和感を覚えたデュロタンは、人間と同盟を結んでグルダンを倒すことに意を決し、ガローナを介してレイン王との会見に臨むことになりますが・・・。

 というわけで、近年、この種のファンタジーもので大活躍のドミニク・クーパーや、「ミッション・インポッシブル」などで人気上昇中のポーラ・パットンが魅力的です。「猿の惑星」でもモーション・キャプチャーで熱演していたトビー・ケベルが、今回はオークの族長役で奮闘しているのも注目。ローサー役のフィメル、メディヴ役のフォスターもカッコいいですね。その他、超有名人や大物が出ているわけではありませんが、・・・いえ、実はノンクレジットのカメオ出演でグレン・クローズが出演していますが、それ以外には、主に新進気鋭の実力者という俳優さんたちで布陣が固められております。こういうファンタジーの場合、極端に色のついた人は使わない、というのが鉄則なので、新鮮かつ納得のキャスティングです。
 ゲームの原作があるとはいえ、映画として独立した世界観があり、予備知識は一切必要ありません。しかし、だからこそエンディングは「続く」という感じになっておりますので、これで終わられると困るというか、要するに続編を作っていただいて、この映画の世界観としての大団円まで見せてくれないと、欲求不満になりそう。
 まあ、そのへんが狙いなんでしょうし、ヒットしたのできっと続編を作ってくれるでしょう。期待しています。本作も、撮影した後で20か月も映像作りに費やしたといいますので、次作があったとしてもちょっと先になりそうですが、必ず、この後のアゼロスの歴史を見せてほしいと思いました。


2016年7月14日(木)
 7月8日および12日、そして14日朝のNHK BSプレミアム「美の壺」の「華やぎのボタン」をご覧いただきました皆様、まことにありがとうございました!! 
 今後も、少なくとも3年以内に6回は再放送される予定です。NHK海外放送でも流されるそうです。
 番組中、私こと軍装史・服飾史研究家・辻元よしふみの登場したコーナー以外で、紹介されたお店ですが、最初に出てきたのが銀座のボタン専門店ミタケボタンさん。
http://mitakebuttons.com/cms/
 二件目に登場したボタン専門店は、目黒区にあるアンド・ストライプというお店のようですね。http://and-stripe-online.com/
 また、初めの方に登場した紳士服店は、表参道のボットーネさんというオーダーサロンのようです。http://bottone.jp/

ところで、「美の壺」の「華やぎのボタン」で、私は日本のボタン文化の原点となった旧海軍のボタンの歴史を取り上げました。18世紀以来の英国海軍「王冠に錨」のボタンの伝統を引き継いで、最初に「錨に葵の金ボタン」を採用したのは、実は帝国海軍に先立つ徳川幕府の海軍だった、とご紹介いたしました。その後、明治3年に太政官布告で、日本海軍の最初の制服が制定されており、その際の金ボタンはすでに「桜に錨」だったのですが、このときは将校用もすべて、桜の位置が錨の上の方に付く、後の時代の下士官用のようなデザインでした。
 明治6年になって、桜の位置が中央のボタンが将校用となります。さらに明治の末になり、新たに下士官用ボタンが制定されたときに、再び桜の位置が上の方にあるものが採用されました。このまま昭和の戦争の時期まで行くわけで、有名な予科練の「七つボタンは桜に錨」というボタンも昭和17年に制服が制定された際には、下士官用のボタンでした。
 ところが、昭和19年後半になりますと、下士官用のボタンの桜も中央部に移され、桜の位置では階級の識別が出来なくなります。それで、今残っている予科練の制服も、時期によってボタンのデザインが「桜が上の方にあるもの」と「桜が中央にあるもの」の2種類があるわけです。

 ところで、アマゾンなどで品切れが続いていた前著『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)ですが、すでに3刷が売り出されております。今回は一部のイラストを差し替え、本文も手を加えて、新しい情報も盛り込んでおります。今のところ、長くお待たせしていた読者の方がいらしたのかと存じますが、アマゾンでは在庫に出ても、すぐに売れてしまう状態のようです。しばらくご迷惑をおかけするかもしれませんが、宜しくお願い申し上げます。

 また、刊行準備中の『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)はゲラ校正が済み、いよいよ本格的な作業段階に入りました。8月上旬には出せると思っております。乞うご期待!


2016年7月14日(木)
「インデペンデンス・デイ: リサージェンスIndependence Day: Resurgence」を見ました。1996年の大ヒット作品『インデペンデンス・デイ』の続編で、監督も同じくローランド・エメリッヒ。ビル・プルマン、ジャド・ハーシュ、ジェフ・ゴールドブラムら前作の出演陣が多数、集結していますが、前作が出世作となったウィル・スミスは出演していません。

1996年のエイリアン侵略から地球を守り抜き、ホイットモア合衆国大統領(プルマン)の下で高らかに「人類の独立宣言」を唱えた運命の7月4日から20年が経ちました。まさに人類勝利20周年式典が行われようとしている2016年7月。

この世界では、エイリアンの宇宙船の残骸から先進技術の一部を吸収し、それを元にして人類文明は反重力や光線兵器などを手に入れ、国家や人種、宗教的な対立を克服して平和と繁栄を謳歌しています。アメリカでは初の女性大統領ランフォード(セラ・ワード)が就任し、世界各国が協調して再度のエイリアンの侵略に備えるための組織ESD(地球宇宙防衛部)を設立、その部長には20年前の英雄の一人、デイビッド・レヴィンソン(ゴールドブラム)が就任しています。ESDは月をはじめとする太陽系の各惑星に前線基地を設営し、反重力戦闘機や次世代兵器の開発を推し進めています。デイビッドと共に戦ったスティーヴン・ヒラー海兵大佐(前作ではウィル・スミス。今作では写真で顔出し)は数年前に実験機の事故で殉職しています。

 突如、月で謎の出力異常が検知され、月面基地に破滅が迫りますが、ジェイク(リアム・ヘムズワース)とチャーリー(トラヴィス・トープ)の2人の中尉の活躍でなんとか危機を回避。このジェイクは、ホイットモア元大統領の娘で、今は現大統領スタッフを務めている元パイロット、パトリシア・ホイットモア(マイカ・モンロー)と婚約しています。また、スティーヴン・ヒラーの息子で、今はESDの最精鋭部隊であるレガシー航空隊の隊長を務めているディラン・ヒラー大尉(ジェシー・アッシャー)とは、飛行訓練生時代のいきがかりから対立関係にあります。一方、月面にやって来た同飛行隊に属する中国人の女性パイロット、レイン・ラオ大尉(アンジェラベイビー)を見たチャーリーは、彼女に一目惚れしてしまいます。

同じころ、アフリカはコンゴに墜落していたエイリアンの宇宙船が突然、起動したことを受け、デイビッドはエイリアンの研究を続けているキャサリン・マルソー(シャーロット・ゲンズブール)と共にこの船のシステムを調査。ここから宇宙のある地点に向けて謎の信号が発信されたことが分かります。さらに、アメリカにある秘密基地、エリア51に監禁されていたエイリアンの生き残りたちが騒ぎ始めたことから、20年ぶりにエイリアンの本隊が地球に来寇することが予想されました。土星基地からの交信が途絶え、間もなく月の上空に謎の巨大球体が出現。アフリカでの調査から、その球体は侵略者のものとは違うと考えていたデイビッドの意見を退け、ランフォード大統領は宇宙防衛軍総司令官のアダムズ大将(ウィリアム・フィクトナー)に破壊命令を下します。しかし、以前からエイリアンの再侵略を危惧していたホイットモア元大統領も、この時、デイビッドと同じ考えを持っていました。また同じころ、エリア51で20年前にエイリアンと接触して以来、意識を失っていたオーキン博士(ブレント・スパイナー)も、エイリアン再来の予兆を感じて奇跡の覚醒をします。

7月4日のアメリカ独立記念日、ランフォード大統領の演説が行われている中、デイビッドはジェイクと共に月面で破壊された球体の残骸を調査しますが、そこにエイリアン本隊の巨大母艦が出現します。母艦は月面基地を破壊し、さらに地球側の防衛システムも難なく突破して地球に降下、強力な反重力システムで世界中の都市を次々と壊滅させます。母艦は大西洋全体を覆うほどの巨大さで、そのまま海に着水します。地上を支援するべく飛行していたディランは、母親のジャスミン・ヒラー(ヴィヴィカ・フォックス)が犠牲となる瞬間を目撃して、己の無力さに打ちひしがれます。また、母艦の着水時に船で海に出ていたデイビッドの父ジュリアス(ハーシュ)は消息不明になり、デイビッドは父の死を覚悟します。

エリア51に赴いたホイットモアは、捕虜のエイリアンに捨て身の接触を試みます。その結果、エイリアンには彼らを統率する「女王」が存在することが判明。さらに、エイリアンは母艦から放つプラズマドリルで地下深く掘り抜き、地核を破壊することで地球そのものを滅ぼす計画であることが分かってきます。エイリアン女王を倒せば侵攻を止められるかもしれない。20年前と同じ独立記念日の7月4日、ジェイク、ディラン、チャーリー、レインらの攻撃飛行隊が、エイリアン母艦への総攻撃を始めます。しかしそのさなか、エイリアンの意図を察知したホイットモアは娘のパトリシアに叫びます。「これは女王の罠だ!」。壮絶な戦いがこうして始まりましたが・・・。

という感じで、前作から20年の間の映像技術の進歩をまじまじと感じる本作ですが、何しろたくさんの「おなじみの顔」が見られて、まぎれもなくあの世界なんだな、と思わせられます。それだけに、ウィル・スミスがいないのはちょっと残念ですね。なんといってもビル・プルマンとジェフ・ゴールドブラムを見ると、7月4日を思い出します! 

新顔で目を引いたのが、つい最近の作品でやはりエイリアン侵略ものの「フィフス・ウェイヴ」でも注目されたマイカ・モンロー。今回は大統領令嬢にして予備役の士官パイロット、という役どころですがカッコいいですね。中国人パイロット役のアンジェラベイビーも目を引く美貌です。この人は日本の芸能界でも活躍していて、日本語もできる人だそうです。今回の主演級の一人であるリアム・ヘムズワースは、どうしても兄のクリス・ヘムズワースに比べて影が薄かったわけですが、これでぐっと株を上げてくるでしょう。いや、本当に兄さんと雰囲気が似ています。

そして、癖のある悪役が多いウィリアム・フィクトナーが、今回は骨のある生粋の将軍役で好演しています。いつもと違う直球勝負が新鮮に見えました。

ざっと梗概を書くだけでも登場人物は多数にわたり、舞台も月面あり、ワシントンあり、コンゴあり、大西洋上あり、エリア51あり・・・と複雑なのですが、なかなか巧妙な筋書きで渋滞させずにさばきながら、本筋を紡いでいく脚本は見事です。この種のパニック映画は、あちこちでバラバラにいた、普通には集合できそうにない人物たちが、偶然の積み重ねで最後は一つの焦点となる箇所に集まってきて、大きなスケールの話が、しまいにはほんの数人の人物の活躍で結末が左右される、という風にコントロールしないと面白くなりません。今回も、最後の最後にはエリア51の前を走る一台の黄色いスクールバスの周辺で、人類の命運が決する数分間の死闘が繰り広げられます。こういうちょっと強引なストーリー展開がまた、娯楽作品ならではの味とも言えるでしょう。

しかしそんな娯楽作品中の娯楽作品ながら、この映画で繰り返し出てくるのが、異星人の侵攻以来、1996年から2016年までの間、この世界では人種や宗教、国籍、肌の色などを超えて人類がいまだかつてない平和を達成していた、という描かれ方です。おそらくテロも戦争も暴動も、人類共通の敵の出現により消滅したのでしょう。だから地球防衛軍の構成には世界各国が協力し、米中の2大国も信頼しあい、共同で月面基地を設立しています。このへんはもう、近年の実際の世界の荒れぶりと対比しての、エメリッヒ監督のメッセージというより、心からの願望かもしれないと強く感じました。


2016年7月13日(水)
 7月8日および12日のNHK BSプレミアム「美の壺」の「華やぎのボタン」をご覧いただきました皆様、ありがとうございました!! 
 さらに14日木曜日の朝6時半から再放送があります。見逃した方は是非ご覧ください。私、軍装史・服飾史研究家の辻元よしふみが登場したコーナーのほかにも、白蝶貝のボタンの作り方や、歴史的に価値あるボタン博物館の所蔵品など見所いっぱいです。大河ドラマで片岡愛之助さん扮する榎本武揚の懐かしい映像も登場します。

 ところで、アマゾンなどで品切れが続いていた前著『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)ですが、3刷が私の手元にも届きました。今回は一部のイラストを差し替え、本文も手を加えて、新しい情報も盛り込んでおります。今のところ、長くお待たせしていた読者の方がいらしたのかと存じますが、アマゾンでは在庫に出ても、すぐに売れてしまう状態のようです。しばらくご迷惑をおかけするかもしれませんが、宜しくお願い申し上げます。

 また、刊行準備中の『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)はゲラ校正が済み、いよいよ本格的な作業段階に入りました。8月上旬には出せると思っております。乞うご期待!

 ところで、「美の壺」の「華やぎのボタン」で、私は日本のボタン文化の原点となった旧海軍のボタンの歴史を取り上げました。18世紀以来の英国海軍「王冠に錨」のボタンの伝統を引き継いで、最初に「錨に葵の金ボタン」を採用したのは、実は帝国海軍に先立つ徳川幕府の海軍だった、とご紹介いたしました。徳川幕府では軍備の様式化を急速に進め、慶応2年(1866年)末には幕府海軍総裁・稲葉正巳が「海軍服章絵図」を作成させ、これが初の海軍服制となった、と軍艦奉行・木村摂津守の日記にあります。
 翌慶応3年にオランダから帰国した榎本武揚を中心に、新式海軍が形を成してくる中、榎本は「服章絵図」を具体化して、軍服を製作・普及させました。「葵に錨」の金ボタンも実用化されたわけです。図版は柳生悦子先生の『日本海軍軍装図鑑』掲載図です。明治2年(1869年)までの間、榎本たち幕府海軍の人たちは、このボタンが付いた軍服を着用しておりました。
 なお、榎本の軍服の、太線2本の間に細線3本、という袖のラインは、海軍副総裁(海軍大将ランク)の階級を示す階級線です。幕府海軍では軍艦頭(艦長)は細線3本で、後の英海軍の標準(艦長=海軍大佐=ライン4本)とは異なり、オランダ式の表示だったようです。
 さらにまた、桜を使いだしたのも幕府海軍のようで、少なくとも将官ランクの人は、制帽の帽章に桜と錨の紋章を付けた、とされています。この桜も、日本海軍に引き継がれて、明治3年末の日本海軍の制服誕生につながったのです。
 この榎本の幕府海軍時代の軍服は、現在、靖国神社が所蔵しております。



 


2016年7月12日(火)
 7月8日および12日のNHK BSプレミアム「美の壺」の「華やぎのボタン」をご覧いただきました皆様、ありがとうございました!! 
 さらに14日木曜日の朝6時半から再放送があります。見逃した方は是非ご覧ください。私、軍装史・服飾史研究家の辻元よしふみが登場したコーナーのほかにも、白蝶貝のボタンの作り方や、歴史的に価値あるボタン博物館の所蔵品など見所いっぱいです。

 ところで、アマゾンなどで品切れが続いていた「図説 軍服の歴史5000年」ですが、3刷が私の手元にも届きました。今回は一部のイラストを差し替え、本文も手を加えて、新しい情報も盛り込んでおります。宜しくお願い申し上げます。

 もう一つ、愛知、岐阜、三重にお住まいの皆様へ。きたる13日水曜日朝の名古屋テレビ「ドデスカ!」の「全力リサーチ」コーナーに、私が電話出演する予定です(内容変更などはご容赦くださいませ)。

 ところで、英海軍のボタンが日本海軍の「櫻に錨」のボタンのモデルになった、と番組中で紹介いたしました。番組ではほんのさわりだけ取り上げていただきましたが、より詳細に申しますと、最初に錨の紋章を使用したのはなんと1402年、スコットランド海軍だったといいます。1703年にスコットランド海軍はイングランド海軍と合併し、今の英海軍となります。
 英海軍が1748年に最初の軍服を制定した際に作ったのが、「バラの紋章」の金ボタンでした。さらに1774年になると、錨の紋章に変わります。1805年にネルソン提督がトラファルガー海戦で着ていた軍服のボタンも「錨だけ」のものでした。
 そして、ナポレオン戦争後期の1812年になると、「錨に王冠」のデザインとなります。これが今に至る英国海軍のボタンであります。





 


2016年7月11日(月)
 7月8日のNHK BSプレミアム「美の壺」の「華やぎのボタン」をご覧いただきました皆様、ありがとうございました!! 
 番組の冒頭で、私のコーナー「第二の壺」の前に登場された東京・銀座の「ミタケボタン」さんを訪ねてみました。
 もうお店の壁面すべてがボタンというものすごさ。聞くと、私の知り合いの百貨店や紳士服テーラーの方々もこちらでボタンを調達したことがある、と仰います。
 プロショップであるとともに、一般の方にも小売りするという意味で、本当に貴重なお店でして、私もちらちら拝見すると、明らかにいろいろな時代のアンティークボタンもあり、外国海軍関係のものも見受けました。
 オーナーの「ボタンニスト」小堀孝司様と記念撮影させていただきました。ありがとうございました。

 「美の壺」の「華やぎのボタン」は、12日火曜日の午前11時と、14日木曜日の朝6時半から再放送があります。見逃した方は是非ご覧ください。ほかにも、白蝶貝のボタンの作り方や、歴史的に価値あるボタン博物館の所蔵品など見所いっぱいです。

 ところで、アマゾンなどで品切れが続いていた「図説 軍服の歴史5000年」ですが、3刷が私の手元にも届きました。今回は一部のイラストを差し替え、本文も手を加えて、新しい情報も盛り込んでおります。宜しくお願い申し上げます。

 もう一つ、愛知、岐阜、三重にお住まいの皆様へ。きたる13日水曜日朝の名古屋テレビ「ドデスカ!」の「全力リサーチ」コーナーに、私が電話出演する予定です(内容変更などはご容赦くださいませ)。






 


2016年7月09日(土)
 NHK BSプレミアム「美の壺」の「華やぎのボタン」をご覧いただきました皆様、ありがとうございました!! すでにいくつか反響を戴きましたが、私が実際に話をしているインタビューのシーンはごく短い物でしたが、海軍のボタン関係の情報提供はほとんどすべて私がしております。実際には1時間半も収録したのです!!! なお、撮影に使った場所は我が家です。それから、大河ドラマで愛之助さん扮する榎本武揚の映像も、私が見つけ出してNHKさんに誓いませんかと提案した次第です!!!
 なお、私が着ていた服は、ちょっとその徳川幕府の海軍副総裁、榎本の軍服のような感じでしたが、実際には新宿丸井に入っているブランド「エクサントリーク」で売っていた19世紀風のフロックコートです。また、スタンドカラーのシャツと、あまり見えませんでしたが上着の下に着ていたベストは、タキザワシゲルのオーダー品です。ご参考までに記しておきます。
 まだ12日火曜日の午前11時と、14日木曜日の朝6時半から再放送があります。見逃した方は是非ご覧ください。私の登場シーン以外にも、白蝶貝のボタンの作り方や、歴史的に価値あるボタン博物館の所蔵品など見所いっぱいです。
 再放送の終了後には、撮影風景などもご紹介したいと思います。

 ところで、アマゾンなどで品切れが続いていた「図説 軍服の歴史5000年」ですが、3刷が私の手元にも届きました。今回は一部のイラストを差し替え、本文も手を加えて、新しい情報も盛り込んでおります。宜しくお願い申し上げます。

 もう一つ、愛知、岐阜、三重にお住まいの皆様へ。きたる13日水曜日朝の名古屋テレビ「ドデスカ!」の「全力リサーチ」コーナーに、私が電話出演する予定です(内容変更などはご容赦くださいませ)。






2016年7月08日(金)
「いよいよ本日放映!」辻元よしふみはNHK・BSプレミアムの番組「美の壺」に登場します。きょう7月8日午後7時30分〜 午後8時00分 美の壺「華やぎのボタン」です。

 わたくしは、この番組中で英国海軍、徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。ぜひご覧になってみてくださいませ。ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。
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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「華やぎのボタン」。
      【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が2016年8月上旬に刊行の予定です。

 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も3刷の印刷がすでに完了し、店頭やアマゾンの在庫に流通します。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年7月07日(木)
「あす放映!」辻元よしふみはNHK・BSプレミアムの番組「美の壺」に登場します。あす金曜日、7月8日午後7時30分〜 午後8時00分 美の壺「華やぎのボタン」です。

 わたくしは、この番組中で英国海軍、徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。ぜひご覧になってみてくださいませ。ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。
 ところで、日本でボタンの普及の契機となったのが明治3年(1870)の日本海軍の金ボタン制定です。明治海軍の軍服に大きな影響を与えたのは英国海軍の制服。そちらは1748年に海軍卿アンソン提督によって最初のモデルが制定されていますが、最初のボタンの図柄は「バラの花」でした。写真は英国の海事博物館所蔵のものです。
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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「華やぎのボタン」。
      【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が2016年8月上旬に刊行の予定です。

 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も3刷の印刷が完了し、これから店頭やアマゾンの在庫に流通します。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年7月06日(水)
「放送2日前!」辻元よしふみはNHK・BSプレミアムの番組「美の壺」に登場します。今週金曜日、7月8日午後7時30分〜 午後8時00分 美の壺「華やぎのボタン」です。

 わたくしは、この番組中で英国海軍、徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。ぜひご覧になってみてくださいませ。ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。
 ところで、日本でボタンの普及の契機となったのが明治3年(1870)の日本海軍の金ボタン制定です。明治海軍の軍服に大きな影響を与えたのは英国海軍の制服。そちらは1748年に海軍卿アンソン提督によって最初のモデルが制定されています。写真は英国の海事博物館所蔵のものですが、デザインは古風ながら、すでに青い生地にたくさんの金ボタンを並べておりますね。
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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「華やぎのボタン」。
      【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が2016年8月上旬に刊行の予定です。

 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も3刷の印刷が完了し、これから店頭やアマゾンの在庫に流通します。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年7月05日(火)
「今日もこりずにお知らせ」辻元よしふみはNHK・BSプレミアムの番組「美の壺」に登場します。今週金曜日、7月8日午後7時30分〜 午後8時00分 美の壺「華やぎのボタン」です。

 わたくしは、この番組中で英国海軍、徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。ぜひご覧になってみてくださいませ。ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。
 ところで、日本でボタンの普及の契機となったのが明治3年(1870)の日本海軍の金ボタン制定です。そのときの海軍の制服というのが、後の時代の、普通に海軍の軍服というとイメージする物とはかなり異なっていて、立ち襟で裾が長いフロックコート、というかなり古風なもの。明治6年にはこの初代制服は改正されてしまうので、たった3年間しか着られなかった幻の軍服なんですね。

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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「華やぎのボタン」。
      【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が2016年8月上旬に刊行の予定です。

 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も7月上旬、まもなく3刷が店頭に並びます。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年7月04日(月)
「今日もお知らせ」辻元よしふみはNHK・BSプレミアムの番組「美の壺」に登場します。

今週金曜日、7月8日午後7時30分〜 午後8時00分 美の壺「華やぎのボタン」

 暮らしの中に美を見つけ鑑賞する新感覚美術番組。今回は「ボタン」。真珠の養殖に使う「白ちょう貝」が、夏服にピッタリの極上ボタンに変身。欧州貴族の豪華ヴィンテージボタンも続々登場!魅惑のボタンの世界を紹介。【出演】草刈正雄,【語り】木村多江 

 わたくしは、この番組中で英国海軍、徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。ぜひご覧になってみてくださいませ。ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。
 ところで、日本でボタンの普及の契機となったのが明治3年(1870)の日本海軍の金ボタン制定です。そのときのボタンとはどんなものだったかというと、すでに「桜に錨」です。しかし・・・ちょっと桜の位置が、かなり上の方にあったんですね。これ、後年では「下士官用」とされた3号ボタンに似ております。明治6年にはこのボタンは改正されて、桜の位置が下に下りてきます。ボタン一つとっても、いろいろ歴史があるんですね。

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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「華やぎのボタン」

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が2016年8月上旬に刊行の予定です。

 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も7月上旬、まもなく3刷が店頭に並びます。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年7月03日(日)
「お知らせ」辻元よしふみはNHK・BSプレミアムの番組「美の壺」に登場します。

7月8日(金)午後7時30分〜 午後8時00分 美の壺「華やぎのボタン」

 暮らしの中に美を見つけ鑑賞する新感覚美術番組。今回は「ボタン」。真珠の養殖に使う「白ちょう貝」が、夏服にピッタリの極上ボタンに変身。七色の輝きの裏に、驚きの職人技が!欧州貴族の豪華ヴィンテージボタンも続々登場!魅惑のボタンの世界を紹介。
【出演】草刈正雄,【語り】木村多江 

 わたくしは、この番組中で英国海軍、徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。ぜひご覧になってみてくださいませ。ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。
 ところで、日本海軍のボタンと言えば「桜に錨」で有名です。特に「七つボタンは桜に錨」という歌詞で知られた旧海軍の予科飛行練習生。いわゆる「予科練」ですね。15歳ぐらいの少年を集めて、パイロット教育をしたわけですが、終戦間際にはほとんど特攻隊員の養成機関のようになってしまった悲劇でも記憶されています。
 実はこの「七つボタンの制服」、今でも自衛隊の航空学生の制服のモデルとして受け継がれているんですね。女性の学生さんも着ています。なにか「男装の麗人」という感がしますが、これは男装ではなくて正式な服装です。


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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「華やぎのボタン」

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が
2016年8月上旬に刊行の予定です。

 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も7月中に3刷となります。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年7月02日(土)
 「お知らせ」このたび、私が出演するNHK・BSプレミアムの番組「美の壺」の放送タイトルが決定いたしました!
 http://www4.nhk.or.jp/tsubo/x/2016-07-08/10/4516/2418193/

7月8日(金)午後7時30分〜 午後8時00分
美の壺「華やぎのボタン」

暮らしの中に美を見つけ鑑賞する新感覚美術番組。今回は「ボタン」。真珠の養殖に使う「白ちょう貝」が、夏服にピッタリの極上ボタンに変身。七色の輝きの裏に、驚きの職人技が!ルビーやトルコ石、宝石をちりばめた豪華ボタンや、色ガラス500ピースを精緻にはめ込んだ鮮やかなボタンなど、欧州貴族の豪華ヴィンテージボタンも続々登場!日常を非日常に変えてくれる、最新デザインのボタンとは…。魅惑のボタンの世界を紹介。
【出演】草刈正雄,【語り】木村多江 字幕放送字幕放送

わたくしは、この番組中で英国海軍、徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。ぜひご覧になってみてくださいませ。ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。

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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「ボタン」

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が
2016年7月半ばに刊行の予定です。

 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も7月中に3刷となります。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年6月26日(日)
お知らせ:7月8日19時30分に辻元よしふみがNHK番組「美の壺」出演(NHKBSプレミアム)と、7月にも新刊『軍装・服飾史カラー図鑑』(イカロス出版、フルカラー230頁以上、予価3500円)が出る、さらに7月初めに前著『図説 軍服の歴史5000年』3刷が出るのに合わせ、辻元よしふみ・辻元玲子の公式サイト http://www.tujimoto.jp/ をリニューアルしました。
 「美の壺」では、明治3年の日本海軍の制服制定が、「ボタンの日」の由来になっていることにからんで、英海軍、幕府海軍、日本海軍の金ボタンを取り上げ、有名な予科練の「七つボタンの制服」なども紹介します。
 『軍装・服飾史カラー図鑑』は、古代ローマから現代の自衛隊(儀仗服)までさまざまな戦士や軍人の服装を後ろ姿や勲章、軍刀まで詳細に解説するほか、同時代の一般の紳士服とのかかわりや影響まで考察して、ミリタリーとファッションの両面で服飾史を概観します。

2016年6月24日(金)
 辻元よしふみ(佳史)でございます。

 さてこのたび、私は下のようなNHK・BSプレミアムの番組に出演します。

 明治3年11月22日に、日本海軍は制服を制定し、金ボタンを定めました。これを記念
して毎年11月に「ボタンの日」がございます。わたくしは、この番組中で英国海軍、
徳川幕府海軍から日本海軍に至った金ボタンの歴史を語っております。

 ぜひご覧になってみてくださいませ。
 ご多忙と存じますが宜しくお願い申し上げます。

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 ※NHK 美術番組「美の壺」 タイトル「ボタン」

 放送日 NHK BSプレミアム 2016年7月8日(金)19:30〜19:59
 再放送                7月12日(火)11:00〜11:29
 再放送                7月14日(木)06:30〜06:59

備考:これ以後、3年以内に少なくとも6回は再放送する予定です。

 宜しくお願い申し上げます。

 ※追記:辻元よしふみ、玲子の新刊『軍装、服飾史カラー図鑑』(イカロス出版)が
2016年7月半ばに刊行の予定です。
 ※前作『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)も7月中に3刷となります。
 併せて宜しくお願い申し上げます。


2016年6月21日(火)
 速報です! 本日、発売になりました「MC☆あくしず vol.41」(イカロス出版)の111ページ「萌え軍@インフォメーションズ」欄に掲載されましたように、辻元よしふみ、辻元玲子の新刊書籍『軍装・服飾史図鑑』(オールカラー、税込予価3500円)がまもなく刊行されることになりました! 現在、編集作業が進行中です。古くはローマ帝国の百人隊長や十字軍の騎士から、ポーランドの騎士やオスマン帝国の兵士、ルイ13世やルイ14世の時代の華麗な軍服、ナポレオン軍の軍服、それにプロイセン〜ドイツ帝国の歴代の軍服、第二次大戦時のドイツ親衛隊や戦車兵、昭5式軍衣の日本軍将校、さらに現在の陸上自衛隊302警務中隊の儀仗服まで、さまざまな軍人や戦士の軍装を紹介。ご要望の多い後ろ姿や、勲章、装飾、肩章、徽章などのディテールと、当時の階級システムなどの詳細解説、軍刀やサーベルの吊り下げ方などまで、徹底的に精緻なイラストと文章で示します。
 イラストは辻元玲子の手描き水彩画による、全点フルカラーです。さらに詳細が固まりましたら、続報を書きます。宜しくお願い申し上げます。


2016年6月19日(日)
 昨日から今日にかけて、千葉県浦安市では4年に1度の「三社祭」が開かれています。市内にある三つの神社の御神輿が市街地を練り歩きます。その数、80基とも90基ともいいます。今年は好天に恵まれて盛り上がっていますね。

2016年6月17日(金)
 公開から時間がたってしまいましたが、「スノーホワイト―氷の王国」という映画を見ました。原題は全然、邦題と異なりまして、THE HUNTSMAN WINTER’S WARといいますが、直訳すれば「猟師 冬戦争」といった感じ。あくまでも中心人物は「猟師」だったりします。この映画の前作にあたる「スノーホワイト」(2012年)も原題はSnow White & the Huntsmanつまり「白雪姫と猟師」でした。要するに、日本ではスノーホワイト(白雪姫)シリーズとして認知されていますが、基本的にはハンツマン(猟師)シリーズなわけです。
 実のところ、本作ではスノーホワイト(クリステン・スチュワート)は、前作の映像を使った回想シーン以外では登場しません。セリフの端々に上っているので、健在であることは間違いないのですが、今回の冬戦争にはあまり関与していない、という扱いです。
 ということで、ハンツマン・シリーズである、ということは、これは猟師エリック役のクリス・ヘムズワースのシリーズ、という理解でよいのか、ということになります。何しろマイティ・ソーのヘムズワースです。彼がヒーローであることは間違いない。
 しかし、どう見てもこのシリーズはシャーリーズ・セロン演じる悪の女王ラヴェンナの物語ではないでしょうか。本当のところ、前作は「ラヴェンナと白雪姫」であったし、今作は、あえていえば「ラヴェンナと雪の女王」のような気がします。

 スノーホワイトが邪悪な継母ラヴェンナを打倒した戦いしばらくたった頃。相変わらず独りで隠遁の生活を送る猟師エリックのもとに、スノーホワイトの恋人ウィリアム王(サム・クラフリン)がやってきます。ラヴェンナが残した魔法の鏡のせいでスノーホワイト女王は精神を病み、鏡を聖地に移送することにした、というのですが、その移送の軍隊が戻ってこないというのです。
 エリックは、ウィリアムが連れてきたドワーフのニオン(ニック・フロスト)とグリフ(ロブ・ブライドン)を伴い、鏡の行方を追います。スノーホワイトの軍が全滅し、鏡が奪われたことを悟った一行は、宿屋で刺客に襲われ絶体絶命のピンチに。しかしそこに現れた謎の女戦士サラ(ジェシカ・チャステイン)に救われます。彼女を見てエリックは驚愕します。それというのも、サラはかつて愛し合った仲であり、すでに7年も前に死んだと思っていたからです。
 話はかなり以前に遡ります。スノーホワイトの王国にやってくる前のラヴェンナは、すでに持ち前の魔力を使って多くの国を滅ぼし、玉座を乗っ取って暴虐の限りを尽くす悪の女王でした。その妹のフレイヤ(エミリー・ブラント)は心優しい女性でしたが、あることを契機に魔力に目覚め、冷酷な氷の女王に変貌してしまいます。北の国に自分の帝国を築いたフレイヤは、近隣の村から子供を連れ去って自分の親衛隊ハンツマンとして育成しました。その中に、幼いエリックとサラの姿もあったのです。
 フレイヤの軍では恋愛はご法度でしたが、2人は愛し合い、逃亡を決断します。しかしフレイヤに知られ、残酷な仕打ちを受けて引き裂かれてしまいます。
 その際に、もう死んだと思っていたサラが現れたことが、エリックを驚かせたのでしたが・・・。

 というような展開です。なんというか、雪の女王とロード・オブ・ザ・リングを足して2で割って白雪姫とくっつけた感じのお話、といえばいえるのですが、まあそういう展開的な部分はそんなに重要ではないでしょう。本作の魅力は何しろ豪華な出演陣、特に3人の女優の熱演ぶりです。アカデミー賞女優のセロンはとにかく美しい。もう本当に魔女ではないかというほどの妖しい美貌。これを見るだけで一見の値打ちありです。そしてとことん邪悪です。気持ちがいいほどの悪人。ここまで悪いキャラも珍しいぐらいですが、映画史に残る悪の女王になったと思います。
 そして、もともとは優しい女性だったのに、姉の影響もあって残酷な氷の女王になってしまったという、ちょっと可哀そうな要素もある役をエミリー・ブラントが好演。こちらも美しいですね。「ヴィクトリア女王 世紀の愛」や「プラダを着た悪魔」で有名になり、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」ではアクションにも進出したブラント。ますます芸の幅が広がりそうです。
 ここに、さらに近年では最も活躍している女優の一人、ジェシカ・チャステインが最強の女性戦士として花を添えています。こういう娯楽作品のアクション・スターを演じるのは彼女にとって珍しいと思いますが、これが実にカッコいいです。
 撮影現場では、パワフルな美女3人に圧倒されて、ヘムズワースはいじめられっぱなしだった、とか。まあそりゃそうでしょう。とにかく強い女性たちと、ちょっと間抜けだが最後には頼れるナイスガイ、という構図は、いかにも今時の設定ですが、見ていて安心できます。
 今作の設定で、どうしてエリックが前作の初登場時に、飲んだくれてダメな人になっていたのか、という謎も明かされることになります。
 細かいところを見れば、いろいろあるのでしょうが、とにかく前回のような陰惨さより、ドワーフ2人組の狂言回しも加わって、今作はかなり明るく痛快な娯楽作品になっていると思いますし、素敵なラブストーリーにもなっています。ぜひ大画面で、最強の美人姉妹と女戦士の活躍を見ていただきたい一作でございました。


2016年6月11日(土)
 マーベル・コミック・シリーズの新作映画「デッドプール」を見ました。主に「アベンジャーズ」シリーズの世界観と、「X-MEN」シリーズの世界観の二本立てで展開している現在のマーベル関連の映画化ですが、デッドプールはX-MEN人脈のキャラクターです。すでに「ウルヴァリンZERO」でライアン・レイノルズ演じるウェイド・ウィルソン(後のデッドプール)が登場していました。しかし、あくまでウルヴァリンの引き立て役であり、この作品の冒頭で「ウルヴァリンにとにかくゴマをすってスピンオフを作ってもらおうと運動した」とありますように、実際にいろいろ紆余曲折を経て、本作の映画化が実現した、という次第です。
 何しろデッドプールというのは、ミュータント・ヒーローの世界でも決して保守本流を歩んでいるキャラクターではなく、かなり型破りな人物です。一匹狼的なアウトローという意味ではウルヴァリンも幾分、そうなのでしょうが、デッドプールは正真正銘のアンチヒーロー的な存在で、しかもコメディー・ヒーローです。優等生的な要素はかけらもない、常に減らず口をたたいて暴れまくるとんでもない男です。さらにこのキャラは、原作コミックでも「第四の壁を破る能力」を持つ特殊キャラとして描かれています。つまり、物語の進行を無視して、突然、読者に語りかけるという、つまりその世界から超越しているというか、相対化しているというか、作品の中の役柄を演じながら自己批評しているメタ的なキャラなのです。よって本作でも、デッドプールはしばしば周囲の人間を無視し、物語の展開から逸脱して、観客に向かって説明を始めてしまいます。
 この特異な世界観を、どのように生かして描くか。デッドプールの映画化はその点が初めから注目されていたようですが、本作は見事にうまくいっているようですね。

 かつて軍の特殊部隊のエリート兵士だったウェイド・ウィルソン(レイノルズ)ですが、今はその日暮らしの何でも屋稼業で、旧友ウィーゼル(T.J.ミラー)の経営する酒場を拠点にして、ちょっとしたトラブルの解決から、しばしば傭兵として危ない仕事まで請け負っています。ある日、街で出会った高級娼婦のヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)に本気で恋をしたウェイドは、ついに結婚の約束までしますが、幸せな日々は長くは続きません。突然、倒れたウェイドは医師から末期がんであることを告げられます。
 死を覚悟して絶望するウェイドですが、ウィーゼルの店を訪れたあやしげなエージェントから「がんを治す特効薬があり、うまくいけば不死身の肉体になれるが、その実験台にならないか」と持ちかけられます。迷った末に実験台なることを決めたウェイド。しかし、実験の責任者エイジャックス(エド・スクライン)は、自らも超人になる血清を肉体に投与してミュータント化した恐るべきサディストであり、瀕死の人々を集めては超人化実験をし、うまくいった者は売り飛ばす、といった非道な行為を繰り返す悪人でした。
 ウェイドも血清を投与された後、エイジャックスと、その手下の怪力の女性エンジェル(ジーナ・カラーノ)からなぶりものにされ、拷問のような虐待を受け続けます。そしてついに彼の肉体の中で超人因子が発動し、肉体が変化しますが、二目と見られないような恐ろしい顔に変貌してしまいます。
 怒りを爆発させたウェイドはエイジャックスの施設を破壊し、逃げ出しますが、恐ろしい化け物となってしまった姿でヴァネッサの前に現れる勇気が出ません。まずはエイジャックスを探し出し、復讐するとともに、顔を元に戻させなければ。ウェイドは自ら作った赤いコスチュームに身を包み、ウィーゼルの店で流行っていた死を賭けた賭博にあやかって、デッドプールと名乗り殺戮と破壊を開始します。しかしそんな彼の非凡な能力に目を付けたX-MENメンバーのコロッサスと、その教え子のネガソニック(ブリアナ・ヒルデブランド)が介入してきて、デッドプールをX-MENに勧誘してきます・・・。

 ということで、本作で主人公本人が何度も強調するように、「これはラブストーリー」です。実際のところハチャメチャなキャラによるギャグや、かなり陰惨な殺戮シーン、それに拷問シーンなどが延々とあって、中盤は決して明るいコメディーではなく、それにもかかわらず全編のトーンは純愛ものと言ってよい。何しろ、最後の決めはWHAM!の名曲「ケアレス・ウィスパー」だったりします。それがまたぴったりのムードの映画です。
 今まで、スカーレット・ヨハンソンの元夫、というイメージばかり強く、知名度の割に今一つ代表作のなかったライアン・レイノルズにとって、デッドプールは、はまり役にして当たり役となったようです。レイノルズ自身も、デッドプールの人格は非常に自分の地のままに近いと言っているようです。
 ヒロインのモリーナ・バッカリンはブラジル出身。これまでテレビ中心で活躍していた人のようですが、すごい美人! ハリウッドには、こんな人がまだ埋もれていたんだな、と驚かされます。これは本作で一躍、注目されるでしょう。
 「トランスポーター」シリーズで主演するエド・スクラインと、本物の武闘家で女優でもあるジーナ・カラーノの2人の悪役コンビが魅力的です。
 おふざけやパロディー満載の本作ですが、先ほども申したように中盤はかなり陰惨です。しかしここを乗り越えないと、最後が利いてこない。最後はとてもいいお話だった、と素直に見られる久々の快作です。
 ところで。デッドプールは背中に2本の日本刀のような刀を装備していますが、原作コミックではなんと、日本で修業したことになっているとか。しかもなぜか「相撲部屋」で修業したのだそうです。どうもそのへんは日本人から見ると違和感がありますが、彼が日本的な武器を操るのも、そういう背景があるからだと言います。
 さらに、デッドプールの戦闘中だろうが、シリアスな場面だろうが構わず放言を繰り出し続けるあのキャラ設定には、先日、亡くなったばかりの偉大なボクサー、モハメド・アリ氏が参考にされているのだとか。アリ氏もファイト中、ずっといろいろ相手を挑発するような放言を続けることで有名でした。もちろん口だけでなく、実力も伴っていたので人気があったわけですが、デッドプールもアリ氏の「有言実行」スタイルを引き継いでいるわけです。
 それにしても、私ぐらいの世代だと、久々にWHAM!を聞いてみたくなるような作品でした。なにがなし古き良き時代と、殺伐とした今とがクロスオーバーするような感覚を味わえる作品でした。


2016年5月29日(日)
 今日は、本当に久しぶりに東京・大手町のパレスホテルに行ってみました。数年前に新装なって見違えるほど最新鋭のホテルとなりましたが、新しい建物になってからは初めて行きました。実は、今から20年ほど前に、私たち夫婦が初デートしたのが、このパレスホテルの地下にあったアイビークラブというお店でした。1年ほどの交際で、来年には結婚20周年になります。
 それにしても、かつては当時的にもクラシックな建物でしたが、現在は本当にすごいホテルになりましたね。

2016年5月28日(土)
 映画「マクベス」MACBETHを見ました。マクベスって、あのマクベス? と思う方が多いでしょうが、まさにあの、シェークスピア作のマクベスです。なんで今、マクベスなんだろうと感じる方もまた、多いでしょうが、今年はシェークスピアの没後400年なんですね。そして原作のマクベスが書かれたのが410年前の1606年なんだとか。それを記念しての映画化製作ということでした。
 そんな4世紀も前に書かれた戯曲なのに、どうしてここまで普遍性がある作品なんだろう。本当に不思議です。シェークスピアには何か人知を超えた洞察力があったとしか思えないほどです。しかも、作品の舞台といえばさらに昔の11世紀、日本でいえば平安時代末の史実に基づいたお話です。しかしここで描かれるのは昔話ではなく、人間というものの心理の不思議さ、愚かしさ、脆さです。人生の先が見えないこと、行く末が分からないことが恐ろしいのは、あらゆる人間の本能的な恐怖でしょう。得体のしれない魔女の予言に突き動かされて、己の中の欲望に目覚め、悪事に手を染め、不安に押しつぶされて疑心暗鬼に陥り、ついには身を滅ぼしていくマクベス夫妻の物語は、21世紀になっても、おそらくこれから後の時代にも、目を背けたくなるほどの圧倒的な迫真力を持ち続けることでしょう。
 私は初めてこの戯曲を読んだとき、小学生だったのですが、マクベス、マルカム、マクダフと登場人物の名前が似通っていて、なんだか分からなくなった覚えがあります。しかし、これらの人物は中世のスコットランド王国で実在の人物名なので、仕方ありません。高校生時代に、当時、人気のあった文芸評論家・柄谷行人さんの評論『意味という病』を読んで、改めてマクベスの魅力に目覚めました。マクベスは自分で予言を成就させてしまうのだ、予言という、本来は空虚な言葉に自分で意味付けをしていくことで、予言が当たるのではなく、自ら予言を実現してしまうのだ、という見方に震撼した記憶があります。

 11世紀初めのスコットランド。ダンカン王(デヴィッド・シューリス)は外国の勢力と手を結んだ謀反人の攻勢に遭い危機に陥っていましたが、これを激戦の末に撃退したのが忠臣マクベス(マイケル・ファスベンダー)とバンクォー(バディ・コンシダイン)でした。2人は荒野で不思議な予言をする魔女たちと出会います。魔女はマクベスには「コーダーの領主」「王になるお方」と、そしてバンクォーには「子孫が王になられるお方」と呼びかけるのです。その直後、ダンカン王の使者が現れ、マクベスにコーダーの領主の地位を与える、と告げます。予言が当たった! ということは、次は自分が国王に・・・。それまで考えたこともなかった、自分の中の大それた欲望と野心が噴き出すのを抑えられなくなるマクベス。
 そんな折も折、ダンカン王はマクベスの領地を訪問することになります。マクベス夫人(マリオン・コティヤール)は夫以上に、自らが王妃となる野心を抑えられず、謀反をけしかけ、怯むマクベスに王の暗殺を唆します。
 ついにマクベスは王の寝所で、ダンカン王を刺殺し、その罪を現場から逃亡したマルカム王子(ジャック・レイナー)に着せます。王位継承者だったマルカム王子がイングランドに去った今、王家の血縁者であるマクベスは国王に指名され、戴冠します。
 しかし。国王になるという予言が当たった以上、次の予言もまた成就するに違いない。つまりマクベス夫妻の世継ぎが王位に就くことはなく、やがてバンクォーの子フリーアンスが王となるに違いない。マクベスはバンクォー父子も暗殺しようとし、バンクォーの闇討ちには成功しますが、フリーアンスは取り逃がしてしまいます。未来への疑心暗鬼に錯乱するマクベスと、その狼狽ぶりに動揺する王妃。不穏なものを感じた重臣マクダフ(ショーン・ハリス)はマクベス王に離反してイングランドにいるマルカム王子の下に身を寄せ、これに怒ったマクベスはマクダフの居城を奇襲。夫人(エリザベス・デビッキ)とその幼い子供たちを捕えます。こうして、さらなる悲劇へと物語は動いていきます・・・。

 配役は、ほとんどの出演者が英国出身である中で、主演の2人がドイツ人のファスベンダーと、フランス人のコティヤールというのが興味深いです。これがまた、英国勢で固めたシェークスピア劇という布陣であるよりも、テーマの普遍性を高めているように思われます。すでにこの2人の演技とチャレンジ精神は各所で絶賛されているようですが、当然と思われます。ことに、普通はかなりの悪女のように描かれるマクベス夫人ですが、コティヤールが演じることで単なる勧善懲悪的な安易なニュアンスではなくなる、という気がしました。
 元の戯曲は意外に短く(シェークスピアの戯曲の中でも最も短い方で、一説によれば、今に伝わっているものは、宮廷で演出するためのダイジェスト版であるかもしれない、といわれています)戦闘シーンのような派手な見せ場も少ないのですが、そのへんは映画らしく、凄惨な戦場のシーンを描きだし、なぜにマクベスがあのような心理状態であったのかを巧みに描き出すことに成功しています。一方で、本作でのセリフ回しは原作のままで、シェークスピアの書いた通りのセリフを使用しているようです。
 また、この映画では、通常は醜い老婆として描かれることが多い運命の魔女たちも、子供まで含めた編成で、割と若く、謎めいてはいるが綺麗な魔女たちになっております。これもかえって、マクベスの幻想なのか、現実なのかよく分からない「魔女の予言」というものを視覚化するうえで、効果的なのではないでしょうか。

 ところで、史実でのマクベス王は1005年生まれだそうです。この年、日本ではあの陰陽師・安倍晴明(あべ の せいめい)が亡くなっています。そして35歳の時に、従兄にあたるダンカン1世を殺害して王位を奪い、52歳で戦死しているようです。つまり、マクベス王は17年間も玉座にあったわけで、実はこの戯曲に描かれたような短命政権ではありません。その後、短期間、彼の養子が王位に就いた後に、ダンカン王の息子のマルカム3世が即位します。このあたり、戯曲は史実通りということになります。ちなみに、マルカム3世の時代に、イングランドではノルマン・コンクェストということが起こり、フランスから侵攻してきたウィリアム
1世がイングランド王位に就きます。ウィリアム王はマルカムとも戦い、これを破っています。
 戯曲の中でも主要人物であるマクダフとバンクォーについてですが、彼らは歴史学的に実在が確定している人物ではない、とされます。しかし17世紀の当時、出版されていた英国史の本には登場している名前で、シェークスピアは当時の通説に従って、このお話を創作したようです。バンクォーという人物は、11世紀当時の王家よりも古い時代の王家の流れを汲む人物とされ、彼の息子、フリーアンスについては、この人自身も父親が殺されてから数年後には、死んでいるとされています。つまり、戯曲でマクベスが懸念したような事態、フリーアンスが王になることはありませんでした。しかし、そのまた子孫が生き残ってスチュワート家を創始し、14世紀にスコットランド王家となってスチュワート朝を開いた、と伝承されているそうです。
 それで、シェークスピアがマクベスを書いた当時は、このスチュワート家の子孫であるスコットランド王ジェームズ6世が、チューダー家のイングランド女王エリザベス1世の崩御した後を受けて、イングランド国王ジェームズ1世として即位(1603年)した直後でした。つまりスコットランド王としてはジェームズと名乗る6人目の王様だったが、イングランドではそれまでジェームズという名前の王様はいなかった、ということです。エリザベス女王はヴァージン・クイーンとして独身を貫いたので世継ぎがなく、一方でジェームズの祖父はエリザベス女王の父ヘンリー8世の甥(つまりエリザベス女王の従兄)であり、イングランド王位を継ぐのに十分な資格がありました。こうして、イングランドとスコットランドの王家は統合され、18世紀のアン女王までの間、スチュワート朝が英国を統治しますし、その後にドイツのハノーヴァー選帝侯家から迎えられた現在の英国王室も、スチュワート家の血筋を引くことから王位を継承したわけで、まさにバンクォーの子孫が英国王室の祖となった、ということになります。
 ですので、シェークスピアとしては、スチュワート家のジェームズ国王がスコットランドとイングランドの王位を兼ねて君臨したことに対し、いわばヨイショの一種としてこの戯曲を書いたとも言えます。この戯曲を見れば、いかにスチュワート家がはるか昔から予言されていた王位継承者としてふさわしい家柄か、またいかにイングランドとスコットランドは昔から関係が深かったか、という内容になっているからで、そもそもの創作の動機は、「王朝が代わっても、引き続き劇場のスポンサーになって頂きたい」という程度のものだったのかもしれません。しかし、不朽の名作というのはえてしてそんなもので、シェークスピア本人の意図も越えた、人というものの本質に迫る、21世紀になってなお映画化されるほどの作品に大化けしてしまったのでしょう。


2016年5月21日(土)
 先日、東京芸大にて面白いコンサートがありました。
 簡単に言うと、人工知能AIが操る自動演奏ピアノです。自動演奏ピアノ自体は、よくホテルにおいてあるので驚くこともないですが、これはそういうカラオケみたいなものとは違います。まず1997年に亡くなっている巨匠リヒテルの演奏をAIが再現し、さらに生演奏するヴァイオリンやチェロなどの弦楽器奏者とタイミングを合わせて、その場でライブ演奏する、というのです。
 弦楽器の奏者も、あくまで自分たちのタイミングや店舗で演奏します。当然、その日によって早い日も遅い日もありますが、AIのピアノはこれに調子を合わせ、まるで人間のピアニストが、というよりも、リヒテルが蘇って合奏に参加しているようなことになります。
 ヤマハが開発中の技術で、この日はベルリン・フィルの奏者たちとライブを行いました。
 またAIが一歩、進んできていますね。これができるなら、ピアニストも失業・・・?
 この日はほかに、松下功先生(芸大副学長)の曲「音舞の調べ」に合わせて、ベルリン・フィルの人たちと和楽の奏者がコラボ、さらにこの曲に合わせてコシノジュンコ先生のファッション・ショーまで開催されました。
 なんとも先鋭的、実験的で充実した時間でした。

2016年5月12日(木)
 映画「キャプテン★アメリカ/シビル・ウォー」CAPTAIN AMERICA : CIVIL WARというものを見ました。シビル・ウォーと英語でいえば、「内戦」という一般名詞になりますが、しかし通常は、まずアメリカの19世紀の「南北戦争」を意味します。また英国では17世紀の清教徒革命時の「イングランド内戦」の意味でもあります。要するに外国の侵略軍との戦争でなく、同じ国民同士の内輪もめ、同士討ちの意味です。マーベル・コミックの世界では、日頃は味方として悪人や宇宙からの侵略者などと協力して戦っているヒーロー同士が、考え方の相違から同士討ちを始める物語が展開されており、本作はその枠組みを取り入れたものです。
本作はマーベル・コミックス・シリーズ「キャプテン・アメリカ」の3作目であると共に、「アヴェンジャーズ・シリーズ」を含めたマーベル・シネマティック・ユニバースの通算13作目に当たります。しかしまあ、2008年に「アイアンマン」が世に出てから8年の間に、13作品ですか。よく続くものです。
 実際、本作のパンフレットによりますと、シリーズ全体で、作中で死亡しておらず、今後も映画に登場可能なキャラクターが現時点で65人もいる、のだそうです。もちろん回想シーンや過去に遡った作品などを入れれば故人も登場可能なので、何人になるかわかりません。なんとも巨大な大河シリーズとなったものです。
 キャプテン・アメリカは第二次大戦中に登場したスーパーヒーローの最古参。アヴェンジャーズ・チームの司令塔です。だから彼の登場するシリーズは、映画化シリーズの中でも骨格に当たるストーリーになっており、今作もマイティ・ソーとハルク以外はアベンジャーズのメンバーが総出演しているので、全体の展開上からも見逃せない一本になっております。
 逆に言えば、本作はこれまでの作品を全然、見ていないと流れが分かりにくいと思われます。ごく簡単に振り返りますと、第二次大戦中にナチスの特殊組織ヒドラと戦うために超人として生まれ変わったスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)は、特殊作戦部の英国人将校ペギー・カーター(ヘイリー・アトウェル)と恋に落ち、「キャプテン・アメリカ」と名乗って連合軍の勝利に貢献します。作戦中に幼馴染のバッキー・バーンズ軍曹(セバスチャン・スタン)を失い、自身も事故により極地の氷の中で永い眠りにつきます・・・。
 66年後、目覚めたスティーブは、すでに年老いたペギーと悲しい再会をします。彼は世界を守るための超人集団アベンジャーズに参加し、かつてペギーが設立した組織の後身「シールド」の一員として働くことになります。しかし、シールドの中にはヒドラの残党が食い入っていること、さらにバッキーが生き残っていて、ソ連KGBに巣食っていたヒドラ残党の暗殺者となり、現在に至るまで人殺しを重ねている事実を知ります。シールドはヒドラの画策が露見して解散し、アベンジャーズはアイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)の財力に頼った民間組織となります。しかし、トニーは個人的に地球を防衛するシステム「ウルトロン」を開発したものの、これが暴走。アベンジャーズは人類を滅ぼしかねないウルトロンを止めることに成功はしましたが、東欧の小国ソコヴィアを壊滅させてしまったのでした・・・。
 ということで、何度も人類の危機を救ってきた超人たちですが、そのために払った犠牲も大きく、特に1年前の戦いで一国を滅ぼしてしまったことは、多くの人々に疑問を抱かせることとなりました。本作はそこから始まることになります。

 アフリカはラゴスで、元シールド隊員でヒドラ残党であるラムロウ(フランク・グリロ)のテロを未然に防いだアベンジャーズ。しかしワンダ(エリザベス・オルセン)の少しのミスがもとで、多数の一般市民を犠牲にしてしまいます。これを契機に、アベンジャーズを野放しの任意組織として放置しておくことは危険だ、という声が高まり、世界中の国がヒーロー集団を国連の管理下に置く「ソコヴィア協定」を締結することで合意。かつて陸軍軍人としてハルクを追ったことのあるサディアス・ロス国務長官(ウィリアム・ハート)は合衆国政府を代表し、ヒーローたちに協定書への署名を求めてきます。トニーは真っ先に署名に同意し、軍人でもあるウォーバード(ドン・チードル)、ヴィジョン(ポール・ベタニー)、ナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)もこれに賛成しますが、これまでの経験から組織というものに懐疑的なスティーブは署名を拒否。サム(アンソニー・マッキー)とワンダも署名を拒みます。そんな中、ロンドンでペギー・カーターが亡くなった、という連絡が入り、スティーブは葬儀で彼女の棺を担ぎます。この場でスティーブは、かつてシールドの諜報員として自分の監視役「エージェント13」だったシャロン・カーター(エミリー・ヴァンキャンプ)が、ペギーの姪にあたる事実を知り驚きます。
 ウィーンでは、国連加盟国の代表が集まり、ソコヴィア協定の調印式が行われます。ここで謎の犯人による爆破テロが起こり、演説中だったアフリカのワカンダ国王が死亡。王太子のテイ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)は復讐を誓います。
 爆破テロの実行犯は、監視映像からウィンター・ソルジャーことバッキーであることを知ったスティーブは、彼を止めるべく行動を開始。一方、バッキーを逮捕または殺すことを求めるロス長官の指令を受け、トニーはスティーブと鋭く対立します。こうして、自由な行動を求めるスティーブ派と、国連および政府の管理下に入ることを主張するトニー派に分かれて、ヒーローたちは争うことに。
ブカレストでバッキーに接触したスティーブは、彼がウィーンの爆破テロの犯人でないことを確信しますが、ついにファルコンともどもトニーたちに逮捕されてしまいます。
 そんな中、謎の男ジモ(ダニエル・ブリュール)が暗躍。彼はKGBでバッキーを暗殺者として使役していた旧ソ連軍大佐で、ヒドラ残党でもあるカルポフ(ジーン・ファーバー)から、バッキーを洗脳するための暗号書を奪取します。さらに1991年にバッキーが関与したある事件について執拗に追いかけます。その年は、かつてトニー・スタークの両親が何者かに殺害された年。一連の事件の背後であやしい行動をとるジモは何者で、何を企んでいるのか。そしてスティーブは旧友バッキーを守りきることができるのか。シビル・ウォーはテイ・チャラがヒーローとなったブラックパンサー、引退したはずのクリント(ジェレミー・レナー)、さらにアントマン(ポール・ラッド)、スパイダーマン(トム・ホランド)らも加わって、どんどんエスカレートしていきますが・・・。

 今回のキーパーソンであるヘルムート・ジモを演じたドイツ人俳優ダニエル・ブリュール。見覚えがあるなと思ったら、「戦場のアリア」でドイツ軍隊長ホルストマイヤー中尉を、「イングロリアス・バスターズ」ではドイツ軍のツォラー狙撃兵を演じていました。そんなわけなので、この人が英語で演技しているのを私は初めて見たことになります。それから、今回はおまけ的に登場したのが、スパイダーマンことピーター・パーカーの叔母メイ・パーカー役のマリッサ・トメイ。1992年のコメディー映画「いとこのビニー」でアカデミー助演女優賞を獲得している彼女ですが、今回はトニー・スタークから「美人過ぎるおばさん」と呼ばれています。確かに51歳になった今も綺麗ですね。トム・ホランド主演のスパイダーマンでは、彼女が今後も出演してくれるのでしょう。
 それと、お約束のマーベル総帥スタン・リーさんが今回もしっかりセリフのある役で出演しています。93歳だそうですが、お元気ですね。
 という具合で、たくさんのキャラクターが出てきて大変そうなのですが、非常に巧妙な構成になっているためでしょう、これだけ多人数が絡んでも話がややこしくならず、ストーリーの展開ももたつくことなく、最後までぐいぐいと引き込んでいくのは見事なものだと思います。アメリカでの批評家筋や観客の評価も非常に高いそうです。テロリズムと復讐の連鎖、正義の相対性、そして組織と自由との対立・・・大変に重い課題が一本、背景に通っており、単純な勧善懲悪ものではない重厚さがあります。本作では、シンプルに倒していいような悪人、というのは出てきません。みなそれぞれの信念があり、想いがあって行動しており、その人の立場に立てば、こういう話にもなるだろう、と共感させられる部分が必ずある。みんな傷があり、苦悩があり、悲劇を背負っている、そういう描き方。混沌の現代ではヒーローものもこれほど深化するものなのでしょうか。
 といいながら、そこは娯楽作品で、笑えるシーンも実はかなり盛り込まれています。決して重々しいばかりの作品ではありませんが、見ごたえは相当にヘビーでもあります。単純明快なヒーローものだと思って甘く見ると、重い手応えに驚かされるかもしれません。


2016年5月06日(金)
 今年度アカデミー賞で、レオナルド・ディカプリオが念願の主演男優賞を初受賞、さらにアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が「バードマン」に続き2年連続の監督賞、エマニュエル・ルベツキ撮影監督が、「ゼロ・グラビティ」「バードマン」に続いて3年連続の撮影賞という快挙ずくめとなった「レヴェナント 蘇えりし者」THE REVENANTを見ました。本編2時間37分、予告などを入れると3時間近くかかる長編なのですが、もう素晴らしい計算しつくされた映像と緩みない構成、そしてディカプリオはじめ出演者の熱演で、一瞬も目を離せないまま、全く気が抜けないまま、最後まで見てしまいました。
 ドキュメンタリー映画のように、長回しのカメラが食らいつくように俳優の演技をとらえていきます。これ、ルベツキ撮影監督の得意技でして、2006年の話題作「トゥモロー・ワールド」などで、息もつかせぬ凄惨な戦闘シーンを10分以上もワンカットで収めるというのが話題になりました。本作も特に、冒頭で主人公たちの一行がネイティヴ・アメリカン(いわゆるインディアン)のアリカラ族から奇襲を受けるシーンがあるのですが、もうここからしてすごいです。観客は一瞬にして密林の中の戦場に叩き込まれ、出演者たちと共に、音もなく飛来して命を奪う矢や投げナイフの恐ろしさに身震いすることになります。
 本作は、19世紀前半の伝説のトラッパー(罠猟師)で、クマに襲われて負傷し、仲間に見捨てられたけれど不屈の意志で生還した、というヒュー・グラントの有名な実話をもとにした作品です。アメリカではこの伝説は著名なので、この話の映像化は、これまでも何度もされているようです。ただ本作は、史実そのもの、でもなくて、社会派として知られるイニャリトゥ監督は、非常に厳しい文明批評的な、また差別と非寛容を主題とした哲学的な内容に仕上げています。舞台の設定である1823年は、欧州でのナポレオン戦争のどさくさにまぎれ、英軍がインディアン諸族と組んでアメリカ合衆国と交戦した1812年戦争の余韻が冷めない時期です。インディアン諸族も、英国と組むもの、フランスと組むものなどさまざまな戦略の元で動いており、アメリカ白人との間の関係は険悪さを増していた時代です。一方でナポレオン戦争の結果、独立したメキシコとの関係も、徐々に悪化して行ってあのアラモの戦いに繋がっていく、というような時代でした。かといって、まだ南北戦争の動乱もゴールド・ラッシュもかなり先の話です。本作で登場人物たちが手にしているのはマスケット銃で、いわゆる西部劇のガンマンたちが使っているような、性能の良いライフル銃ではありません。だから、典型的な西部劇、ではなくて少し前の時代の史劇、ということになるかと思います。

 1823年、ミズーリ川周辺で行動していたアンドリュー・ヘンリー隊長(ドーナル・グリーソン)率いる毛皮猟隊の一行は、娘を白人に拉致されて怒りに燃えているアリカラ族の族長エルク・ドッグ(デュアン・ハワード)の部隊に奇襲され、全滅の危機に瀕します。案内人のグラス(ディカプリオ)は隊長に対し、毛皮を運ぶための舟を放棄して、安全な砦まで山越えする案を進言。しかし、ポーニー族の母親との間に生まれた息子ホーク(フォレスト・グッドラック)を連れているグラスに対し、ヘンリーの補佐役であるベテランのフィッツジェラルド(トム・ハーディ)は強い偏見を抱いており、グラスの案に反対します。ヘンリー隊長はグラスの意見に従うことに決めますが、フィッツジェラルドはグラス父子へのわだかまりを隠そうともしません。
 しかし山中にて、子育て中で気が立っている親グマに出会ってしまったグラスは、死闘の末にクマを倒しますが、自らも瀕死の重傷を負います。このままグラスを連れて山越えをするのは無理だと判断した隊長は、ホークと、グラスを慕う若者ブリジャー(ウィル・ポールター)、それに高額な割増金につられたフィッツジェラルドの3人を残し、最期までグラスの面倒を見て、亡くなったら手厚く埋葬するように命令し、ほかの者を連れて出発します。
 当然ながら、フィッツジェラルドはグラスの面倒を見る気など初めからなく、人目を盗んでグラスを殺そうとしますが、ホークに見られてしまい失敗。そこで、口封じのためにホークを殺害し、その場にいなかったブリジャーには嘘をついて、アリカラ族が襲撃してくる、と信じ込ませ、2人でグラスを捨てて逃げ出します。絶体絶命のグラスは、息子のかたき討ちをするという復讐の一念だけで生き延びようと苦闘しますが、それは想像を絶する過酷な旅になろうとしていました・・・。

 ということで、いかに本作が映像も物語も演技も素晴らしいか、というのはすでに多くの人が語っていることでしょう。そこで、私は自分の肩書である服飾史家・戦史家・歴史家としてそれらしいことを書くことにしますが、まず本作の背景にあるのが、当時のアメリカ・カナダの毛皮猟。当時は毛皮の帽子が非常に欧州でもアメリカでも流行していました。1815年にナポレオンを破った英国近衛兵は、フランスの精鋭部隊にならい、勝利の記念にあの黒い毛皮の帽子を被り始めますが、そのように豪華な毛皮帽はエリート兵士の象徴であり、軍用として人気がありました。また一般の紳士も、この時代にはビーバーの毛皮を使ったトップハットを被っていました。そんなことで、ナポレオン戦争で荒廃していた欧州から、手つかずの自然がある新大陸には、毛皮の発注が引きも切らなかった。もちろんアメリカ本国の上流階級もしかりです。いい毛皮は驚くほど高値で売れました。ゴールド・ラッシュの前には、毛皮が宝の山だったわけです。
 そこで、1812年戦争でミズーリ民兵隊の英雄として知られたウィリアム・H・アシュレー准将が、同じくこの戦争で火薬や弾丸の納入者として活躍し、軍人としても有名だったアンドリュー・ヘンリー少佐(つまりこの映画に出てくるヘンリー隊長)と1822年に設立したのが、「ロッキー山脈毛皮会社」という会社。アシュレー将軍はこの会社のために、腕の良い探検家や毛皮猟師、特に罠猟師を公募し「アシュレー100人隊」などと呼ばれる精鋭を集めました。この中に、実在のヒュー・グラスや、当時まだ19歳の若者だったジム・ブリジャーなどがいたわけです。そして、グラスを見捨てた張本人のトマス・フィッツパトリックも。おや、ちょっと名前が違うじゃないか、とお思いでしょう。その通り、映画でトム・ハーディが演じたのはジョン・フィッツジェラルド。だから史実のフィッツパトリックとは違う、ということです。
 というのも、史実では1823年のヘンリー少佐率いる探検隊に参加したグラス、ブリジャー、フィッツパトリックは、実際にグラスがクマと格闘して負傷し、ブリジャーとフィッツパトリックが逃亡したのは本当で、その後、グラスが奇跡の生還を遂げたのも事実らしい。しかし、復讐するために2人を追い詰めた際、グラスは結局のところ、この2人を許してやった、というのが史実らしいです。
 結局、3人ともその後も生きていたようで、グラスは1833年にアリカラ族とのトラブルで殺されています。フィッツパトリックは毛皮会社を辞めた後、軍に入隊して兵士となったようで、グラスが復讐をやめたのも、現役軍人を殺すのはリスクが高いから、だったとか。ジム・ブリッジャーは1830年代から40年代にインディアン女性3人と結婚し、子供も何人ももうけたそうで、その後も西部開拓時代の著名な冒険家、ガイドとして軍の斥候などで活躍し、1881年まで生きたといいます。
 その後、欧州での流行は毛皮帽から、ビーバーの毛皮の代わりに絹の生地を用いたトップハットに変わりました。つまり、いわゆる「シルクハット」というものです。また軍隊でも英国の近衛兵のような特別な部隊を除き、一般の部隊では大げさな毛皮帽は急速に廃れました。これが1830年代から40年代にかけてのこと。この流行の変化に加え、競合する毛皮会社も多数、設立されたために、あえなくアシュレー将軍のロッキー山脈毛皮会社も1834年ごろに廃業してしまったようです。ヘンリー少佐はその前に会社から身を引いていた模様です。すなわち1823年の探検では最後まで無事だったし、その後も元気だった。1832年ごろに亡くなったようですが、史実では、1823年の探検当時、すでに40歳代後半の堂々たる将校で、映画に出てくるような経験の浅い青年、という人ではなかった模様です。
 さて、ディカプリオの熱演はいうまでもありませんが、ほかの出演者も9か月に及んだ過酷なカナダとアルゼンチンでの野外ロケによく耐えたな、というのが正直な感想です。照明を使わず、すべて自然光で撮ったという映像は本当にすごいものです。本作撮影時、カナダは暖冬で雪が少なく、本作の主要な部分は実は南米アルゼンチンで撮っている、とのことです。
 今回の敵役であるトム・ハーディは、今や「マッドマックス」役者。近年、立て続けに話題作に出て大活躍していますね。ヘンリー隊長役のドーナル・グリーソンはスター・ウォーズ最新作でもハックス将軍という重要な役どころを演じていました。ブリジャー役のポールターは「ナルニア国物語」シリーズで子役として一躍、名を知られるようになり、その後は引っ張りだこになっている若手の有望株。「メイズ・ランナー」でも大事な役に抜擢されていました。決して二枚目俳優ではないですが、映画作りに欠かせない演技派として大物になりそうな予感がします。そのほか、今作では多数のネイティブ・アメリカンやカナディアンが出演していますが、出身部族は必ずしも設定どおりじゃないのですが、皆さん本物の人たち。映画の重厚さ、リアリティーを増しているのは、こうしたネイティヴ系の役者さんたちの好演だと思います。
 アメリカ本国でも18世紀後半の独立戦争と、19世紀後半の西部開拓時代および南北戦争の動乱期に挟まれて、意外に知られていない19世紀前半、西部開拓時代の前史。スペイン人侵略者と現地の人の混血化が進んで成立したメキシコ出身のイニャリトゥ監督が描く北米史の一断面、というものが非常に興味深い一作だったのではないでしょうか。


2016年5月01日(日)
GW皆様いかがお過ごしでしょうか。けっこう肌寒いですね、今年は。北海道などこの季節に積雪だそうですが。さて、私は「フィフス・ウェイブ」(The 5th Wave)という映画を見ました。主演はクロエ・グレース・モレッツ。原作はアメリカで人気のヤングアダルト小説ということで、近年よくある、若者を主人公にした近未来ディストピアものの一つです。基本的には宇宙人による侵略もの、なのですが、「宇宙戦争」とか「インデペンデンス・デイ」とか、「宇宙戦艦ヤマト」のように、異星人が大艦隊を送り込んできて、正面から堂々の侵略戦争をするタイプの話ではありません。どちらかといえば「寄生獣」とか「遊星からの物体X」「光る眼」「ボディ・スナッチャー」といった、徐々に人類の中に異星人が紛れ込んで、いつのまにかすりかわっていく「浸透型」の侵略タイプの作品です。しかしその「浸透作戦」は最後の仕上げで、その前段に何回も攻撃の波「ウェイブ」があるのが、この作品の特色と言えます。
この映画に出てくる異星人は「アザーズ」と呼ばれています。つまり「よそ者、ほかの奴ら」です。いかにも招かれざる客、というニュアンスです。このアザーズは、突然、地球の軌道上に巨大な母艦を出現させ、しばらくは不気味に沈黙しておりましたが、まず第1波として電磁波攻撃をしてきます。これで地球の電気はすべて止まり、飛行機は落ち、車も停止し、コンピューターもスマホも使用不能、水も生活用の電源もライフラインはすべて遮断されます。今の日本などの地震災害を見ていても、これだけでほぼ、現代人の文明はアウトになるのは目に見えています。そして第2波は、巨大地震と大津波。世界中の島嶼部と沿岸部の都市は壊滅します。これで日本も山間部以外は全滅したことでしょう。第3波は鳥インフルエンザ。強毒性のウィルスを蔓延させ、人類が死滅するのを待ちます。ここまでで、設定では「人類の99%」が死滅したということになっております。ここにきて第4波が、「浸透作戦」です。生き残った人類のコミュニティーに異星人が忍び込み、一見すると人間かアザーズか分からない疑心暗鬼の中で、人類は自滅の道をたどります。そして仕上げの「第5の波」フィフス・ウェイヴが、完全な人類の絶滅を意図して開始される・・・そういう流れになっております。
 なんだか回りくどい侵略だな、と思う反面、慎重かつ高等な異星人ならやりそうな手にも思えます。極力、自分たちの手を汚さない、直接の侵略をしない、そして「人類だけを駆除し、人類以外の地球環境は出来るだけ保全する」作戦、なんだということです。基本的に災害や病気といった、地球ですでに人類が経験しているような手が使用され、そして人類は対処できません。第4波以後も、実際に自分たちが浸透して乗り込んでくるのではなく、本当のところは疑心暗鬼を招いて、人類が勝手に同士討ちを始めて自滅するのを待つ作戦、ということのようです。下手に自分たちの兵器や技術、戦法を人類に見せてしまうと、反撃に使われる可能性もあります。間もなく公開の「インデペンデンス・デイ」の続編では、20年前の異星人のテクノロジーを研究して、人類の軍備も革新されている、ということになっています。こういうことを防ぐために、この作品では人類を掃討するためのやり方も人類自身の発明した、おそらくアザーズたちから見れば超旧式の地球の銃や弾薬を用いることが基本となっている、というのが興味深いです。

 アメリカ・オハイオ州の閑静な街に住む平凡な女子高生キャシー・サリヴァン(モレッツ)。親友のリサとおしゃべりし、アメフト部のスター選手ベン・パリッシュ(ニック・ロビンソン)に憧れているものの、うまく接近できずに悩む。自分はサッカー部に所属しているけれど、あまり才能があるとも思えない。家族思いで頼りになる父オリバー(ロン・リヴィングストン)と、看護師としてバリバリ働く優しい母リサ(マギー・シフ)、5歳のかわいい弟サム(ザッカリー・アーサー)と共に暮らす4人のサリヴァン一家の何でもない日常。こんな生活がずっと続くと思っていたのですが・・・。
 ある日突然、地球の周回軌道上に出現した巨大な異星人の宇宙船。「アザーズ」と呼ばれるようになった彼らの母艦は、ちょうどオハイオ州の上空で停止します。脅える人々。だが実際の攻撃は苛烈を極めるものでした。ある日突然、襲ってきた第1波、電磁波攻撃で、人類の文明は崩壊。第2波の地震と津波でほとんどの都市は壊滅します。内陸のオハイオ州は海こそないのでそこまでひどいことにはなりませんでしたが、キャシーとサムにはエリー湖の水が襲ってきて、危うく命を落としかけます。そして第3波。ウィルスに感染して続々と人が死んでいきます。親友のリサは施設に隔離され、さらに看護師である母リサも亡くなります。
すでに人類の99%は死滅し、内陸部でわずかに生き残った人々は難民キャンプを築き、開拓時代に戻ったような共同生活で生き延びようとします。そこに突然、やってきたのがヴォーシュ大佐(リーヴ・シュレイバー)率いるライト・パターソン基地の陸軍部隊。アザーズの攻撃で車が使えないはずなのに、なぜこの陸軍部隊は平気なのか、といぶかる声もありましたが、すぐに「これで助かった」という安堵に。しかしそれも束の間、ヴォーシュが皆を絶望させるようなことを言い出します。アザーズの第4波が始まったのだ、と。それは地球人の中にアザーズが浸透し、身体を乗っ取り、地球人に成りすます作戦だというのです。疑心暗鬼に陥った大人たちは暴動を起こし、軍の部隊も交えた銃撃戦となって全滅。ここでオリバーも亡くなります。
 ヴォーシュは子供だけを選抜して、ライト・パターソン基地に連れて行きます。弟サムとはぐれ、父を失って一人ぼっちとなったキャシーは、気丈にも父の形見の拳銃と、軍の部隊が放棄していった自動小銃を手に、弟を取り戻すために基地を目指しますが、途中でアザーズの操る狙撃者に銃撃され、負傷して意識を失います。1週間後、気が付いた彼女は、自分が謎の男エヴァン(アレックス・ロウ)に助けられたことを知ります。
 一方、サムは基地でアザーズに反撃するための少年兵部隊に入れられてしまいます。サムの上官である分隊長は、あのベン・パリッシュでした・・・。

 ということで、実はクロエ・グレース・モレッツの成長ぶりが見たい、という動機で見たので、お話にさほどの期待はしていなかったのですが、良くできていましたよ。第4波までが長い、という声もあるようですが、この波状攻撃そのものが本作の特徴ですから。人類を十分に減らした後からでないと、第4、第5の攻撃はしないアザーズたちですからね。
 クロエは「キック・アス」からもう10年たつのですが、相変わらず映画の中で存在感がある人です。人を引き付けるものがありますね。超人的な「ヒット・ガール」とか「キャリー」と違い、なんでもない平凡な女子高生、という役どころはむしろ珍しいのですが、これが新境地となるかもしれません。5歳でデビューしてから芸歴すでに15年ほど。子役から大人の俳優になるのはなかなか難しいものですが、この人はうまくキャリアを重ねているようです。ベン役のロビンソンは「ジュラシック・ワールド」に出て有名になりました。それから英国からまた有望な俳優が出てきました、謎の男エヴァン役のアレックス・ロウ。これは人気が出てくるかも。それから、ベンの分隊の隊員リンガー役を演じたマイカ・モンローも注目の女優で、まもなく公開の「インデペンデンス・デイ」の続編にも出演しているそうです。
 最後は、明らかに「続く」という感じの終わり方ですが、続編の予定があるのでしょうか。実際、あの後、どうなるのか気になってしまうエンディングでした。


2016年4月28日(木)
 千葉県柏市に立ち寄ったので、本当に久しぶりに「柏そごう」に行ってみました。秋には閉店と聞いていますが、かつて柏市民で、その前には茨城県に住んでいた時代がある私としては、非常に懐かしく、閉店が残念でもあります。跡地が何になるかも、まだ分からないようですね。

2016年4月27日(水)
 お知らせです。2012年1月に刊行しました『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)ですが、2016年4月末現在、在庫が完売したために再増刷の準備中です。これを機に、若干の加筆や絵の修正なども検討しておりますが、もうしばらくお待ちいただければ、と存じます。

2016年4月21日(木)
 ちょっと間が空いておりました。今日は、銀座の「熊本館」に行ってみました。ほとんど品切れている、という情報が流れたのか、午後5時ごろに行ったところ、店内は空いておりました。ところがまさにそのとき、店員さんが「たった今、入荷しました!」といって持ってきたのがご存じ「くまもん」のぬいぐるみ(1994円)。これも昨日はいったん、品切れしていたそうですが、本日、再入荷したそうです。それで、このぬいぐるみを買って、ついでに些少ながら募金もしてきました。
 しかし、ほかの食べ物などは、今日現在はほとんど欠品していました。
 ◆  ◆  ◆
 実はこのところ、ちょっと風邪をひいて体調を崩しておりました。そこに熊本地震。言葉を失って本日まできてしまいました。
 ところで、今日、夫婦で出かけたのは、銀座に行く前に、ある出版社さんに原稿を入稿したのでした。ここしばらく、玲子は缶詰めになって絵の着色にかかりきりになっており、それで熊本館にもすぐに行かれなかった次第です。
 この新刊の原稿、4年もかかって仕上げましたが、ついに入稿となりました。間もなく、どんな本になるかをご紹介できると思います。

2016年4月07日(木)
 千葉県の浦安市には、駅前の順天堂病院前から川に沿って続く、その名も「さくら通り」という道があり、道の両側が延々と桜並木になっております。きのう夜桜を見てきました。このところ気温も上がらず天候不順ですが、この日はまずまずの天気でした。

2016年4月06日(水)
 お知らせです。きょう4月6日発売の小学館「メンズプレシャスMEN'S Precious」春号の中の特集「紳士のためのミリタリー・アウター」の143ページに、わたくし、辻元よしふみの文章が掲載されています。タイトルは「男心をくすぐる! ミリタリー・アウター進化論」です。ぜひご一読くださいませ。

2016年4月06日(水)
 このところ寒の戻りというのか、結構、肌寒い日が続きました。様子見していたらしい我が家の鉢植えの桜もようやく、咲いてくれました。毎年、咲いてくれるのが嬉しいです。

2016年3月31日(木)
 いよいよ3月も終わり、新年度ですね。先週まではまだ冬のコートが必要な寒気が残っていましたので、桜も今日あたりから本気で開き始めたようですが。我が家では一足先に、今年も洋ランが咲いています。

2016年3月25日(金)
 イアン・マッケラン主演の「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」Mr.Holmesという映画を見ました。サー・アーサー・コナン・ドイルの原作によれば、名探偵シャーロック・ホームズは、1878年ごろから元軍医のジョン・ワトスンと組んで、ロンドンはベーカー街221Bの事務所を拠点に活躍し、ワトスンの書いたホームズものの作品で一躍、有名人になりますが、仇敵モリアーティ教授との戦いの後に失踪。その後に活動を再開し、ワトスンが結婚してホームズの元を離れると、1904年頃には探偵業を引退し、サセックスの田舎で養蜂業を営んだことになっています。しかし、1914年の第1次大戦の時期には、政府に乞われて復帰し、ドイツのスパイ組織を相手にまたも活躍。国王からサーの称号を授かる話もあったのですが、辞退したようです。戦後はフェイドアウトして、いつしか忘れ去られていった・・・そういう感じです。
 さてそれで、本作の舞台というのはなんと、第2次世界大戦後の1947年。ホームズはまだ生きていて年齢も93歳! そして、第1次大戦の後の1919年に、彼が完全な引退を決めた痛恨の「未解決事件」の顛末を振り返っていく・・・そんな流れになっています。

 第2次大戦終結から2年がたった1947年。サセックスの田舎に向かう汽車に、93歳のシャーロック・ホームズ(マッケラン)の姿がありました。ホームズは、敗戦後の焼け野原の日本まで行って、梅崎氏(真田広之)の世話になり、記憶力の減退を抑えるのに効果があるという山椒の木を手に入れ、戻ってきたのです。
 久しぶりに家に戻ってみると、家政婦のマンロー夫人(ローラ・リニー)は相変わらず気が利かず、その息子のロジャー(マイロ・パーカー)は留守中に勝手にホームズの書斎に入り、書きかけの回顧録を読んでいたことを知ります。しかし、ホームズはロジャーが非常に高い知性の持ち主で、素晴らしい推理力と理解力を持っていることに気付き、気に入ります。
 ホームズが書いている回顧録というのは、30年近く前、1919年に彼が手がけた最後の事件に関するものです。実は少し前に、ホームズの兄で、英国政府で秘密の任務に就いていたらしいマイクロフト・ホームズ(ジョン・セッションズ)が亡くなり、彼が日々を過ごした「ディオゲネス・クラブ」に残された遺品に、かつての相棒ワトスンが書いたホームズものの作品集がありました。ホームズは改めてそれを読み返し、彼が完全引退を決めた1919年の「ケルモット事件」に関する記述が、どうも自分の記憶と合わない、と感じました。さらにワトスンの小説を基にした映画も見ましたが、鹿撃ち帽を被ってインバネス・コートを羽織ったホームズ役の俳優(ニコラス・ロウ)に違和感を持ったばかりか、事件の結末も全く真相と異なっている、と思ったのです。
 しかし、ホームズは記憶力が急速に減退していました。主治医のバリー医師(ロジャー・アラム)が心配するほどの症状で、もはや目の前にいる人の名前すら思い出せない状況。だからこそ、はるばる日本まで行って、特効薬とされる山椒の木を手に入れようとしたのです。
 老いたホームズは、ロジャーを助手代わりにして、「最後の未解決事件」をなんとか復元しようと悪戦苦闘します。記憶の中では、トーマス・ケルモット氏(パトリック・ケネディ)の依頼で、アン・ケルモット夫人(ハティ・モラハン)の行動を尾行し、アンが夫に無断で入り浸っていると思われる音楽家シルマー夫人(フランシス・デ・ラ・トゥーア)の身辺を探っていたところまでは、ワトスンの小説や映画と一致しています。でも、結末が違う。しかしその肝心の結末が、思い出せないのです。どうして自分は探偵業を引退することになったのか、その一番、大事な部分が思い出せないことに、ホームズは苛立ちます。
 一方、急速にホームズに接近していくロジャーの姿は、母親であるマンロー夫人を不安にしました。彼女はホームズには秘密裏に、転職先を探し始めます。そして、ロジャーと共にホームズの下を離れ、ポーツマスのホテルの従業員になる決意を固めるのでした・・・。

 19世紀末のヴィクトリア女王の時代に全盛期だったシャーロック・ホームズ。彼の二つの「戦後」が描かれているのが興味深いです。第1次大戦が終わった後の1919年当時、すでにトップハット(いわゆるシルクハット)を被り、フロックコートにボタンアップ・ブーツを身に着けた初老のホームズのいでたちは、かなり時代遅れだったと思われます。そして、第2次大戦も終わった1947年、英国の描写では、まだドイツ軍の爆撃機の破片が野原に見られる状態で、梅崎の招きで赴いた日本では、進駐軍が跋扈しており、原爆の緒とされた広島は一面の焼け野原、という状態。ヴィクトリア時代の英国紳士然としたホームズは完全に浮いた存在です。そんな中で、最後の自分探しに挑むホームズ。名探偵の最後の敵は、自分の老化であった、というのが非常にユニークです。
 特にホームズと日本の関わり、というのが驚かされる本作の内容ですが、原作でもホームズは、日本の武術を身に付けており、そのためにモリアーティ教授との戦いでも死なずに済んだ、ということになっています。戦後の日本を描く描写がなかなかの力の入りようで、闇市に群がる人々、復員兵にGIたち・・・ちょっと日本人から見ると、それでも「?」という部分もあるのですが、よくこれだけやるな、という気がします。実際に日本でロケしているそうです。
 梅崎氏の失踪してしまった父親にまつわる謎、というのが物語の中で並行して語られるのですが、これはどうも兄マイクロフトがらみの話であった、という流れになっており、マイクロフト・ホームズは要するに、後のMI6のような秘密組織を統括していたのではないか、という描き方が興味深いです。大いにありそうな話です。
 なんといってもマッケランの「老け演技」がすごいです。初老時代の演技とは全く異なるのですが、見事ですね。それにロジャー役の子役マイロ・パーカー君が素晴らしい。映画出演4作目だそうですが、これは注目されそうです。映画の中でホームズ役を演じるのが、「ヤング・シャーロック」でホームズ役だったニコラス・ロウだ、というのも面白いです。
 原作シリーズへの敬意と理解をしっかり表現しつつ、誰も見たことがないホームズの晩年を描く、というかなり困難な内容なのですが、出演陣の確かな演技力でしっかり見せています。いわゆる老人問題を描いた作品としても秀逸です。どんなに優秀な頭脳も衰えるのですね。辛口で知られる映画批評投稿サイト「ロッテン・トマト」でも、本作は非常に好意的に取り上げられているそうです。
 衣装の部分では、やはり1919年のホームズのフロックコート姿が素晴らしい。1947年のホームズが、相変わらず付け襟式のシャツを着ているのも興味深いです。梅崎氏役の真田広之の着ているダブルの背広も見事なものですね。


2016年3月22日(火)
 各報道によりますと、SF小説の新人賞である「星新一賞」に、人工知能(AI)が執筆した作品が1次選考を見事に通過した、とのことです。
 とうとう、こういう時代が来てしまいました!
 つい先頃、囲碁の世界でもすでにAIが人間の能力を凌駕しつつあることが明白になりましたが、本当に早い。みんなが予想していたよりもペースが速い、と感じませんでしょうか。
 2014年に公開された映画「トランセンデンス」は、まさにAIが人類の能力を超える時代を予想した内容でしたが、はっきり言ってあまりヒットしませんでした。でも、ほんの2、3年、公開が早すぎたのかもしれません。今年の公開ならもっと、切実なものがあったのかも。
 小説の新人賞公募に応募したことのある人なら誰でも分かることですが、1次選考を突破するのはきわめて大変なことです。普通はそこまで行きません。
 人間の作品よりいい出来栄えの作品を生み出すのも、時間の問題でしょうね。
 これまで、コンピューターの能力向上で、人間の仕事が奪われる、という話題では、割と単純な作業が議論の対象になっていました。
 しかし、これからは、人間でしかできない、とされていたことのほとんどが代替される可能性が出てきたと思います。非常に高度であるようで、実際にはパターン的な要素が強い仕事は意外に多いと思います。作家、記者、医師、弁護士や裁判官、株のトレーダー、パイロット・・・こういった、今まで難しい仕事だから待遇が良かった仕事、というのも脅かされるでしょう。
 今の子ども達はどうなってしまうんでしょうか? ちなみに、今の時代に必死に学ばれている英語の勉強なんていうものも、あと10年とか20年のうちに、そんなに重要でなくなるのは確実ですね。翻訳なんてAIにとってはむしろ、得意技でしょうから。

2016年3月12日(土)
 3月も半ばになって、冬の寒気が最後の意地を見せている感じのこの頃。気温が上がったり下がったり、体調を崩しそうですね。さて私は・・・いろいろなんだかやっておりますが、こういうところでご報告するほどでもない感じでしょうか。そこで記念写真を・・・これ、一目でどこだかすぐに分かる方はすごいです。ここは市ヶ谷の防衛省の中庭です。

2016年3月03日(木)
 3月3日は桃の節句、ですが私はそれとは何の関係もなく、赤坂のホテル・ニューオータニにある東都クリニックにて、心臓ドックを受けてきました。まあ半世紀ほど生きてくると、エンジンにもいろいろ老朽化が・・・。せっかくなので、同ホテルのメイン館に一泊しました。

2016年2月29日(月)
 米国アカデミー賞は、あの「マッドマックス」がなんと6冠となったそうですね! 娯楽作品でこれだけ評価されるのは非常に珍しいです。何十年もかけて復活させた執念が実った感じですね。執念といえばレオナルド・ディカプリオさんが「レヴィナント」でついにオスカー受賞というのも、もう5回目のノミネートだっただけに嬉しいでしょうね。すごい演技派なのに、なぜかアイドル枠に入れられて貰えなかったレオ様ですが、これで晴れてオスカー俳優です。アレハンドロ・イニェリトウ監督の2年連続受賞というのも快挙ですね。エンニオ・モリコーネさんが今になって、すでに貰っている名誉賞ではなく、作曲賞を受賞、というのもすごいことです。それから007の新作も主題歌賞をとって一角に食い込んだようですね。
 今回は、黒人の候補者が一人もいない、不公平だということで話題になりました。そのへんは米国内の今の雰囲気を現しているのかもしれませんが、結果を見るに、なかなか興味深いものになった感じがします。
 ところで、今回の写真は、先日のコシノジュンコ先生の祝賀会の後、会場にお祝いの花が多数あったのですが、帰りがけに、このまま捨ててしまうのはもったいないので、少し持って行って、と言われたので、いただいた百合の花などです、つぼみだったのが綺麗に咲きました。いい香りがします。

2016年2月27日(土)
 このほど東京・六本木のハイアットホテル東京で、ファッション・デザイナー、コシノジュンコ先生がポーランドのウッジ美術大学から名誉博士号を授与されたことを祝う会が催され、私ども夫婦も末席を汚して参りました・・・。
 ポーランドのコザチェフスキ大使から学位記を受け取ったコシノ先生は満面の笑顔。発起人を代表して安倍昭恵・総理夫人が挨拶され、稲田朋美・自民党政調会長や東京芸大の松下副学長といった方たちがひな壇に並びました。その他、まことに錚々たる方々が列席されて、私どもなど場違いかな、と思いつつ、あつかましくも楽しい時間を過ごさせていただきました。
 先生と記念撮影もさせていただきました。まことに素晴らしい会でございました。
 

2016年2月26日(金)
 「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」SHERLOCK : The Abominable Brideという映画を見ました。これは正確には、ベネディクト・カンバーバッチとマーティン・フリーマンが共演し、英国BBC放送で製作されている人気テレビシリーズの番外編、です。今年の元日に本国で放映され、特典映像を加えて4週間限定で劇場公開されています。このため、あくまでテレビ番組なので公式パンフレットは制作されていません。
 今や飛ぶ鳥落とす勢いで、断りきれないほどのオファーが舞い込む人気者となったカンバーバッチと、「ホビット」シリーズのビルボ・バギンズ役で映画史に名を刻んだフリーマンですが、2人にとって出世作となったのがこの現代版シャーロック・ホームズでした。気難しく変わり者の探偵ホームズは、もし現代人なら異常者に分類されるのでは、という見方を示し、現代に生きるホームズなら、スマホやPCを駆使してどんな謎解きをするだろうか、という斬新な描き方がこの現代版のヒットの理由でした。
 ところが、今回の特別版では、その2人のコンビが本来の19世紀末、ヴィクトリア女王治世のロンドンに戻って活躍する、というのだからまさに逆転の発想、英国の視聴者を大いに驚かせました。
 当然、「あのシャーロック・ホームズとドクター・ワトスン」なわけですから、トップハットや鹿撃帽を被ったホームズや、髭を蓄え、山高帽を被ったワトスンが登場するわけです。それがやっぱり決まっている! 正直に言って、カンバーバッチはこの19世紀のコスチュームの方がずっと似合っていますね。フリーマンも然りです。こういう特別篇はこれっきり、というお話ですが、ぜひこのシリーズの枠を超えて、正統派のホームズものを同じ2人で作ってほしい気がします。
 ところで、サー・アーサー・コナン・ドイル原作のホームズ・シリーズの原作小説の中に、『忌まわしき花嫁』というものはありません。これは今回の映画化のために特別に作られたストーリーですが、かといって全く根拠もないオリジナルでもありません。では何が元ネタかと言えば、『マズグレーヴ家の儀式』(1893年発表)という話の冒頭に出てくる、「このころ、ホームズは〇〇とか××といったいろいろな事件を扱って解決していた」といった形で名前だけ紹介される事件、いわゆる「語られざる事件」というものの一つだそうです。ホームズものは基本的に、ワトスン医師が小説化して世に発表している、という形式になっており、ホームズの担当したすべての事件を発表しているわけではないよ、ほかにもいろいろあったけれど、事情があってまだ書いていない事件がたくさんあるよ、といった前振りがよく冒頭に置いてあります。で、その中に「蟹脚のリコレッティとその忌まわしい妻の全記録」a full account of Ricoletti of the club-foot, and his abominable wifeというものがあるのです。こういう名前だけの事件が50〜80ほどはあるというのが定説になっているそうで、このタイトルだけから新たなホームズものを創作した、というのだから、大胆な試みです。ちなみに原典である『マズグレーヴ家の儀式』は、手紙の束をナイフで突き刺して保管しているとか、ペルシャ製のスリッパにタバコを入れているとか、壁に弾痕でヴィクトリア女王のイニシャルVRの文字が書かれているとか、ホームズの部屋のディテールが描かれている作品で、今回の映像化でも大いに参考にしたようです。
 さて、どんなお話かと言えば・・・。

 第2次アフガン戦争(1878〜80)に軍医として従軍し、負傷したジョン・ワトスン(フリーマン)はロンドンに戻り、旧友の紹介で風変わりな探偵シャーロック・ホームズ(カンバーバッチ)と出会い、ハドソン夫人(ユーナ・スタップス)が管理しているベーカー街221Bの下宿に同居することになります。
 それから時を経て、1895年末のクリスマスの時期を背景に、すでにホームズの物語を発表して有名になっていたワトスンが、「語られざる事件」の中でも特にホームズを悩ませた「リコレッティとその忌まわしき夫人」のケースについて語り始めます。
 突然、ベーカー街にやってきたレストレード警部(ルパート・グレイヴス)の口から、非常に奇妙な話を聞いたホームズとワトスン。それというのも、結婚記念日に、ウェディングドレスを着込んで両手に拳銃を握ったエミリア・リコレッティ夫人(ナターシャ・オキーフ)が乱心し、街中で乱射事件を引き起こしたうえ、頭を打ちぬいて自殺した、という事件が発生。ところがその夜、夫のトーマス・リコレッティ(ジェラルド・キット)の前に、死んだはずのエミリアが出現します。彼女はショットガンで夫を射殺し、そのまま姿を消しました。
 エミリアの幽霊が、夫を殺害したのか? オカルトじみた展開にホームズは興味を惹かれます。検視官フーパー(ルイーズ・ブリーリー)によれば、エミリアの遺体は間違いなく本人のもので、しかも夫が射殺された後、それまでなかった右手の指の発砲痕が増えている、ということでした。
 しかし、それ以上、はかばかしい進展はなく、しかもこのケースをまねたものか、リコレッティ夫人の幽霊による、とされる男性の殺害事件が5件も続きます。
 そんな中、ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズ(マーク・ゲイティス)が一つの依頼をしてきます。リコレッティ事件の背景にはもっと大きな黒幕がいることを示唆したマイクロフトは、彼の知人サー・ユースタス・カーマイケル(ティム・マッキナリー)の妻、レディ・カーマイケル(キャサリン・マコーマック)からの依頼を受けるように弟を挑発します。ベーカー街にやってきたレディ・カーマイケルは、ホームズたちに、夫の元に「5粒のオレンジの種」が届いてから、夫の様子がおかしくなった、と訴えます。そしてカーマイケル夫妻の眼前に、あのエミリア・リコレッティの幽霊が出現したといいます。「幽霊なんてものは存在しない!」と言い放ち、ホームズはワトスンと共にユースタス邸に乗り込みますが・・・。

 といった展開ですが、実際にはかなり奇抜な描き方をしていて、それにあくまでもテレビ版の番外編でもあるので、現代のテレビシリーズとのかかわりも出てきます。「オレンジの種」だとか「ホームズがただ一人敬愛した女性、アイリーン・アドラー」の名前だとか、「宿敵モリアーティ教授」とか、ホームズものにおなじみの要素があちこちに登場。ちなみにモリアーティは後半に実際に登場します(演じるのは現代版シリーズで同役のアンドリュー・スコット)。1893年の『最後の事件』において、ホームズはモリアーティと戦いスイス・ライヘンバッハの滝壺に転落しており、本作はその後にホームズが「復活」した時期、そして1901年に『バスカヴィル家の犬』でホームズものが再開されるまでの空白期を舞台としており、そのへんを匂わせるセリフが多々見られます。またヴィクトリア女王の時代に大きなうねりを見せた「婦人参政権運動」を作品の背景としており、なかなか脚本は巧妙です。
 なんといっても19世紀を舞台としたので、英国の俳優さんたちが生き生きとして見えることは驚かされます。やはり大英帝国の時代、ですから。その時代の社会矛盾も含めて、ごった煮的な魅力が世紀末のロンドンにはあり、ホームズものの魅力にもなっていることを再認識させてくれます。このへんは現代版にはない持ち味ですね。
 特に大事なのがコスチュームですが、街中ではトップハット、地方に行くときには鹿撃帽にインバネス・コートのホームズ、ツィードのスリーピースに懐中時計の鎖を「ダブルアルバート」にして下げるワトスン、フロックコートやスタンドカラーのシャツに、アスコットタイを着こなした紳士たち・・・やはりこの時代の服装は、なんといってもカッコいいです。私は大好きです。ワトスンが警察の遺体安置所に赴く際に「ツィードで行くのは不躾かな?」というセリフがありました。TPOからいってツィードは当時的にはアウトドア用のカジュアル。こういうセリフがさりげなく出てくるのがいいですね。
 制服系では、冒頭のアフガン戦争のシーンで、軍医大尉のワトスンは真っ赤な英国陸軍の軍服を着ています。当時、いわゆるカーキ色の軍服はすでにインドで使用が始まっていますが、英軍全体で正式に採用されるのは20世紀に入ってからです。兄マイクロフトの執事はやはり真っ赤な18世紀半ばごろの様式の(つまり19世紀末当時としても非常に古風な)宮廷衣装ジュストコールを着込んでいます。詰襟にピスヘルメットの警察官もワンシーンですが、しっかりした着こなしで出てきます。
 また、ワトスン夫人のメアリー(アマンダ・アビントン)が大活躍するのですが、彼女、後半になるとヴィクトリア朝然としたロングドレスを脱ぎ捨て、当時のウーマンリブ運動の中で提唱された「改良服」のようないでたちで登場します。紳士服のようなジャケットとウェストコートに、半ズボン、というハンサムな服装です。実際にはこういう着こなしは19世紀の世に全く受け入れられなかったようですが(女性が公然と紳士的な服装をし、ズボンを穿き、脚を見せるようになるのはもう20年ほど後、第1次大戦を経ないと一般化しませんでした)しかし、可能性としてありそうな服装として、こういうものを持ち出してくるのも興味深いですね。さすがによく勉強している感じがします。
 キャストは英国のテレビ界で有名な人たちが中心ですが、レディ・カーマイケル役のマコーマックは、どこかで見た顔、と思えば「ブレイブハート」でメル・ギブソン演じるウィリアム・ウォレスの幼馴染で奥さんになるミューロンを演じていた人です。
 ところで、原作者コナン・ドイル本人は熱心なオカルト現象の研究家だったのは有名な話です。「幽霊なんて存在しない」と繰り返すホームズとは全く逆の人だったわけですが、今回、オカルト寄りのお話なのも、そのへんを意識しているのかもしれませんね。また、ドイルは婦人参政権運動には絶対反対、という立場の人でもありました。そこらへんを逆手に取ったような今回の企画なのでしょうか。
 なお、本作は冒頭に紹介映像、おしまいにメイキング映像が追加されています。本編が終わったところで、慌てて席を立たれませんように。


2016年2月13日(土)
 春の嵐が到来、といっておりますが、確かに気温が上がっています。しかも直後にまた気温は平年並みに戻るとか・・・体調管理が難しいですね。
 それはそうと、今年は日曜日なのであまり話題にならないバレンタイン・デーですが、この時期の前には、季節ものとしてチョコをいただくことも多いです。今年、私が獲得したチョコの中で目をひいたのが、いわゆる「缶ペン」つまり缶素材のペンケース付きのチョコ。写真にある「星の王子様」の絵柄のものがそれで、チョコを食べてしまうと缶ペンケースとして使用できます。これ、実用性もあってなかなかいいアイデアですね。

2016年2月04日(木)
 昨日は節分でしたが、皆様はいかがなさいましたか。我が家は「妖怪ウォッチ」の枡があったので、これでささやかな豆まきを行いました。しかし「年齢分の豆を食べる」というのは、もう無理ですね、50個近くになると。
 ところで、遅ればせながら去る1月25日付の日刊ゲンダイ「街角の疑問」コーナーに、久しぶりに私、辻元よしふみが登場しました。「ニットとセーターはどう違う」という内容でした。ここで特に私が申しましたのが、「ジャンパー」という言葉。英国では、日本人が思うような腰丈のブルゾンのことじゃなくて、被りのニットウエアの意味。女子学生の制服で見られるジャンパースカートというのも、被りのスカート、という意味だ、といったことでした。

2016年1月29日(金)
 アマゾンでまたまた私たちの「図説 軍服の歴史5000年」(彩流社)および、「華麗なるナポレオン軍の軍服」(マール社)の売り切れが続いております。
 その一つの理由が、この扶桑社の自衛官向け雑誌「MAMORU」の18ページに載りました、この本の紹介記事にあるようです。
 NHK時代考証部の大森洋平様(私どもの知人)が紹介してくださいました。本当にありがたいことです。


2016年1月22日(金)
 映画「クリムゾン・ピーク」CRIMSON PEAKを見ました。ギレルモ・デルトロ監督の最新作でして、トム・ヒドルストン、ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステインと出演陣には人気俳優が名を連ねています・・・が、何しろこの年末年始は007とSWという東西の2大横綱が新作を出しており、本作はかなり割を食ってしまいました。かなり公開館数が少なく、このあたりでも日比谷シャンテシネか柏おおだかの森ぐらいしかやってくれていない。ただ、私は公開から2週間もたった平日の夜10時に終わる回を見たのに、場内は結構な数のお客さんがいました。なかなか人気があるので、公開館数が徐々に増えていきそうな塩梅です。
 特にトム・ヒドルストンは、「マイティ・ソー」シリーズのロキ役や、スピルバーグ監督「戦火の馬」の騎兵大尉役で有名になった人で、日本でも「トムヒ」の愛称で、映画雑誌の人気投票でも毎度、1位を獲得するようなアイドル的な人気のある人。当然、日本のトムヒ・ファンは東宝さんにいろいろ館数の拡大を嘆願する動きもあったようで、そういうことも奏功したのかもしれません。
 デルトロ監督というと「パシフィック・リム」の成功がどうしても目立ちますが、本来は「ミミック」とか「パンズ・ラビリンス」とかホラー系の名匠です。今作も監督の趣味丸出しの、おそらく本人が撮りたいような映画を撮った、という作品のように見受けます。4階建ての邸宅を実際に6か月もかけて建ててしまうなど、凝りまくっています。とにかく映像美はことのほか見事ですね、衣装も素晴らしい。ゴシック・ホラーはこうでないと、という感じです。
 ◆  ◆  ◆
 20世紀初めのニューヨーク。実業家カッシング(ジム・ビーバー)の一人娘イーディス(ワシコウスカ)は、作家を目指す、当時としてはやや飛んでいる女性です。幼いころに母親を亡くしていますが、イーディスはその母の幽霊を見たことがあります。幽霊は彼女に「クリムゾン・ピークに気を付けなさい」というのですが、それが何の意味の警告かはわかりませんでした。
 社交界に背を向け、出版社巡りをするイーディスですが、女流作家には偏見がある時代、幽霊ものを書いて持って行っても、恋愛ものを書いてください、と言われてしまいます。幼馴染の医師アラン(チャーリー・ハナム)はイーディスに心を寄せていましたが、イーディスの方は今一つ乗り気でない様子。
 そんな中、英国から貴公子然とした準男爵サー・トーマス・シャープ(ヒドルストン)と、その姉のレディー・ルシール(チャステイン)がやってきます。社交界は色めき立ち、サー・トーマスに近付こうとする娘たちがたくさん現れます。イーディスも、ただの貴公子ではなく、風変わりな発明に夢中になる変わり者の面があるトーマスに惹かれていきます。
 娘がトーマスに接近していくのを気付いたカッシングは、探偵を雇ってシャープ姉弟の素性や過去を探ります。そして、トーマスに対し、資金援助をしてやる代わりに、即座に英国に帰ることと、娘と絶縁することを要求します。
 トーマスに冷たくあしらわれて傷つくイーディスですが、すぐにそれが、父に強要された演技だったことを悟り、旅立つ直前のトーマスを追いかけます。しかしそんな中、突然、悲劇的な事件が起こります・・・。
 それからしばらく後、英国の荒涼とした丘陵地帯の古い屋敷に、トーマスの妻となったイーディスの姿がありました。荒れ果てた邸は寒く、危険な秘密があるような気配が。霊感の強いイーディスは恐ろしい体験をするようになります。そして、赤い粘土質の丘の上に立つこの屋敷の一体が、冬場になると雪に粘土が染み出し、真っ赤になること。よって地元では赤い丘、クリムゾン・ピークと呼ばれている事実を知るのです・・・。
 ◆ ◆ ◆
 ということで、ホラーと言えばホラーですが、サスペンスもののような色合いも強いです。心霊現象的な描き方もありますが、一方で、謎を解いていく犯罪捜査もののような手法も見られます。まあ、そんなに心臓が弱い人は見られません、というような作品ではありません。
 トムヒ様はさすがに魅力的な貴公子を演じきっています。ファンは必見でしょう。ミア・ワシコウスカとジェシカ・チャステインも美しいです。それから、幼馴染の医師アラン役は、「パシフィック・リム」の主演だったチャーリー・ハナムです。
 とにかく今時、なんでこういう映画が出てきたのか、といわれると不思議な位置づけの一本なのかもしれませんが、ゴシック美の王道的な作風は今やデルトロ監督しか作り出せないもののような気もします。じわりと人気が出てきているので、御興味のある方はぜひお早めにご覧になってください。

2016年1月18日(月)
 午前2時半過ぎ、予報通り、雪になりましたね(都内で)。

2016年1月17日(日)
 昨年末から3週間もアマゾンAmazonで在庫が滞っていた私たちの著書『図説 軍服の歴史5000年』(彩流社)の在庫が復活しました。宜しくお願い申し上げます。

2016年1月11日(月)
 今日は「成人の日」でありますが、もはや30年近く前に成人しました私が何をかいわんや、ですのでそれとは何ら関係ないことを記します。というか、自分の覚え書き、メモとして書いておこうと思うのですが。
 昨日たまたま、仕事がらみで「シャルコー・マリー・トゥース病」という難病について調べる機会がありました。これは下半身が不自由になる萎縮性の難病でして、長い病名は、この病気の実態を解明した3人の神経科医、いずれも19世紀後半から20世紀初めに活躍したフランスのジャン・マルタン・シャルコー(1825〜93)、ピエール・マリー(1853〜1940)、英国のハワード・ヘンリー・トゥース(1856〜1925)の名にちなんでいるそうです。
 その中で、真ん中のピエール・マリー先生なんですが・・・この方は、最初に名の出て来るシャルコー先生のお弟子さんだそうですけれど、このマリー先生の写真というのをウィキペディアに見つけました。1900年ごろ撮影というので、40歳代後半、今の私ぐらいの年齢でしょう。
 それがカッコいい、そして今ではお目にかかれない感じのスーツを着ているのです。ご覧の通り、詰め襟を開襟にしたような襟の形は非常に小さく、左襟にあるボタンホールは、おそらく実際に使えるような大きいものです。よって、たぶん反対側の襟裏には実用のボタンがあり、上襟を立てて上のボタンを閉じると、5つボタンの学生服や軍服のように着ることもできるのじゃないでしょうか。
 その下、やたら小さな・・・Vゾーンと呼んでいいのかも分からないほど小さなVゾーンにはものすごくでかいネクタイのノット(結び目)と、スタンドカラーのシャツの襟がまっすぐ突っ立っています。時代的には付け襟なんでしょう。
 近年のモーダ系のメゾン、というのが作るやたらオシャレ系のスーツよりずっとソリッドじゃないでしょうか。そして、もともと詰め襟のコートから派生したスーツ、という流れをまだ色濃く残しているのがいいですね。超クラシックでいて、何か超モダンなようなこのマリー先生の着こなしは目を引きました。同じ時代の英国では、上から2番目のボタンだけ閉じて、下はすべてボタンを外す着こなしが流行でした(エドワード7世の好みだったとか)が、フランスではこのようにいちばん下までボタンを閉じる人も多かったように見受けます。スーツのボタンの下の方は外す、という英国式ルールが世界中に広まるのは20世紀に入ってからですね。
 それにしても、このぐらいの時代の学者さんは、自然科学系の人でもみんなオシャレですよね本当に。こういうスーツを作ってください、とお願いしてもどこのテーラーさんも困るでしょうかね。私なら欲しいですが、普通の人は着なさそうですし。
 私は、こういう「超クラシック・スーツ」とか、もっと前の19世紀初めに流行った「M字ラペル」(ゴージラインを挟んでMの字に切れ込みがある)の服など、出来るものならいつの日か、作ってみたいと思いますね、古い衣装の研究家としては。

2016年1月08日(金)
 実は私、先日の「4月並みの陽気」と、その後の平年並みへの冷え込みについて行けず、不覚にも風邪をひいてしまいました・・・。
 私の場合、風邪は大抵、喉からきます。お腹から来る人とか、いろいろあるでしょうが、個人的に自分の体質に合うのが、最近、妻が見つけた「アイストローチ」というトローチです。これ、かなり強力な殺菌効果があるようで、私には効きます。喉の不調が相当に緩和されます。万人に効くのかは分かりませんが。
 オレンジ味とか、蜂蜜味、レモン味などがあり、なかなか味覚的にもよいです。しかし販売元の「日本臓器製薬」さんという社名、かなりものものしいです・・・。

2016年1月02日(土)
 きょう1月2日から「初買い」ということで、百貨店で福袋を、という方も多いと思います。ところで、西武百貨店は1日から営業、ということで、私もさっそく船橋市の西武船橋店に行ってみました。
 ここでは、西武のキャラクター「おかいものクマ」の2016年新春バージョン、「弁財天おかいものクマ」さんが限定販売! 1日の夕方、これを買った時点で最後の2個、でしたのでおそらくもう売り切れではないでしょうか。

2016年1月01日(金)
 あけましておめでとうございます。2016年も宜しくお願い申し上げます。
 先ほど、近所の神社に初詣に行ってまいりました。当然、寒いですが、平年よりは厳しくない気温でしょうか。
 午前7時20分頃、初日の出も見えました。
 穏やかな元旦を迎え、今年はよい年であることを祈念しております。

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